すいません。今回は短めです。ちょっとキリのいいとこ見つからなかったんで。
ほら、行くぞ。鍛錬の時間だ」
ハッとしてレムはロゼットの後に続いた。
先ほどの話を聞いたせいか、レムは前を歩くロゼットの小指を見た。
「あの、師匠」
「ん?」
「……なんでもありません」
レムは上手く言葉が思いつかなかった。なんて声を掛ければいいのか分からないのだ。
「明日は構ってやれないからな。今日のうちにビシバシ鍛えてやる」
「はい」
無言まま二人が歩いていくと第一演習場へと辿り着いていた。
「ほら、今日は実戦形式だ。さっさとかかって来い」
昨日メイビスとメルヴァが死闘を演じたアリーナに二人は立つ。
「でも師匠、私はまだ魔法が」
「お前は習うより慣れろだ。実戦の感覚を与えた方が百倍簡単に発動する」
「本当ですか?」
「そんな気がする」
「勘ですか……」
ロゼットはいつも通りだ。ロゼットのメイビスへ想い、それがずっとレムの心の底には引っ掛かっていた。そんなことはどうでもいい筈なのにそのことを考えるだけで胸が苦しくなるのをレムは感じていた。
「ほら、行くぞ」
拳を構えるロゼット。手加減はしてくれるだろうが、生半可な攻撃は彼の性格上有り得ないだろう。
息を吸って吐くとレムは切り替えた。未だに胸につっかえる気持ちを押し殺して集中した。
間合いは二メートルと言ったところか。ロゼットは体術に近い構えを取った。姿勢は低く、隙はない。レムも慎重に間合いを見測る。
「えっ」
眼前に拳が迫っていた。反応はできず、直撃は避けられない。
ピタリ、と拳は寸止めにされている。ハッとなってレムは距離を取った。
「集中しろ。本気なら死んでたぞ」
レムは改めてまだ雑念が捨てきれてないことに気が付いた。しかし、それにしたって速すぎた。ほとんど視界に踏み込んだロゼットの姿は見えなかった。それでも言い訳が通じる相手でもない。
「はい!」
その言葉に感化されてレムは再び集中する。
「行くぞ」
やはり速い。重力操作と魔力によって強化されている通常の魔導士とは違い、彼はそんな小細工無しでこの速度を実現している。
だが今回はレムも紙一重で反応できた。ロゼットの拳は頬を僅かに掠めていく。
「っ‼」
連続で、一撃必殺、狙いは全て急所を確実に潰す位置に絞られている。それ故に予想が容易いが速度が尋常ではなく、避けるのも相当な神経を持っていかれる。一旦距離を取らなければジリ貧になることは確実だ。
レムがそう判断した刹那。
「うっ」
高速で数メートル後退した。速度はロゼットにも引きを取らないほどで一瞬ロゼットにはレムが消えたように見えた。
「はぁ……はぁ」
距離を取ったレムは乱れた息を整える。先ほどまであった雑念は消え、信じられないくらいに頭が冴えていることを自覚していた。
「ふぅ」
息を整え、軽く跳躍する。するとレムの身体に電流のようなものが一瞬だけ見えた。
「なっ‼」
実戦において追い込まれれば少しは実力を引き出せると思ったがロゼットの予想を遥かに超えていた。
雷鳴の如く加速したレムは即座にロゼットの背後を取ると回し蹴りを繰り出す。
「っ⁉」
しかし、吹き飛ばされたのはレムだった。見えない何かに撥ねられたように地面を転がってく。
「悪い、手加減できなかった」
受け身を取りすぐに体勢を立て直すとレムの姿は再び消えた。
ロゼットも二度見失うことはない。正面に現れたレムは拳を突き出すが完全に動きを捉えられている。胴体にカウンターを喰らうとレムは再度吹き飛ばされた。
「くっ」
掌底で喰らった一撃は軽くはない。カウンターのタイミングも完璧でレムは体勢を立て直した後に地面に膝を着いた。
今のレムの集中力は半端ではない。闘う者の立ち振る舞いを自然と成立させており、その瞳は真っ直ぐにロゼットへ向けられている。
だが、それよりも驚くべきことがある。
「これじゃ、足りない」
レムは悟った。このままでは目の前の相手には通用しないと。更新しなければならないと。
レムの手に施された刻印が黄から青になり、その範囲が前腕部まで瞬く間に拡大した。
戦いながら自身の魔法を書き換えている。
アルカヌスの獣。その言葉がロゼットの脳裏に過った。
「レム‼」
「っ」
その声にレムの動きが止まった。我に返ると先ほどの雰囲気とは全く別のものになった。言い方を変えると元に戻った。
「師匠、私。何を?」
「覚えてないのか?」
「は、はい」
危険だとロゼットは瞬時に悟った。
ロゼットにもメイビスにもない天賦の才、戦闘中にのみ開花する殺しの才能。それがレムの中にはあった。尋常ではない集中力と戦闘のセンス、一瞬で敵の力量を測り自身の魔法の質を向上させる瞬発的な知性。どれも通常時のレムにはないものだ。だが確かにさっきの戦闘中にそれを自然と発現させていた。
