ホロ学園の「俺」君物語   作:零円

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登場ライバー
ラプラス・ダークネス
沙花叉クロヱ


遅れました、すみません。


Last Day
01


「元気していた?」

「まあまあ。お前は?」

「まあまあ」

 

「雪降ってんね」

「見りゃわかる」

「それもそうだ」

 

「炭酸のが良かった?」

「こんな寒い中、飲みたくねーよ」

「それもそっか」

 

 そんな、他者が聞いたら地獄のような会話が、微妙な距離を開けたまま、ぽつぽつと続く。

 緊張しているのだろうか。昔はラプラスが喋り続け、俺が何言ってんだろうと思っていた筈だが。

 そっぽを向いたまま、時折ちびちびとミルクティーを啜るラプラスに、「びびってんのかー」と煽ってやろうかと思うも、一旦辞める。

 思うところは多分、お互いにある。

 

「──なあ、ラプラス」

「あんだよ」

「何で捨てた?」

 

 俺の言葉に、ピクリとラプラスが反応を見せる。気づかないふりをして、言葉を続ける。

 

「記憶消して、ほっぽりだして。お前が言ったんじゃねぇか、私のって。俺にさ」

「覚えてない」

「噓つくなよ」

 

 珈琲を啜る。会話のボールは、ラプラスの元。

 余りに反応が無ければ新しいのを投げるが、ラプラスの言葉が聞きたい。

 

「──怒ってねーの?」

 

 待った末、ラプラスからの言葉はそれだった。

 何言ってんだと思いながら、言葉を返す。

 

「怒っているに決まっているだろ。何言ってんだバーカ」

「馬鹿っていう方が馬鹿なんだよ!」

「人の記憶、何の相談も無しに奪っておいて、怒っているかも分からん奴の方が馬鹿に決まっているだろ」

「マジレスすんなぁ!」

 

 ぜーぜーと肩で息をするラプラス。

 調子が戻ってきたのを感じて、嬉しさが募る。思わず笑みが零れたのを見咎められて、「怒ってんじゃねーのかよ」と、ラプラスに問われる。

 

「怒ってはいる。ただ喉元は過ぎているから、取り乱しはしないって感じ」

「……天音かなたか」

「ちゃんと知っているじゃん」

 

 驚きは無い。

 秘密結社holoX。自称「エデンの星を統べる者」。

 その目標は、早い話が世界征服であり、相応の力を有している事だって知っている。

 そんなただの学生である俺の動向を探る事くらい、それこそ造作も無い事と分かっている。

 

「まあそんな訳だから、怒ってはいるけど、逆上はしていない。いきなり襲い掛かるみたいなことはしないよ。お前の言葉を待つ余裕もある」

「そうかよ」

「そもそも自分で捨てるって言って捨てたんだ。今更そっちが気まずい様子見せるのは違うだろ」

「……は? 何の話?」

 

 俺の言葉にラプラスが見せた反応に、俺の方こそ首を傾げてしまう。

 

「いや、ルイ姉となんか相談していただじゃん。俺の事を追い出そうって」

「そんな話……」

 

 言葉に詰まったラプラスが、迷うこと数秒。

 

「……お前、もしかして吾輩と幹部の話、盗み聞きしたのか」

「外れ。お前の部屋に行ったら漏れ聞こえきただけ」

「変わらねぇよ! ──あ! だからあの時神妙にしていたのか!」

「それは正解」

 

 こよ姉による定期検診は長く。しかもその間、診察台の上から動くことを許されないから、兎に角暇だった。

 だから、検診前は逃げたり隠れたりしていたのだけど、その時については、俺は大人しく検診を受けた。

 

「……あれは違くて」

「違う?」

「……お前、あの日の前に何が起きたか覚えているか?」

「あの日の前? いつも通り、ラプラスの部屋を掃除させられたくらいじゃね?」

「それじゃねぇよ! てか、それは忘れろ!」

「じゃあ……あの抗争の方?」

「普通そっちだろ」

「日常だったしなー」

 

 世界征服を志す者の宿命なのか、日常的な抗争、ドンパチ的なのは珍しくなく。

 当時はいろはさんの加入から間もなくで幅を利かせていた事もあり、敵対組織の攻勢方法は基本的に遠距離、銃である事が多かった。

 

