悪のヒーロー「スタントマン」〜怪獣の特殊スーツ着てたら人類の敵になりました〜 作:りりな
蛇沼俊平は、演技が下手だ。
……いや、下手と言うには語弊がある。
オーディションでのとある審査員の言葉だ。
『君にはもっと合った役があると思うよ』
『少し個性を抑えたほうがいいね』
『もっと目をキラキラさせて!』
『独特の雰囲気がこのキャラクターとそぐわない』
etc……。
顔はまあまあだと自負しているが、なかなかいい役が回ってこなかった理由は、すべてこれらの総評に集結されているのだろう。
劇団員の言葉を借りるなら、俺は
『なんかキモイ』
らしい。……ひっでぇ。
しかし、スタントマンとなってからの俺は、そういった指摘を一度も受けることなく、嘘を見抜かれることもなく、それが俺だと受け入れられてきた。
後田も、ボスも、皆が俺をクソ野郎だと信じてやまない。
要はだ。
俺、悪役ハマりすぎじゃね? って、話である。
*
僕に出来た初めてのお友達――ヘッビーくんは、なんと怪獣だったらしい。
というのも、彼がこの学校に来た目的は、高校に潜むヒーローを探し出して、ぶっ殺すことなんだって。
彼はヒーローを殲滅したいし、僕は悲劇を鑑賞したい。
利害の一致ってやつだ。
…………正直な感想を言わせてもらうと。
(すっっっっごく、楽しい!)
僕は今、ヘッビーくんとコンピューター室で、自己紹介も兼ねて語らっている最中であった。
話題は何かって? それは……。
「でさ、でさ! この腕の断面図! めちゃくちゃ綺麗に切断されてるの!
直角の断面で流血の色が映えてて、製作者のこだわりを感じたんだ!」
「うんうん! 本当だね! 春雨くんはよく見てるね!」
「でしょでしょ? 他にもオススメの画像があって…………」
「う、うわぁ~。すごいなぁ…………」
スマホに保存された”綺麗”な画像を見せて、談笑に花を咲かせる僕たち。
「ねっ! もっとたくさんあるんだ! あっ、生首フォルダもあるんだ! みる?」
「うへえ……。
べつにいいよ。ボクは人間の顔には興味ないんだ。それよりもっと他の話が聞きたいなー」
「ほんとほんと!? さすがはヘッビーくん! 怪獣らしい思考回路してるよねー。
……僕、今まで、趣味のお話できる人、一人もいなかったんだ。だから、嬉しいよ!」
本音で語り合える仲間。
僕の好きを否定しない友達。
僕と同じ、破綻者(気狂い)。
たった十数分話しただけで、僕はヘッビーくんという怪獣に惹かれていた。
「それは嬉しいなあ! ボクもお友達が増えてとてもハッピーな気分だ!
……唐突だけど、春雨くん。ボクがキミを誘った理由、なんだかわかるかい?」
「え? わかんないや。落ち込んでたから声を掛けたんじゃないの?」
「それも1つの理由ではあるんだけど、も1つあってね。
春雨くんって今、すっごい有名人じゃない。
過去の所業、言動、すべて保存されてて、日本中がキミの一挙一動に大注目だ。
だからこそ知ってたんだけど……キミは、過去に犯罪を犯したことがあるよね?」
「………………え……」
「キミは、昔ハマっていたとあるソーシャルゲームにハック行為を行った過去がある」
(う、嘘…………そこまで……)
既に忘れ去られた過去の筈だったのに、そこまで掘り出されているのか……。
――確かに僕は、中学生の頃、ハッキングを行った記憶がある。
あのときはネトゲに夢中で、親のクレカからこっそり課金したりして遊んでいた。
ある日、僕の遊んでいたゲームで新イベントが開催された時、プレイヤーの不満が爆発した。
インフレする武器、クリア不可能なゲームバランス、ガチャの不自然な排出確率。
僕はフレンドたちと一緒になって運営に抗議をしたが、聞き入れられることはなかった。
……普通ならそこでゲームを辞めるのが最善策なんだろうけど、友達がおらず、ゲームが世界のすべてだったその時の僕は、余計な行動力を発揮してしまった。
――運営のデータベースに侵入して、ソースコードを改ざんしたのである。
彼らのシステムの管理体制がガバガバだったのも幸いした。
重要な連絡を装ったメールに、ダークウェブでひっそりと配布されていたマルウェアを仕込み、管理者権限を奪取。
ガチャの確率、敵キャラの強さ、プレイヤーのステータスなど細かい部分をいじった。
当時中学生の僕に、プロ並みのIT知識があるわけがないので、侵入の痕跡があっさりバレて、警察に厳重注意されることとなった。
ゲームは当然のごとくBAN。……なにげに黒歴史である。
「キミが狂信者だって名前バレしてから、過去のネットニュースが掘り返されたみたいだね。
……すごいなあ、春雨くん! 尊敬しちゃうぜ!」
「え」
「ハッキングのネットニュースを見た時、ボクはとても感心したよ。
キミのITスキルなら、怪獣対策本部のデータベースに侵入することだって、夢じゃないよ!」
………………は?
