ツギハギ魔導士とアルカヌスの獣たち   作:三流作家ヤマダ

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どうもー三流作家です。
 あれですよね。昔は二次創作ばっか書いてたんですけどね。インフィニットストラトス好きでした。
 どうあれ、続きをどぞ。


十四

「……始まったのか」

 ロゼットには心当たりがあった。メイビスとメルヴァとの一騎打ち。天才同士の模擬戦となれば注目の的だ。流石に広まる速度が尋常ではない。

「それは凄いですね! 私も見たいです!」

 その話を聞くとレムも目を輝かせる。しかし、そんなことをロゼットが許すはずもない。

「ダメだ。お前はそんな高次元の戦いを見ても吸収できるものはない。大人しくここで同じことを繰り返してろ」

 レムがムッとする。不服そうだが、仕方ないと納得してもいる。こんな夢の一戦、魔導士でなくとも見ておきたいだろう。

「師匠は行くんですか?」

「ああ、少し見ておきたい。あいつが勝つところを」

 レムがさらにムッとする。アホ毛は棘のように鋭くなり、ツンツンとロゼットへ向けられている。

「ちゃんとやれよ」

 そんなレムはお構いなしにロゼットは演習場を後にした。手を一度振るうと、それ以降振り返ることなく、真っ直ぐにメイビスの下へ向かっていく。

 置いてきぼりのレムは天を仰いだ。

「メイビス・レーゲンバルド。師匠の目にはあの人しか映ってないんですね」

 少し寂しげにそう呟くとレムは再び瞳を閉じて集中し始める。

 

 

 一方、ロゼットの方は多数の生徒が集う第一演習場へ向かっていた。生徒達はこの一戦に心躍らせていた。

 そんな生徒達でごった返す校内で珍しいものがロゼットの視界に映った。

 恐らくは部外者ではあるが、きっと生徒の誰かの親族だろう。七歳くらいの少女がキョロキョロしている。

 両結びにされた金色の髪、オレンジ色の大きな瞳。まだ幼いこともあり本当に細工の凝った人形のように見える。上流階級を感じさせる赤いドレスに身を包んでいれば、この人ゴミの中でもよく目立つ。

「あっ!」

 少女はロゼットを見るとようやく探し物を見つけ出したように目を輝かせ、ロゼットの下まで駆けてきた。

「ロゼット!」

 ロゼットは指差される。

「な……」

 さらには呼び捨てにされた。しかし、相手は子供だ。ここでいきなり怒り出すのは大人の対応ではないとロゼットは考える。一度咳ばらいをして冷静になる。

「えっと、君は?」

「私、ミント!」

 初対面とは思えないほどにミントはロゼットに懐いていた。

「ロゼットならお兄ちゃんのところに連れてってくれるってお兄ちゃんが」

「お兄ちゃん?」

「メルヴァお兄ちゃん!」

「なっ⁉」

  まさかあんな百戦錬磨の遊び人のようなメルヴァにこんな純粋無垢な妹が。ではなく、メルヴァに妹がいるとは驚きだった。

「あの人にまさか妹が」

 つまりこのミントもあのアルバトロスの血を引く天才というこだと少し身構えてしまう。だがそんな考えに構うはずもなくミントはロゼットの手を握った。

「連れてってロゼット!」

 ニコッと微笑まれる。さすがにこの華奢な手を振り解くことなどできない。

「あー分かったよ。連れてってやる」

「えへへ」

 ロゼットもミントの手を握り返し、第一演習場まで歩き出す。小さなミントの歩幅に慎重に合わせながら。ミントはやけにご機嫌に両手をブンブンと大袈裟に振りながら歩いている。

