終わりです。はい。これで終わりです。いろいろと至らない作品ではありましたが最期まで見てくれた方には本当に感謝しかありません。
それではロゼットの勇士を見てやってください。どぞ。
「はは」
笑い声だ。
「?」
「ハハハハ」
彼が笑う声が聞こえた。
そして、姿を現した。
「HAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHA‼」
ロゼットは目を疑った。
「なんだ……これは?」
魔導アーマーを骨組みに人、機械、植物、それらがぐちゃぐちゃに混ぜられて人の形をしているとしか言いようがない。あえて言うならグロテスクということばが一番当てはまる。
その顔面は骸骨と機械、マルスの面影を残す顔が原型を留めないほどに歪みに歪み、ロゼットを見下し狂気的な笑いを続けている。
「獣だよ」
獣は答えた。
「ボクはアルカヌスの獣だよ」
マルスの声に雑音が混じったような声が響く。聞くだけに不快な気分になる。
「これがエクストラポートが目指した魔法を凌駕した科学の力。そして、キクロ同盟が求めた力そのものだ」
口が開く。その奥には魔導アーマーにあった砲門が覗いていた。
「死ね」
さきほどとは比べ物ならない砲撃。降り注ぐ光はそれ単体が太陽のように世界を蝕み、そして破壊する。
「うっ‼」
正面で受け止めたロゼットがそれを何より理解していた。押しつぶされるような圧倒的な質量と重量を受けきる。
ボクタチヲヒテイシナイデ。
「っ⁉」
その時、声が聞こえた。攻撃は終わり、化け物は第二射を即座に放った。
考える暇もなく、それを受ける。回避することが到底叶わない速度、範囲で放たれるそれを再びロゼットは受け止めた。それしか方法はなかった。
ボクタチヲミトメテ。
「う……」
頭が割れるように響く。幻聴ではない、確かにロゼットが聞いた。彼の、彼らの声を。
ガンバッテルンダ。
キミミタイニナリタインダ。
デモダメナンダ。
ワタシタチハキミノヨウニツヨクナイ。
ダカラテヲトリアッタ。
ソレガダメナノカイ?
ツギハギデモイインダ。
キミモオナジダロ?
「そうか。そうなのか」
幻覚すら見ていたのか。ロゼットが意識を戻すと目の前にはやはり化け物が佇んでる。攻撃を何とか凌げたようだ。
「どうした? あまりの恐怖にもう動けないかい?」
化け物は発狂するように笑う。その力に酔い痴れて、有頂天に。
「怖い」
ロゼットは改めて目の前の化け物を見た。
ギョロリと四つある不規則な大きさの目玉がロゼットを見下すように見つめ、巨大過ぎる口は裂けるかの如く吊り上がる。植物と肉塊が混じったような腕は赤ん坊のように未発達で這いつくばるように身体を支える。所々から突き出した金属の破片、肉塊から垣間見える機械仕掛けの骨格。不完全さを必死で何かで埋めようとしている。
「違うな」
マルスが似てると言った意味がようやく分かった。
「は?」
そこには恐怖はない。これは違う感情だということをロゼットはこの時、理解した。
「哀れなんだ」
答えが出た時、反射的に言葉になった。
化け物が動きを止めたロゼットの言葉ではなく、瞳が哀れみを表していた。
「なんだよ…………それ」
地面が激しく揺れた。
「ふざけるなぁ‼」
持ち上げられた腕がロゼットの周囲を薙ぎ払うかの如く、振り回される。
「ボクは神だぞ? そこへ到達したんだ。アルカヌスにボクはなったんだぞ?」
「変わらないさ。お前はただの凡人のままだ」
腕が切り飛ばされた。巨大な腕は手首の辺りを鋭利に切断される
「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁ⁉」
その刹那に化け物が叫ぶ。理解できない痛みと苦しみに藻掻く。
「なんだ! なんだこれは‼」
「おまえ……おまえ‼」
ロゼットの手には剣が握られていた。全てが漆黒に染められた剣。それを持つ彼は漆黒の騎士のよう。
「お前は、お前たちは俺が辿ったかもしれない未来だ」
「何を言っている?」
「お前が言っただろ。俺達は似ている。。それは確かだ。どいつもこいつも凡庸で取り柄なんて無くて、絶望して這いつくばって、苦しんで、それでも前に進んだ愚か者だ。少しだけ道が逸れたんだ。俺達はさ」
化け物の動きが止まる。
「最初は何もできなかったさ。それこそ最初の一年、二年は本当に何も。ただ命を守るだけの障壁を馬鹿みたいに張り続ける。それが俺の特訓の全てだった」
ヤメテ。
「誰もが俺を笑った。大人も同じ修道院のやつも。それでも信じて待ってくれる奴がいた。だから俺は諦めなかった」
ヤメロヨ。
「使える物は何でも使う。時間が許す限り、俺は前へ進むしかないんだからな」
ヤメテクレ。
「お前たちだって最初はそうだっただろ?」
チガウ。
「夢見ただろ? 魔導士としての自分を」
チガウ
「その為に努力した。努力し続けた」
チガウ。
