ホロ学園の「俺」君物語   作:零円

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登場ライバー
天音かなた


Eve、放課後2

「落ち着いた?」

「……はい、ありがとうございます」

 

 少しだけ泣いて、ごちゃごちゃとした頭の中を、整理して。

 落ち着いた事に気が付いたのか、尋ねて来た天音先輩へ、頭を下げる。

 

「生徒会役員だからね。生徒のケアも仕事の内だよ」

「……去年からずっと、天音先輩には本当に頭が上がりません」

 

 俺の言葉に、静かに天音先輩がほほ笑む。

 それから、「よいしょ」と掛け声を上げ、テーブルの反対側にあった、自分のカップを手元に寄せた。

 元の席へ戻る様子無く、俺の隣に座ったまま、カップを傾ける。

 

「あの事は、生徒会の不手際でもあったし、気にしなくていいのに」

「それでもですよ。やっぱりしんどかったので」

 

 ぽろぽろと本音が零れる。

 

「あの時、普通に接してくれて、嬉しかったです」

「そっか。なら良かったよ」

 

 そう言う天音先輩に驚いた様子は無く。いつもの微笑みを浮かべている。

 それを見て、落ち着いた頭が覚える違和感。

 天音先輩の先程の言動。俺が忘れていることに気が付いていないと出てこない言葉。

 ただ、それを見たうえで、天音先輩が実は、といった発想は出てこなかった。荒唐無稽ながら、しかしシンプルに。

 

「天音先輩って」

「ちょっとだけ、未来が見えたり見えなかったりするくらいだよ。大した事じゃない」

 

 悪戯気に、俺の言葉を遮る天音先輩。

 正に聞こうとしていたその言葉に、寧ろ驚かされる。

 

「凄いですね」

「そうでもないよ。言ったでしょ、大した事ないって。読める相手や時間が調整出来る訳じゃない。見たい物が見る事が出来るわけじゃないからね。今もこんな感じの事が聞きたいんだろうなって思って、先回りしただけだし」

「それでも、有用なのでは?」

「私はいらないよ」

 

 物憂げな天音先輩に、人の未来を見る事が出来るという事が、どういう事か想像出来ない俺は、そういうものなのかと、納得する。

 神妙な顔をしている事に気が付いたからか、「ま、それでも」と天音先輩は明るい声を上げた。

 

「今回は役に立ったね」

「そうなんですか?」

「とぼけちゃって。君も、そんな顔を誰かに見られたくなかったでしょ?」

「……うす」

 

 別に天音先輩になら見られてもいいとか、そう言う事も無いのだが……それこそ今更か。

 

「しかし、パニックになっていたねぇ。本当に大丈夫?」

「正直まだ混乱はしています。整理もついていません」

 

 生徒会室の掃除を思い出す。年度分けすらされず、積み上げられた書類の束。

 あんな感じに、色々な記憶が織り交ざって、滅茶苦茶な事になっている。

 どれが正しい記憶がどれかも、正直一見で分からなければ。そもそも、正しくない記憶はどうやって生まれたのか。

 そこら辺も、記憶の整理がついたら分かるのだろうか。

 

「よしよし」

 

 難しい顔をしていたのか、天音先輩に撫でられた。気恥ずかしいが、されるがままになる。

 

「天音先輩は何か知っているんですか?」

「私が見えるのは一部の未来だけだよ。だから、君がどんな道を歩んできたのかは知らない」

「なら今日は──」

「君が傷つくのが見えたからね」

「……ありがとうございます」

「どういたしまして。まあ、もしかしたら私が動いたせいで傷つく可能性もあるけど」

「……」

 

 とんだマッチポンプである。

 いや、もしかしてこれすら事前に見ていて、俺に気を遣わせないための言動だったりするのだろうか。

 

「疑心暗鬼になってきました」

「ね? こんな物はいらないでしょ?」

 

 少なくとも、今現在、救われているのは間違いないので、一概には言えんが。なんとなく、言わんとせんことは分かった。

 

「それで──聞いても大丈夫な話?」

「……ええ、まあ。隠す事でも無いですし、混乱を落ち着ける為にも、聞いてほしいです」

 

 手を上げ、ウェイトレスの方を呼ぶ。

 すっかり冷めた珈琲を一口に煽り、天音先輩のと二人分、新しい物を注文した。

 

「俺には今、二つの記憶があります」

「二つ?」

「はい。期間は小学一年の冬から、中学一年の春までの間。一つは、今まで覚えていた、何もない日々です。親の仕事に合わせて引っ越しばかりして、ずっと一人で過ごしていた記憶」