「そういえば、なんでここへ?」

 ロゼットはそもそもの疑問に気づくとご機嫌なミントにそう問いかけた。

「お兄ちゃんに呼ばれたの! 結婚式するんだって」

「………………そうか~」

 今のは聞かなかったことにする。ロゼットはそう決めた。

「お兄ちゃんは誰と結婚するのかな?」

「さ、さあな~」

 冷や汗が止まらない。もし今日、メイビスが負けたら一体何が起こるのか。それは想像もしたくなくなった。

「楽しみだね」

「そうだなー」

 苦笑いしながら第一演習場へ向かう。ロゼットは手が徐々に汗ばんでいくのを感じていた。

 人が増えていく、歓声が大きくなる。どよめきと興奮、歓喜と焦燥、極彩色に染められた人の叫びが演習場の外まで高らかに響き渡っていた。

 震えている。地響きのようにあらゆるものが。

 ロゼットは観戦席まで上がっていく。少女の手を引いて。一段、階段を上ると歓声は大きくなる。太陽の光が差し込んで、第一演習場の全貌が見えてくる。

 観戦席は人で埋め尽くされている。この一戦が催しの様、誰もが呼ばれもしてないのに誰もがここに集っているのだ。

 その中心には彼女達がいる。

「お兄ちゃん!」

 ロゼットの手を離しミントが叫んだ。

「何やってんだか」

 薄々と感じていたがロゼットの悪い予想が当たった。メルヴァ・アルバトロスが一筋縄ではないとは分かっていたが、まさかここまでとは。

 メイビスが膝を着いていた。戦場で一歩の動かさずに敵を圧倒できる彼女が珍しく苦戦を強いられているというのに、ロゼットの表情は動くことはなかった。

 むしろ微笑んですらいる。メイビスの苦戦する様など早々見れる者ではない。そもそも顔に出さないのが彼女であり、それを態度に出すとはよっぽどだ。ロゼットも数回しか見たことがない。

 それはもう笑うしかない。

 

 

「はぁ……あの男が見ていたら笑っているでしょうね」

 それは演習場中央で戦うメイビスも薄々と感じていた。

 目の前に立つ女は凍土の中で咲く一凛の花のようだ。いや、メルヴァの場合は毒花か。その存在そのものが鮮やかなようで毒々しい。

 周囲が全て凍り付いているにも関わらず余裕の表情を浮かべ、その手には削る前の鉱石のような不格好な剣が握られている。

 息を吐いてメイビスが立ち上がった。相手がそれを待っているように一切仕掛けてくる気配もない。

「来ないのかい?」

 正直に言えばここまでの展開は一方的なものだった。メイビス自身がそれを一番理解されている。

 メルヴァ・アルバトロスは天才だ。その言葉に誤りはない。

 じっと相手を見据えるとメイビスは刻印を起動させた。身体に流れる血のように魔力は全身へ行き渡り、メイビスの持つ圧倒的な魔法を発動へと導く。

 それは現実に影響を及ぼす。メルヴァの頭上には氷山に等しい巨大な塊が出現していた。

 常人ならば焦るなり、逃げるなり、何かしらの反応があるだろう。しかし、天才は違う。

 フッと微笑んでゆっくりと歩く。落下する氷塊に見向きもせずにメイビスを見つめながら普通に歩いている。

 メイビスは手を止めない。大量の氷の礫を生み出し、放つ。メルヴァの四方に展開され、迫りくる礫、そして頭上の氷塊。死角はない。

「気持ちがいいね。冷たくて」

 メルヴァはまた微笑んだ。そして、右腕の刻印が輝く。

 結果的に氷の塊も礫も一つたりともメルヴァに届くことはなかった。接触する前に氷は自壊するように消滅したのだ。粉々に砕け散って粒子状になった氷は日差しによって輝き、メルヴァを彩っているよう。

 何が起こったか、その答えは至って単純だ。見ての通り粉砕された。

 錬金術。それは自身の知識の範囲内であらゆる事象を改変する魔法。知識があればあるほどその幅は増えていく。今回の場合は氷をバラバラに分解した。その効果範囲は狭いものの、彼女の射程全てが彼女の思うままになる。

「行くよ」

 一歩。

 たったそれだけで数メートルの間合いは瞬時に詰まる。メルヴァの手に握られていた剣は既に振り抜かれている。

 この圧倒的な速度にメルヴァも対応している。速度だけならロゼットの方が上だ。しかし、彼女の恐ろしいのはここからだ。

「くっ⁉」

 振るった剣は硬度を失ったように形を変え、メイビスの首元に向かって真っ直ぐに伸びた。

 地面に背中を預けるように倒れ、地面に手を着いて回転しながら体勢を整える。

 次が来る。

 メイビスは氷で剣を形成し構えた。ここまでに一秒も掛からずにメルヴァは追撃に移っていた。

鉱石の剣と氷の剣。

 しかし、それは接触しない。氷の剣が一方的に粉砕され鉱石の剣がメイビスの首元に再び迫る。

「っ‼」

 メルヴァは一度、跳躍する。周囲に展開された氷の気配に気が付いたのだ。それでも攻撃の手を緩めることはない。上空からの一撃を狙う。メイビスも空中でまともに回避ができない隙を狙わない手はない。巨大な氷柱を地面から出現させ、氷の礫の迎撃。

