ホロ学園の「俺」君物語   作:零円

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登場ライバー
秘密結社holoX
紫咲シオン
角巻わため


03

「ふぎゃ」

 

 着地するも、体が思うように言う事を聞かず。

 わためはそのまま、地面へ倒れた。顔から真っすぐ。ただ、多少積もった雪のおかげで、特別怪我は追わずに済んだ。

 

「いたたた」

 

 それでもぶつけた額は痛い。さすりながら、わためは重い体を起こした。

 辺りを見渡す。目が慣れず、少し時間がかかったが、自分の転送先が何処かは分かった。

 家から割と離れた場所。何故態々と悩むわため。

 よもや、シオンが自分以上に薬にやられ、準備していた魔法を発動させたまではいい物の、転送先座標の設定が狂ったのだという考えには至らず。

 頭のいいシオンなのだから、何か考えがあるのだと考え、それが何かを、塀に手をつき何とか立ち上がりながら、えっとえっとと頭を回す。

 状況は良くない。頭数で単純に不利。ならどうするか。援軍を呼べばいい。

 ここからなら、家に帰るよりも近くに友人の家があった。

 

「……よし。待っててね、二人共」

 

 壁に手をつきながら、一歩一歩踏みしめながら、移動を開始した。

 

 ***

 

 分析する。

 意気込んだはいいが、状況は良くない。

 頭数不利は言わずもがな。薬による麻痺は進行する。本調子で無くなれば、魔法にだって影響は出てくる。一枚目の楯が容易に裂かれ、その炸裂の指向性が操れなかったのも、薬の影響を勘定に入れられなかったからだ。

 時間が経てば経つほど危うい。短期でさっさと終わらせるのが理想形──ではあるが。

 

 ──まあ、無理か。

 

 弾丸を放つが、斬られる。爆破は加速に利用されるため、斬られた弾丸はそのまま霧散させる。

 チャキ丸の当たる寸前で、短距離転送(ショートジャンプ)。最早設定するまでも無い、リビングの中へと移動。

 備え付けのローテーブルの上に着地しながら、二人の襲撃者の位置を確認。

 間髪入れずに行動決定。先に無力化するのは、何が出てくるか分からないこよりと定める。

 弾丸生成の時間すら惜しい。使うは慣れ親しんだ操作魔法。日頃洗い物で大活躍のその魔法で、そこら辺にある小物の幾つかをこよりへ投げつける。

 

「それは見た事あるな~」

 

 迫るそれらに、こよりの反応は軽く。その原因は数瞬後には判明した。

 

「っ」

 

 不可視の壁に弾かれる。シオンの様な一方向ではなく、全面での展開。

 

「他の魔法だったらどうにかなるかもよ?」

 

 ──だったら、この忍者よこすの止めなさい! 

 そう叫びたくなるのをぐっっと堪えながら、斬りかかってくるいろはを前に、後ろに下がり距離を取る。

 距離を詰めようと、更に踏み込むいろはの前で、仕込んでいた操作魔法を発動。ソファーを上へと跳ね上げる。

 

「無駄でござるよ!」

 

 振り下ろしたチャキ丸で持って、そのソファーは両断。

 後で弁償させようと心に決めながら、次手。思い切り脛に叩き込んでやろうとローテーブルを飛ばす。

 

「いろはちゃん、足元!」

「っ」

 

 ただ、状況はニ対一。片方の視界を奪った所で、もう一人からは丸見え。

 こよりの言葉を聞いたいろはが、迷わずその場でジャンプ。滑るように飛んで行ったローテーブルは、そのまま足の下を抜けて、シェルフに激突、破壊する。

 

「本当に守る気があるでござるか!?」

 

 チャキ丸を反転。峰を使い、二等分したソファーの片方を思い切り弾き飛ばし、間髪入れずに二つ目。

 足は未だ地面についていない。上半身の力のみで飛ばされた筈のその勢いに少しばかりあっけにとられながら、シオンは再度短距離転送を使用──出来ない

 

