ホロ学園の「俺」君物語   作:零円

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登場ライバー
天音かなた

30日12時にも更新しています


Eve、放課後

一切の雑音をたてる事無く、カップが2つ、テーブルへ置かれた。

カップからは、芳醇な珈琲の香り。流石に豆の種類とかは分からないが、インスタントで無い事位は分かる。

早速味わおうかと思ったが、今日の俺はどちらかといえばホスト側。

流石にクライアントを差し置くわけにはいかないので、俺は対面に座る天音先輩へと視線を移す。

天音先輩はカップを手に取り顔まで持ち上げると、先ずは珈琲の香りを楽しんでいる様子。

それから割としっかり目に吐息をかけて冷まし、一口。静かに頷く。

 

「……ちょっと面白いですね」

「何が?」

「天音先輩が流し目で珈琲を飲んでいる光景」

「ぶっかけるぞ」

 

「全く」とぼやきながら、対面に座る天音先輩は改めてカップを傾ける。

ただ流し目は辞めている。やっぱりちょっと格好つけていたらしい。

気持ちは分かる。生徒会室であるなら、いざ知らず。俺と天音先輩が今いるのは、駅から少し歩いた所にある、おしゃれな喫茶店。以前スバルと一緒に来た店だ。相変わらずのアダルティな雰囲気に充てられても、おかしくない。

 

「言っとくけど、女の子相手にそういう事、言うもんじゃないからね」

「天音先輩にしかこんな事言いませんって」

「僕の事、何だと思っているのさ!」

「大恩人です」

「相応の態度を見せてよ⁉」

「天音先輩マジ天使」

「そうだけどそうじゃない!」

 

まあ言いたい事は分かるけど。

 

「……生徒会室が頭から離れないんですよね」

「……」

 

静かに視線を外された。言わんとせんことは伝わったらしい。

 

「ちなみに鍵見つかりました?」

「まだなんだよねー」

 

そう言った天音先輩がうーんと首を傾げる。心当たりは、相変わらず無いらしい。

俺が天音先輩と出会って、1年以上。生徒会室の惨状がそれより前からという事から考えても、まあ、恐らく鍵は無いだろう。誰かが間違えて持って帰ったとか、そんな所だろうか。

正直、怖い物見たさ以外に、あの開かずの部屋を開けたいとは思わない。多分、とんでもない事になっている。業者案件だ。

そして天音先輩もまた、同じ考えらしい。カップを置いて、遠い目をする。

 

「正直あのまま封印しておきたい」

 

その言葉に何も返せず、誤魔化す為に俺もまた珈琲を一口。美味しい。

苦みを楽しむ俺の前で、「それにしても」と言いながら、天音先輩がきょろきょろと辺りを見渡す。

その仕草は、観光中のわために似ていた。おのぼりさんというか、そんな感じ。

 

「君ってこういう喫茶店にも詳しいの?」

「いえ。以前来た事があったので、知っていただけです」

「それって学校帰り? ダメだよー、寄り道しちゃ」

「なら天音先輩も今寄り道しているので共犯ですね」

「生徒会権限で私は治外法権だから」

 

生徒会って校則まで思いのままだったのか。

 

「内申点だって稼げるし、入りたくなった?」

「いえ、特に」

 

特に破りたい校則がある訳でもないし、内部進学で考えており、現状維持出来れば基準は充分満たしているはずだから、内申点を盛りたいという事も無い。

 

「でも、放課後の拘束とか、イベントごとで忙しいのはあるけど、それこそ今更でしょ? なら、正式加入したほうが、メリットが受けられて得だと思うけどなぁ」

「それはまあ、そうかもですけど」

 

それを言い出したら、そもそも生徒会役員でない奴が手伝うのがおかしいという話もあるが。本人も気づいているだろうから、口には出さない。

それに、ほぼペーパー部活のすこん部しかり、色々と体制へ反逆する組織に在籍する立場からすれば、生徒会に籍を置いてしまうと、いささか都合が悪かったりするのだ。

 

「ていうか、その話をするのに、誘ったんですか?」

「ううん。正直特に用事は無かったんだよね」

 