 それでも届かない。氷は自ら道を開けるように粉砕されていく。

 メイビスは表情を崩すことはなかったが焦りと疲労は確実に蓄積していた。対照的にメルヴァは楽しんでいるように見える。常に微笑んだ表情からは底知れない実力が垣間見えていた。

 落下してきたメルヴァの剣に対し、メイビスは再び氷の剣を形成し対抗する。

 今度は衝突する。それにメイビスは違和感と妙な感触、本能的に危機を察知した。

「バァン」

 メルヴァの声と共に二つの剣が弾けた。後ろへ飛び退いたが僅かに遅れた。鋭利な鉱石が無数にメイビスの身体へ突き刺さる。

 それでもメイビスは再び腰を折ることはなかった。

「少し浅かったかな?」

 メルヴァは足を止めメイビスを見据えた。小休止をくれたとでも言いたげでまだまだ余力を残しているのが理解していた。

 メイビスには外野の歓声など一切耳に入らず、忌々しいメルヴァの声だけがやたら鮮明に聞こえている。

 傷は浅いが、このままではジリ貧なのは明らかだった。

「相性最悪、とでも言いたげだね?」

「実際、そうですから」

 氷を生み出し、それを操るのは強力な魔法だが、錬金術は単純にそれを凌駕している。錬金術はその氷の生成すらも簡単にできる。

 氷の構造分解などメイビスでなくとも簡単にできるのだ。

「ほら、彼が見ているよ。そんなざまでいいの?」

 彼女の言葉に耳を貸してはいけない。冷静さを欠くだけだ。少しだけ荒げた息を整えるとメイビスは溜息を吐いた。

「なぜそんなことが分かるのですか?」

「僕の分身がいてね。彼と接触したんだ。今、ここに来ているよ」

「……そう」

 地面が、第一演習場そのものが激しく震えた。メルヴァとメイビスの周囲からは巨大な氷の壁が地面から出現し、やがて完全にその姿を覆い隠した。

「何のつもりだい?」

 分厚い氷の壁に覆われ、外からは二人の姿を捉えることは不可能だ。

「揃ったのよ」

 言葉の意味をメルヴァは理解できなかった。それよりもメイビスの雰囲気が違うことに気が付いた。違和感と呼ぶべきだろう。

「アルカヌスとミューリアが揃ったのよ」

 冷たい。

 メルヴァの感じるこれは錯覚だ。何も変わってなどいない。しかし、確かに冷たい。

「一日平均、五時間十二分三十九秒。それはあなたたちが私達から奪った時間」

 冷たい。

「視線をくれる回数も三十六回も減った。会話の機会も十四回減った。二人で居残りをすることもなくなった」

 冷たい。

「生徒会、風紀委員、キクロ同盟、ブレムーゾ派閥、くだらない。本当に全てがくだらないわ」

 冷たい。

「私には何もいらない。仲間、友人、恋人、そう、ロゼと私だけいればこの世界には何も必要ないのよ」

 紅蓮の輝きを持つメイビスの瞳。それはもう輝きを失いどこまでも虚ろだ。

「ははは」

 メルヴァから笑いが漏れた。

「僕が君になぜ魅かれないのか……今わかったよ」

 美しい。メイビスは美しく、そして強い。間違いなくメルヴァの好みだ。それでも魅かれることはない。

 それはメイビスが孤高の天才でもクールな優等生でもないから。もっとそれ以上に禍々しくて悍ましい生き物だからだ。

「君は僕以上のエゴイストだからだ」

 メルヴァの本能が恐怖に震えるほど。それほどまでにメイビスという人間の隠れていた部分が露出していた。

「御託はいいわ。始めましょう?」

 この姿はロゼットでさえも知らない。そんな姿を見せた。その理由は言うまでもないだろう。

「僕を殺すだね?」

 メルヴァが尋ねるとメイビスは僅かに微笑みで返し、

「最初からそのつもりです」

 静かに腰に携えた白い剣を抜いた。刀身には刻印が施されており、その輝きは抜いた時に失われる。

刹那、メイビスの持つ魔力が泉のように湧き出た。

 周囲は瞬く間にメイビスは魔力で充満し、瞬時に冷気へと変貌する。

「これは」

 そしてメルヴァは目撃した。濃密な魔力が形を成し龍の姿を形成するのを。生み出された氷の龍はメイビスを守護するように幾度となく増殖し周囲を舞う。

「っ⁉」

