ホロ学園の「俺」君物語   作:零円

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遅れてしまい申し訳ございません


07

 数時間前。少年が自身の過去を思い出していた頃。

 少年を送り出した後のすいせいは、予定通りすこん部の部室へと来ていた。

 

「うぅ……めっちゃ足しびれた……」

「おつかれさまです」

「めっちゃ他人事! 誰のせいだと思っているの!」

「白上先輩」

「推しが厳しい」

 

 足をさすりながら、フブキは自分の定位置へと腰を下ろす。

 放課後の部室。フブキの他に居るのは、いつものミオや少年では無く、その幼馴染のすいせい。

 すいせいは普段少年の定位置である椅子へ座り、先程まで酷使していた喉を、お茶で癒していた。

 

「それにしても、白上先輩って、思ったよりアイツの事を好きだったんですね」

「そ、その言い方はちょっと引っかかるけど……まあ、うん」

 

 困ったように笑いながら答えるフブキに、「ちなみに」とすいせい。

 

「私は、保育園時代にアイツに好意を持っていた他の奴は片っ端から処理していました」

「何でそのカミングアウト、このタイミングでしたの!?」

「冗談です」

「本当かなぁ!?」

 

 本当である。流石にそこまではしていない。

 ちょっとお話したことが無いとは言わないが。

 

「でも、すいちゃんだってそうでしょ?」

「……」

「すみませんでした」

 

 射殺さんばかりのすいせいの目に、謝罪するフブキ。

 すいせいはその後、一つ小さな溜息を漏らす。

 

「否定はしませんけど……放っておけないって感情も強いです。危なっかしいので」

「あー……。昔からそうなの?」

 

 すいせいの言葉には大いに心当たりのあるフブキ。昔からなんだなーと呆れと感心の混じった感想を抱いていると。

 

「──まあ、アイツは昔から、来るもの拒まずでしたから。良くも悪くも、色々な人が寄ってきたものです」

 

 そうすいせいは切り出した。

 

「色々な人って?」

「同園の園児は言わずもがな、捨て犬に逃走中の被疑者、ヤクザ、自殺未遂、露出狂、ショタコンetc」

「波乱万丈過ぎない!?」

 

 一言、意外な過去で片付けるには些か重すぎる。ただ正直気になる。

 本人が覚えているか定かでは無いが、今度聞いてみようと、フブキは心に決めた。

 

「そんな感じに誰でも彼でも受け入れるものですから、必然的にトラブルに巻き込まれることも多く。一緒にいた私も、巻き込まれることが多々ありました。多分、私が知らないトラブルも幾つもあると思います」

「……想像できる」

 

 そして、それらすべて、本人的にはさしたる問題と捉えていなかっただろうことも。

 

「ただ、アイツの場合、そういうトラブルを経て親しくなった相手にも特に思い入れを持つことは無く。事件後に向こうから声を掛けてくる事は在っても、アイツの方から声を掛けるみたいな事は無かったです」

「……そうなんだ」

「だから、アイツがフブキ先輩を追いかけたという話を聞いて、正直半信半疑です」

「いやー、私の場合はほら。謝罪もかねていたというか」

 

 謙遜の様な事を言いつつも、フブキはにやけが止められない。

 聞いた特性的に、謝罪後に部活を辞めると言い出しかねず。実際あの時フブキもそうなってしまうと考えていたから。

 辞める気は無いと、明確に宣言した事実が、改めて嬉しくて仕方がない。

 そんなフブキの様子を見て。

 

「すいちゃんポイントマイナスっと」

 

 すいせいが何やら呟く。

 

「なんか推しの中の良く分からないポイントが下がった!?」

「ただいまー」

 

 タイミング良く、がらりと戸を開け、ミオが入ってくる。

 手には学食併設の売店の紙袋。自分の席に着いたミオがそれを漁り、お饅頭を取り出した。「はいどーぞ」とすいちゃんの前にそれを置く。

「ありがとうございます」とお礼を言いながら、手に取り封を切って一口。暫し咀嚼。

 

「美味しいです、すいちゃんポイントプラスです」

「なんか良く分からないけどわーい」

「現金だなぁ」

「はい、フブキの分」

「……ありがと」

 

 もぐもぐと、受け取ったお饅頭を食べるフブキ。

 

「お話は終わったの?」

「聞きたい事は聞けました」

「そう、なら良かった」

「良くないんですけどー」

「ところですいちゃん」

「なんですか?」

「おかしい、この場で一番立場が上のはずなのに」

 

 唇を尖らせるフブキの様子を流す二人。

 

「すいちゃん的に、フブキはどう?」

「……どうとは?」

「いや、お相手に的な」

「ミオ⁉」

「私の相手にはちょっと」

「そして振られた!」

 

 わっっと、フブキは机に突っ伏す。

 そんなフブキを尻目に、「違う違う」とミオ。

 

「すいちゃんじゃなくてー……ね?」

「……意外とミオ先輩もそういう話をするんですね」

「そりゃ、気になるからねー」

 

 その言葉が二人を指している事は直ぐに察して、フブキの様子を確認。

 突っ伏しているのは変わらないが、聞き耳を立てている事はこちらも直ぐに察した。

 すいせいは小さな溜息を漏らしつつ、悩むこと数瞬。

 

「最悪です」

「ガッ」

 

 呻いたフブキの体が跳ねた。その姿に、ミオがお腹を抱えて、肩を震わせている。

 

