続きをどぞ。
前書き考えてきます。
楽しい楽しい昼休憩。時間は一時間程度だが、この間に学院内に存在する食堂は飢えた生徒たちによってごった返す。ロゼットは自身で弁当を作るような人間ではないので自然とこの食堂の世話になる。しかし、席の確保から注文まで気を抜ける暇などなく、ざわざわと騒がしい場所ではゆっくりと飯を食べることもできない。要はこの昼休憩を休憩に使用できていなかった。さらには生徒会室に戻る際にあの螺旋階段を上って来たのです余計に疲労して戻ってきた。
「あ、ロゼット君お帰りなさい」
疲れた果てたロゼットを迎えたのはシエルだった。自然とニコッと笑みを浮かべると、改めてこの人物が男なのか疑いを持ってしまう。
「シエル、早いな」
「僕はここで食事を取るので。それにこの子達にもご飯をあげないと」
そう言ったシエルは生徒会室に幾つも置かれた植物の鉢に水をあげていた。この生徒会室の各所には観葉植物と思われる植物と花を付けた綺麗な植物が飾っており、話を聞くとシエル一人が世話をしているようだった。
「ガーデニングが趣味なんだっけか」
「植物が好きなんですよ。僕の適性は土ですし、相性も抜群です」
「なるほどね」
ロゼットはそれまで植物にはさして興味が無かったが、大切に育てられた植物は眺めて気分が悪くなるということはない。
「これってなんて植物なんだ?」
「それはですね、リューネという帝国では珍しいお花なんですよ。とっても綺麗ですよね?」
黄色の花弁は見る者を魅了する。ロゼットはそれを肯定するように頷いた。
「ところで、これっていつ実をつけるんだ?」
「い、いえ……リューネの実は食用ではないので食べられませんけど」
へえーとロゼットは流す。
これはシエルの悩みの種、こういう人が育てる植物は食べられるものだと断定されるのは少し複雑だった。植物は鑑賞してるだけでも人を癒すものだ。香りや見た目も良い。もちろん食べられることは大事であるが、それだけが植物の全てだと捉えて欲しくないのだ。
「食べられる野菜とかは栽培しないのか?」
「そうですね。僕は農業者ではないので」
「あれ? シエル怒ってる?」
「別に怒ってないですよ」
心なしかシエルは不機嫌そうに見えるが、ロゼットは気にすることなく近くのソファーへ腰かける。
ロゼットが一息吐くとしばらくして生徒会室の扉は再び開かれた。
「ただ今戻りました」
帰って来たのはメイビスだった。彼女は彼女らしく昼食から戻るのも優雅でクールだった。人混みにやられたロゼットとは違う。
「お帰りなさい。メイビスさん」
ロゼットの時と変わらぬ笑顔でシエルはメイビスを迎えた。すると彼女の視線は次にシエルが水をやっている植物達へ向けられていた。
「素敵な花ね」
視界に入ったシエルが水をやる姿に癒しを感じたのはロゼットだけでないらしい。
「ありがとうございます」
メイビスは屈むとリューネの花を眺めた。その姿は花を愛でる精霊か何かかと勘違いするほどに絵になっていた。この瞬間の絵が美術館に置かれていても誰も不思議に思わないほどに神々しく、幻想的だ。
シエルは思わずその姿に見惚れた。口を開けたまま、見入ってしまうとメイビスは一言、
「これは、いつ実をつけるのかしら?」
ロゼットと全く同じことを尋ねた。
「い、いえ……この植物は食用ではないので」
デジャヴにも似た光景に思わずロゼットが噴き出しそうになるのを必死に堪える。さすがのシエルも同じことが繰り返した所為で硬直してしまっていた。
「何が面白いのかしら?」
そんなロゼットにメイビスが嚙みつくのは当然とも言えた。だがそれでもロゼットは笑いを堪えきれてない。
「あの……さっきロゼット君もメイビスさんと同じことを言ったんですよ」
それについてはシエルが答えた。しかし、それに対してメイビスは不思議そうに首を傾げた。
「食べられない植物を育てる意味があるの?」
その瞬間、空間にヒビが入るのをロゼットは感じた。流石にその発言はマズイだろと口から滑りそうになったが、思ったことを包み隠さずに告げるメイビスを止めることなど今更できなかった。
