ツギハギ魔導士とアルカヌスの獣たち   作:三流作家ヤマダ

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どうもー三流作家です。
 僕はいつになったら作家としてデビューできるのでしょうか? 仕事辞めればいいのかな? 後をなくせば……何でもないです。
 続きをどうぞ。




「こんな所か」

 三十分もしない戦闘の後にロゼットは息を吐いた。両手に握られた魔導銃を制服の下のショルダーホルスターに収納するとメイビスの方を見た。すると彼女は指折りをして何かを数えているようだった。

「ほとんどの生徒は逃げたか。俺は百五十五だ」

「あらそう。残念ね、私も百五十五よ」

開幕は広範囲の魔法で多くの生徒を殲滅したメイビスだったが、それが仇となり、大多数の生徒があの光景を見て逃げ出してしまった。以降はロゼットの妨害もあり結果はイマイチ振るわなかったようだ。逆にロゼットは後半に一気に巻き返し、数百もの魔導士を単騎で殲滅してみせた。偶然か、それとも二人の実力が完全に拮抗している証拠か、スコアは同一だったようだ。

「どうする? 俺は直接勝負を決めても良いんだぜ?」

「望むところ。と言いたいけどお客様みたいよ?」

「あ?」

 メイビスの視線に誘導されるようにロゼットは振り向く。

その先に居たのは一人の女生徒。金色の髪を後ろで束ねた少女で海のように澄んだ蒼い瞳が数メートル離れた所からでも確認できた。頭頂部には左右にぴょこぴょこと跳ねるアホ毛が蠢いている。

「槍、か」

 その女生徒の手には槍が握られていた。

 魔導士にしては珍しい武器を持ったタイプ。武器そのもの刻印をする者は少ない、そもそも魔導士が接近戦を挑むということ自体が稀でロゼットもその稀な部類、というより彼の場合は異端とも言える。だが目の前の少女は異端とまではいかないが珍しい魔導士だということは分かった。

「ロゼット・べリウス殿とお見受けします! 私の名はレム・クラレア。あなたに一対一の勝負を挑みます!」

 何だかやけに暑苦しい少女だとロゼットは第一印象でそう思った。嫌いではないが苦手なタイプだ。しかし、一対一で挑むその度胸だけはロゼットは買った。

「いいのか?」

 一応、ロゼットはメイビスに確認を取る。ここであのレムという少女を倒せば二人の勝負はロゼットの勝ちとなる。

「別に構わないわよ。あの子はあなたを指名したわけだしね」

 メイビスの回答は案外あっさりしていた。見た目によらずかなりの負けず嫌いの彼女が勝負を明け渡すとは考え難い、だがその考えは後回しにしてロゼットはレムに向き合う。

「いいぜ。かかって来いよ」

「感謝します」

 ロゼットの言葉に一礼するとレムの纏う雰囲気は変わった。姿勢を低くして両手で槍を構える。先端が三又になった槍には他の魔導士に肉体同様、刻印が浮かび上がった。そして、そのままの姿勢でロゼットに向かって踏み込んだ。

「はぁ!」

 雄叫びと共にレムは槍を突き出す。ロゼットは正面に手を翳すと槍は見えない壁に阻まれた。壁と槍がぶつかり火花を散らす。一度では怯まず、レムは何度も突きを繰り出すが、それは全てロゼットに届くことはなく防がれた。その勢いは萎えることない、槍捌きはさらに勢いを増し、速度はさらに上がる。

「ん?」

 だがおかしい。妙な違和感がある。突きの速度は上がっている筈なのに攻撃を防ぐのは徐々に容易になっていくのをロゼットは感じていた。単純な人としての力量はあるが、魔法はそうでもないような感覚、その食い違いは如実になっていく。

それは一つの事実を指示していた。戦闘中で敵の気迫に気を取られていた所為で遅れたがロゼットはその違和感の正体にようやく気が付くことができた。

 ロゼットは敵の攻撃の隙を利用してカウンターで拳を突き出す、反射速度は中々のものだ。間一髪で反応したレムは柄で防御した。だが威力だけは殺すことができずに地面を転がる、がすぐ受身をとり体勢を立て直した。

やはり身のこなしは大したものだ。しかし、それ以外に彼女には決定的な欠点がある。

「お前さ」

「なんでしょうか? 決闘の最中にお喋りとはやはり余裕ですね。では私も全身全霊で挑ませていただきます」

 ロゼットの言葉にレムは俄然やる気を出した。その瞳は圧倒的な力量差も無謀な戦いも厭わない戦士のものだった。そこまでは褒められたものだ。

「人の話を聞け」

いやいやいや、とロゼットは制止させる。彼女はやる気どうこう本気だ手抜きだのレベルではなくそれ以前の話なのだ。

なんですか、聞き返すレムにロゼットは真っ直ぐに真実を告げる。

「お前、魔法発動してなくね?」

「へ?」

 ロゼットはレムの持つ槍を指差す。刻印は光を失い、ただの槍となっていた。確かにこれではどれだけ神速の槍捌きを披露しようと魔導士には絶対に勝てない。

 レムはそんな声に自身の持つ槍を見る。

「ああ‼ ホントです!」

 お前はそれでも魔導士か、とロゼットは口から零れそうになるのをギリギリで堪えた。

「あなた、それでも魔導士?」

それを代弁するようにメイビスが冷たく言い放つ。冷静かつ傍から見ている彼女はロゼットが気付く以前からその事実に知っていたのだろう。呆れるとかそういう顔ではなく、軽蔑に近いものに変わっていた。

