ホロ学園の「俺」君物語   作:零円

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登場ライバー
角巻わため
大空スバル
星街すいせい


Eve、朝

「──張り切り過ぎたか?」

 

 調子に乗ったとも言えるかもしれない。

 目の前に置かれたお弁当──というか重箱を前に、俺はどうしてこうなったのかと、頭を抱える。

 とはいえ、特にきっかけらしいきっかけも無い。

 一昨日シオンの検査では、背中の傷と言う謎こそ残った物の、特に魔法関係では何も見つからず。

 昨日のきんつばとフレアさん的にも問題無いという事で、予定通り本日から復学する殊に決め。

 数時間前に起床、軽いトレーニングを済ませ、朝食兼お弁当作りを開始。

 そのお弁当が、目の前に置かれた重箱である。全三段。我が家にあるものの中では一番大きい。

 それこそ、ピクニックやお花見みたいな、大勢でお弁当を囲むイベントごとのようなものになら、役に立つサイズではあるが。

 

「……いや、それでもだろ」

 

 作り始めは、せっかくのお弁当初日だし、ちょっと豪華というか、好きなもの詰めようかなと思っただけなのだが。

 作っている間にあれ入れようこれも入れたいとなり、そうなるとバランス的にあれとかこれとかも入れた方がとなって、気づいたらこうである。

 

「うーん……」

 

 どうしたもんか。別に朝食と夕食に回してもいいのだけど、わためやシオンの昼食分を引いてこの量である。

 流石に自分のせいで、三食同じレシピを強いるというのも……。

 

「……ふむ」

 

 エプロンのポケットから、スマホを取り出す。

 数度タップして、目的の人物を呼び出した。

 メッセージを送ると、直後返信ではなく着信。慌てて、通話をつなぐ。

 

『もしもーし』

「お疲れ様です、ミオ先輩」

『おつかれー。今日から復帰なんだね、おめでとー』

「ありがとうございます」

『それで? お弁当がどうしたの?』

「実は作り過ぎてしまいまして……、ちょっと待ってくださいね」

 

 ぱしゃりとキッチンを撮影。スマホで送る。

 間も無く、『あははは!』と笑い声。

 

『作りすぎでしょ、なにこれ』

「それでまあ、お裾分けと言いますか。お弁当、まだ作っていなければ、お昼一緒にどうかなと思いまして」

『勿論いいよ。まだ作っていなかったし。楽しみにしているね』

「あまりハードル上げないでください……。では昼休みに。部室でいいですか?」

『大丈夫だよー』

「ならそれで。あ、何か食べたいものとかあります?」

『まだ作る気?』

 

 ちょっと笑いを堪えている声でそう言ったミオ先輩は、『大丈夫だよ、ありがとうね』とそう言った。

 

『あ、フブキが起きてきそう――そうだ。じゃあ、またね』

「はい、では昼休みに」

 

 通話を切る。なんでフブキ先輩が起きてきたらまずいのだろうか。

 良く分からなかったが、まあいいかと俺はスマホをエプロンのポケットにしまった。

 

「さてと」

 

 とりあえず重箱問題は解決。最終点検して、少しだけ彩を加えてから、お弁当を仕舞い、袋に──入れようと思ったが、丁度いい物が無い。

 なんかあったかなと戸棚を漁り。風呂敷を見つけた。広げて確認。黒と紫のちょっと中二病っぽい柄だが、サイズ的に申し分無さそうだ。違和感はあるが、多分この重箱を買ったときについてきたのだと思う。

 ……というか、この風呂敷もそうだが、何で我が家に重箱があるのか。使う機会なんぞ、ついぞなかったのだが。

 んー、と首を傾げるも、答えは出ず。あまりのんびりもしていられないから、サクッっと重箱を包み。折角だからシオンとわための分もそれぞれにお弁当箱を用意して詰めておいた。あとで渡そう。

 

「時間は──まだ大丈夫か」

 

 朝ごはんの準備して食べる時間は余裕である。

 今日の朝も洋食。一昨日昨日と同じく、トーストと目玉焼きとサラダ。目玉焼きのお供だけベーコンではなくお弁当のあまりのウインナー。

 目玉焼きを二個、蒸し焼きにしていると、匂いに釣られるように、リビングの戸が開いた。

 