「それでも俺は否定する。お前らは逃げた。最低の俺がここに立っている以上、お前らは良い訳なんてできない。許されない。お前たちは諦めたんだ」
「ヤメロォォォォォォォォォォォォォォォォォォ‼」
化け物の身体が崩れる。内側から食い荒らされるように徐々に、徐々に離れていく、みんなの心が。
「ああああああ‼ なhfsぜだhボsdクはdsg神vtyだvそvsのuはdghgずdsだfhこんshなsdvぼhhgんvgじhんにdhvsまdvけhsるdkvわhsけdvhvhdsdhvksdfhs‼」
ロゼットは飛翔する。化け物を追い越すほどに高く飛び、落ちる。両手に持った黒剣が真っ直ぐに振り下ろされる。
溶けるように化け物を構成する全てが消えた。それを保っていた魔力も霧散して、消えていった。
残ったのはたった一人の少年だ。
「はぁ……はぁ……」
一歩、一歩、既に死んだ身体を動かして、前へ出る。
「男に憧れた。科学と魔法を極めた天才と呼ばれる男に」
倒れる。それでも立ち上がる。ロゼットはそれを静かに見ていた。
「その男のことを知る度に僕は存在が否定されるようだった」
誰に話しているかも分からない。何を成そうとしているかも分からない。
「憧れは憎しみは変わっていた。道を踏み外している自覚はあった」
それでも続ける。
「男ならそうすると思ったから」
諦めない。進む。前へ、我武者羅に憧れた男のように。
「これたじゃないか」
辿り着いていた。その男の前まで、少年は涙を流した。この瞬間をどれだけ、どれだけ、待ち焦がれたか。
「僕はただ、君の様になりたかった」
それは普通の少年。少し裕福な育ちの少年。苦悩に満ちた普通の人生を踏み外しただけ、可能性の一つに過ぎない。
「そうか」
それはこの瞬間の為だけにあった人生。そこへゆっくりと手を伸ばした。
「俺は先へ行くよ」
「あ……」
ロゼットは踵を返す。そして、歩き出す。幾重の屍を越えて、それを踏み台にしても、前へ進み続ける。
「待っている人がいる」
男は遠くへ行く。遠く、遠く、まだ進むことをやめない。
少年は満足そうに微笑んだ。
「はぁ……はぁ……ぁ……」
静かに死を自覚するその時まで男を追いかけながら。
アリガトウ。
歩くロゼットの耳に囁かれるように声が響いた。
レムは目を覚ました。
目を覚ますことに彼女は驚いていた。二度と、その日は訪れないと思っていたからだ。
「あら、起きたのね。もう二度と目を覚まさないかと思ったわ」
その原因とも言える人物が待っていることもさらに彼女を驚かせる。というより混乱していた。
「その間抜け面、やめてくれる?」
「なぜあなたが?」
帝国で有数の病院に搬送されたレムは一命を取り留めていた。あの戦いで確かに氷漬けにされたレムだったが身体に停滞していた魔力の影響で命を落とすことはなかった。それでも早急な処置がなければ危ない所だった。
それを救ったのが目の前の元凶、メイビス自身だった。
「ロゼに任されたのよ。席を外している間に少し様子を見ていてほしいって。私が付きっきりで看病している、なんてことはないから安心しなさい」
「そうですか」
メイビスは本を片手に持っている。いつも彼女が読んでいるアルカヌスの冒険だ。それを閉じると何食わぬ顔でレムを見た。
「私を殺さないんですか?」
レムは思い出す。あの時のメイビスの殺意は本物だった。そして自分は敗北したという事実も身体が覚えている。
メイビスが本気を出せばレムなど簡単に踏み潰されることを理解させられている。
「私の目的はロゼに幸せを守らなければならないのよ。あなたを殺せば、ロゼは悲しむ、そう判断しただけ」
その言葉は確かに真実であるとレムは分かっていたが、それでも警戒はしたままだった。
「でもあなたがロゼに害すると判断した時は迷わず殺してあげるから」
それだけ言い残してメイビスは病室から姿を消した。
しばらくすると交代するようにロゼットが姿を現す。少し申し訳なさそうにレムは俯いてしまった。心配を掛けたことを謝ろうとしたが顔が見られず、言葉が出なかった。
「退院したらすぐに訓練開始だ。これまで以上に厳しくしてやるから覚悟してろよ?」
ロゼットはいつも通りだ。たったそれだけのことを伝えるためにレムの目覚めを待っていた。
言いたいことだけ言ってロゼットは踵を返した。
「師匠!」
何を伝えなければいけない。そう思ったレムは咄嗟に声を掛けた。
「あの、その、えと」
しかし、考えは固まってないので言葉が宙を舞う。
フッとロゼットは笑った。静かにレムへと近づくとその頭を撫でる。そうして結局何も言わないまま病室を後にした。
静寂が訪れ、ふとレム視線を移した。
「私はもっと強くなります」
病室のから見える景色を見て、他の誰でもない自分に告げる。それが何のため、誰の為なのか、まだ知らずに。