 ──やば

 

 シオンにソファーが当たり、直後、そのソファーに片割れが直撃。その重量にシオンの体が弾かれた。

 テレビを壊しながら壁に激突。テレビの置かれていたラックの陰へと落ち、その上にソファーもまた、落下する。

 

「直撃──。こよちゃんの薬が効いた?」

「ちょっと濃度上げたからねー。一応いろはちゃんも、予防薬追加しておいてね」

「分かったでござる」

 

 ポケットから取り出した錠剤を水無しで飲み込みつつ、右手は油断無く、チャキ丸を構えたまま。

 一方、ラックの陰に落ちたシオン。幸い、ラックとテレビに支えられ、ソファーが降り注ぐ事は無く、自然と出来たエアスポットの中に居た。

 埃が堪りそうなものだが、存外埃っぽくない。少年がえっちらおっちらテレビやラックを動かして掃除をしている姿を、ちょくちょく見かけていた事を思い出す。

 

 ──もう少し手伝うようにしよ。

 

 せめて移動くらいは自分でやるようにしようと思いながら、シオンは溜息を一つ。

 

 ──魔法の行使が出来なかった。いよいよ不味いわね。

 

 成るべく呼吸を抑えていても、麻痺が進行している実感がある。体を動かす事すら操作魔法に頼る事で、現状リソースを全て魔法の発動と操作に振りながらも、この体たらく。

 それに、現状の小手先の魔法だけでは、恐らく勝てない。弾丸も操作も、どちらも効いていない。

 

 ──状況を変えるためには……。

 

 

 ***

 

 

 通信を止め、インカムから手を離しながら、沙花叉のナイフを避ける。

 

「それ返しなさい!」

「もうちょっと待て」

 

 二タップ。通信先を変更。変わっていなければここで恐らく。

 

「ラプラス」

『──あ? なんで新人のインカムからお前の声がすんだよ』

「借りている」

『奪ったの間違いじゃねーの?』

 

 それは否定しないが。

 

「状況が変わった。俺、お前の事を止めに行くわ」

『……やれるのか?』

「やるんだよ。ここまで全引き分けなんだ。決着つけてやる」

『吾輩の全勝だろうが! 記憶改竄するな!』

「お前に記憶消されたから、何を言っているのか分からない」

『くっそ、こっちの話題になると、マジで勝てねぇ』

 

 インカム越しに溜息が聞こえる。

 

『まあいい。なら、吾輩の元に辿り着けたら、相手してやる』

「何処行きゃいいんだよ」

『そんなの自分で探せ。態々敵に教える馬鹿はいないだろ』

「そりゃそうだ」

 

 返す言葉も無い。

 

『んじゃ、切るぞー』

「おー」

 

 通信終了。こりゃ参った。どうしたもんかね。

 

「インカム返すから、教えてくれない?」

「無理! でも、インカムは返して!」

「それも無理」

 

 沙花叉の一撃を再三躱す。鋭さが増して来た。回避は出来るし、ちょっかいもかけられるが、しっかり反撃に転じるのが難しい。

 撒くなり無力化するなりしなければ、先に進めない。ただ、そのきっかけになりそうなタイミングは無い。

 それに、雪の止む気配も無く、積もり始めている。あまり酷いと、事故りかねない。

 

 ──どうするかな。

 

 記憶を取り戻した今、はっきりと実力差が分かる。

 残念ながらフィジカルは負けている様子。だが蓄積と魔法もあって技術面ではギリ優位。

 総合して、沙花叉優勢なれど、差はほぼ無い──だからこそのピンチ。

 歩道橋の時と違い、時間制限がある訳ではない。

 故に、このまま無限に攻められる状態が続けば、どちらかが事故らない限り、体力差で押し切られる可能性が高い。

 それに、そこまで時間をかけたくないのも本音だ。ああは言われたが、シオンとわためが心配な事は変わらない。

 