「……冗談ですよ。フブキ先輩、ちゃんとアイツと相性いいですよ」

「……ほんと?」

 

 フブキの顔が上がる。そんなフブキへ、頷いて返すすいせい。

 

「アイツは自我が引っ張ってくれるというか、振り回してくれる相手が相性いいですから」

「そ、それはわがままって言われているみたいで複雑だけど」

「むしろそれくらいの我はあった方が良いかと。シオンちゃんみたいに」

「あそこまでかー」

 

 少年の家に遊びに行った際などに顔を合わせる事は多々あって、その時の印象はとてもマイペースな子だった。

 挨拶こそすれど、がっつり一緒に遊ぶようなことも無ければ、部屋に引っ込むようなことも無い。ダイニングで何やら難しそうな本を読み、思い立ったように部屋に戻る。遊んでいる最中の少年に用事をお願いすることもあれば、急に部屋に入ってきて荷物を回収して行ったりもする。

 

「本人だって、なんだかんだ言ってシオンちゃんの言うとおりにしているし」

「それは……そうだね」

 

 シオンと住むようになってから部活の頻度が少し減ったり、家に食事をしに来なくなったりしたことを思い出す。

 

「アイツは、自分が動くと何かしらのトラブルを起こしたり、巻き込まれたりするから、誰かが決めて引っ張ってあげた方がいいんです」

「う、うーん……」

 

 それは何とも言えないフブキ。

 すいせいの言いたい事も良く分かる。不用意な発言をしたり、首を突っ込んだりと、本人の危機意識が低い事もあれば、シンプルに誰かの為に動くことだってある。

 自分の知らないところでもきっとそんな事が沢山あったのだろうという事も、フブキには想像できた。

 ただ、何となくではあるが。

 

「そんなことも無いと思うな」

「何がですか?」

「あの子は一人で動くと大変なことになるけど、それって大体、人を頼るっていう事が凄く苦手で、何でもかんでも一人でやろうとした結果って事が多いと思うんだよね」

「……」

「だからほら。あの子の話を聞いてあげたり、あの子の為に何が出来るかを考えてあげられる子も、相性いいんじゃないかな」

「……でもフブキ先輩って振り回す側ですよね」

「……すみません、調子乗りました」

 

 すん、と落ち込むフブキに、すいせいは無意識に口元を綻ばせる。

 独りぼっちだった少年。転校してからもずっとそうなのではと心配していたが、どうやら人に恵まれている様子。

 複雑な気持ちはあれど、それがうれしかった。

 

「それはそれとして、すいちゃんポイントはマイナスだけど」

「それってなに!」

「あっはっは!」

 

 立ち上がったフブキに、ミオがお腹を抱えて笑う。

 楽しい場所だ。きっと普段からこうなのだろう。無くなってしまうのが惜しい。

 そんな事をぼんやり考えながら、すいせいはお茶を啜った。

 

 ***

 

「こよちゃん、捕まえるんじゃないの?」

「……そうだった」

 

 てへっっと舌を出してお茶目に笑うこより。そんな彼女を見て、直前に胸元へ突きを放っていたいろはも「こよちゃんったらー」と朗らかに笑い。

 そんな二人へ怒りをぶつけるように、爆炎の内から弾丸が放たれた。

 すかさずいろはが反応。弾丸を斬り裂いていると、シオンは爆炎の中から飛び出す。

 常時張っている防御魔法のお陰で、何とか爆発を耐えたが、近くで大音量を聞いたせいで、耳がキンキンする。

 

 ──あいつら、何しに来たわけ⁉

 

 家に来たときは連れて帰ると言っていた気がするシオンであったが、ここまでの動き的に凡そそんな考えを持っているとは思えず、勘違いだったのだろうと考え直す。

 

 ──思い付きを試すには状況が悪い……。多少強引でも、行くか。

 

 思い付きはさておいといて、自爆覚悟の近接戦。

 体の痺れが許してくれるのであれば、どちらかさえ無力化できれば、逃げおおせる算段が付く可能性はある。

 そんな事を考えている隙に、弾丸発射用の球が潰された。

 

「っ」

「考え事でござるか」

 

 距離を詰めてきたいろはに、肉薄される。

 球を作っている暇は無く、飛ばせる物も周囲に無い。

 盾を張ろうとするが、それよりもいろはが早い。

 

「大丈夫、峰打ちでござるよ!」

 

 チャキ丸が振り下ろされる。

 

 ──しまっ! 

 

「ナイスタイミングじゃない?」

 

 シオンの眼前。直撃寸前に、チャキ丸が止められる。

 チャキ丸の向こうに、驚くいろはの顔が見えた。その視線は、シオンを外れて別の方を見ている。

 

「よいしょぉ!」

 

 耳鳴り越しに、そんな声が聞こえてきた。

 直後、チャキ丸が押し戻され、いろはが後退。

 それを見たシオンが視線を動かせば。そこには刀を携えた、真っ白な少女。

 

「大丈夫? 助けに来たよ、シオンちゃん」

「……フブキちゃん?」

 

 シオンの言葉ににっこり笑って。フブキはシオンをかばうように前に出た。

 手に持った刀を肩に担いで、堂々の仁王立ちを決め。

 まっすぐいろはとこよりを見据えながら、声高に叫んだ。

 

「ホロ学高等部三年A組! すこん部部長、白上フブキ! 部員のピンチに見参!」

 

 

 




次回更新は13日0時予定にしておきます

文章の構成はどちらがいいですか

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