大空スバル
星街すいせい
天音かなた
百鬼あやめ
雪花ラミィ
大神ミオ
スバルとすいちゃんと並んで、校門を通る。
遠目から観察というか監視されているのは、多分転校初日の騒動が原因だろう。
「人気者ね、あんたも」
「スバルには負ける」
「確かに。スバちゃんには勝てないわ」
「おかしいだろ。ていうか、今更だけど何でスバルが真ん中なんだよ。すいちゃんじゃない、普通?」
それは自然とそうなったとしか。
俺は車道側を歩くようにしているから一番右を取っただけだし。
「私の隣を歩いていいのなんて、スバちゃんだけだからね」
「……」
「怖い怖い怖い!」
何やらスバルが怖がっている。不思議なものだ。
すいちゃんなんかウキウキだし。
二人の反応を不思議がっていると、とん、と後頭部を軽く叩かれた。
「よっ」
そのまま挨拶された。振り返れば、俺を叩いたと思われる左手が、あげられたまま。
相変わらず小さなその先輩へ、頭を下げる。
「おはようございます、天音先輩」
「おはよう。体調はどう?」
「おかげさまで。先週はありがとうございました。無理言ってすみません」
「利用予約無かったし、使用申請書は貰っているから、気にしなくて大丈夫だよ」
「ですが」
そうは言うが。唐突に電話で、「講堂を使わせてください!」と言ってきた後輩に、理由も聞かずに「いいよー」と二つ返事で返してくれたのだから、頭が上がらない。
「これも日頃の行いって事。あ、二人ともおはようー」
「おはようございます、天音先輩」
「おはようございます!」
天音先輩が、俺の脇を抜けてスバルとすいちゃんに挨拶に行き、一人残される。
「本当に頭が上がらん」
他にも頭が上がらない人は大勢居るが、あの人は別格というか。
「だよなー」
俺の言葉に同意する声が、隣から聞こえてきた。
視線を向ける。分かり切っていた声の主は、俺と目が合うと、「よっ!」っと快活に手を挙げた。
「おはよう、百鬼」
「なんか久しぶりだなぁ。元気そうで良かった!」
「ああ、ありがとう。百鬼は相変わらず元気そうだな」
「──元気が無いとやってられないからな」
ふっっと、遠い目をする百鬼。見覚えがある。昨年の今頃、天音先輩が同じような目をしていた。
「忙しそうだな」
「そうなんだよ。定常の業務に加えて、学期末だし進路のあれこれもある。時期会長への引継ぎの準備とかもぼちぼち始めないとだしなー」
「また手伝い行くよ。去年も手伝ったから、猫の手よりは役に立つだろ」
「助かるー。いやー、私はお前様にも頭が上がらないな」
「そりゃどうも。俺は相変わらず、その呼ばれ方が少し恥ずかしいわ」
俺の言葉に、百鬼がケラケラ笑って。それから、視線を前方。こちらを見ている、三人へ移す。
「二人とも、おはよー! 天音先輩もおはようございます!」と、元気に前の三人へ駆けていく。
その背を追うべく、俺も止めていた足を動かして追いつき、そのまま昇降口へ入り、靴を履き替える。
学年の違う天音先輩と別れ、クラスの違うスバルと百鬼とも別れ。
俺はすいちゃんと並んで教室の戸を開けた。
直後、どっっと、空気が浮足立つのを感じて、思わず退く。
「なんか怖いな」
「流石人気者」
「すいちゃんがね」
教室に入って、そのまま席に着くと、瞬く間に囲まれた。
右から左から前から。言葉の波が押し寄せる。
やれ、体調はどうだ、とか。
やれ、ノートは見るか、とか。
やれ、その大荷物は何か、とか
やれ、すいちゃんとの思い出聞かせて、とか。
やれ、もてる秘訣を教えて、とか。
最後については何の話じゃと思いながら、あははと乾いた笑いを漏らす。
こういった状況への憧れが無かった訳では無いが、実際その状況になると成程、疲れる。
それに、すいちゃんが目的な事が透けているから、より面倒臭さを感じる。
俺はのんびり、親しい人達と会話出来ればいいやとそんなことを考えながら、一応は返せるだけの返事をこなす。
体調は平気、ノートは幸いあてがあるから大丈夫、この荷物はお弁当。
すいちゃんとの思い出はすいちゃんの許可が無いと話せなくて、もてている自覚は無い。
お弁当と言った時にちょっとざわついたり、最後の言葉には何故か一部男子が歯ぎしりしていたが。
概ねそんな感じに、追加された質問も含めて淡々と返している内に、朝の鐘が鳴った。
その音に合わせて、蜘蛛の子を散らすように、各々が自分の席へと戻っていく。
「……帰りたい」
「お疲れ様」
言葉を漏らす俺に、すいちゃんがそう言って笑った。
「他人事だと思った」
「実際そうでしょ」
「……まあ確かに」
そう言われたら納得するしかない。
「おーし、席に着けー、静かにしろー」
そんなありふれた事を言いながら、担任の教師が扉を開けて入ってきた。
ぴたりと、ざわつきの残っていた教室が鎮まる。俺とすいちゃんも、会話を止めて前を向いた。
「さてと休みは──大丈夫そうだな」
教室内を一瞥し、席の抜けが無い事を確認した担任が、出欠簿へとチェックしていく。
それをクラス全員分終えたあたりで、もう一度クラスを見渡し、一つ頷く。
「──よし、全員居るな。連絡事項は特に無し。一限はこの教室だから、遅れるなよー」
はーい、と、まばらな返事がクラスにあふれる。