 ──とりあえず試すか。

 

 右肩まで持ち上げられるナイフ。そのまま袈裟斬りに振られる直前に進撃。

 ナイフを振るう腕を止めつつ、間合いを詰める。

 右腕発射。狙いは顎。一撃狙いのそれは、読まれて止められる。

 直後、同じ狙いだったらしく、お互いの左足が空中でかち合った。引くものかと、お互いに振り切って、そのままバランスを崩す。

 目は合ったまま、お互いに外さない。左足が地面に着くのは同時。右足が跳ねあがるのも、これまた同時。

 俺は直接、沙花叉はフード越しだったが、それぞれの右足は相手の顔へと突き刺さる。

 そのまま再度、意地の張り合いに発展。お互い引かず、蹴られながらも耐えて、足を振り切る。

 転倒、数度転がり、体を起こす。

 動き出しは、沙花叉の方が早かった。俺が立ち上がるより前に立ち上がった彼女は、そのまま一気に距離を縮めて、こちらの顔を狙ってのサッカーボールキック。

 クロスさせた両腕で受ける。ミシミシという音は、間違いなく俺の腕から聞こえて来た。

 出来る限り体を浮かせ、地面を蹴る。直後、沙花叉の足がそのまま振り切られた。

 蹴られた体が、地面に落ちて何度も跳ねる。雪のせいで、勢いが中々収まらない。見上げる空が、面白い位に流れる。

 体勢が直せない、最悪だ。

 

「──は?」

 

 視線の先に沙花叉。真っ先に目に入る靴底、足の裏。

 腕を上げる。直後、其処に沙花叉の足が突き刺さり、地面に叩きつけられた。

 肺から空気が漏れる。ただ、移動は止まった。

 

「おっと」

 

 足を上げて沙花叉を捕まえようとするが、跳んで躱される。ついでとばかりに、一発踏まれた。

 

「頑丈だね」

「そりゃどうも」

 

 今度は体を起こすなんて半端な事はせず、足を戻しながらそのまま跳ね起きて、沙花叉と向き合う。

 またサッカーボールキックを狙ってきてくれれば良かったのだが、そう甘くは無いらしい。

 

 ──この展開は予想通り。

 

 実力差は自覚している。さっきまで状況が成り立っていたのは、俺が回避に専念していたからだ。

 同門の知識と目とタロのおかげで多少の不意打ち込みでも対応出来るし、動き回ったり接触が無ければ、フィジカルの差が牙を剥く事も無い。

 ただ、これにカウンターの様な攻撃を入れようとすれば、シンプルにこうなる。

 条件が同じよーいどんの状態になれば、フィジカル的に優位の沙花叉に軍配は上がるし、それが続けばいずれ押し切られる。

 実力差を埋める物が必要だ。そうでないと、ラプラスの元にすらいけない。

 

「……うん、しょうがない」

 

 折角怪我が治ったばかりだし、わために怒られてしまうが、そうも言っていられない。

 大事な事は、ラプラスに勝つ事だから。

 

「その為になら、いくらでもやるぞ」

 

 

 ***

 

 

「ただいまー」

「おかえり」

 

 holoX本部。総帥の言葉に、幹部が答える。

 

「ちゃんと話はしたみたいだね」

「まーな。それでこの状況だけど」

 

 モニター二つ。それぞれに、少年とシオンの戦いが映されている。

 

「どうだ?」

「魔法使いちゃんの方は動きなし、あの子については腹を決めた顔をしている」

「あいつ変わってねーのかよー」

 

 玉座に座り、天井を仰ぎながら、ラプラスは呆れ声をあげる。

 その姿に、ルイは溜息をついた。

 

「優先順位の問題なんでしょ。嫌なら止めてきたら?」

「もっと嫌だ……幹部ー」

「何?」

「準備しておけよ」

「……しっかりしてあるわよ」

 

 傍らに置かれた、とげとげしいサングラスを手に、ルイもまたにやりと笑った。

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