ホロ学園の「俺」君物語   作:零円

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登場ライバー
天音かなた
百鬼あやめ
白上フブキ
大神ミオ


エピソード・オブ・かなた ep.04分岐点

 終わりが見えた。分別は佳境。目の前の段ボールの中身を仕分ければ、ゴミを出すだけ。

 残った荷物等については、天音先輩経由で先生に相談して、空き教室を一室、借りられる事になった。

 なので、仕分けが終わり次第、空き教室へと持っていける。

 とはいえ、早めに動かすようには言われたので、開かずの物置の鍵を探すことが急務だ。

 しかし。

 

「見つからなかったな」

 

 どこかの荷物に紛れているだろうと思っていたのだが、残念ながらそんなことは無かった。

 こうなると、棚とか引き出しの中、もしくはその裏等の可能性がある。

 しかし、流石にそこまで俺が探すのは生徒会の機密的に良くは無さそうだし、棚の裏を見るには独力だと厳しい。

 仕方なく、掃除が終わったら引き継ぎ、後を任せる事に決めつつ、俺は段ボールの中身を取り出しては、不要と必要に分けていく。

 普段なら、こうして作業していると、大体天音先輩から声を掛けられ雑談するのだが、今は天音先輩が不在だ。

 最初は居たのだが、先生に呼ばれて行ってしまった。

 先生としては生徒会室で話をするつもりだったらしく、俺は席を外そうとしたのだが、2人揃って仕事の手を止める必要は無いと、天音先輩が先生と共に場所を移した。

 それはそれで、生徒会室に部外者1人を残すのはどうなのかとも思ったのだが、言うより早く天音先輩は出て行ってしまったので、仕方なく留守番である。

 中身を1つ、取り出した。細長い、黄色の鳥。おもちゃだろうか。それとも小物入れ? とりあえず必要無さそう。捨てても問題なさそうだ。

 不要品の箱に入れ、続けてぽいぽいと、選別していく。必要そうな物、不要そうな物の判断はすっかり出来るようになっていて、正直手を止める必要が無ければ、あっという間に終わるだろう。

 いる、いらない、いる、いる、いらない、いらない、いらない。

 ぽいぽいと段ボールの中身を取捨選択していると。

 がらり。

 

「あ」

 

 扉の開く音。この状況で聞こえる扉の開閉音等、1つしかなく。

 俺は生徒会室の入り口の方へと目をやった。

 

「おかえりなさい、天音先輩」

 

 声をかけたが、違うようだった。

 流れる銀髪と灼眼。制服を見れば、どうやら同級生のよう。ただ、俺と違って右腕に、生徒会の腕章があった。

 

「違うぞ? 余は、百鬼あやめだ」

 

 答える同級生こと百鬼。

 百鬼からすれば、生徒会無関係の俺が、何故か生徒会室で作業しているという不審な状況ではあったが、特に俺を警戒している様子は無い。

 

「天音先輩の言っていた、掃除してくれている人だよね。お疲れー」

「……お疲れ」

 

 百鬼に言葉を返す。満足そうに頷いた百鬼は、そのまま生徒会室の中に入った。

 生徒会室の中を横断し、俺製の段ボール棚の前につくと、目隠し用のカーテンを開け、その中からいくつかの荷物を取り出した。

 それを手に、俺の対面の席まで移動して、腰を下ろす。定位置なのだろうか、迷った様子は無い。

 

「食べる?」

 

 そう言って、飴玉を差し出された。

 逡巡し、1つ貰う。封を切って口に入れれば、レモンのような甘ったるい味が口内に広がった。

 

「これで共犯ね」

 

 そう言って笑う百鬼は、別の味らしい緑色の飴玉を取り出すと、封を切り口に入れる。

 それを見ながら、ふと気になった事を口にする。

 

「今日、生徒会活動は休みでは?」

「なんかスバルが急に用事が出来たとかで、折角だから待っている間に整理を進めておこうかなって」

「成程」

 

 すばるって誰だろうと思いながら、俺は百鬼の手元を見る。

 飴玉以外に段ボール棚から取り出された荷物は、自分が先日分けた議事録だった。年度別、月別で分けるところまではしたが、流石にしっかりと中を読む訳にはいかず、最終チェックとファイリングは生徒会の誰かに任せたそれである。

 ちゃんと振り分け作業引き継がれているのかと、少し安心しながら、俺は選別作業に戻る。

 

「ところでなあ、この古い議事録って要らなくないか?」

「……」

「なあ?」

「え? あ、俺に言っていたのか?」

「他に居ないだろ」

 

 何を言っているんだという表情をする百鬼。

 独り言の可能性を考慮しないのであれば、確かにその通りだった。

 