そう言って、珈琲を一口。

 

「ただほら。君とこういう席を一緒したこと無かったからさ」

「……そう言われるとそうですね」

 

仕事終わりに生徒会室でお茶をする位のことならたまにあるが。態々こうして時間を合わせ、寄り道ということは確かにない。

関係値は特に低くない……と思う。低くはないが、ただ友人かと問われると少し微妙。

付き合いとしては、ホロ学の中では最も長いが、多分フブキ先輩やミオ先輩の方が濃い時間を過ごしている。

改めて、俺と天音先輩の関係って何なんだろうか。謎だ。

 

「これからはこういう席を設けますか?」

「それも悪くないかもねー」

 

本気か冗談か。いまいち読めない声色の天音先輩。深い考えは特に無いのだろうと思い、俺も珈琲を一口すする。

昼休みに俺のスマホへ、天音先輩からメッセージが入った。

 

『今日の放課後、用事ある? 無ければ、生徒会室に来てくれない?』

 

天音先輩からの業務連絡。たまにあるが、それでも数える程度。

珍しい事なと思いつつ、『了解しました、向かいますね』と返答し。

仲良くなったらしいすいちゃんが、すこん部に向かうのを見送ってから、生徒会室へと向かった。

生徒会室に着くも、扉を開けようとするも、生憎と施錠中。

一般生徒の俺には生徒会室の鍵を借りる権限は無い為、素直に待つこと暫し。

 

「お待たせー」

 

手をフリフリ振りながら、天音先輩が現れた。

俺より破壊力があるだろうその手に、見たところ鍵は無い。

 

「お疲れ様です」

「お疲れ。待たせてごめんね」

「いえ、今来たので」

 

返しながら、道を開ける。

てっきり、そのまま扉を解錠し、中に入るものかと思ったが、天音先輩は振り返った。

 

「それじゃあ、行こうか」

「……生徒会室に用があるのでは?」

「今日は生徒会の活動はお休みだからね」

「……そういわれるとそうですね」

 

忘れそうになるが、基本生徒会は週3活動。今日はお休みの日だ。天音先輩は余りにも当たり前に休日活動していたし、それが負の遺産となって、百鬼もちょいちょい休日活動しているから、すっかり忘れていた。

……というか、それならなぜ生徒会室を待ち合わせ場所にしたのだろうか。

内心で首を傾げつつ、引き続き尋ねる。

 

「じゃあ、何故俺は召喚されたのでしょう? 校外活動ですか?」

「だから今日はお休みだって」

「?」

 

てっきりなにか、人手が欲しかったのかと思っていたが。そういう訳ではないのだろうか。

 

「たまには一緒にお茶でもどうかなって」

「お茶ですか?」

「サ店行こうぜ!」

「何キャラですか」

 

――うーん?

 

改めて思い出しても良く分からない。

 

「天音先輩」

「ん?」

「結局何かお話があるんですか?」

 

腹芸というのは苦手だし、天音先輩相手に態々する事でも無い為、素直に尋ねる。

俺の言葉に天音先輩はきょとんとし。その後、ちょっと気まずそうに表情を変えた。

気分を害しただろうか。不安になった俺に天音先輩は気が付いたらしく、表情を改めた。いつもの笑顔だ。

わざとらしく見えるのは、勘繰り過ぎだろうか。

 

「大丈夫。この前の件の顛末とか、色々話したかっただけだから」

「ああ、なるほど」

 

それなら生徒会室でも良かったのではと思いつつ。聞いておきたい事ではあったので、納得する。

 

「すいちゃんについては、学園側から改めて注意喚起して貰ったよ。様子見にはなっちゃうけど、ひとまずはそれで」

「はい」

「あの3人については、君に言われたし特に停学とかの処置はしてないよ。とはいえお咎め無しだとそれはそれで問題だから、反省文と奉仕活動をしてもらう事にしたから」

「分かりました。奉仕活動の日は教えてください。自分も行きますので」

「言うと思った」

 