「あれ?」
全身の力が抜けたようにレムが腰を抜かした様に倒れた。自分でも気がつかない程に集中していた? 違う。自身の肉体など度外視で相手を倒す術を実行していたからその反動が来たのだ。その最たる例が戦闘中の刻印だろう。
あの瞬間、レムはロゼットへ追いつくために学習し、吸収し、それを刻印として反映して見せた。
「レム、お前は今後、魔法が完成するまで本気の戦闘は絶対にするな。自分より格上に出会ったら即座に逃げろ」
「わ、分かりました」
この才能は脅威だ。この時、ロゼットは初めてメイビスとレムが同じ領域の人間だと理解できた。
アルカヌスの血を引く者、ロゼットがレムを気にかけた理由がようやく分かった。
「立てるか?」
「はい」
ロゼットの手を借りることなく、ひょいっとレムは立ち上がる。
「お前はしばらくずっと魔法発動の訓練だ」
「えぇ‼ どうしてですか?」
「話にならないくらい弱いからだ」
「そんなぁー」
文句を垂れながらもレムは素直に魔力の流れを操作し始めた。
「師匠‼」
「どうした?」
「刻印の質が何故か上がっています!」
ロゼットは頭を抱える。先ほどまでの猛者とこのポンコツが同一人物だとは考えたくもなかった。
「あーそれはお前が頑張った証拠だ。良かったなー」
もう面倒臭くなったので適当に言っておく。だがレムのこの才は危険だということだけは肝に銘じた。
レムとの訓練が終わり、学院を出てロゼットが向かったのは学院の寮ではなくべリウスの別邸だった。そこにはセストが一人で住んでおり、本家から試作品が届き、貯蔵してある。ここへロゼットがやって来るということは本気の戦いに臨む覚悟を決め、相手を殺傷することもやむを得ないと判断した時だ。
別邸と言ってもべリウスが所有する屋敷なのでやたらと巨大で豪勢。たかが一人の女性が住んでいるだけとは思えないほどに玄関や庭に至るまで凝った細工されており、セストの性格上、綺麗に手入れがされていた。
「ロゼ君、待ってたよ‼」
そして、この姉は今日も全力全開だ。玄関の呼び鈴を鳴らす前に現れたセストは徐にロゼットを抱きしめた。この前本家に行った時は完全無欠なメイドモードだったので我慢が限界を迎えていたのだろう。生徒会室でのその予兆はあった。
「離せ姉貴」
「やだぁ~」
非常にうざったい。しかし、本家の面倒ごとを全て彼女に担って貰っている以上、ロゼットはあまりセストの唯一の癒しを邪魔するのは気が引けていた。だからと言ってこのまま放置すると豊満な胸部に押しつぶされて窒息死することは確実だ。
ここは必殺技を使う。
「へっ⁉」
こちらも抱きしめる。そうすればセストは力が抜けていく、そこで耳元でそっと、
「姉貴、愛してる」
と呟いてやればセスト溶けていなくなる。しかし、これは今後の彼女の態度が激化する諸刃の剣でもあるので使用する頻度は控えないと後で寝込みを平気で襲ってくるようになるので要注意。
「さて」
中に入ると、部屋中を埋め尽くすような大量の武器が揃えられていた。
「全部揃えてあるよ」
「ああ、感謝してる」
ロゼットはその中から明日の戦いに向けた武器を選び出す。一つ一つに触れ、最適で限られた武器を選出していく。
「スーツはいいの?」
「まだいい」
その中には先日開発した魔導スーツもあった。だがロゼットはそれに目をくれずに武器を選び出した。先日、開発した軽機関銃型の魔導銃、アサルトライフルの制圧力はきっと役に立つだろう。武器は多すぎてもいいことはない。この戦場に最適なのはこれだと判別する。
「これでいくか」
一息吐くと、ロゼットは武器に不備がないかを確認し始めた。
「お母様から報告だけど、資料を盗み出したのはロゼ君の周囲の人物かもしれないって」
「そうか」
セストの言葉にロゼットはあまり驚かない。それが最初から分かっていたかのようにすんなりと納得していた。
その見当は何となくではあるが付いていたのだろう。
「どうする気なの?」
「政府に任せるよ。わざわざ俺がやる必要もないだろう」
セストはてっきり奇襲を仕掛けるとでも言いだすかと思ったが、意外に冷静なロゼットの判断に安堵していた。
装備をアタッシュケースに収めて、ロゼットは玄関に戻っていく。静かにセストはその姿を見ていた。
「じゃ、行ってくる」
「無理はしちゃダメよ」
無言で頷く。その会話はやはり姉弟とは違う。使用人と主人、その癖が未だに抜けていないのだ。セストは気にしてはいるが、それを口に出すことはない。。
ロゼットは帰り道、僅かに微笑んだ。全てが終わるという感覚に自然と口角が吊り上った。
「さあ、片を付けよう」
いかがでしたでしょうか?
短くてすいません
楽しんでいただけたら幸いです。ご感想もお待ちしてます。