悪のヒーロー「スタントマン」〜怪獣の特殊スーツ着てたら人類の敵になりました〜   作:りりな

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18・狂信者、踊る

 

 蛇沼俊平は、演技が下手だ。

 

 ……いや、下手と言うには語弊がある。

 オーディションでのとある審査員の言葉だ。

 

『君にはもっと合った役があると思うよ』

『少し個性を抑えたほうがいいね』

『もっと目をキラキラさせて!』

『独特の雰囲気がこのキャラクターとそぐわない』

 etc……。

 

 顔はまあまあだと自負しているが、なかなかいい役が回ってこなかった理由は、すべてこれらの総評に集結されているのだろう。

 

 劇団員の言葉を借りるなら、俺は

 『なんかキモイ』

 らしい。……ひっでぇ。

 

 しかし、スタントマンとなってからの俺は、そういった指摘を一度も受けることなく、嘘を見抜かれることもなく、それが俺だと受け入れられてきた。

 後田も、ボスも、皆が俺をクソ野郎だと信じてやまない。

 

 要はだ。

 

 俺、悪役ハマりすぎじゃね? って、話である。

 

 

 *

 

 僕に出来た初めてのお友達――ヘッビーくんは、なんと怪獣だったらしい。

 というのも、彼がこの学校に来た目的は、高校に潜むヒーローを探し出して、ぶっ殺すことなんだって。

 

 彼はヒーローを殲滅したいし、僕は悲劇を鑑賞したい。

 利害の一致ってやつだ。

 

 …………正直な感想を言わせてもらうと。

 

(すっっっっごく、楽しい!)

 

 僕は今、ヘッビーくんとコンピューター室で、自己紹介も兼ねて語らっている最中であった。

 

 話題は何かって? それは……。

 

「でさ、でさ! この腕の断面図! めちゃくちゃ綺麗に切断されてるの!

 直角の断面で流血の色が映えてて、製作者のこだわりを感じたんだ!」

 

「うんうん! 本当だね! 春雨くんはよく見てるね!」

 

「でしょでしょ? 他にもオススメの画像があって…………」

 

「う、うわぁ~。すごいなぁ…………」

 

 スマホに保存された”綺麗”な画像を見せて、談笑に花を咲かせる僕たち。

 

「ねっ! もっとたくさんあるんだ! あっ、生首フォルダもあるんだ! みる?」

 

「うへえ……。

 べつにいいよ。ボクは人間の顔には興味ないんだ。それよりもっと他の話が聞きたいなー」

「ほんとほんと!? さすがはヘッビーくん! 怪獣らしい思考回路してるよねー。

 ……僕、今まで、趣味のお話できる人、一人もいなかったんだ。だから、嬉しいよ!」

 

 本音で語り合える仲間。

 僕の好きを否定しない友達。

 僕と同じ、破綻者(気狂い)。

 

 たった十数分話しただけで、僕はヘッビーくんという怪獣に惹かれていた。

 

「それは嬉しいなあ! ボクもお友達が増えてとてもハッピーな気分だ!

 ……唐突だけど、春雨くん。ボクがキミを誘った理由、なんだかわかるかい?」

 

「え? わかんないや。落ち込んでたから声を掛けたんじゃないの?」

 

「それも1つの理由ではあるんだけど、も1つあってね。

 

 春雨くんって今、すっごい有名人じゃない。

 過去の所業、言動、すべて保存されてて、日本中がキミの一挙一動に大注目だ。

 

 だからこそ知ってたんだけど……キミは、過去に犯罪を犯したことがあるよね?」

 

「………………え……」

 

「キミは、昔ハマっていたとあるソーシャルゲームにハック行為を行った過去がある」

 

(う、嘘…………そこまで……)

 

 既に忘れ去られた過去の筈だったのに、そこまで掘り出されているのか……。

 

 ――確かに僕は、中学生の頃、ハッキングを行った記憶がある。

 

 あのときはネトゲに夢中で、親のクレカからこっそり課金したりして遊んでいた。

 

 ある日、僕の遊んでいたゲームで新イベントが開催された時、プレイヤーの不満が爆発した。

 インフレする武器、クリア不可能なゲームバランス、ガチャの不自然な排出確率。

 

 僕はフレンドたちと一緒になって運営に抗議をしたが、聞き入れられることはなかった。

 

 ……普通ならそこでゲームを辞めるのが最善策なんだろうけど、友達がおらず、ゲームが世界のすべてだったその時の僕は、余計な行動力を発揮してしまった。

 

 ――運営のデータベースに侵入して、ソースコードを改ざんしたのである。

 

 彼らのシステムの管理体制がガバガバだったのも幸いした。

 重要な連絡を装ったメールに、ダークウェブでひっそりと配布されていたマルウェアを仕込み、管理者権限を奪取。

 ガチャの確率、敵キャラの強さ、プレイヤーのステータスなど細かい部分をいじった。

 