(ムリムリムリ!!!
たかだか非力な高校生一年生に、政府の鉄壁の守りを突破しろというのか!?
頭怪獣かよ!?)
怪獣だったわ。
「それにキミは未成年だ。たとえ事件が発覚したとしても、警察は絶対に逮捕不可能!」
「僕を少年院送りにする気かよ!?」
「そうは言っていないさ!
……んー、でも、ボクはもうキミに色々話しちゃったしなぁ。ここでキミが協力しないと言うなら、口封じだってできる訳だけど…………」
コイツ、逃げ道を塞ぐ気だ。
してやられた…………けど、想定内だ。
「あのさー。ヘッビーくんは、要はこの学校にいるヒーローを見つけ出したいわけでしょ?」
「うん? そうだよ。
でも、ヒーロー共、一週間潜伏してもちっとも尻尾を見せないんだもん。
残り一週間もここにいられないボクには、データを盗み見るしか方法が残されてな――」
「ハッキングは必要ないよ」
「…………へえ?」
面白がるように、顎をしゃくるネズミ男。
「僕は、同級生たちのSNSのアカウントを知っている。
彼等は言われずとも、どこそこに行った~とか、誰とこれを話した~とか、勝手に発信してくれる。いわば歩く情報発信機」
Twitter、Instagram、MixChannel、Youtubeなど媒体は様々。
思春期の、アホみたいな自己顕示欲の賜物だ。
「それを鑑みれば……
家族関係。友人関係。バイト先。帰宅時間。登校時間。毎日のルーティン。
全部、把握することだってできる」
有名人みたいに、時間差で投稿するようなネットリテラシーの高い奴はいない。
思い立ったときに現状報告。それが若さってもんだ。
「もちろん、SNSをやっていない人もいるだろうけど……。
でも、その人の友人のつぶやきをたどれば、何かしら記述があるはずだ。
そうやって把握した彼らの行動パターンから、不自然な余白がある人物を割り出せば、自ずと容疑者は見えてくる。
絞り込んだら、被疑者の行動をただ監視するだけでいい。
データベースに侵入するよりもずっと低リスクで、ハイリターンだ。
どうだい、ヘッビーくん。これでもダメだっていうのか?」
ヘッビーくんは、僕の言葉を聞いて、右手で顔を抑えてプルプルと震えだした。
(…………まずい、気に触れたか……?)
しかし、不安は杞憂だった。
「くくくくく…………あっははははははは!
面白い。面白いね春雨くん!」
心底楽しいという風に、二段笑いを披露してくれた。
……少しほっとした。
「改めて気に入ったぜ。
春雨千秋くん。
キミは良き電脳社会の俯瞰者だ」
「あ、ありがとう……?」
褒められてるのかよくわからないけど、一応感謝しとく。
「それだけの頭脳を持つキミが、どうして”俺”なんかを崇拝してるのかわからないなぁ……」
「え、今何か……」
「なんでもないさ。
じゃあさ。期限を決めよう。
ボクがこの学校にいれるのは残り六日。それまでに、容疑者を絞り込む必要がある」
「六日……」
(……けっして不可能では、ない)
「三日だ。
三日あげるから、キミには全生徒の行動を把握してもらおうかな」
そう言って、ヘッビーくんは腰ポケット(?)から札束を取り出した。
「ネカフェ代」
「…………ども」
怪獣のくせして、妙に現実的なんだよなぁ……。
「お母さんには、ボクから担任役として、捜索届を出したとでも言っておくよ。
さあ行った行った! 時間は有限だよ?」
しっしっと手を振るヘッビーくんに促されるまま、僕はコンピューター室を退室した。
――このときの僕は、僕の『クラスメイトを破滅させたい』という願いをうまくはぐらかされたことに、気付いていなかった。
誘導尋問にはお気をつけて