紫咲シオン
角巻わため
???
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昨晩の話。
帰りが遅くなったことを、シオンに怒られ、手早く作った夕飯を三人で囲んでいた時の事。
「そういえば、なんか、俺の記憶は間違えていたらしい」
世間話を始めるようにそういうものだから、夕飯を食べていたシオンとわためは最初、頭がおかしくなったのかとか、何かの作品の話かとそんな反応を見せた。
そんな二人の反応に、ケラケラと笑った少年は、そのままの調子で違う違うと言葉を続けた。
「いやな? 俺って小さい頃に変な所に拾われてさ。そこで世話になっていたんだよ。ただ、何かの切欠でそこを追い出されたっぽくて、その時に記憶を変えられていたっぽくて。今日、その事を思い出したんだよ」
いやー、びっくりだよなと、少年。
余りに軽い反応に、やはり世間話感が拭えないのも事実であったが。ただ基本聞き役に回ることが多く、喋っても二言三言な彼が、何の前触れも無くそんな事を言い出すとは思えず。ましてや、普段であれば遅くなるなら一本連絡を入れる彼が、今日に限って連絡も無しに遅く帰ってきた事も踏まえると。
「え、本当に?」
わためがそう反応するのも無理無く、シオンもまた同じ気持ちだった。
「らしい。一応整理はついているから、そこまで気にしてはいないんだけど」
「いや、もっと気にした方が良いと思うけど」
「うんうん」
呆れ声のシオンと、それに同調するわため。二人の反応に、そう言われてもなぁと少年が返す。
「整理はついているんだ。聞きたい事が無い訳じゃないけど、それだって、機会があれば聞ければいいなぁ位の感覚だし。ぶっちゃけ、こっちが本題ではないんだ」
「……は?」
「違うの?」
少年の言葉に、戸惑う二人。その二人を前に、困ったように少年が眉をしかめた。
「その俺を拾ってくれた変な所っていうのが、世界征服を試みる秘密結社なんだけどさ」
「急に胡散臭くなったわね」
「まあ聞けって。その秘密結社の技術的に、俺が記憶を取り戻した事より前、取り戻し始めた所から、捕捉されている可能性があるんだよね」
ピンバッヂを見つけた直後にかかってきた電話。あの時は悪戯か、変な電話だなー程度の認識だったが、思えばそれが、holoXだった可能性も高い。
「それで?」
「その場合、もしかしたらシオンやわため、それにフブキ先輩みたいな、この世界の外から来た人達と、その事実まで捕捉されている可能性が高い訳で」
「だから?」
「遊びに来るかもー、的な」
「遊びに来るならいいんじゃないの? わため、君の昔の話とか聞きたいなー」
気楽なわための言葉に、そうだねーと少年。
「菓子折りを持って遊びに来るとかなら全然構わないんだけど。一応世界征服を目指している秘密結社だからさ」
「実力行使もあるって事?」
「何ならそっちの方が可能性高そうなんだよなー」
面白そうと、それだけの理由で動きそうな、総帥に対しての信頼感が少年にあった。
「だからすまん。シオンもわためも暫く気を付けておいてくれ。家に来る分にはシオンが何か家を改造しているのは知っているけど、外出先ではそうもいって居られんだろうし」
「仕方が無いわねぇ」
「はーい、分かったー」
「悪いな」
よもや昨日の今日で襲撃してくるなど誰も思っておらず。
この時のやり取りはこの程度で終わり。
それから数時間後。少年が出かけて少しした頃。
片や単純に寝ておらず、片や少年の話を聞いて緊張してしまい寝付けなかったという二人は、夜中に起きだし、出かけて行った少年の気配を感じて自然とリビングへ集まっていた。
「シオンちゃん、何か飲む?」
「ありがとう。水でも取って貰える?」
「分かった」
キッチンへと小走りに移動したわためが、冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを二本取り出した。
そのまま、シオンの元へと運ぶ。
「はい」
「ありがと」
キャップを開けて、それぞれ口を付ける。
そのまま暫く飲んで、ようやく一息。
「どこに行ったんだろうね」
「ただの散歩でしょ」
「でも秘密結社の人と話つけるぜーとか考えているかも」
「だったらちゃんと説明してから行くって」
「それはそうだと思うけど」
信用はしている。ただ決めたときに突っ走る悪癖も理解しているつもりだ。
早い話、このお出かけが、思い付きからの特攻という可能性が、正直わための中で捨てきれない。