「んじゃ、SHR終わり」
そういった次の言葉は、俺の名前だった。手招きされたので、大人しく近づく。
「復帰、今日からだったか」
「はい」
「今日金曜だし、来週からにすれば良かったのに」
おい、教師。
「あまり休み過ぎても内申に響きそうですから」
「ん、そうか。ちなみに進路指導用の用紙って受け取ったか?」
「大丈夫です。星街さんから受け取りました」
「ならいい。復帰明けだ、無理するなよ。何かあれば、保健室に行ってもいいから」
「はい、ありがとうございます」
「その時は、ついでに癒月先生に、俺がいい先生って伝えておいてくれ」
「分かりました」
どら教師って伝えておこう。
頷いた俺に満足したようで、担任は軽く手を振りながら踵を返し、そのまま教室を出て行った。
席に戻ると、すいちゃんが俺の机を漁っている。
「何しているの?」
「教科書を借りようかと思って」
「忘れたの?」
「そもそも買っていないの」
まさかである。
「なんで?」
「もう数が月で進級だし、そうしたら新しいの買うでしょ? なんか馬鹿らしくない?」
「分からなくもないけど、家で使えないの、不便じゃん」
「図書館にコピー機あるでしょ」
「……成程、確かに」
「納得するんかーい」
数ヶ月だけ乗り切るなら、それもありかもしれない。
そう考えた俺だったが、そんな俺にいいんちょからツッコミが飛んでくる。
「おはよう、いいんちょ」
「おはよー……じゃない! おかしいでしょうが!」
「そう?」
「そう! いくらコピー出来るからって不便でしょうが! 紙だってただじゃないんだからね!」
「それは確かに」
プリンター自体は使い放題に使えるが、インクや紙面は無限じゃない。
「それに」
「うん」
「そもそも教科書のコピー自体、禁止でしょうが」
「……そうだよ、すいちゃん。コピー禁止だよ」
「そうなの?」
「うん」
まあ、多少は問題ないというのも、公然の秘密だが。常識の範囲内で、少しコピーするくらいなら別に何とも言われない。
ただそれも、友人知人の私物の教科書を数頁程度が前提。
図書館に置いてある教科書は、コピー禁止とされて居るし、友人の物でも何十頁と印刷しようものなら、流石に見咎められる。
因みにこのルールは、かつてこの学校の生徒で、教科書を買うお金を渋って、図書館の教科書全コピーで乗り切ろうとした、色々と紙一重な生徒が居た事で出来たルールらしい。
「成程ねぇ」
その話を聞いて、ふむふむと納得した様子を見せるすいちゃん。
「なら私はどうしたらいいのよ」
「いや、新しいのを買えばいいと思うけど」
うんうんと、いいんちょも頷く。
「──あ、それかさ」
ふと、あることを思いついた。
それを口にすると、「おー」といいんちょが声を漏らした。
「確かにありかも? まあ、相手次第だろうけど」
「それは聞いてみてかなぁ」
まあ、ほぼ大丈夫な気がするが。推しに貢げる機会を、早々逃す事も無いと思うし。
すいちゃんはどうだろうかと思って様子を窺うと、何故か苦虫を嚙み潰したような顔をしていた。
いや、そこまでの顔をする理由とは。
「どうしたのさ、すいちゃん」
「別に……何でもないけど」
「全然何でもない顔じゃないけど」
兎に角嫌そうというかなんというか。
借りなんか作りたくないんだがといった具合の顔。
「俺が言うのも変だけど、大丈夫だと思うよ? 言えば二つ返事で貸してくれると思う」
「そういう問題じゃないのよ」
「そうなんだ」
違うらしい。じゃあ、分からないとしか、答えようがない。
「──とりあえずいいわ。確か、今日会えるわよね?」
「その予定だよ」
昼休みに一緒に食べる予定だ。俺の言葉に、すいちゃんが、よし、と意気込む。
「せいぜい見極めてあげるわ」
「……頑張ってね!」
すいちゃんの言葉に、良く分かっていないだろうにいいんちょが背中を押す。
そんないいんちょへ、サムズアップするすいちゃんを見て、何をそんなに意気込んでいるのだろうと思っていると、スマホが震えた。
取りだして確認。ミオ先輩からだった。
『こっちは問題なさそうだったけど、そっちは大丈夫?』
すいちゃんを見る。こぶしを握り、やる気充分といった様子。
『問題無いです。予定通りで。ただ、すみません。一人、ちょっと追加が』
『そうなの? 君の友達とか?』
『ミオ先輩とフブキ先輩も知っている人なので、大丈夫だと思います』
『了解だよー』
がらりと、教室の戸が開いた。
慌ててスマホを仕舞う。取り上げられたら、たまったもんじゃない。
「はーい、席ついてー」
科目担当の教師の言葉に、クラスメイト達が動く中。
俺は机を動かして、すいちゃんの机とくっつけた。その境へ、教科書を置く。
「よろしくね」
「ええ」
俺の言葉に、すいちゃんが頷く。
そのことに俺は満足しながら、黒板へと向き直った。
文章の構成はどちらがいいですか
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全部詰める(全話までのやり方)
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地文と会話文の間に改行を入れる(今回)