「でも、何かあったか、特別な事? 撃たれたくらいじゃん?」

 

 背中にあるであろう二発分の銃創。たまたま別方向からの襲撃に気が付いた俺が、ラプラスを庇い、代わりに撃たれた。それだけなのだが。

 

「……本気で言ってるのかよー」

 

 はぁ、と大きな溜息を疲れる。失礼な奴だ。

 

「じゃあ、何だよ。あの後様子がおかしかったのって、吾輩と幹部の話を聞いたからかよ」

「うん」

「健診結果、ボロボロだったぞ」

「そりゃ、あの話聞いてメンタルボロボロ、それに引きずられて体もボロボロだったからさ」

「……ちなみにどこまで聞いた?」

「こよ姉の定期検診で記憶消そうぜって辺りまで」

「序盤も序盤じゃねぇか。聞くなら責任もって最後まで聞けよ」

「とんでもない事言うじゃん」

 

 盗み聞きの責任って何だよ。

 何か良く分からないが、盛大なすれ違いがあったっぽい。

 

「つーか、聞いていたなら神妙にしてんじゃねぇよ! 文句位言えバカ!」

「お前こそ相談しろバカ! 良く分からんうちに勝手に決めやがって!」

「吾輩は総帥だからいいんだよ!」

「いい訳ないだろ! ハラスメントだハラスメント! パワハラ総帥!」

「言いたい事も言えないへなちょこ眷属!」

「なんだと!」

「なんだ!」

 

 ぎゃいぎゃいと、昔の様に暫く言い合う。

 やがて喉が渇いて、すっかり冷めた珈琲を一気に飲み干す。見れば、ラプラスも同じようにミルクティーを飲み干す所だった。

 

「……なんだ。盛大なすれ違いがあって、誤解させたことは認めよう」

「お前がだまし討ちで俺の記憶消した事も認めろー」

「……ごめん」

「はい。許しました」

 

 というわけで、この話は一旦手打ち。

 

「それで」

「ん?」

「この時間は何?」

 

 俺の言葉に、きょとんとして。

 やがてラプラスは口角を釣り上げた。

 その表情は成程、世界征服を目論む秘密結社の総帥らしい。

 

「時間稼ぎ」

「だろうな」

「エデンの園を統べる者として、お前の周りにあふれる特殊サンプルは格好の研究対象だからな。ちょっとばかり、力を貸して貰おうかと」

「だったら、日を改めて、菓子折り持って出直せ」

「それは──吾輩らしくないだろ」

 

 スマホを取り出しシオンへかけるが、繋がらない。

 メッセージが届く訳でも無く、ただノイズだけが流れてくる。

 

「……」

「吾輩を含めたholoX総動員の作戦だ。止めるには全員無力化必須」

 

 そう言うラプラスに、空き缶を放って渡す。

 しっかりキャッチするのを確認。

 

「止められるものなら止めて見ろ」

「代わりに捨てとけ!」

 

 地面を蹴る。

 ラプラスよりも、シオンやわためが心配で、急いで家に帰る事を選択する。

 

「新人!」

 

 後ろから、ラプラスの声。

 

「止めろ! 手段は問わん!」

「いえすまいだーく」

 

 進行方向より声。直後、明かりに照らされていない街頭の切れ目、暗中からの強襲。

 成程、只の目であれば、反応が遅れそうな所ではあるが。

 

「見えてんだよ!」

 

 突き出されたナイフを躱しつつ前進。伸びた腕をつかみつつ、懐へ入り、逆の手で胸倉をつかみ上げる。

 技のみでなんぞ器用な事は出来ないから、腕力をまで使っての一本背負い。

 直後に違和感。やけに軽い。抵抗が殆ど無い。

 意識を切り替え、たたきつけるのではなく投げ飛ばす方にシフト。途中で手を放しつつ、反転。

 

「あー!」

 

 後ろからの声を聴きながら、逃走再開。

 

 ──流石に総動員は想定外! 

