ホロ学園の「俺」君物語   作:零円

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登場ライバー
白上フブキ
大神ミオ
星街すいせい


Eve、部室2

 フブキ先輩の視線が俺へ向く。

 

 ──どこまで話したの!? 

 ──そんなに多くは。普段の過ごし方を話した位で。

 ──このおばか! 

 

 アイコンタクトで怒られた。別に変な事は言っていないのだけど。

 

「──作戦会議は終わりました?」

「ひぅ」

 

 アイコンタクトはしっかり咎められ、すいちゃんの視線の温度が下がる。

 無言で立ち上がるすいちゃん。幽鬼のように緩やかに揺れる体は、一見フブキ先輩よりよほど幽世の住人っぽい気がする。

 

「あわわ」

 

 気圧されたのか、ふらりとフブキ先輩が、その場で尻餅をついた。慌てて支えに行こうとした俺の足が、とんと軽く蹴られる。

 そちらへ視線を向ければ、ミオ先輩からのアイコンタクト。内容はシンプルに、行かなくていいと。ただそれだけ。

 そう言われてもである。ただ、制止を振り切れるほどの反骨精神をミオ先輩へ抱いている筈も無く。

 戸惑う俺を他所に、時間は進む。事態は動く。すいちゃんが歩いた。

 一歩ずつ近づくすいちゃんに合わせて、フブキ先輩が後ずさる。

 途中ミオ先輩の方へ助けを求めていたが、残念ながらそれすら無視され、涙目になったフブキ先輩がそのまま壁際まで追いつめられる。

 

「それで」

 

 すいちゃんが口を開く。怒気は無く、あくまでも冷静な声色。それが逆に怖い。

 

「何していたんです?」

「な、なにもー、してないよー?」

「へぇ?」

「ひぃ」

 

 三角耳を抑えてプルプルしているフブキ先輩。

 4つの耳を抑える高等テクを披露しながらの防御姿勢。

 お構いなしに、俺の制止を振り切ったすいちゃんが言葉をかける。

 

「一緒にお泊りしたんですってね」

「……」プルプル

「まあ大神先輩も居たようですけど」

「……」コクコク

 

 当たり前だが聞こえているらしい。首を縦に振り、無実を主張している。

 

「でも、大神先輩抜きでもお泊りしたんですよね」

「……フブキー?」

「……」プルプル

「正座」

「はい!」

 

 ミオ先輩の一声に、防御姿勢を辞めたフブキ先輩が、ピシッっと完璧な正座を決める。

 一応フブキ先輩の方が立場は上だった気がするが。なんとなく俺も居住まいを正す。

 

「聞いていないよ?」

「と、泊まりに来ているのはいつもの事だったし、大丈夫かなーって」

「何回くらい?」

「ち、ちょっとだよ? 二回とか、三回とか……ね?」

 

 フブキ先輩が俺を見る。首を縦に振る。

 

「嘘ね」

「嘘だね」

「下手くそー!」

 

 無茶言わないで欲しい。そんな器用じゃない。

 そして、この期に及んでのこの態度に、ミオ先輩も本腰を入れる事にしたらしい。

 

「本当のこと言いな?」

「えっと……」

「証言人」

「去年の今頃からです。ミオ先輩が幽世に戻っていて寂しいからという理由で何度か」

「具体的な回数は?」

「月1回は最低でもありましたね」

「ウチが居ない時、ほぼ呼んでんじゃねーか!」

「素直かよぉ!」

 

 白上被告人に怒られるが、星街裁判長に嘘はつけない。

 こほんと、誤魔化す様に咳ばらいを一つして、大神検事に質問される。

 

「ちなみに、シオンちゃんと暮らし始めた後くらいからは?」

「あ、はい。ありました」

 

 検事の視線が被告人に向く。

 

「二人きりになるなって言っておいたよね?」

「い、言われていたっけー?」

「言ったよね?」

「言われていました」

 

 その言葉に、この目になって直ぐに一件を思い出す。

 あの時ミオ先輩は俺が何かに憑りつかれているのではと考えていた。

 そのことを考えれば、成程確かに、俺と二人きりになるなというのは道理だ。フブキ先輩を案じての物だと分かる。

 

「でも、あの時は私としても心配だったし……」

「べ、別に私も心配していなかった訳じゃないけどさ」

「事情は分かりませんけど、シオンちゃんが来る前からお泊りしていたのなら、関係無いのでは?」

「そうだよ! 騙されるところだった!」

 