 メイビスの言葉はポジティブそうなレムにかなりのダメージを与えたようで硬直していた。

「てい」

「うぎゃ⁉」

 固まったレムに背後から手刀一撃で仕留める。今の魔導士としても不完全な彼女ならば手刀ではなくデコピン一発でも仕留められそうだったが、せめてもの情けとして一撃で意識を刈り取らせてもらった。

「何だったんだこいつは」

 地面に横たわる少女への感想だった。素質はありそうだったが魔導士には向いてない。どちらかといえば戦士に向いているタイプだろう。

「さあ? ところでこんな子をカウントしてもいいのかしら?」

 メイビスの視線はカウントするなと訴えている。それとは別にしてもロゼットも確かにこの半人前との勝利を勝利としてカウントするのは気が引けていた。

「はいはい、こいつとの戦いは無しってことで」

「当然の判断ね。では私の勝ちよ」

「は?」

 メイビスの足元に先程までいなかった男子生徒が二名、転がっていた。ロゼットが状況を呑み込めていないのを見抜いたのかメイビスは続ける。

「さっき不意打ちにあったのよ。返り討ちにしたけど。これで私の撃破数は五百五十七、あなたはそれをカウントしないと言ったから百五十五のまま、つまり私の勝ちよ」

 三秒ほど、時間が止まった様にロゼットが硬直した。

「てめえ、こいつの気配に気が付いていてわざと勝負させたな⁉」

「あら? 何のことかしら?」

「この女‼」

 今さら気が付いたところで時すでに遅し。挑んできた生徒はほとんど逃げ帰り、こちらか生徒を襲う事はできない。業腹だが認めるしかないとロゼットの理性が言っていた。ここで激昂するのは愚者の行為だ。

「約束は約束だ」

「素直でよろしい」

 プラチナショートケーキ。帝国内でも最高級菓子ブランドであるフランテラスという菓子店の中でも最高級の一品。そもそも生産数が限られており一日に十個限定の商品。お求めの場合はいち早いご来店を、のキャッチフレーズでお馴染みだ。

「今夜は徹夜だな」

「良い茶葉を用意しなくてはいけないわね」

「ご苦労だな二人とも」

 声を掛けられる。どうやらあらかた戦いが終了したのを確認したのか、そこにはビーリスら生徒会が労いにやって来ていた。しかし、どこかの誰かさんの所為でご苦労をすることになったのかを考えると全く感謝しようと二人は思わない。

「どうも」

 ロゼットが一応の礼を言うとビーリスはかっかっか! といつものように陽気に笑った。

「とりあえず、生徒会室へ戻るか」

「さて、それでは本格的に生徒会の活動について説明しよう」

 チョークを片手に持ったシルビアが切り出した。生徒会室へ戻って来るとロゼットとメイビスは客用のソファーに座りながら講師のような雰囲気を醸し出すシルビアの話を聞かされていた。ビーリスは椅子に深く腰掛けながらシエルの淹れた紅茶に舌鼓を打っていた。

「まず、生徒会は生徒たちへより良い環境を提供することを活動の定義している。主な仕事は講義の内容の決定と試験の採点基準の調整、学院の備品管理に供給、学内の治安維持と言ったところだ。この活動の内、生徒会補佐の二人には治安維持においての活躍が期待されている」

 シルビアの言葉の切れ目にメイビスが挙手をする。

「どうした? 質問か?」

「その治安維持について。この学院には風紀委員が存在した筈です。それに加えて私達の手を借りなければいけない、とは何か切迫した事情でもあるのでしょうか?」

 的確な質問にシルビアが眉をひそめる。透き通った宝石の如きメイビスの瞳がシルビアを見据えた。彼女に対して建前はいらないと判断し、一度息を吐く。

「その通りだ」

 シルビアは肯定した。

「活動内容について最も大きな問題、そして障害となっているのがこの治安維持だ」

「と言いますと?」

「入学して間もない君たちも薄々は気が付いているだろうが、この学院には幾つかの派閥、いや勢力が存在している」

 勢力という言葉にメイビス、ロゼットが反応した。この学院に不穏な空気が流れていることにはきっと生徒全員が気付いているだろう。団体を作るということは少なくとも同じ目的、思想の下に集まっているということだ。そうすれば対立する考えを持つ団体同士は派閥となり衝突するのは必然と言える。