「その古い議事録は、生徒会長権限で有無言わせずに残す事になったから、俺からは何とも」

「それを言われたら、余も何も言えないが」

 

 それでも面倒なものは面倒なのだろう。渋々といった様子で、百鬼は作業に戻る。

 まあ、気持ちは分かる。正直俺も、やりたいかと言われれば否だ。

 

「お前様はもうすぐ終わりそうなのか?」

「お前様?」

「お前様はお前様だろう」

「やっぱ、俺の事なのか」

 

 一人称と言い、どうも古風でイマイチ聞きなれない。

 

「俺はこの箱が終われば、自分の作業は終わりだけど」

 

 百鬼とやり取りしながらも仕分け続けている箱の中身は、もう半分も切った。

 これが終われば、他にやる事を天音先輩経由で生徒会に引き継いで仕舞いだ。

 そんな俺の言葉に、「そうか」と百鬼。

 

「掃除が終わったら、もう来ないのか?」

「多分。用事が無ければ、生徒会室なんて一般生徒が来る場所でもないだろ」

「……また散らかせばいいって事だな」

「やめてくれ」

 

 数年分の掃除をしたのに。

 何でそんな恐ろしい事を言うのかと思う俺の前で、百鬼は少し寂しそうな顔をする。

 何故そんな顔をするのか。幾ら思い返しても、俺に百鬼との接点は無く、分からない。

 

「なら、たまに遊びに来るといいと思うぞ」

「いや、そういう場所でも無いだろ」

「それはそうだけど。いいじゃん、たまには」

「なんで、そんなに? 別に、俺が来ても良い事無いだろ?」

 

 さっぱり分からない。どういうつもりなのだろうか。

 

「いや。天音先輩が寂しがるなと思ってな」

「天音先輩が?」

 

 離席中の先輩の姿が脳裏をよぎる。あの人が寂しがる……? ちょっと想像がつかない。

 関係値としては普通の、至極一般的な先輩後輩、もしくは雇用主と従業員みたいな関係だったと思うが。

 

「まあ、生徒会で天音先輩と普通に話せるのって、お前様くらいのものだし」

 

 それは……。

 

「なんでまた? あの人、そこまで格式ばって無いだろうし。最低限の線引きは必要だろうけど、そんなに気をつけなくて良いと思うけど」

「あー……今は普通に教えて貰って、仕事も振られているけど、当初は仕事の鬼だったからな。余がやらねば誰がやる、余の邪魔をするなって。鬼はお前だろ、って感じなんだけど」

 

 何故か、自分が鬼みたいなボケをされて少し戸惑う事にはなったが、仕事量に忙殺されそうになっていた事は知っているので、少し納得する。

 複数人で仕事がしづらい環境に、なまじワンオペ出来る能力があったせいで、余計にその傾向はあった。

 

「せめて部屋の掃除くらいはすれば良かったのに」

「勝手に触るのもどうかと思って。余も、自分の出来そうな仕事はしていたんだけど」

「そうなの?」

「嘆願書を先生に持って行ったりとか。後で、精査前だって言われて、注意されたけど」

「……」

 

 なんか聞き覚えのある話だ。

 ただ、百鬼は気づいていない、もしくは聞かされていないのか、普通に話を続けている。

 

「それに、教えて貰えているとはいえ、仕事以外の話とかは殆ど無いし」

「まあ、それは生徒会の活動中だし」

 

 俺が居る時と違い、きちんと生徒会長として活動しなければいけない時間なのだから、流石に肩肘も張るだろうし、仕事以外の話も減るとは思う。

 仲良くなりたい、という事なら、多分俺のように活動外の時間とかで何かするのがいいのではないだろうか。

 

「親睦会でも企画してみたらどうだ? 皆でなんか、レジャーでも。まあ、もう行ったとかだと効果薄いかもしれないが」

「親睦会……そういえば、行って無いな。でも、時期を逃した感じ無いか?」

「寧ろ、漸く正規稼働始まったと言っても過言では無いんだし、別におかしくは無いだろ」

 

 未だやるべきことは多そうではあるが、比較的落ち着いているようにも見えた。生徒会室も凡そ片付き心機一転出来る良い機会でもある。

 百鬼としても思い当たる節はあるらしく、顎に手を当て「悪くないな」と呟いていた。

 

「迷惑じゃないかな?」

「だったら断られるだけだし」

「……断られた時のダメージを想像したら辛い」

「その時は責任取ってやるよ」

 

 断らないとは思うから、安請け合いしておく。

 

「もし断られたら、世にも恐ろしい目に合わせるからな」

「責任の代償が重い」

 