「おはよー……」

「おはよう、わため」

 

 しょぼしょぼと目をこすりながら、こちらに歩いてくるわためを見て、俺はグラスに水を注ぐ。

 

「──はいこれ」

「ありがとー……」

 

 キッチンへ入ってきたわためへ、水の入ったグラスを差し出す。迷うことなく、それを受け取ったわためが、くぴくぴと小さく喉を鳴らしながら、中身を飲み干していく。

 

「──ぷはぁ。生き返ったー」

「干からびていたの?」

「違いますー」

 

 茶化せば唇を尖らせて怒るわために、思わず笑いが漏れる。

 

「ごめんごめん。朝ごはん食べる?」

「食べるー。お腹ペコペコ」

「なら良かった。すぐ出来るから待っていて」

 

 わためが起きてくる読みの二人前作成である。「はーい」と答えたわためが、ダイニングに戻ろうとして、足を止めた。視線の先に重箱。

 

「なにこれ?」

「俺の今日のお弁当」

「食べすぎじゃない?」

「だから、俺の分だけじゃなくて、学校の先輩と一緒に食べるよ。あ、脇に置かれた普通のサイズのお弁当はわための分な」

「本当に!?」

 

 興味が瞬く間にそちらへ移った。こちらは手提げの袋に入れられたお弁当を、わためは持ち上げる。

 

「ありがとう! 楽しみにしているね!」

「ああ。でも、出かけるなら、引き続き気を付けてな」

「分かっているよー」

 

 ルンルンとした様子のわためが、ダイニングへ戻りながら、ちょっとおざなりに答える。俺としても、その様子をとがめるつもりは無かった。

 正直、俺としても警戒心はすっかり薄れていて、あまり気にしていない。

 ただ、喉奥に刺さった小骨程度には気になるから、一応というか念の為というか、そのレベルの言葉でしかない。

 

「さてと」

 

 朝食の準備である。時間に余裕はあるが、のんびりしてもいられない。諸々の完成を待ちながら、俺は行動を再開した。

 

 ***

 

 それからしばらく。

 わためと朝食を取り、身支度を整えて、俺は重箱と鞄を手に家を出た。

 約一週間ぶりに袖を通した制服に足取りが軽くなる──ということは特になく。

 重箱の重量もさることながら、今日が金曜日ということを思い出してしまい、少し足取りが重いまである。

 

「……帰りたい」

「いや、何を言っているの」

 

 思わずぼやく、俺の後ろから声がかけられた。

 振り返れば、あきれ顔のスバル。

 

「おはよっ」

 

 片手をあげるスバルへ、「おはよー」と返す。

 

「スバルは今日も元気だね」

「元気があれば何でも出来るからね。ほら、折角復帰初日なんだから、元気出しなよ」

「いや、元気はあるけどさ。なんか金曜って事実が憂鬱なんだよね」

「そう? 今日頑張れば明日は休みだーってならない?」

「昨日まで休んでいたから、今日も休んでれば合法的にもう三日休めたなって」

「元気なのに休むなら、それは非合法なのでは?」

 

 確かに。

 

「まあ登校したんだから、元気にやってこー」

「おー」

 

 突き上げるところまではしないが、拳は上げる。

 そんな俺に、うんうんとうなずいたスバルは、ところで、と話をつなげた。

 

「なにそれ?」

「お弁当」

「大きすぎない?」

「作りすぎちゃった」

「ちゃったで済ませる量じゃないだろ」

 

 ズシリと重いことは否定しないが。

 あきれ顔を浮かべるスバル。「大丈夫」と、俺は自信をもって返した。

 

「フブキ先輩とミオ先輩と一緒に食べる予定だから」

「それは大丈夫なの?」

「ちゃんと伝達済み」

「なら大丈夫……なのか?」

 

