この前書きって何を書けばいいんですかね? ドラクエの話でも……あ、いいですか。そうですか。
それでは続きをどぞ。
「さて、では始めよう!」
ビーリスが声を上げる。仁王立ちした彼女の正面にはロゼットとメイビスが頭にハテナを浮かべて立ち尽くしていた。
「しかし会長」
「なぜ演習場?」
第二実技演習場、校舎の内部に三つ存在する広大な演習場の一つ。それぞれが非常に広く、小石もほとんどない黒い土でしっかり平坦に整備されたそこは魔法の試運転、実技演習には申し分ない場所だ。この第二演習場は広い代わりに特別な施設が存在しないことが特徴だ。
そこに二人は集合させられていた。
「貴様らは栄えある生徒会の追加メンバーとして例外的に認められた存在だ。その優秀さは実際にその力を見たシルビアが一番身に染みているだろう」
ビーリスの隣のシルビアが小さく頷く。その表情はロゼットの力を認めているようで、自身の不甲斐なさを悔いているようでもあった。それは自身の努力をあっさりと蹂躙された者に分かる痛みだ。ビーリスはその複雑な顔を見て陽気に笑う。
「しかし、だな」
この顔、何かとてもロクでもないことを考えている顔。陽気な彼女が起こす事象にこれから振り回されるのは目に見えていた。
「俺は貴様らが強いことは知っていても、この目で実際に見たことはない。それは他の大多数の生徒も同様だ。生徒会の枠は本来、四人だ。この例外を俺が認め、成立させた所で一般生徒の心には少なくともしこりが残るだろう」
ビーリスの言っていることは確かだ。要は二人を特別扱いするというのは選ばれなかった者や実力に自信がある者は少なくとも二人を良く思わないだろう。
「そこで俺はこのしこりを取り除き皆が納得して貴様らが生徒会補佐として認められる方法を考えた」
自然と唾を飲み、次の言葉を待つ。奇しくもロゼットの予感は的中することになる。
「今朝方、各教室と学院中の廊下にこんな張り紙をシエルに頼んでしてもらった。ご苦労様だったなシエル」
ビーリスの労いの言葉にシエルは敬礼で返す。これだけ堅苦しい敬礼を可愛くできるのは彼の一種の才能かもしれない。
しかし、今はそんなことを考えている場合ではないとロゼットはメイビス共にビーリスの持った紙を覗き込む。
『全生徒へ告ぐ。我ら生徒会は悪化する治安の打開策の一環として一年のロゼット・べリウス、メイビス・レーゲンバルド以下二名を生徒会補佐として任命する事にした。
しかし生徒諸君の中にはこの決定に異議を申し立てたい者も多数いることも理解している。
そこで私は全ての生徒に対し、生徒会候補の二名に対しての魔法攻撃を一週間に渡り許可する。これにより二人のうち一人でも撃破できた場合、参加した生徒らに三ヶ月分の単位を進呈することを約束する。しかし、撃破できなかった場合はこの二人は正式に生徒会補佐として任命することにする。詳細なルールは別紙参照。
生徒諸君らには挙って参加してもらいたい』
「なんだ、これ」
ロゼットの口から自然と零れ出た。メイビスも冷静を装っているが心なしか顔が引き攣っているようにも見える。
「シルビア、集計結果を」
「は! 参加した生徒は全生徒の三分の二、八百名程度ですね」
生徒数は千を優に超える。入学時の試験次第で定員は設けられていない。どれだけ生徒を募ろうと卒業までに半数以上は学院を去るからだ。それでも入学直後の今なら夥しい数の生徒に埋め尽くされている。そんな生徒の過半数はこのバカげた提案に参加しているのだからもはや笑うしかないだろう。
「では、そろそろ開戦の時だ。俺達は生徒会室で勇士を見せて貰うとしよう。行くぞお前たち」
硬直する二人を放置してビーリス、シルビア、シエルの三人は姿を消した。シルビアだけは同情の眼差しを送っていたが、それを気にしている余裕はロゼットにはなかった。
周囲から敵意が溢れる。三ヶ月分の単位と言う夢のような餌に釣られた亡者共の殺しも厭わない執念か、それとも絶対的な才能への嫉妬か、単純な力試しか、暇つぶしか、どれでも構わないが演習場でロゼットとメイビスは二人きり、周囲は完全に生徒に包囲されていた。
「また、面倒なことになったわね」
「まったくだ」
ロゼットはメイビスの言葉に同調し、面倒臭そうに後頭部を掻く。相手取るのは千余りの魔導士、それでも天才の二人は揺らがない。有無を言わさないビーリスの言動に振り回されながらも彼らのやるべきことは変わらなかった。
「ただこの有象無象を蹂躙するのは簡単だわ。だけどそれは数秒もしない内に飽きてしまう。そうでしょう?」