「一応、見守ってあげた方が……」
「気持ちは分かるけど、あいつにもプライベートがあるしねぇ」
「今更?」
「……」
確かに勝手に部屋に忍び込んだりはしているシオン。許可なく千里眼を使っていたことも少なくない。
自覚はあるから、そう言われてしまうと、言葉が返しづらい。
「……しょうがない。それじゃあ──」
シオンの言葉が途切れ、雰囲気が変わった。
それに気が付いたわためが、びっくりした様子を見せる。
「ご、ごめんね! そんな怒らせるような事を──」
「違う」
短く返しながら、シオンは服装を、部屋着から普段の魔女衣装へと変えた。
三角帽子もかぶった所で、いよいよただ事じゃないのだと、わためも悟る。
「ど、どうしたの?」
「敷地内に誰か入ってきた」
「えぇ!?」
一瞬慌てたわため。
直後、何か思いついた表情を見せると、急いでキッチンへと走っていき。
頭に鍋を被り、手には伸ばし棒を強く握って、戻ってきた。
そのままシオンの前に立ち、伸ばし棒を構える。
「隠れていてもいいわよ」
「そ、そうはいかないよ! シオンちゃんの事を守れるの、わためだけだし!」
「その棒で?」
「うん!」
「……頼もしいわね」
一応、いざという時用の魔法は準備。いつでも使える状態にしておく。
侵入者は、まっすぐ玄関へと向かった様子。少年が出掛けに施錠しているから、必要ならインターホンが鳴るはずだが、暫く待ってもそれは無し。
代わりに、がちゃりと、玄関の戸が開く音が聞こえてくる。
「っ」
わためが息を飲む気配。シオンの目が細くなる。
やがて、静かに扉が閉まる音が聞こえてきた。間も無く、廊下を進む足音。リビングへの戸が開く。
「──あれ? シオン? わため?」
そうして顔を見せたのは家主の少年だった。
「なんだ、まだ起きていたのか? てか、わためどうした? その格好」
「あ、これはなんでも無いよ!」
伸ばし棒を隠すわため。その姿に不思議そうに少年は首を傾げる。
その光景を見ながら、ふぅっと、短く息を吐いたシオン。
直後。
「シッ!」
キッチンから、飛来したマグカップを、少年が振り向き際の手刀で持って両断した。
「うぇえ!?」
「下がりなさい、わため!」
叫びながら、自らの魔力で持って三発の弾丸を作成。即放つ。
「なんでバレたでござる?」
迫る弾丸を前に、後ろに下がりながら左肩から少し離れた虚空を、右手で掴む少年。
顔つきが変わる。三発の弾丸の位置を把握するよう、瞬時に目が動き。
「せいっ」
右手が走った直後、弾丸は全て両断され、その場で炸裂した。
「なっ」
「うそっ」
弾丸の炸裂の衝撃に煽られる様に、少年の姿がぶれ、その姿が和装の少女の物へと変わる。
少女──風真いろはは居合後の残心を切り上げ、右手に持つ刀──チャキ丸を構えた。
その光景に、我を取り戻したわためが伸ばし棒を構え、シオンは弾丸を再生成しつつ、今度放たず傍に置く。
「アンタ何者」
口を開いたのはシオン。その言葉に、ニッっといろはが笑う。
「秘密結社holoXの用心棒、風真いろはでござる」
「秘密結社ね……」
昨晩聞いたばかりだ。同じ結社かは不明だが。
「一応聞いておくけど、何しに来たわけ?」
「勿論お仕事でござるよ」
シオンはノーモーションで弾丸を一発発射するが、いろははしっかり反応し両断する。
「話し中に撃つのはずるくない?」
「きっちり反応して斬っておいて、何言っているのよ」
「これ位なら出来るでござるよっと」
後ろから振り下ろされた伸ばし棒を躱しつつ、わためを押しのける。
「きゃっ」
「っと、大丈夫?」
「う、うん」
わためを受け止めつつ、追加の弾丸を作成するシオン。三発までは反応されたが、数を増やせば、いずれ反応しきれなくなるだろう。
「ところで、拙者も聞きたいのでござるが」
「なに?」
「どうやって気が付いたでござるか?」
「……別に。大したことじゃないわ」
そう。大したことじゃない。どれだけ見た目が精工だろうと。
「この家にかけている魔法は、アイツとわためには反応しないのよ」
「……ああ。探知出来る何かしらがあるのでござるな。それはつまり」
「アンタ以外にもう一人いる事にだって気が付いているって事!」
作った弾丸を纏めて発射。弾数十五。一気に増やした。
二人共玄関から入って来た事まで分かっている。この十五発で持って、いろはを無力化し、依然廊下で隠れているもう一人を炙り出す。
考えは悪くなかった。惜しむらくは。
「ジャキンジャキンでござる」
いろはの無力化には、倍の弾数が必要だった、という事だろう。