「一つはブレムーゾ派閥。これは貴族主義、そして実力主義を第一に考えたエリートが集う派閥だ。帝国貴族の中でもかなり上層に位置するブレムーゾ公を始めとして所属する大半の生徒は帝国の有力貴族でその実力は確かなものだ。最近では所属する為に試験が必要だとも聞く」

ブレムーゾ公。この学院の講師の一人であり、帝国でもかなりの権力を握る有力貴族だ。彼は団体実習そのものに反発はないものの、傷の舐め合いや馴れ合いになるような魔導士の育成には断固として反対している。魔導士然とした考え方には賛否が分かれるが少なくとももう一つの派閥からはよく思われてはいない。

「そしてもう一つはキクロ同盟。これはブレムーゾ派閥とは対照的に個人では実力が不足している生徒達が集い協力をして試験などの困難に立ち向かう。団体実習システムの本来の形とも言える派閥だ」

学院の多数の生徒が所属するキクロ同盟。魔法の知識の共有などで互いに互いを支えている派閥。実力差、才能の有無によって劣等感に溺れる者も多く近年では争いごとの種になっている。

「この考え方の食い違いから二つの勢力は衝突が絶えない。ブレムーゾ派閥の貴族は徒党を組んでいるのが気に入らないようで、逆にキクロ同盟は劣等感から集団で暴力沙汰を起こすことも少なくない」

 なるほど、とメイビスは小さく呟いた。その誕生も必然とも言える二つの勢力は水面下で睨み合いを続けている。

「生徒会。そして少数精鋭の風紀委員。この四つの勢力が学院には存在している。しかし、近年のブレムーゾ派閥、キクロ同盟、二つの勢力が拡大し始め我々だけでは手が回らない状況になってきた。風紀委員と手を組むことも視野に入れているが、現状、足掛かりがようやく掴めた程度で協力は期待できない」

 シルビアの言葉にロゼットは引っ掛かりを覚える。

「待ってください。風紀委員と生徒会は元々、協力関係ではないってことですか?」

 それは奇妙な話だ。同じく治安維持を目的とする組織が協力していないという違和感が拭いきれない。そもそもロゼットもメイビスも今の今までこの学院の風紀委員と呼ばれる生徒を見たことがなかったのだ。

ロゼットの質問にシルビアが大きく溜息を吐いた。

「元々ではない。今でも生徒会と風紀委員の関係は良好とは言えない。現在は辛うじて互いに不干渉を貫いているだけだ。あちらが提示した条件として生徒会の書記は風紀委員へ事実上引き抜かれている」

 予想よりも遥かに厄介な組織だと容易に想像できた。シルビアが苦虫を嚙み潰した様な顔で答えた。生徒達が作り出した二つの勢力よりも目先の問題は風紀委員だと言っているようにも聞こえた。

「良好ではない理由を教えて貰ってよろしいですか?」

 どこまでも冷静にメイビスは質問を続ける。だが、その冷静さも次のシルビアの発言で崩れることになる。

「風紀委員長メルヴァ・アルバトロス四世が己に準ずる正義の下にしか取り締まりをしないからだ」

「っ⁉」

「メルヴァ・アルバトロスだと⁉」

 予期せぬ人物の名に思わずロゼットが立ち上がった。メイビスも一瞬だが目を見開いて驚愕したが、紅茶に一口付け平静を装った。

「す、すみません」

 取り乱したことに気が付いたのか、ゆっくりとロゼットは再びソファーに腰かける。

「驚くのは無理ないだろう。何故ならあいつは」

「アルケミスト…………この帝国唯一の錬金術師」

 シルビアの言葉を先読みしたようにメイビスが呟いた。

 魔導士ならば知らぬ者はない。物質、生命問わずに生み出すことができる無系統魔法、錬金術。特に生物と医療関連の技術を十年進歩させた初代アルバトロス家、その四代目はメイビスですら天才と認める錬金術師。それこそがメルヴァ・アルバトロスである。特に四世は合成生物の生成や人造人間の実験すら成功させたという発表もあった。人工的に人間を生み出し、臓器などの複製を可能とする、医療面においてその右に出る者はいない。そして、何よりも常軌を逸した思考回路を持つネジの外れた奇人であることも有名だ。

「あいつの厄介な所は性格もそうだが、その正義感だ。根は確かに風紀委員としてに準じているにも関わらず、その方法が最高に捻くれて、そして守る対象が限定的。何より厄介なのはそれが絶対の正義と信じている。生粋のエゴイストだ」

 頭を抱えてビーリスが口にする。

 予想通りというか、よくもそんな人間が風紀委員になれたものだと感心する。しかし、ビーリスやシルビアの表情を見る限り、この問題はかなり深刻なようだ。

「この問題は早急な解決を必要とする。が、今はこの学院の現状を把握するだけでいい」

 以上、とシルビアが話を切り上げる。すると狙いすませたように終業の鐘が鳴り響いた。五回鳴らされた金は昼休憩を告げる合図だ。緊迫した空気は解かれ、皆一様に息を吐いて各々が楽な姿勢を取った。

「さて、昼食にしよう」

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか?
 次回も楽しみしてくれる方いれば幸いです。
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