「そうですね。確かに食用以外の植物を栽培するのは珍しいです。でもちゃんと意味があるんですよ」
一瞬、シエルが激怒する未来を予想したロゼットだったがそんなことはなかった。彼は真剣に話をしている。それは植物というものを知ってほしいというシエルの心を表すように。
「この子達は薬にも毒にもなる、この子達の可能性を引き出せるのは僕ら人間だけなんです。僕は魔導士抜きにして、植物と真剣に向き合って行きたいんです。だって見ているだけで幸せな気持ちになるじゃないですか」
シエル視線は真っ直ぐに花々に向けられる。その言葉には彼の信念や植物に対する情熱を読み取ることができた。リューネの花弁を見て微笑む姿はメイビスの時とは違う意味で絵になる。
熱意は確かに二人へと伝わった。
「だからあまり食用食用って言ってると、いくら僕でも怒りますよ」
そして、その怒りも全て目が笑ってない笑顔も。
「はい」
「すみませんでした」
ペコリと一礼し、しっかりと謝罪する。二人が謝罪するとシエルもニッコリと笑った。
「おう、揃ってるな……って何だこの状況?」
シルビアが戻ると、そこではシエルに謝罪させられているロゼットとメイビスの姿があり、かなり奇妙な光景となっていた。簡潔にシエルが事情を説明すると過去の自分にも心当たりがあるようにシルビアも苦笑した。
「そ、そういえばべリウス。お前に荷物が届いているぞ」
もうこの話を止めようとシルビアは判断する。
ロゼットが視線を移すとシルビアの手には確かに銀色のアタッシュケースを持っていた。見覚えのあるケースだが、なぜここにあるのか疑問に思いながらもそれを受け取る。
「これは誰から?」
「お前の姉からだ」
ピタリ、とロゼットの動きが止まった。
「姉?」
「姉」
謎の沈黙。姉という存在に対しやたらとロゼットは否定的というか信じていないといった感じで首を傾げた。
「なぜ姉?」
「なぜって生徒会の最後のメンバー、書記はお前の姉、セスト・べリウスだからだ」
「あなた、もしかして知らなかったの?」
シルビアの懇切丁寧な説明にメイビスも付け加えて発言する。
それでも現実を受け止められないようでロゼットは硬直したままだ。そっかー、呟きながら焦点の合わない瞳で何処か空中を眺めていた。
「まあ、いいや」
と吹っ切れたのか、諦めたのか、悟りを開いたような顔でアタッシュケースを開きだした。
「何かあったのか? あの姉弟」
「ロゼット君の様子が明らかにおかしいですよ?」
シエルとシルビアは自然にロゼットから距離を取ると本人には聞こえないようにメイビスの耳元で尋ねる。
「単純に性格が合わないみたいです。ほら、あの人はああいう性格ですから」
シエルとシルビアはその言葉にあ~と納得を示した。セスト・べリウス、メイビス曰くかなり癖の強い人間のようだ。
ロゼットは姉という存在から逃避するように無心でアタッシュケースを開くとその中にある黒い金属部品を組み立て始めた。それは一般人であっても一目見れば理解できるもの、科学技術によって生み出された銃だった。魔法の存在によって衰退してしまってはいるが、今日でもその姿を見る機会は多い。
「べリウス、なんだそれは?」
興味が湧いてシルビアがそれを覗く、ロゼットの組み立てていたのは所謂スナイパーライフル、狙撃銃と呼ばれる銃だ。長い砲身とスコープを覗きながらロゼットはそれを構えた。
「新型のスナイパーライフルタイプの魔導銃ですね。試作した設計図を送ったら三日で作成してきましたので流石に驚きました。別に姉のことは全然驚いてませんけど」
構えた感触や、手触りを確認している。魔導士と銃、これほどに似合わないものは世界でも稀だろう。しかし、ロゼットはそれを両立させ、彼と言えば銃が浮かぶほどにイメージとして定着している。
「んーまあまあだな」
なかなかお気に召さないようでロゼットは顔をしかめたまま狙撃銃を素早く解体して再びアタッシュケースに収納した。
シエルも興味を示して顔を覗かせる。
