終わる。終わっちゃう。何か物悲しいね。
昔のパワポケにしんみりしちゃうってBGMがあってそれが泣けて泣けて。
パワポケ8最高。
それではどぞ。
「さて」
対照的にメイビスに迷いはない。進む先が暗闇だろうと、そうでなかろうとただ真っ直ぐに歩く。コツンと歩く度になる音を一定に鳴らしながら研究所内部をどこまでも自身のペースで進んでいく。
視界の端に赤い液体が映り込む。人間の身体を流れる鮮血、それだと確信できる。鼻をツンと抜ける血の香り。奥に進むにつれてそれは強く、濃くなる。
メイビスはとある確信を得て歩幅を維持した。時より、靴底が液体を踏んだ。
「不快ね」
雨の日のようにピチャピチャと音を立てる床に苛立ちを覚える。一歩先、一歩先、メイビスの歩く道は氷の道へ変わった。
その時だ。メイビスの耳が雑音を拾った。地面に手を着け、一定のペースで近づいてくるのを感じ取る。
「人、歩幅は狭くて振動が起こりにくい。女性ね」
恐れなどない。その気配に向かってメイビスは前に出た。
数十秒の間を置いてその二つは接触する。
「あなたはメイビス・レーゲンバルド」
研究所の奥から姿を現した人物が呟いた。
レムだ。息を切らした彼女はメイビスを真っ直ぐに見つめた。その表情には驚愕が現れている。
「久しぶりね。レム・クラレア」
メイビスに驚きはなく、淡く微笑んでいる。
「残念ね」
悪寒がした。レムはメイビスから恐怖を感じていた。その微笑みが何を意味するのか理解できたのだ。
「どさくさに紛れて死んでくれれば良かったのに」
冷たくメイビスの口から放たれる。
「じゃあ、あなたが私をここへ」
レムは半ば強引にここへ収容されていた。学院の騒動を聞きつけた彼女は現場に駆け付けたのだが、エクストラポートの構成員を収容していた帝国軍に強制的に連れてこられたというのが真相だった。何者かの手によって学院側のリストに載っていたレムはエクストラポートの構成員としてここへ連れてこられていた。
「そうね。その認識で間違ってないわ」
「なぜ、こんなことを?」
メイビスの中にある僅かな人間性が消えたような気がした。
「邪魔だからよ」
「……え?」
「これ以上、ロゼから時間を奪わないで。あなたの存在はロゼにとって害なのよ」
逃げなければ、レムの頭にロゼットの言葉が蘇る。メイビスは格上も格上だ。逃げなければ確実に殺されると断言できた。
それにこの人を人として見ていないようなメイビスの視線には敵意も殺意もない。羽虫を殺すのに、人間は殺意など持たない。
「っ⁉」
一歩後退したレムの足は凍り付いた。
メイビスの身体に刻印が浮かび上がり、この空間全ての支配権は彼女へ委ねられた。生殺与奪は自由。
「さようなら」
瞬きをした時、既にレムの身体は上半身を凍結し始めていた。抵抗は許されない。
用が済んだと言いたげにメイビスが踵を返した。そして、歩き出す。一、二、三、四、五、六。
「嫌だ」
異変に気が付いたのは六歩目を踏み出した時だった。声が聞こえたのだ。ここで消えたくないという叫びの声が。
「嫌だ!」
その声にメイビスは振り返る。
炎が灯っていた。空気まで凍てつく世界でその炎は赤く、燃え盛る。体内の魔力を燃料とするように彼女を中心に炎は今もなお広がり続けている。
レムは立っていた。両手の刻印は赤く染まり、身体の内側から溢れ出した炎を纏っている。そして、炎だけではない。雷も同時に周囲に飛び交う。
「死に直面して本能が目覚めるなんて本当の獣ね」
本能で二重系統を理解し、魔力を自由に操作し魔法を発動させる。ロゼットとの戦いでも見せた片鱗。
メイビスに驚きはない。ロゼットが気に掛けていた以上、その可能性は十分にあり得た。それと同時に自分と同じ存在だという確信も。
天性のセンスを持つ化け物。それをこの帝国ではこう呼ぶのだ。
アルカヌスの獣と。
「っ‼」
レムは拳を振り下ろした。炎が地面を伝い、津波の様にメイビスに押し寄せる。
だが、それは一瞬にして凍結する。コツンとメイビスが踵を鳴らすと、冷気は隠していた本領を発揮したように再び世界を凍てつかせた。
それでも炎は再び灯る。その範囲はメイビスに対抗するように一秒単位で進化し続けているのだ。
「あなたを師匠の傍にいさせる訳にはいきません。あなたは危険過ぎる」
「……言うじゃない。戦闘中に刻印を更新する化け物には絶対に言われたくないわ」
レムの刻印は前腕部から一気に肩の辺りまで進行した。僅か数分、驚くべき速度で成長を続けている。