「そうだね。聞いたこともあるよ」

「もう一つは……あー。何を言っているのかと思われるかもしれませんが」

「うん?」

「みょうちくりんな人達に拾われて、中学入学直後まで、その人達と一緒に過ごしていました」

「みょうちくりんな人達って?」

「……秘密結社holoXです」

 

 俺の言葉に、何を言っているんだという顔をする天音先輩。

 多分、思い出す前の自分でも、同じ顔をするし、なんなら初めてこの名前を聞いた時の俺も、同じ顔をしていただろう。

 

「秘密結社?」

「少なくとも、自分達の事はそう言っていましたね」

 

 その割に、俺が拾われた時は三人。総帥のラプラス……なんちゃら・ダークネスに、幹部の鷹嶺ルイと博士の博衣こより。

 俺が追い出される一年前位に用心棒の風真いろはが入って四人だ。片手で数えられる。

 

「その人達と一緒に居たの?」

「はい」

「学校は?」

「小学校は通っていないです」

「え、うそ?」

「本当です」

 

 holoXの秘密基地で、理系科目はこよ姉、文系科目や実技はルイ姉に教わっていた。

 

「死にかけていたところをラプラスに拾われて、そのまま居つかせてもらいました」

「……」

「酷い雪の日に、すいちゃんに会いたくて、着の身着のまま家出をして、道に迷って。凍えて凍死寸前の所を、拾われました」

「……それ、私以外には言わない方がいいよ?」

「……そうですね、そうします」

 

 唯一の小学生時代の思い出なのだが、言ったら怒られそうだ。

 天音先輩が、驚いた顔をしている物だから、なんか面白くて笑ってしまう。

 

「拾われた後は?」

「変わらないですよ。すいちゃんに会いに行こうと脱走しようとして、その度に捕まってを繰り返していました。

 その内、そのことを面白がったのか面倒くさくなったのか、ラプラスの奴から色々教えてやるって提案されまして。今のままだと逃げられないとは悟っていたので、その話に乗りました」

「小学校に行けなかったのは脱走対策?」

「それもあるとは思いますけど、俺も特に望みませんでした。すいちゃんのいない学校に通いたいとは思わなかったので」

「……すいちゃんのいる学校に通いたいって言ってみれば良かったんじゃない?」

「……確かに」

 

 その発想は無かった。目から鱗を落とす俺を見て、天音先輩が笑い声をあげる。

 

「頭固いねぇ、相変わらず。ちょっと安心しちゃった」

「安心?」

「君が君のままって事」

 

 微笑む天音先輩の言葉が今一掴めず。首を傾げながら、珈琲をすする。どこまで話したかと逡巡していると、「それで」と天音先輩。

 

「その後はどうしたの? そのラプラスさん? に色々教わったんだよね?」

「断固あいつに教わる事なんて何もありませんが」

「急にどうした」

「……すみません。つい」

「ついで出る圧じゃないのよ」

「いや、本当に。なんか反射的に出てしまったという」

 

 自身の機微が掴めない。

 

「俺は十歳頃にはもう、こいつに負けるなら死んだ方がマシ位に思っていたというだけで」

「覚悟決まり過ぎでしょ。何をどうすれば、一緒に住んでいる相手にそこまで思えるのよ」

「……なんででしょうね」

 

 完全に整理出来た訳ではないが、思い出した限りでも拾われた恩の自覚はあったし、憎くて仕方が無かったということも無い。

 だから、ここまでの感情の理由が、どうしてもつかめない。

 

「なんかこう、居ません? こいつにだけは死んでも負けたくないって人。それがラプラスだったんだと思います」

「ああ。ライバルみたいな感じだ」

「はい。宿敵です」

「だから何で拾ってくれた相手を敵認定しているの君は」

「そこらへん、まだちょっとごちゃごちゃしていて」

 

 思い出したいような、出したくないような。複雑な心境である。

 

「まあともかく。ラプラスの鶴の一声で色々教わることになりましたが、実際俺が教わっていたのはルイ姉さんとかこよ姉さんとかなので」

「じゃあそれでいいとして……それで? 色々教わった後はどうしたの?」

「どうもこうも無いですよ。最初は教わってばかりで、そのうち現地研修ってラプラスが言い出したので、holoXの仕事に駆り出されて。あっという間の六年間を過ごした後は……」

 

『なー、幹部―』

『ん? どうしたのラプ?』

『……あいつ、追い出そう。もう充分だろ』

『は? ちょっと、何言って』

『ほら、今後博士のやっている定期健診あるだろ? あのタイミングでさ、こう、いい感じに』

『ラブ!』

 

「後は?」

「あっさり捨てられました」

 