 当時中学生の僕に、プロ並みのIT知識があるわけがないので、侵入の痕跡があっさりバレて、警察に厳重注意されることとなった。

 ゲームは当然のごとくBAN。……なにげに黒歴史である。

 

「キミが狂信者だって名前バレしてから、過去のネットニュースが掘り返されたみたいだね。

 

 ……すごいなあ、春雨くん! 尊敬しちゃうぜ!」

「え」

 

「ハッキングのネットニュースを見た時、ボクはとても感心したよ。

 キミのITスキルなら、怪獣対策本部のデータベースに侵入することだって、夢じゃないよ!」

 

 ………………は?

 

(ムリムリムリ!!!

 たかだか非力な高校生一年生に、政府の鉄壁の守りを突破しろというのか!?

 頭怪獣かよ!?)

 

 

 怪獣だったわ。

 

「それにキミは未成年だ。たとえ事件が発覚したとしても、警察は絶対に逮捕不可能!」

「僕を少年院送りにする気かよ!?」

「そうは言っていないさ!

 

 ……んー、でも、ボクはもうキミに色々話しちゃったしなぁ。ここでキミが協力しないと言うなら、口封じだってできる訳だけど…………」

 

 コイツ、逃げ道を塞ぐ気だ。

 してやられた…………けど、想定内だ。

 

「あのさー。ヘッビーくんは、要はこの学校にいるヒーローを見つけ出したいわけでしょ?」

「うん? そうだよ。

 でも、ヒーロー共、一週間潜伏してもちっとも尻尾を見せないんだもん。

 残り一週間もここにいられないボクには、データを盗み見るしか方法が残されてな――」

 

「ハッキングは必要ないよ」

 

「…………へえ?」

 

 面白がるように、顎をしゃくるネズミ男。

 

「僕は、同級生たちのSNSのアカウントを知っている。

 彼等は言われずとも、どこそこに行った~とか、誰とこれを話した~とか、勝手に発信してくれる。いわば歩く情報発信機」

 

 Twitter、Instagram、MixChannel、Youtubeなど媒体は様々。

 思春期の、アホみたいな自己顕示欲の賜物だ。

 

「それを鑑みれば……

 家族関係。友人関係。バイト先。帰宅時間。登校時間。毎日のルーティン。

 全部、把握することだってできる」

 

 有名人みたいに、時間差で投稿するようなネットリテラシーの高い奴はいない。

 思い立ったときに現状報告。それが若さってもんだ。

 

「もちろん、SNSをやっていない人もいるだろうけど……。

 でも、その人の友人のつぶやきをたどれば、何かしら記述があるはずだ。

 

 そうやって把握した彼らの行動パターンから、不自然な余白がある人物を割り出せば、自ずと容疑者は見えてくる。

 絞り込んだら、被疑者の行動をただ監視するだけでいい。

 データベースに侵入するよりもずっと低リスクで、ハイリターンだ。

 

 どうだい、ヘッビーくん。これでもダメだっていうのか?」

 

 ヘッビーくんは、僕の言葉を聞いて、右手で顔を抑えてプルプルと震えだした。

 

(…………まずい、気に触れたか……?)

 

 

 しかし、不安は杞憂だった。

 

「くくくくく…………あっははははははは!

 面白い。面白いね春雨くん!」

 

 心底楽しいという風に、二段笑いを披露してくれた。

 ……少しほっとした。

 

「改めて気に入ったぜ。

 春雨千秋くん。

 キミは良き電脳社会の俯瞰者だ」

「あ、ありがとう……?」

 

 褒められてるのかよくわからないけど、一応感謝しとく。

 

「それだけの頭脳を持つキミが、どうして”俺”なんかを崇拝してるのかわからないなぁ……」

「え、今何か……」

 

「なんでもないさ。

 じゃあさ。期限を決めよう。

 ボクがこの学校にいれるのは残り六日。それまでに、容疑者を絞り込む必要がある」

「六日……」

 

(……けっして不可能では、ない)

 

「三日だ。

 三日あげるから、キミには全生徒の行動を把握してもらおうかな」

 

 そう言って、ヘッビーくんは腰ポケット(?)から札束を取り出した。

 

「ネカフェ代」

「…………ども」

 

 怪獣のくせして、妙に現実的なんだよなぁ……。

 

「お母さんには、ボクから担任役として、捜索届を出したとでも言っておくよ。

 さあ行った行った! 時間は有限だよ?」

 

 しっしっと手を振るヘッビーくんに促されるまま、僕はコンピューター室を退室した。

 

 

 ――このときの僕は、僕の『クラスメイトを破滅させたい』という願いをうまくはぐらかされたことに、気付いていなかった。

 

 

 




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