姿が消える。雷鳴が轟くと同時に姿を消したレムはメイビスの正面に姿を現した。低い姿勢から突き出される拳は確実にメイビスの顔面を捉えるだろう。
「くっ⁉」
ただし、それが届くことはない。レムの全身は凍り付き、完全に身動きが取れなくなった。
「はぁあ‼」
叫ぶ。再度炎が灯るとレムの身体を溶かした。凍り続ける冷気と燃え盛る炎はこの時点で拮抗していた。
レムの右手は炎を宿し、メイビスに伸びる。数十センチ、もう少しでそこへ届く、それを信じて天高い空に手を伸ばす。
「あなたでは私には、ミューリアには届かないわ」
その手はメイビスに掴まれる。
そして、その言葉通り未だに埋まらない圧倒的な差をレムは見せつけられた。人の認識が追い付かない速度で身体は凍てつき、意識は刈り取られる。その暗闇に落ちたら最後、もう戻ってくることはできない。
「眠りなさい」
レムの刻印が輝きを失った。不死鳥の様に灯し続けた炎も凍土の一部に飲み込まれた。
「これは貸しにしておくわ」
「この先か」
廊下の壁には血が飛び散り、床には白衣を着た人間が転がっている。魔法ではなく、拳銃で殺害されている。それらを避けながら進んでいくとロゼットはとある扉の前に辿り着いた。
魔導銃をいつでも撃てる高さに保ち、両開き門扉を開く。
扉の向こう側は薄暗く、だだっ広い。何かの配線が絡み合う床を踏んで前へ進むと透明な筒状のガラスケースが無数に並んでいる。液体で満たされたガラスケースの中には見覚えるのある人間が入れられていた。
「リオール・フルールド」
リオールは安らかにガラスケースで眠っている。他のガラスケースにはロゼットの予想通り、キクロ同盟の生徒が押し込められている。
その施設の奥、そこには一人の男が背を向けて立っている。学院の制服と上から羽織った白衣、その綺麗な金髪、ロゼットはその男の名を口にする。
「よぉ、マルス」
朝の挨拶を交わすように声をかけられ振り返る。
「やあ、ロゼット君。ようこそ、僕のラボへ」
マルスは笑顔を浮かべていた。ロゼットは静かに銃口を向けているが、それでも態度が崩れることはない。
「その様子だと全部、お見通しみたいだね」
「自分が何をしたのか分かっているのか?」
何も変わらない、自身の行った所業を自分自身が知らないかのような純粋無垢な狂気的な微笑み。
「自分のしたこと…………多すぎて思いつかないな。キクロ同盟に魔法をリークしたことかい? エクストラポートとの仲介をしてエーテルブースターを横流ししたことかい? それとも二つの組織を誘導して研究施設を襲撃したことかな?」
今回の騒動、その全てがたった一人の男に操られている。そんなことはあり得ない。あり得ないが、真実は時として人の想像を超える。
「なら暴動は時間稼ぎか?」
「ご明察。少し準備に手間取ってね。あの状況で君たちに襲撃されていたら危なかった」
あははは、と笑いごとのように済ませる。マルスは何も変わっていないことが分かる。彼は元からそういう思考を持った化け物なのだ。
「でもこんなのは前座だよ。僕の目的へ到達する為の序章にしか過ぎない」
「だからキクロ同盟とエクストラポートを利用したのか?」
「そうだよ。彼らはパーツとして十分な働きをしてくれた。随分と誘導が簡単な連中だったよ」
マルスがロゼットの背後のガラスケースへ視線を移した。
「劣等感に溺れている無能ほど歯車に相応しい物はない。少し力をチラつかせたら犯罪すらも厭わずに、力を手に入れた途端に暴動も構わず行う。愚かで利用されるだけの哀れな存在だよ。キクロ同盟っていうのは」
「腐ってるな」
ロゼットが魔導銃の引き金に指を掛ける。
「君と同じだよ。腐っていることは認めるけどね」
「俺とお前が同じ、だと?」
「同じさ。強さの為ならあらゆる手段を用いるという一点においては僕と君ほど酷似している存在はいない」
「お前の目的はなんだ?」
「それはもう気づいているんじゃないかな?」
マルスの言葉にロゼットは視線を自分が持つ魔導銃へ向けた。第一課の襲撃事件から既に察しはついていた。そして、この施設を見て、それが確信へと変わっていた。
「君の魔導銃は正確には魔力を射出するものではない。魔力の収束には魔導士単体では到底追いつかない。だから君は、それを改良し弾丸に加工した魔導障壁を射出する物へと変え実用した」
魔導銃のプロトタイプはその名の通り、魔力を放つものとして設計された。しかし、そんな魔力を供給できるはずもなく、魔導障壁を意のままに操るロゼットが使う前提で改良が施された。それが現在、ロゼットが使用している魔導銃だ。