「そもそもなんですけど、魔導銃ってどんな原理で何を撃ってるんですか?」
純粋さ故にか直球な質問をする。そんなシエルの質問にロゼットはうーんとどう説明するべきか考えているようだった。
「原理は説明できないが、簡単に言えばこの銃には魔力を射出する機能が付いてて、俺はそこに魔力を込めているだけだ。魔力の収束率で破壊力は変わる」
「へえー、それならこの銃を使えば魔導士としての才能がない人でも魔力さえあれば魔導士と対等に戦うことができるのではないですか?」
感心してシエルが目を輝かせる。その時、一瞬だけロゼットの眉がピクリと動いたのをシルビアは見ていた。
「ま、そんなに上手くいかないんだよ。これを使うには慣れがいるんだ。そう簡単には使いこなせなくて、軍用に量産するのは無理なんだとさ」
もう少しでぼろ儲けできたのにとロゼットは愚痴を言う。嘘くさい笑顔。それは何かをごまかしているように見えたのはシルビアだけではない。
魔導銃、それはロゼットの言うようにシンプルではなく、もっと歪なものなのではないか、そんな疑念がシルビアの頭を過ぎった。
「ロゼット君は科学に精通しているんですね」
魔導と科学、この二つは相反するもののようでそうではない。そしてロゼットは魔導士であり科学者でもある。利用できるものはとことん利用して己の糧とする。その貪欲な発想は彼が天才たる所以であるだろう。
「当たり前だ。俺は天才だからな」
ロゼットはシエルの髪をくしゃくしゃにしながら頭を撫でる。シエルもまんざらではないようで少し心地良さそうにしていた。犬とその飼い主みたいな微笑ましい姿はロゼットが何かを悟らせまいとする行動にも見えなくない。
いや、そんな訳ないとシルビアが考え過ぎなことを反省する。天才にはそれなりの苦労があるのだろうという考えで自分を納得させるら、すると昼休憩の終了を告げる鐘が鳴り響き時間ピッタリにビーリスも戻ってきた。
「揃ってるな」
足早に椅子に腰かけると、それを察して皆も素早く持ち場へ戻る。やけに神妙な面持ちのビーリスは机の上で指を組む。空気がひりつくようでロゼットが一度息を呑む。
「面倒なことになった」
と不穏に切り出す。
「メイビス、お前がメルヴァ・アルバトロスの目に留まった。必然ではあったが予想より遥かに早い」
ビーリスの言葉にメイビスの表情は強張った。
メルヴァという人間は凄まじいほどの女好きで有名だ。特に強く、美しい女性は彼の最も好むタイプだ。そして狙った目標は必ず風紀委員の一員として勧誘しているのも事実だった。
「ここで貴重な戦力を明け渡す訳にはいかない。最低、風紀委員とは全面的に敵対することになる可能性がある。その他にもロゼット、お前も各勢力から何らかのアプローチがあるかもしれない。十分に気を付けろ」
ビーリスの言う通り現状は面倒、というより厄介極まりないことになっている。キクロ同盟、ブレムーゾ派閥、風紀委員、そして生徒会、各勢力が人員を集めるこの時期の睨み合いは天才二人の影響で例年より遥かに激化している。一触即発の現状を打開する鍵は二人の判断に握られていると言っても過言ではなかった。
「ふぅ」
ロゼットが息を吐いた。まるで台風の目だ。動けば周囲に何かしらの影響を及ぼしてしまう。この場合は爆弾と言うべきか。
簡単に天才二人が生徒会に引き抜かれた現状、それをよく思わないのはきっと他の勢力の総意だ。仮に二人がどこの勢力に属していないとしても結果は変わらないだろうが。
「各員、警戒は怠るな」
その言葉でその日、生徒会の活動は終了した。まだ正式に生徒会として就任していないロゼットとメイビスには特に仕事というものがない。この場に止まっておく意味もなかった。
失礼します、と言い残すとメイビスは早々に生徒会室から姿を消し、ロゼットも試作品である魔導銃の調整を終えると生徒会室を後にした。
「ロゼット君また明日!」
シエルに見送られるとロゼットは手を振り返した。
いかがでしたでしょうか?
次回お楽しみしてくれたら幸いです。