悪のヒーロー「スタントマン」〜怪獣の特殊スーツ着てたら人類の敵になりました〜   作:りりな

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12・中身一般人の悪役、国家転覆を企てる#2 ★挿絵あり

「…………どちら様?」

「………………」

 

 人質を集めて、膠着状態にあった国会前。しかし、群衆たちは戸惑いの声を上げていた。

 奇抜な格好をした武器持ちがどこからかやってきて、屋根の上に超スピードで飛び乗ったからだ。

 

「さっき忠告したんだけどねぇ…………俺を攻撃したら、あいつら全員死ぬよ?」

「……………………」

 

(なんか言えよ!)

 

「あっ、もしかして君が総理大臣だったりする――」

 

 ――言葉は最後まで紡がれない。

 

 ドガァン、と、蛇沼の首元を銃弾が掠めた。

 

 砲撃をなんとかするりと躱した蛇沼だったが、その顔からは表情が抜け落ちていた。

 無。

 無である。

 

「ああ、そう。

 君はそういうつもりなんだね。

 ならば、仕方ない。

 

 ……怪獣ども。そいつら全員、”ボロボロにしろ”」

 

(殺せとは言ってないからね!)

 

 事前に怪獣たちに、殺さないよう言い含めておいたらしい。

 「UGAAAAA!」とうめき声をあげて、周囲にいた人を手当たり次第に殴り始める怪獣たち。手加減はしているらしく、死には至らないはずである。が、人質たちは皆混乱して、パニック状態にあった。

 

 それを横目に、蛇沼に突っ込んでくる狐耳のヒーロー。彼はマシンガン片手に、三角屋根目掛けて大ジャンプ。

 

(俺を落とすつもりか!)

 

 銃戦ならば、高所からの狙撃が有利だ。ヒーローはそれを狙って、蛇沼を突き落とす魂胆のようだ。

 動きを読んだ蛇沼は、三角錐からストンと飛び降り、平屋根へと移動した。当然、追ってくるヒーロー。

 蛇沼とて馬鹿ではない。腰ポケットから瞬時に携帯用ナイフを取り出して、追尾するヒーローの腕を狙い、一直線に振るう。

 

(はは、武器がないとでも思ったか!)

 

 しかし、流石は第一線のヒーロー。くるりと攻撃を避けられ、その回転に乗じて、マシンガン本体を蛇沼の頭にぶつけた。

 ガァン、と脳を揺らす銃器。

 

「…………分が悪いッ!」

 

 頭を抑えた蛇沼は、一旦ヒーローから距離を取る。既に息が上がっていて、疲れが目に見える。

 しかし、対するヒーローは汗一つ流していない。

 

(……………………絶対勝てねぇ)

 

 既に内心は弱気の蛇沼。

 

「降伏しろ」

「……………………」

 

 ヒーローは、顔色一つ変えずにそう言った。

 蛇沼はじっと彼を見ている。

 

「嫌だ、と言ったら?」

「殺す」

「あっはは、素直だ、ねぇッ――!」

 

 ――再び、激突した。

 銃身と刀身。しかし軍配は、質量の大きいマシンガンに上がる。

 距離を離すまいと何度もナイフでヒーローを狙う。

 しかし、その度に避けられ、じりじりと蛇沼は屋根のふちに追いやられていく。

 

(くっ、まずい…………っ)

 

 戦況は、圧倒的にヒーローが格上だった。

 殺陣で鍛えられた身体とはいえ、本物の戦いはほぼ初めてと言っても良い。故に、長引けば長引くほど、蛇沼の体力が消耗する不利な戦いとなってしまうのだ。

 

(しゃあない、奥の手だ…………!)

 

 しかし、伊達に準備に時間をかけたワケではない。

 蛇沼にはたくさんの保険があるのだ。

 

「……起爆」

 

 数秒後。

 

 ――閃光が、辺りを覆った。

 

 *

 

 逃げろ。逃げろ。逃げろ。逃げろ。

 

 俺が今感じているのは、これまでにない命の危機。

 

 ……あいつは本気で俺を殺す気だ。ちょっとでも油断すれば危なかった。今頃身体が爆発しててもおかしくなかった。

 

 俺が用意していたのは、屋根に登った際にいくつか設置した閃光弾。起爆スイッチを手元に用意して、雲隠れ用として利用しようとしていたのだ。

 

 しかし、予定より早く撤退する運びになってしまった。本当はもっと顔を売る予定だったのだが……命を失っては元も子もない。

 ボスも成果を褒めてくれるだろう。

 

 俺は逃走用ルートに向かって走る。後少しで、アイツの索敵範囲から逃れられる――!

 

 

 

 

(……もう、少しでっ………………ッ、ぐあぁぁッッッ!?)

 

 

 

 ――最初に感じたのは、喪失感。

 

 ……肉が抉れた。

 腹だ。横ッ腹に穴が空いた。

 そのぶん数グラム軽くなった肉体だが、その足取りはゾウのように重い。

 

 撃たれたのだ。

 あのヒーローに!