 被告人が視線を逸らす。まだ何とか、上手く検事を煙に巻こうとしたらしい。

 ここまで来て、まだ諦めない理由は何なのだろうか。

 フブキ先輩の様子を見ると、目が合った。一度離れ、再び合う。フブキ先輩の視線は泳ぎながらも、ちらちらと俺を捉えていた。

 

「あのー」

「何?」

「俺、席を外すよ」

 

 俺の言葉に、すいちゃんとミオ先輩が俺を見る。

 

「どうして?」

「なんか、天音先輩が用事あるらしくてさ。ちょっと行って来る」

 

 立ち上がる。おにぎりを一つだけ回収。

 

「お弁当、食べる時間も無くなっちゃうし、ほどほどにね」

 

 じーっっと値踏みするように見てくるすいちゃんへ笑って返しながら、俺は足早に部室を脱出する。

 出た所で一息吐いて。疑われないように生徒会室の方へ向けて歩き出す。

 

 

 ***

 

 

 閉じられた扉を見る。

 

「あいつは察しがいいのか、悪いのか」

「悪いよりだとは思うけどねー」

 

 勿論、かなたに呼び出されていないことなど、百も承知だ。その上で立ち去るのを許した。

 

「まあ、これで白上先輩の口も多少軽くなるんじゃないですか?」

 

 すいせいとミオの視線が再びフブキへ。びくりと、肩を跳ねさせる。

 

「それで?」

「……深い理由が無いのは本当だよ?」

 

 視線の圧か、立ち去ったからか。

 沈黙か誤魔化しばかりだったフブキが、恐る恐るといった様子で口を開く。

 

「こう、オタク的にさ。自分の趣味の話をちゃんと聞いて、興味を持ってくれたから、元々いい子だなーって思っていたのはあって」

「ちょろ」

「フブキ、話長いからね」

「うるさいな」

 

 辛辣な二人に頬を膨らませつつ、フブキは続ける。

 

「それでほら。去年の文化祭の件もあったでしょ? あれが本当に嬉しかったんだよ」

 

 その言葉に、「ああ」と頷くミオ。一方、何も知らないすいせいは首を傾げてミオに尋ねる。

 

「なんかあったんですか?」

「ホロ学の部活って、作るのは割と条件緩いけど、継続が大変でねー。うちみたいな弱小部は、その継続のために文化祭とかでの発表必須なんだけど、フブキとウチが当日どころか準備期間含めて丸々参加出来なくなっちゃってね。しかも、急な事だったから、参加出来ない旨を彼に伝えられず、しかも連絡も取れない状態になったんだよ」

「そう。だから、きっと帰ってきたら、無くなっちゃっているんだろうなって思っていたんだけどさ」

 

 その日を思い出す。夕暮れの学校。漸く幽世から戻って来られたその足で、フブキは放課後のホロ学へ急いだ。

 部活の時間は酷く楽しかったから。ミオも話を聞いてくれるけれど、何でもかんでもしっかり聞いてくれるという訳ではない。それが普通だ。

 それなのに、彼は自身の全ての時間をかけて、フブキの話を聞いてくれた。そのことに、時間を奪ってしまっていると申し訳なさもあったが。それでもやはり嬉しかった。

 だから、もう終わった物だと知っていても、辛い思いをするのだと分かっていても、それでも確認せずにいられなかったから。

 ただ、そんなフブキの目に入ったのは、『すこん部』と書かれた部室を示す看板で。

 恐る恐る扉に手をかければ、鍵がかかっている筈の扉は抵抗なく開き、いつもの席に座って、彼は自分が消える前にオススメしていた漫画を読んでいた。

 

「それをあの子が守ってくれていたの。私達に怒って、全部投げ捨てたって文句も言われないのに、久しぶりに会った私への開口一番が、体調大丈夫ですかだったんだよ」

 

 その言葉に、戸惑いながらもうなずいたフブキに、彼は笑い。次の言葉は、「オススメして貰ったこれ、面白いですね」だった。

 準備で忙しかったのだろう。読み始めたばかりの様で、まだ三巻までしか進んでいないようだったが。それでも、そこまでの何処が良かったとか、何処が悩んだとか。しっかり読んだのだと分かる位にしっかりとした感想を矢継ぎ早に語り。

 それから「あっ」と声を上げたかと思えば、照れくさそうに笑って。

 

「ごめんなさい。あの、時間大丈夫ですか? お茶買ってくるんで、良ければもう少しだけ付き合ってもらえませんか?」

 