そう言って、天音先輩が笑う。

3人ともそれぞれの陣営から怒られているだろうし、そもそも俺もやり返しているから、両成敗であるべきだ。

それに、数日寝込んだ原因は歩道橋の件とその後の俺の対応が理由である。

……今更だけど良く生きてたな俺。

 

「他には何かありますか?」

「特に無いよ」

「……無いんですか?」

「無いよ。さっきも言ったじゃない。なんか君が用事無いと誘っちゃいけなさそうな雰囲気出してたから、絞り出しただーけ。私だってたまにはかわいい後輩とお茶したかっただけなのに」

「お茶ならたまにしてるじゃないですか」

「生徒会室以外で」

 

そう言われると返す言葉も無い。疑っていた訳ではないが、それでも変な勘繰りをしてしまい、申し訳なくなってくる。

 

「こんなに戸惑われるなら、やっぱり定期的にこういう席は設けた方が良さそうだね」

「そうですね」

 

卒業間際で多忙な天音先輩と一応来年受験生である俺に、そんな暇があるのが謎だが。

まあ、試験があるとはいえ俺も天音先輩も外部ではなく内部進学だから、問題無いか。

 

「お財布の中身が乏しくない時は、お誘いいただければ行きます」

「乏しい時は?」

「……うち来ます?」

 

正直生徒会室でもいいとは思うが、代わり映えしないのも事実だ。

家になら珈琲も紅茶も緑茶もあるし、お茶請けもある。何時間居ても人に迷惑をかけないのもいい。

俺の言葉に天音先輩は再びきょとん。俺の言葉を頭の中で嚙み砕いているのか、暫し悩み、それからにやりと笑う。

 

「大胆だね」

「そうですか?」

「そうだよ。女の子を家に誘うなんて」

「でも、フブキ先輩とかミオ先輩はしょっちゅう来ますし、なんならシオンやわためは住んでいますよ」

「……純粋だった頃の君を返して」

「酷くないですか?」

 

顔を抑え、わざとらしい泣き真似をする天音先輩へ、ジト目を向ければ。

その反応が面白かったのかケラケラと天音先輩が笑う。

 

「でも、いいね。わためちゃんにも会いたいし、そのうち改めて、遊びに行かせて貰おうかな」

「ええ、ぜひ。その時は事前に一報いただけますと」

「見られたくないものを隠せる?」

「手塩にかけたフルコースをご用意しておきます」

「要らんわ。てか何でよ」

 

天音先輩がいらっしゃるのだからそれくらいはしないとという、信者的発想である。

「まったくもー」と、天音先輩。

 

「他の子にはこんな態度駄目だからね」

「だから天音先輩にしかしませんって」

「それはそれでなんでよ!」

 

そう言われるとなんでだろう。分からん。

うむむと悩んでいると、ふと思い出す。そういえば、似たような態度を取っていた相手が、もう1人居た。

最後に見たのは、多分数年前か。どこかで元気に――はて?

 

「どうしたの? 変な顔して」

「悩み事をしている顔ですけど」

「悩み事?」

「ああ、いえ。特に大した事では――」

 

無い筈がない。

ここ最近、フラッシュバックするように思い出しかけていた時は気がつかなかったが。

何もかも、全て忘れていた。顔も存在も思い出も。ありえない事だ。普通、ここまで綺麗さっぱり忘れない。

理解出来ない状況に、言葉を失う。

 

「大丈夫だよ」

 

頭に柔らかな感触。いつの間にか、隣に座っていた天音先輩に気が付く。

椅子に座り、のばされた手が俺の頭を優しく撫でていた。

普段なら握りつぶさないで下さいねなんて、茶化してしまいそうだが、それが出てこない。

 

「ごめんね、僕も悩んだけど、やっぱり思い出したほうがいいかなって」

「天音先輩?」

「大切な思い出でしょ?」

「……」

 

こくりと、自然に首が動いた。

 

「なら、しっかり思い出して。落ち着くまで、傍にいてあげるから。そんな顔、他の子に見られたくないだろうしね」

 

どんな顔をしているのか、正直自分でも想像がつかないけれど。

 

「ありがとうございます」

 

天音先輩には今更かと思い、俺は素直に身を委ねた。

 

文章の構成はどちらがいいですか

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