 

(にげ――――)

 

 動かない足を恨み、闇雲に手を延ばしかけて、俺は全身が思うように動かないのに気付く。

 朧な視界のなかで、ちらりと覗いたのは……狐の耳。

 

「お前は終わりだ、スタントマン」

 

 押し倒されている。

 脳天に銃口を突きつけられて。

 

(は……はは、は。

 終わったな、俺。…………こんな、こんなもんかよ……)

 

 涙すら出てこない。

 ああ、確かに終わった。

 

 救いようがないほど無様。潔い散り様を期待されているに違いない。

 

 けれど、こんな状況でも……生き延びたいと、そう思ってしまうのは、生存本能だろう?

 

 ぺらぺらと、口が回る。

 うん。今日も、お口は絶好調だ。

 

「…………俺がどうして君の誘いに乗ってあげたか、わかるかい?」

「命乞いか」

 

 そのとーり。

 

「そう思いたいなら、思えばいいさ。

 俺は、君に対して圧倒的優位にあるから”戦ってあげた”んだよ?」

 

 嘘……とも言い切れないんだな、これが。

 ちっとも痛くないように装って、ヒーローの興味を引きそうな言葉を探す。

 

「住宅街。ショッピングモール。市民ホール。市役所。レストラン。水道局。発電所。スカイツリー。

 そして都庁」

 

「………………?」

「人が集まる場所。ライフラインの供給設備。重要な公共施設。

 こんな夜中でも、東京は24時間動いているんだぜ?」

 

 俺は、舌の奥に隠していた”スイッチ”をんべーっと見せつけた。

 

「仕掛けておいたんだ。

 俺を殺したらバーン! って具合」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 狐耳ヒーローの目が微かに揺れるのを、俺は見逃さなかった。

 

 

 

「証拠がないって?

 あるんだなぁこれが。あ、スマホ取り出していい?」

「…………」

 

 無言は同意と受け取るぞ。

 万能★四次元腰ポケットくんからスマホを出した俺は、とある遠隔操作アプリを立ち上げる(made by boss)。

 見せるのは、ありとあらゆる位置に設置された固定カメラ。

 そこには、死角に置かれた爆弾を影からリアルタイムで映す映像が流れていた。

 

「まずは――市民ホールからかなぁ。手始めに、無人の施設を爆破して威嚇射撃としようぜ。

 次は市役所にしよう。……かわいそうに、働いている人が少し残ってるんじゃないかな?

 その次は、発電所。ライフラインが断絶されて、町から明かりが消える。

 次の次は……」

 

「…………黙れッ!!!!!」

 

 狐耳ヒーローくんは、額に青筋を立てて怒鳴った。

 

 ……その割には、撃ってこないんだな。意外と物分りが良い。

 

「……君さぁ、超最悪だね。

 ”君のせいで”、人質は全員殺されて、東京は爆破されて、死者は10000人を越しちゃってさ。

 全部、ぜーんぶ、君のせいになっちゃうんだ。まるで殺戮者じゃないか!

 そんな悪魔に殺されるなんて、俺はなんて哀れな被害者なんだ!」

 

 ブーメランだって?

 わかってやってるんだこちとらよォ!?

 

「……………………っ、」

「はぁあ。

 俺は”誰一人殺さずに”世界を救おうと思ってたのに。

 君はまるで、人殺しをいとわない殺人鬼のようだ」

 

 ……ヒーローの目が、きゅっと見開かれた。

 次の瞬間。

 

 

 俺は拘束を抜け出して、ヒーローくんを屋根から突き落としていた。

 高さ、約十数メートル。受け身も取れずに落下した彼は、無事では済まないだろう。

 

(これだからメンタル揺さぶるのやめらんねェ)

 

 明らかに、動揺したら拘束が緩んだのだ。問答無用に殺されるかと思ったが、想像以上に精神支配に弱いヒーローだった。

 

 ひとまずの脅威は去った。

 俺は屋根に転がる拡声器を回収し、叫ぶ。

 

『日本国民に告ぐ。

 今日はここまでにしておくが、覚悟しておけ。

 我々の組織はいつでも貴様らを監視している。貴様らが再び我々に歯向かうようなら――この俺、スタントマンが容赦なく全てをぶち壊す』

 

 ちょっとボスの言葉をパクっちゃったが、バレないバレない!

 

『それでは諸君。また会おう…………』

 

 その言葉の後にすぐ、怪獣たちがけむり玉を投げ、景色は再び白に包まれた。

 ここらで撤退させてもらう。

 

 確保していた裏ルートから、ただひたすらに走る。

 走る。

 

 

 俺は走った。

 アドレナリンが痛みをかき消し、ただただ生きたいという思いが脳を支配した。

 口端から血が流れ、腹がじんじんと熱を帯びる。けど、不思議と痛くない。

 痛くないんだ。

 

 しかし――その疾走は、無敵感は、ふいに止まった。

 

「…………愛実?」

 

 江戸愛実。スタントマンの共犯者が、そこにいた。

 なぜここにいる? 隠れると言っていた筈なのに。

 

「スタントマン、様…………」

 

「どうした。様子がおかし、」

 

「逃げて…………!」

 

 ……愛実の首に、包丁が突きつけられていた。

 

 愛実を雁字搦めにして、背後から命を奪おうとする極悪人は――

 

 

 

「演間、博雄………………!」

 

 

 ――かつて、悪に正義感を燃やした、一人のヒーローだった。

 

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