 そう言った。一方的に、時間を奪っていると思っていたフブキへ、時間を共有してくれないかと、言ってくれた。

 

「──急に赤くなった」

「何か思い出しているんでしょ」

「はっ」

 

 二人の声に、フブキが現実に復帰する。

 呆れ顔のすいせい、ミオと目が合い、フブキは誤魔化す為の咳ばらいを一つ挟んで、言葉を続けた。

 

「……それから気になっちゃって。でも少なくとも最初の頃は、本当にミオが帰省で寂しかったのと、買ったばかりのゲームの相手が欲しかったから誘っただけだよ」

「それで?」

「それでまあ、一緒に過ごしているうちにもっとって事、あるじゃん?」

「いや、知らないけど」

「……」

「すいちゃんは心当たりありそうだけど」

 

 静かに視線を逸らしたすいせいを見つつ、フブキが言う。

 

「被告人、調子に乗らない」

「すみません」

「すっかり被告人が板についたねー」

 

 果たしてそれが良い事なのかはさておき。

「そんな感じです」とフブキは締めようとした。

 それをすいせいが許すはずも無く。

 

「まだです。フィギュア問題と二人でお泊り問題が解決していません」

「ふ、フィギュアの方は兎も角、お泊りの方はこれ以上は……」

「なに?」

「何でも無いです」

「あ、敬語じゃなくなった」

 

 いよいよ敬語が抜け、素になったすいちゃんの圧に、フブキは更に縮こまる。

 とはいえ、これ以上語るのは流石に本人が居ないとしても恥ずかしい。というか情けない。

 

「──大丈夫だよ、フブキ」

「ミオ?」

 

 そんなフブキへ、ミオが助け舟を出した。

 

「フブキがヘタレなの、分かっているから」

「ん?」

「どうせフィギュアは、サブリミナル的に刷り込んで意識させられないかなって思っただけだし、お泊りの時はもしかしたら多少頑張ったかもしれないけど、結局はいつも通りゲームしていたかライブ映像見ていただけなんだよね」

 

 助け舟(?)を出した。

 

「そこまで分かっていて、そっち側に居るのは性格悪くない!?」

「それはそれ。約束を破った事実は、まだ許していません。なので、家に帰ったらしっかりお説教します。ただ」

「ただ?」

「あの子の作ってくれたお弁当が流石に可哀想だから、すいちゃんも一旦ここらへんでお開きにしとかない?」

「……」

 

 ちらりと、すいせいの視線が、お弁当を捉える。

 

「……わかりました。じゃあ、続きは放課後って事で」

「はぁ、良か──まだやるの!?」

「……私の話もするので、聞かせて」

「……すいちゃん!」

 

 すいせいの言葉にフブキが感極まって抱き着いている中、ミオがスマホを操作するも。

 

「だめだ。連絡取れないね」

「ああ言った手前、本当に生徒会の手伝いに行ったのかも知れませんね」

「おにぎり持って行くのは見えたけど、流石に足らないだろうし、残しておこうか。もしかしたら戻ってくるかもしれないし」

 

 ***

 

 そんな会話が繰り広げられているとは露知らず。

 俺は屋上で、空を見上げていた。

 

「いねーなー」

 

 探しているのは、先程廊下で見かけた謎の飛行物体。俗にいうUFO。

 一瞬とはいえ、あんなにはっきり見えたのだ。存外、まだ見えるかもと思ったのだが、見当たらない。

 

 ──さて、どうしようか。部室戻ろうかな。

 

 おにぎりはとうに食べ切った。当然足らず、もう一つくらい持ってくれば良かったと、少し後悔。

 ただ、取りに行くのは、まだ裁判中だと流石に気まずい。

 だからといって、お弁当の時点ですでに予算オーバー気味なのに、これから学食や購買に行くというのも悩み物だ。

 ……まあ、お弁当を食べ切られるという事も無いだろう。余った分を授業の間にでも摘まめばいい。

 そんな事を考えながら、俺は謎の飛行物体探しを再開しようとして、スマホの着信に気が付いた。

 ポケットから取り出し、連絡元を確認。天音先輩だった。

 

『今日の放課後、用事ある? 無ければ、生徒会室に来てくれない?』

「珍しいな」

 

 天音先輩からの連絡はたまにあるが、生徒会についての打診は数える程度だ。

 

『了解しました。向かいますね』




寝落ちしました、すみません。
次は12時間後になります。

文章の構成はどちらがいいですか

  • 全部詰める(全話までのやり方)
  • 地文と会話文の間に改行を入れる(今回)
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