十五発の弾丸を瞬時に無力化、直後に前進──弾丸炸裂の衝撃に乗って、一気に加速する。
「──っ、あ?」
わためを突き飛ばしつつ、反対に逃げようとするも、一瞬足から力が抜ける。
なんでと戸惑うより早く、振り下ろされるチャキ丸を防ごうと盾を展開。
──おかしい。
チャキ丸が盾に当たり、振り抜かれる。
両断される盾。直後、両断された盾を操り、弾丸と同じく炸裂させる。
炸裂の指向性を操れず、単純な爆破に巻き込まれ、踏ん張りがきかないシオンが、そのまま吹き飛ばされる。
そのまま玄関の逆、脱衣所等がある側の廊下の戸を突き破り、そのまま廊下に倒れた。
「シオンちゃん!」
わための声。それを聞きながら、何とか体を起こそうとするも、力が入らない。
妙だ。ダメージがある訳ではないのに、感じる痺れ。
「──毒?」
「そうだよー。正確にはお薬だけどね」
四人目の声が、玄関へ通じる廊下から響いた。
魔法を使い上体を起こしたシオンの視界に、ピンク色の陰が映る。
「こんこよ~、holoXの~頭脳! 博衣こよりだよ~」
白衣に身を包み、ガスマスクをつけたその姿は、確かに頭脳、研究者の様な立ち位置が伺える。
その手には、空の試験官が数本握られていて、何となく、状況を察する。
「無味無臭の毒薬を撒いていたって訳ね」
「だからお薬だよ。痺れ薬~。それにしても──」
傍らに手を翳せば、其処にモニターらしきものが投影される。
「こよの計算だと、もう少し早く効いている筈なんだけどなー。やっぱり魔法とかのせい?」
ちらりとこよりの視線がわために向けば。
直後、わためが膝から崩れ落ちる。
「こっちは計算通り。となるとやっぱり魔法かー」
「わため!」
「だ、大丈夫……」
苦しそうに息を荒くするわために、頭の中での勘定は一瞬。
「よし、とりあえず二人共連れて帰ろ──」
「こよちゃん!」
弾丸を生成するための球体を三つ作り、其処から速射。後から出て来た、こよりを狙うも、いろはが立ちはだかる。
──このまま!
指を鳴らす。用意していた魔法を発動。わための下に、魔法陣を展開。
「これ──」
言葉は最後まで音にならず。わための姿はその場から消える。
「あー!」
こよりの声に、シオンは歯を見せ笑う。
「わためには悪いけど、これでもう少しマシにやれるわね」
「ぐぬぬ。でも大丈夫なの? 大分辛そ──ぎゃー!?」
「わー!?」
こよりといろはが同時に悲鳴を上げ、耳から何かを引き抜いた。
何事かと思っていると、二人の手の内から声が響く。
『どうせいま、家にいるんだろ! シオンとわためになんかしたら許さんからな!』
家主の声だった。
反射的に手が動く。転移魔法を展開。座標を指定。指を鳴らす。
直後。こよりの手にあったインカムが、そのままシオンの手元に収まった。
耳につけようとした直後。
『聞いているのか! おーい!』
追撃の怒鳴り声。
「──うっさい!」
思わず切れ返すと、インカムの向こうからは。
『……あれ?』
戸惑いの声が届いた。
『シオン?』
「そうよ。全く、大声出さないでよね」
いろはが動く。
魔力を練って、盾を展開。やはり斬られるも、今度の炸裂は、しっかり指向性を操り、いろはの方へのみ飛ばす。
『あ、ああ。すまん。大丈夫か?』
「だいじょばない。でも大丈夫だから、そっちはそっちで集中しなさい」
『だいじょばないのでは?』
「お互い様でしょ」
インカム越しに聞こえる風切り音に少年の息遣い。正常な状態で無いのは、間違いない。
「わためはちゃんと逃がしているから、安心しなさい。私も、危なくなればとんずらするから」
『……分かった。ちゃんと逃げろよ』
「はいはい」
声が途切れる。繋ぎなおす方法は分からないから、向こうからの連絡を待つしかない。
「そういう訳だから。アンタ達の相手は程々にしてあげる」
「逃げられると思っている? 今のを見た限り、転送には時間がかかる。この家の範囲内なら、移動までにいろはちゃんが捕らえるよ」
「そっちこそ、何を勘違いしているのよ」
インカムをポケットへ仕舞いつつ、立ち上がる。
「私の家は私が守るわ」
逃げる気は、毛頭ない。
文章の構成はどちらがいいですか
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全部詰める(全話までのやり方)
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地文と会話文の間に改行を入れる(今回)