メイビスが珍しく提案してきた。その提案の内容は言わずともロゼットには理解できていた。
「やるか?」
要は数比べだ。どれだけの生徒を屠れるか、彼らの中には生徒らへの敗北などあり得ない。ただ一人、最大の敵となるのは唯一の味方かもしれない存在だけだった。
「賭けるのは?」
「貴族のご令嬢に大人気、超高級なお茶会には欠かせないフランテラスのプラチナショートケーキ」
「乗ったわ。こっちは帝国官僚御用達、グランドメイブの帝国牛最高級ステーキでどうかしら?」
「乗った」
勝負には報酬が付き物だろう。二人は先程よりも俄然やる気だ。明らかに瞳の色が変わった。
生徒会戦、そう名付けられたこの戦いの開始は数十秒後に控えている。
ルールは三つ。学院内、そして校舎内の二人へ攻撃は禁止。戦闘は一日の最初の講義開始から一時間のみ、この戦闘時間の間は生徒会候補の二名のどちらかは第二演習場にいなければならない。
最初の講義開始を告げる鐘が学院中に響き渡る。開戦の合図だ。
途端、ロゼットとメイビスの周囲を様々な宝石のような輝きが彩った。赤、青、白、黄、緑、それは刻印の輝きだ。発動される魔法の系統は火か、水か、風か、雷か、土か、それは定かではないが向けられた魔法と敵意に天才は怯むことを知らない。
一斉に射出された魔法は演習場の中心に吸い寄せられるように集う。虹を描くような軌道は中心に衝突するなり大きな砂煙を発生させる。爆風と空気を伝う振動により舞い上がった砂塵に二人の姿は消る。
攻撃の手は一時的に止む。生徒たちは息を呑んで砂煙が晴れるのを天の祈りを捧げるかのように待っていた。静寂に包まれた演習場には妙な緊張感が立ち込めていた。
静かな空気は少し、冷ややかな気がする。体感温度は徐々に下がり、それはやがて氷点下へと達するかもしれないと錯覚するほどに。
「っ」
一人、生徒がその正体に気がついた。
そして他の生徒たちはこの時点で気が付くべきだった。それが全て緊張からくる錯覚などではなく、現実だという事に。
もう遅い。
突如として、氷の柱が地面に幾つも姿を現した。大地から生える大木のように生み出された氷柱は天に真っ直ぐに伸びて、あの時計塔に到達するようだ。だが生み出されたばかりの氷柱はすぐさま自壊を始めて生徒らに襲いかかった。
そして、地面は完全に凍り付いて勝利を宣言しているよう。数秒後、悲痛な叫びと共に砕けた氷塊が地面に突き刺さり、生徒を無慈悲に蹂躙する。逃げ惑うことも許されない。懺悔の時間はない。
ただ、天才の名の下に敗北することだけが二人へ挑んだ者への末路か。
「貸しにしとくわ」
砂煙は晴れた。そこには分厚い氷の壁で完全に守護されたメイビスとロゼットの姿があった。
「余計なことを」
一斉魔法は全て氷の壁に阻まれたのだ。メイビスの肉体には全身にも及ぶ刻印が施されていた。指先から心臓部に至るまでに真紅の輝きは張り巡らされており一級品のシルビアの刻印さえもその質と規模が明らかに凌駕している。それがどれだけの意味を持つのか、理解しているのは敵対している生徒たちだ。氷帝、氷を生み出せる希少な魔導士の中でも抜きんでた才能と実力を持つ彼女に与えらるに相応しい異名だ。
「何が貸しだ。邪魔なんだよこれ」
そして氷の壁は粉砕された。一撃の元に。ロゼットにとってこんなものは薄い板と同義。それが行く手を阻んでいるとなれば突破するのも容易な話だった。
「あら、一生このまま閉じ込めてあげようと思ったのに」
壁を破壊したロゼットの手には漆黒の拳銃が握られていた。本来、魔法は魔法による干渉でしか破壊できない。しかし、その常識ごとロゼットはメイビスの魔法を破壊した。その銃は魔導銃と呼ばれる代物だ。魔法と科学の融合によって生み出された銃は彼の本領、神秘殺しの所以でもある。
一般生徒の目の前で繰り広げられた光景はこれからの自身の敗北を示すデモンストレーションのようだった。
「百ちょっとかしら、予想よりも拡散しなかったわね。次は礫で確実に潰すわ」
メイビスは正面に手を翳すと空中には氷の礫が出現する。先端は鋭利に尖り、さながら氷の刃だ。
「これ以上アドバンテージを譲るのは癪だな」
舌打ちを吐くとロゼットはおよそ人間とは思えない速度で恐怖に竦む有象無象の中へ突っ込んだ。メイビスもわざわざ待っているほどお人好しではない駆けたロゼットと同時に無数に増殖した氷の刃も放たれる。
ロゼットは駆けながら自分に追いついてくる氷の刃を魔導銃で撃ち落としていく。片手では足りないと判断し懐からさらにもう一丁、魔導銃を取り出し両手に装備した。拳銃と遜色ない轟音と速度で放たれた弾丸は的確に対象を射抜く。