 秒で後悔した。

 

「でも、行くなら何がいいかな?」

「何でも良さそうだけど……。正直良く分からん」

「そうなのか?」

「自慢じゃないが、レジャーとは無縁の生活をしてきた」

「本当に自慢じゃないんだが。それでよく、親睦会なんて発想が出てきたな」

「行ったからな」

 

 かつて俺が所属していた23の部活の内、確か3つくらいで親睦会はあり、一応全て参加はしている。

 なので、提案する程度のサンプルはある。その3つだけだが。

 

「生徒会役員全員共通の趣味とかあるなら、その趣味の奴とか。オーソドックスなところで、ボウリングとかカラオケとか」

「カラオケ! 余、歌うの好きだぞ」

「天音先輩も、去年学園祭で歌って踊ったって言っていたな」

 

 上手いかどうかは知らないけど。

 

「まあ、折角だし明日にでも、他の役員と話して決めたらいいじゃないか。この後、天音先輩も戻ってくるから、先に話を通しておいてもいいと思うし」

「そうだな」

「──なに?」

 

 頷いた百鬼が、何故か俺をまっすぐ見る。

 

「……あー、もうすぐ片付けも終わるし、分別終わったら、席を外すから気にしなくていいぞ」

「違う」

「……じゃあなに?」

「お前様から提案してくれ」

「意味無いだろ。その懇親会に俺は行かないんだから」

 

 

 何事かを言い出す百鬼の言葉を、直ぐに否定する。

 こういうのは、仲良くしたいアピールも兼ねているから、自分で言わなければ意味が無いと思う。

 だが、俺の言葉に、百鬼はきょとんとした顔をする。

 

「なんだ、来ないのか? 提案者なのに」

「生徒会の懇親会だって話だっただろ」

「あー」

 

 納得した様子に、ここまでの話を聞いていなかったのかと不安になる俺に、百鬼はフッっと、鼻で笑った。

 

「お前様も、生徒会の、一員だろ」

「そういうの良いんで」

「……余が読んだ本だと、感動する場面だったと思うんだけど」

 

 おかしいなーと、百鬼が首を傾げる。

 正直今日会ったばかりの百鬼に言われても感が凄い。

 

「天音先輩は断らないだろうし、自分で提案しな」

 

 ぽいと、最後の1つを必要箱へと入れて、最後の仕分けが完了する。

 底面のガムテープを剥がし、段ボールを畳む。

 

「おお。お疲れ」

「ありがとう。後は散らかさないように使ってくれ」

 

 必要品を纏め、直ぐには必要にならなそうな物を詰めた段ボールに封をする。

 それを手に、立ち上がろうとして。

 それより早く、天音先輩が戻って来た。

 

「おかえりなさい、天音先輩」

「ただいま」

「お疲れ様です、天音先輩」

「百鬼さん? お疲れ様。どうしたの?」

「ちょっと作業しようかと思いまして」

「そうなんだ。休みだから、あんまり無理しなくていいよ」

「はーい」

 

 お前が言うなと、少しだけ思っていると。天音先輩の視線が、俺へと向く。

 

「君もお疲れ様。ごめんね、結局任せきりにしちゃって」

「いえ。やるって言ったの自分なので」

 

 俺は、改めて段ボールを手に、立ち上がる。

 

「それじゃあ、これ、空き教室に持って行きますね」

「あ……。じゃあ、お願いしちゃっていい?」

「大丈夫です」

 

 少々重いが、その程度。1人で持てるサイズだ。

 

「それじゃあ、後で」

「うん」

 

 頷く天音先輩に、一礼し。

 その後、ちらりと百鬼に目配せ。こくりと、頷きが返ってくる。

 

「天音先輩。ちょっといいですか?」

「ん? 何、百鬼さん?」

「えっと」

 

 戸を閉める。崩れそうになった荷物を抱えなおし、歩き出す。

 天音先輩が借りた部屋は、やや遠い。生徒会室の近所にすれば良かったのにと思いながら、廊下を進む。

 階段を下り、渡り廊下を渡って。

 

「えっと……ここか」

 

 扉の前につくと、中から話し声。

 空き教室と聞いていたが、誰かいるのだろうか。

 一応ノックすると。

 

『どーぞー』

 

 中から声。聞き覚えがある気のする声だ。

 何処で聞いたんだろうかと思いながら、扉を開けて。

 

「あれ? えっと、生徒会室の前にいた人?」

「……確か、白上先輩と大神先輩、でしたっけ?」

 

 意外な2人が、其処にいた。

 




ここから本編とかなたんルートに分岐したんですって
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