 それでも何か引っかかるらしい。首を傾げるスバル。

 そんな彼女の疑問解決を待ちながら、並んで歩いていると。

 進行ルート上に、ぽっかりと出来たエアスポット。黄色い声援をあげながらも、一定距離から近づこうとは誰もしない。

 その中心にいるのはすいちゃんだった。

 

「相変わらず目立つなー」

「そうだねー」

 

 壁を抜け、エアスポットの中に入る。

 中心にいるすいちゃんは、普段の快活な印象を潜め、ちょっと怠そうにしていた。

 

「おはよ、すいちゃん」

「おはよっス」

「……帰りたい」

「……」

 

 挨拶に対して返ってきた言葉に、スバルが俺を見る。

 別に狙っていたとか、仕込んでいたとか。そういう事実は無いので、首を振って返す。

 視線を再びすいちゃんへ向ける。

 

「今日休めば、合法的に三日休めるのに」

「すげぇ、同じこと言っている」

 

 すいちゃんの言葉を聞いて、スバルがそう漏らす。

 

「すいちゃん。元気なのに休んだら、それは非合法なんだよ」

「正論うるさい」

「……言ってやってくださいよ、スバルさん!」

「今のを聞いてから、言いたくないんだけど」

 

 泣きそう。

 とはいえ、今日はねむいすいちゃんらしい。

 

「スバル、これ、持っていて」

「ん? いいけど」

 

 重箱を持たせる。「うお!?」とびっくりしたスバルをおいて、鞄を漁ってパックのリンゴジュースを取り出した。

 ストローを刺して、すいちゃんへ差し出す。

 

「はいこれ」

「……」

「え、なに? 持ち歩いているの?」

 

 無言で受け取ったすいちゃんが、ストローを咥える。

 その間に、スバルから重箱を受け取る。やっぱり重い。

 

「──おはよ、二人とも」

 

 目が覚めてきたらしい。挨拶してきたすいちゃんへ、スバルと二人でおはよーと再び挨拶。

 

「眠そうだねぇ」

「疲れてるのよ」

 

 すいちゃんがぐるりと首を回せば、それだけで何度か音が鳴るのを聞いて。

 

「おつかれさま、すいちゃん」

「おつかれさまー」

 

 スバルと二人で、すいちゃんをねぎらう。

 

「ありがと。──ところで、何その大荷物?」

「あ、やっぱり気になるんだ」

 

 すいちゃんが、重箱を指さすと、スバルがうんうんと、納得した様子を見せる。

 

「スバちゃんは何か知っているの?」

「お弁当って言ってたよ」

「お弁当……随分食べるのね」

「まさか。一人分じゃないよ」

 

 すいちゃんの言葉にそう返せば、何故か満足そうに頷くすいちゃん。

 何故そんな反応を見せるのだろうか。良く分からぬまま、言葉を続ける。

 

「フブキ先輩とミオ先輩と食べる予定」

「……」

「危なっ」

 

 無言で急に足を踏みに来たすいちゃんを躱す。

 ただ、一度躱された位では許されず、二度三度と、すいちゃんからの追撃。

 

「急にどうしたの!?」

「なんか踏みたくなった」

「理不尽!」

 

 最後の一撃を飛びのいて躱して、「すいちゃんも」と声掛け。

 

「一緒に食べない?」

「……」

 

 ぴたりと止まった。続ける。

 

「ほら、この前先輩と会わせるって約束もしたしさ。俺も折角だからちゃんとすいちゃんの事を先輩に紹介したいなって」

「……まあ、どうしてもって言うならいいわよ」

「どうしても。お願い、すいちゃん」

「……分かった」

 

 頷くすいちゃんに満足して。俺はスバルの方を見る。

 

「スバルも食べる?」

「私はいいや。母ちゃんのお弁当あるし。また今度ご馳走してよ」

「うん、了解」

 

 スバルの言葉にうなずいて。それを見たスバルもまた、満足そうに頷く。

 

「じゃあ、学校行こうか。このままここで喋っていてもしょうがないし」

「おー」

「ええ」

 

 スバルの言葉に頷いて、俺とすいちゃんはスバルとともに歩き出す。

 まさかあんなことになるだなんて。この時の俺は予想だにしなかったのだった。

 

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