「それにしても難しいな」
「本当ね」
基礎魔法の一つ、魔導障壁が自動的に発動して最低限は魔導士の命は守られるとはいえ腕や足を吹き飛ばすわけにはいかない。二人が言っているのはそういうことだ。強者の振るう矛は弱者にとって一撃確殺となってしまう。だからといって手加減し過ぎると立ち上がり反撃をしてくる。無力化は殺すことよりも難しい。
ロゼットは生徒が作る波の中を縦横無尽に暴れまわる。反撃を物ともせず確実に一人ずつ仕留めていく。
対照的にメイビスは最初の位置から一歩も動いてない。それどころか氷で玉座を思わせる椅子を作りあげ、そこに座していた。彼女を狙う魔法は悉く氷の壁に阻まれ、その玉座に届くことはない。まさに氷帝の名に相応しく座したまま動くことはない。
もう大半の生徒が敗走した戦場に天才二人は遊戯を嗜みながら君臨する。もう勝負は着いた。だが終わらない、まだ戦いは始まったばかりなのだから。
「末恐ろしい魔導士ですね。あれで一年とは」
そんな地獄絵図のような光景を生徒会のメンバーは眺めていた。シルビアはその矛先が少しでも自分に向くことを想像してゾッとする。自身の強いた試練、あの時にもしメイビスが名乗りをあげたら、ロゼットが魔導銃を抜いていたら、そんなもしを考えるのを止めた。
「奴らは正真正銘の天才だ。ロゼット、メイビスは間違いなくこの学院でトップの実力を持っている。彼らの力は今の生徒会に必要だ」
ビーリスの瞳には何が映っているのだろうか。それはきっと一般生徒では知ることはできない。
「シエル、報告を」
「はい、会長の言う通り学院の勢力が動き始めてます。パーティーが決定される明日以降はそれらの勢力に吸収されると予想されます」
この学院はかつて互いの交流などほとんどなく、ただ己を高めるためだけの修行場となっていた。なので成績不振に陥った生徒は退学を余儀なくされていた。これを解消する為に互いの力を合わせて実技試験で結果を出せる団体実習システムを採用した。しかし、このシステムの採用により学院内では幾つもの勢力が生まれつつあり、採用から三年った今ではこの勢力は巨大化、今では二大勢力とも呼べる派閥が生き残り治安は悪化する傾向にあった。さらなる勢力の肥大化が見込まれる今期、ビーリスは何かしらの事件が起きると予期していた。
「キクロ同盟とブレムーゾ派閥は例年より巨大な勢力を築きつつあります」
シルビアがビーリスを見る。その手にはカプセル型の薬があった。ビーリスがそのカプセルを見る目は明らかな憤怒に包まれている。
「エーテルブースター、ですか」
シルビアが呟く。シエルもシルビアもその薬を見る目は複雑な感情が籠っていた。
エーテルブースターと呼ばれる薬物。その名の通りに服用者の刻印を増強し魔導士としての能力を飛躍的に上昇させる。その代わりに無理な刻印の増強による肉体への負荷は大きく、服用者の肉体を蝕み数回でも服用すれば魔導士として再起できないほどの後遺症を被ることになる。
「こんな物が存在して、学院内で見つけられている。この現状を看過する訳にはいかない。二つの組織が巨大になりつつある今では生徒会だけの力では問題を解決まで導くことはできないだろう」
怒りに任せるようにビーリスはカプセルを握り潰す。するとビーリスの右腕に刻印が浮かび上がり、握り締めたカプセルを真紅の炎で燃やし尽くした。残骸すら残さないほどの炎は瞬時に消える。
「しかし、セスト君のおかげで風紀委員とも接触はできました。そして、切り札の確保も」
「今はまだ動く時ではない。相手の目的が掴めるまでは存分に天才共を利用させてもらおう」
生徒会室の正面の実習場で行われていた戦闘は三十分もしない内に終わろうとしていた。
「しかし興醒めだな。服用者の一人や二人は出ると思ったのだが」
「現状、服用者の判断は難しい状況です。そう簡単に見つからないでしょう。それに彼らの前では服用者も些事に過ぎないかもしれません」
「……それもそうだな」
会話をしていると戦いは終わりを告げたようだ。妙な静けさに包まれた演習場には夥しい生徒の屍と無傷のロゼットとメイビスが佇んでいた。
「薬に関しては引き続き調査を頼むぞシエル」
「お任せください!」
シエルの可愛らしい敬礼にしばらく神妙な面持ちだったビーリスも陽気な笑みを再び浮かべる。
「迎えに行ってやるか」
気持ちを切り替え、三人は実習場へ向かった。
いかがでしたでしょうか?
次回も楽しみにしてくれたら幸いです。