 珈琲を飲む。苦みのある液体と一緒に色々な物を飲み込んで、言葉には乗せないように気を付ける。

 

「記憶を変えられて、気づけばただの中学一年生。そこからの記憶は一本道です。中学三年間は、転校を繰り返しながら過ぎ、去年ホロ学に入学しました」

「──どうして急に?」

「さあ? そこまでは聞く度胸が無かったです」

 

 途中で逃げ出して。その後は自室のトイレで力尽きるまで、滅茶苦茶泣いて滅茶苦茶吐いた。

 

「──ありがとうございます、天音先輩」

「……なにが?」

「思い出す覚悟が出来たので。お陰で取り乱さずにすみました」

「それはいいけど……。本当に忘れて良かったの?」

「──はい。良かったんです。それに話を聞いたあと、俺はラプラスに問いただすような事もせず、全部受け入れた上で記憶を捨てましたから。文句を言う筋合いも、ありません」

「それは違う」

 

 きっぱりと、俺の言葉を天音先輩が否定する。

 

「結果的にそうなっただけで、君がその話を聞かなかったら、何も知らないまま、そこまで取り乱す程に大切な物を奪われていたんだよ? それに、君は受け入れたんじゃなくて、受け入れされられたんだ。なんだかんだ言って、嫌われたくなかったでしょ?」

「……そんなことないです」

「素直じゃないなぁ」

 

 今ならシオンが、俺の背中に見た物が分かる。あれを見たら、確かにドン引きするだろう。それくらい、あのクソガキには感謝していたし、一緒にいたかった。

 ──だから、あいつが俺を追い出す算段を立てていた時、結局俺はそれを受け入れた。言い合いの末、直接それを伝えられたら、正気を保てていたかも分からない。

 

「機会があったら、しっかり話してね」

「……はい、そうします」

「よろしい」

 

 くーっと、残った珈琲を飲み切る天音先輩。それに倣って、俺も飲み切る。

 

「遅くなっちゃったし、今日は解散しようか」

「そうですね」

 

 時間は三時間ほど経っていた。思ったよりもがっつり、時間をかけていたらしい。

 

「すみません、付き合ってもらって」

「いいっていいって」

「ここは出します。というか、出させてください」

「そう? ならお願いしちゃおうかな」

「はい、ありがとうございます。あ、その前にお手洗い行ってきますね」

「いってらっしゃーい」

 

 席を離れ、トイレへ入る。

 鏡を見れば、成程、酷い顔だ。水を流し、冷水を顔にたたきつける。

 何度かそうして、ハンカチで顔を拭い、一息。少しはマシになった。シオンには、気づかれてしまいそうだが。

 

「なんて説明するかな」

 

 ……まあ、あいつなら「へぇ」で済ましかねないから、そこまで気を張る必要も無いか。

 トイレを出て、天音先輩に合流する。そのままレジで精算して、駅前へ。

 

「それじゃあ、私こっちだから」

「送ります。もう暗いですし」

 

 放課後から更に時間も経っているから、日はすっかり暮れて、街頭こそあるがかなり暗い。それ故の言葉だったが、天音先輩は大丈夫とそう返す。

 

「遠回りになっちゃうからね。いざとなれば飛んで逃げるから」

「……飛べるんですか?」

 

 それにしては、背中の羽はやや心許ないサイズであるが。

 

「天使なんだから、飛べますー。今は小さくしているだけなんだから。飛ぶときはもうばさーだよばさー」

 

 思い切り手を広げてサイズアピールをする天音先輩。思わず頭を撫でる。

 

「子ども扱いしない!」

 

 払いのけられた。

 

「まあ、とにかく。そういうことだから、送らなくて大丈夫。ありがとうね」

「……いえ。そういうことでしたら。お疲れ様でした、天音先輩。また一緒にお茶しましょう。今度は俺から誘いますね」

「お疲れ様。それなら、今度は僕が払ってあげる」

「はい、お願いします」

 

 天音先輩がひらひらと手を振る。

 そんな天音先輩へ一礼。頭をあげた後、様子見すれば。天音先輩も同じく様子見。

 暫しの間、見つめあって。お互いに噴き出す。

 

「やっぱり送っちゃだめですか?」

「そうだね。じゃあ、お願いしちゃおうかな」

 

 暫し笑った後の提案は受け入れられ。俺は天音先輩と並んで、あるき始めた。

 

***

 

「で? こんなに遅くなった理由は?」

「ちょっと、送迎していまして」

「何処まで?」

「此処から十キロちょいかな……?」

「連絡しなさい」

「すみません」

「お腹すいたー」




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