「盗み出した甲斐があったよ。おかげで完成まで持ってこられたからね」
施設全体が揺れる。巨人が歩いているかのように等間隔で激しい揺れが襲い掛かる。
「これが僕の出した答えだ。やはり僕たちは似ているんだ」
そして、壁を破壊してそれが姿を現した。
「魔導アーマー。君のその特殊スーツと似て非なるものだね」
見上げる程の金属の巨体。人型というには余りにも不細工で上半身だけで歩行する巨人のようだ。頭部は赤い光が点灯するのみで急造されたことが見て取れる。肩部に巨大な砲門が四つ。その姿は魔導銃の姿というには歪過ぎた。
「僕が生み出した新しいエンジンを組み込んだ魔導アーマーは初期構想の魔導銃を完全に再現している。これこそが本当の魔導銃さ」
「新型のエンジンだと」
魔力を生み出すエンジンなど聞いたことはない。そんなものがあるならば、魔導士など必要がなくなる。魔力を生み出せるのは人間、それも魔導士だけだ。
「僕がただ無償でエーテルブースターなんて危険物を横流しするわけがないだろ? ギブアンドテイクさ」
マルスの笑顔は崩れていく。より狂気的に、より邪悪に。今まで付けていた人間の皮が剥がれたかのようにその顔は歪んでいた。
「……まさか⁉」
ハッとなりロゼットがガラスケースに入られらたキクロ同盟の生徒を見た。
「生体魔導エンジン。エーテルブースターを使用した魔導士から吸い上げる魔力は上質、そしてその容量もお墨付きだよ」
「貴様‼」
ロゼットが魔導銃の引き金を引いた。
「ははははははははははは‼」
しかし、放たれた弾丸は魔導アーマーの腕に阻まれる。マルスの意思に連動するように動いた魔導アーマーは砲門をロゼットへ向けた。
「ほら、力比べだ」
「ちっ」
施設中に響き渡る轟音と共に虹色の光がロゼットへ放たれた。収束され圧倒的な質量を持った魔力はそれ単体が超高熱原体、触れれば蒸発するのは必至だ。
「ぐっ⁉」
魔導銃に弾丸を込める暇などない。防御に徹しなければ一瞬で潰されるのをロゼットは理解していた。
全力で魔導障壁を正面に展開し、真正面から光を受け止める。
「さすが。じゃあ、次だよ」
一度は防げる。だが二度目となればどうなるか、それはロゼットにも分からなかった。全く間隔を置かず、光は再び放たれる。
その前にロゼットは横へ避ける。並べられた生徒を入れたガラスケースを薙ぎ倒し、照射された光はロゼットを追う。
「くそっ‼」
吐き捨てる。
魔導銃でマルスを狙うが、彼は巨人の右腕に守られている。
「それなら」
逃げるのをやめた。ロゼットは魔導アーマーへ向かっていく。光を回避しながら進んでいくと、腕が行く手を阻む。
しかし、同時に光は止む。魔導アーマーの巨体に近づけば、もうそれは使用はできなくなる。マルスにも被害出かねない。腕の動きも予想通りに鈍い。十分に見切れる腕を潜り抜け、光が反射する如く速度でロゼットはマルスの前まで辿り着く。
対面する。互いの顔が一瞬だけ瞳に移ると勝敗は決す。引き金は三度、引かれた。
「っ‼」
三発の弾丸がマルスを襲う。笑顔を浮かべたまま、血を吐く、そしてそのまま配線だらけの床を背にして倒れた。
あまりにも呆気なくマルスの命は掻き消えた。その瞳からは生気が完全になくなっている。それと同時に魔導アーマーも動きを止めた。今はただのオブジェとして佇んでいるだけだ。
ロゼットは警戒を怠ることない。銃をマルスへ向けたまま、すり足で後退していく。
「っ⁉」
プツン、施設内を照らしていた僅かな明かりが消えた。そして、耳を劈く警報音が鳴り響く。
『証明開始』
赤い回路が浮かび上がる。オブジェと化した魔導アーマーの両腕を伝い、頭部へ至る。まるで生き物のように脈動するそれは刻印だった。気が付けば壁や床に至るまで張り巡らされた刻印はマルスの身体から広がっている。
ロゼットが視線を移した時、床の配線が複雑に絡み合いマルスの肉体を飲み込んでいた。
ドクン、と心臓の鼓動が聞こえる。この空間全体が一体の生き物のように蠢いているような気さえする。
「はは」
笑い声だ。
「?」
「ハハハハ」
彼が笑う声が聞こえた。
そして、姿を現した。
いかがでしたでしょうか? まじでクライマックス。
楽しんでいただけたら幸いです。どれだけの人が見てくれているか分かりませんが最期まで見届けてくれたらありがたい。
まだまだ出来損ないの作品と作家ではありますがよろしく。
ご感想もお待ちしています。