 

 ラプラスが顔を見せた時点で少し嫌な予感はしたが、外れて欲しい物に限って、良く当たる。

 電話からは相変わらずノイズばかり。連絡を取るのは無理そうだ。

 

 ──何人向かっているのか。総動員とはいえ、残り三人全員集合は流石に無い……よな? もしそうなら、今向かっているのが無駄なる可能性が非常に高い訳だが。

 

 三人集合は最悪パターン。どうしようもないので、今すぐ戻ってラプラスをどうにかするしかない。

 可能性が一番高いのは二人。沙花叉がここにいるから、恐らくこよ姉といろはさんのペア。シンプルにラプラスが出張っている以上、副総帥的ポジションにいるルイ姉まで現場に出てこないだろう。それに、シオンに一応わためという不確定要素があるのに対して、一人で行かせるとは考え辛い。

 

「とは言えなぁ」

 

 俺はいろはさんには単純に勝てないし、何でもありならこよ姉にも当然勝てない。

 合流すれば頭数は同じになるが、じゃあどうにかなるのか、出来るのかと言われると頭を抱えてしまう。

 

「どうすっかタロ」

『く~ん』

 

 行かない方が良いだろうかと一瞬思うも、シオンとわためへの心配が勝った。

 加速するべく、足に力を籠める。

 

『ワン!』

「サンキュー」

 

 反転。視線の先に、沙花叉。

 

「ほっ」

 

 軽い掛け声と共に鋭く振られたナイフを躱し。開いた体に踏み込み顎を狙うが、それも下がって躱された。

 数メートルの距離が開く。踏み込めば一足、そうでなくとも三足もあれば踏み込まれる距離で、流石に後ろは向けない。

 仕方なく、腰を据えて構える。多少荒くなった息を整えながら、観察する。

 対面では沙花叉が、ナイフを構え直していた。その姿に、なるほどと納得する。

 初めて会った時の引っ掛かりは、構えにあったらしい。恐らくはルイ姉仕込みのCQC。ある意味俺と同門。

 無意識に行っていた体作りもそうだが、記憶は無くとも体は覚えていたのだろう。習慣というのは恐ろしい。

 ナイフ、仮面、フード。装いは最初の時と変わらない。

 よくよく観察。フードと顔の隙間、耳元に何か見えた。見覚えのあるそれに、方針を定める。

 

「来いよ。兄弟子として胸貸してやる」

 

 言うや否や、地面を蹴る沙花叉。放つは最速の突き。首元狙い。

 その腕をつかもうとするが、直前に腕を引かれて躱された。

 勢いままに上がる腕。顔の高さまで上がり、視界の一部を腕が覆う。そうして出来た死角へナイフが隠れる。

 狙ったのだろう。達者な事だ。

 

『ワンワン!』

 

 タロの合図。狙い通り。

 半身の姿勢から右足を下げつつ、腕を退かして体を広げる。死角の中を最短距離で進んできたナイフ。狙いは首、頸動脈。

 そのまま右足を下げきり、左足を前にした半身姿勢へ移行。突き出されたナイフを躱し、狙うは──。

 

「よっ」

 

 耳元。フードの中へ左手を突っ込む。

 

「いっ」

 

 驚いたらしい沙花叉が、大げさな動作で顔を動かしながら距離を取ろうとするので、どうぞ大人しく退いてやる。

 沙花叉に合わせて後退。耳元を抑えて威嚇してくる沙花叉を見ながら、俺は狙い通り奪った沙花叉のインカムを装着。

 驚いた様子を見せ、耳元をまさぐる沙花叉を尻目に、俺は出来うる限りの声を張り上げた。

 

「こよ姉! いろはさん! 聞こえている⁉」

 

 声をかけるが、レスは無し。

 沙花叉が向かってくる。単発での一撃必殺では分が悪いと考えたのか、細かく振り刺しを組み合わせての削り狙いの攻撃。

 そうなると反撃も狙い辛い。一旦は回避に専念しつつ、言葉を続ける。

 

「どうせいま、家にいるんだろ! シオンとわためになんかしたら許さんからな!」

 

 変わらず。続ける。

 

「聞いているのか! おーい!」

『──うっさい!』

「……あれ?」

 

 最初のレスはシオンからだった。

 




最終章

文章の構成はどちらがいいですか

  • 全部詰める(全話までのやり方)
  • 地文と会話文の間に改行を入れる(今回)
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