一目、レムの顔を見てロゼットは安堵していた。病院を出てからというもの、心は晴れやかのようで、それでもやはり引っ掛かるものはあった。
ロゼットを取り巻く一連の騒動は終息し、力を得るために足掻いた少年少女達の起こしたほんの少し世界への抵抗は魔導犯罪組織のテロという形で世に知らされた。結局、彼らの苦しみは誰にも理解されることはないのだ。
でも、それでもいいのかもしれない。ロゼットは覚えている。彼らが何を成そうとしたのかを、最期に聞いたありがとう、その言葉は彼らが救われた証拠だったのか。それともロゼットのただの妄想なのか。
分からずとも進むしかない。そう誓った。これからも幾多の屍を越えて、天才と呼ばれる者達は道を開き続ける。それが課せられた使命のように感じていた。
「早かったわね」
声に振り向く、随分と懐かしい場所にロゼットは来ていることを気づかされた。
メイビスが立っていた。過去の光景と重なる。あの時も確かにメイビスはこうしてロゼットの前にいた。
「悪かったな。レムのこと」
「構わないわ」
メイビスはいつも美しく、凛々しい。
彼女は今も昔も変わらないように感じる。最前線、常にそこで暗闇を行くメイビスは何を思って強さを求めるのか。それをロゼットは知らなかった。
「なあ? お前はその剣にどんな誓いをしたんだ?」
ふと、視界に入った白い剣に疑問を持つ。メイビスはそんな剣を持ってなかった。いや、持っていたかもしれないが常備していることなどなかった。
「何よ? 藪から棒に」
「いや、なんとなく」
メイビスがその剣を腰に携えるようになったのはロゼットが黒剣を腰に差した時からだ。
「誰しも何かに誓いを立てている訳ではないわ。人間はそれほど強くないもの」
それもそうか、とロゼットは溢す。
「でもそうね。強いていうならあなただけには絶対に負けないことくらいは誓ったかもしれないわ」
「なんだよそれ」
そんな会話をしていると、この剣を貰った時のことを思い出す。
『あなたさえ居ればいいの。他にはいらないの。弱くても無力でもいいの。だから傍にいて……ロゼ』
『やっぱりダメだ』
少年は吐き捨てる。しかし、その瞳は強く輝いていた。
『俺はウルカヌスとしてお前の隣にいたい』
『そう』
そんな少年を見て、少女は何かを感じたのだろう。だから腰に差した黒い剣を抜いて、そして少年へ投げた。
『それは私の家に代々伝わる宝剣よ。金額が付けれないほどに希少な金属で叩かれた最強の剣なの』
律儀に仕来りを守って彼女が常備していた黒い剣。それは所謂、正当な後継者の証というものだ。少年もそれは理解している。
『ロゼ、私は今から残酷なことを告げるわ』
そんな前置きをして少女は口を開く。
『今この瞬間からその剣の名はウルカヌスの黒剣。持つ者は誰よりも強く、そして気高くないといけないわ。だから強くなりなさい。誰よりも、何よりも、私よりも。それをここで誓いなさい』
少年は一度、剣を見た。重い、重量よりも込められた気持ちがより重く感じさせる。
『そうでなければ私の前から消えなさい』
ここから先で待っているのは困難、地獄、苦悩、そんな言葉が生温く感じるほどの道だ。少年はそれを知っていた。
それでも気が付けば、少年は剣を掲げていた。
『約束する。俺は強くなる』
『それでいいわ』
そんな日からどれだけの年月が経ったのだろう。あの日が重なり、黒剣がいつにも増して重く感じる。
「何を迷うのかしら? あなたができることなんて一つしかないでしょう? 他者を蹂躙してでも、弱者を踏み台にしても、ツギハギで醜くても、地面を這いつくばる虫のように前に進むのがあなたの唯一無二の取り柄でしょ?」
あの日のように成長した少女は冷たく言い放つ。
「そうでなければ私の前から消えなさい。約束も何もかも捨てて」
同じだ。どんな状況でも少年が取る道は一つしかなかった。たった一人の少女の為、交わした約束を守る為だけの単純で残酷な道。少女はいつだって難しい方を選択させる。
そう思うと自分はよくやってきた、と笑いが零れる。だが、まだ足りない。もっと、もっと、もっと前へ進めると確信している。少女はこうして今も前にいるのだから、約束の日はまだ遠いのだろう。
それも上等だ。
「約束する。俺はまだ強くなる」
少年はあの時と同じように剣を掲げた。
終わり。
今まで本当にありがとうございました
最期まで読んでくれた方には感謝しかありません。
これからもまだデビューまでは長い道のりになりそうなので、また落ちた作品を投稿するので読んでいただけたら幸いです。
こうした活動もいつか身を結ぶかもしれないのでとにかく続けていこうかなと。
引き続きご感想お待ちしています。まさかとは思いますが続きが見たい、という声がもしあるならば書くかもしれないです。たぶん、ないと思いますけど。
ストックが溜まったら出します。
次回があったら会いましょう。それでは三流作家でツギハギ魔導士とアルカヌスの獣たちでした。
それでは!