 突如、メルヴァは地面に膝を着いた。異常に気が付くのが僅かに遅れたのだ。あと一度、呼吸をしていたら死んでいた。

 肺が凍りつく寸前だった。凍り付くほどの空気はたった一度の呼吸で人間の命を奪う。

「参ったね。これは」

 メルヴァは呼吸を整える。周囲の温度を調整し、肺を修復する。

 しかし、既に攻撃は始まっていた。

凍り付いた空気など前座でもない。氷の龍は咆哮を上げ、地を駆ける。

「っ」

 逃げた。メルヴァが防戦に徹した。追尾する氷の龍をやり過ごすことしかできない。それは龍の正体を掴めていないからだ。

 いや、正体そのものは理解している。膨大な魔力が形成した現象そのものだ。

 白い剣、それに施された刻印はでたらめでまともに魔法が発動するものではなかった。刻印は魔力を吸い上げ、霧散させていく。メイビスは常にこの魔法といえない出来損ないの魔法を使用し続けることで己の力に一定の制限を課している。

 そうしなければ歩いているだけで全てが死んでしまうから。

 ただ殺しても構わない相手ならばその枷は必要ない。

「っ⁉」

 メルヴァから余裕の表情が消えた。両手には鉱石の剣、迫りくる龍の頭蓋を破壊し、逃げ、また破壊する。それでも龍は増え続ける。

 高速で迫る氷の龍は流れ続ける川の様、止めることは人間では叶わない。いずれは手が追い付かなくなる時が来る。

そして、それはすぐ訪れた。

 メルヴァの左腕を龍が喰らった。龍と接触した部分は即座に凍結し、粉砕される。彫刻が崩れ落ちるようにメルヴァから右腕が失われた。

 メイビスの表情は変わらない。来るべき時を静かに待っている。自身の勝利する瞬間を。

 手は止まる気配がない。メイビスに慈悲も情けもない。まるで大自然のように当たり前の様に命を刈り取る。天災そのもの。

「もう少しなんだよ。耐えてよね」

 メルヴァは前に出た。防御を捨てた。それではただ終わることを悟ったのだ。隻腕の戦士が軍勢に挑む所業は勇気ではなく蛮勇と呼ぶ。

 しかし、それが一筋の光を灯す行為ならば価値はある。

 多頭の龍を退けるメルヴァには左腕が存在していた。治した。という言い方はあまり相応しくない。復元したと言うべき。ここまで速度で修復したとなれば失う魔力は計り知れない。それがたとえメルヴァであろうとも。

 激流の如く押し寄せる龍を全て破壊し尽くすことはできない。ましてや自分からその本流に向かっていくとなれば尚更だ。腕の一本、足の一本、捨てる覚悟でなければ届くことはない。

「ぐ‼」

 ならば迷わずに捨てる。メルヴァ・アルバトロスはそういう人間だ。龍を足、腕に喰いつかせ、切り離す。損傷個所を瞬時に復元し、前へ進む。

 刹那の攻防の後に二人の距離は縮まった。あと少し、数メートル。その剣が届くまで数メートルだ。

 だがその歩みは止まった。

 メイビスに近づけば近づくほど、さらに温度は低くなる。魔力が枯渇してきたメルヴァは自身の肉体を正常に保つことすら困難になっていたのだ。本来、普通に人間であれば一秒も生きられない世界で数分を戦うことができるだけでも奇跡に等しい。

「…………参ったな」

 メルヴァは既に下半身全てが凍結していた。動きを止めると瞬く間に龍に身体を喰われ、残るは頭部だけになっている。

「最後に聞いていいかな?」

 氷漬けになったメルヴァはそんなことを呟いた。眼は既に虚ろで命の灯火すらも失われる寸前だった。

「君にとってロゼット・べリウスとはどんな存在かな?」

 それでも続ける。薄れゆく意識の中でメルヴァはその言葉を確かに聞いた。

「私の全て。ロゼの日常、その先の永久の幸せを守るが私の使命です」

 その言葉を最期にメルヴァの意識は深い闇の底へ消えた。

 

 




いかがでしたでしょうか?
 ここらへんは担当の人も褒めてくれた部分です。
 ヤンデレ好きなんですよねぇ。愛されないからかな? 言ってて悲しい。
 楽しんでいただけたら幸いです。
 感想もお待ちしてます。
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