フブキの名乗りに対して、いの一番に反応したのはいろはだった。
先程開けた距離を瞬く間に詰めた直後の連撃。三方向からの斬撃をフブキは全て弾く。
その事に驚きながらも、いろはの動きは止まらない。速さで駄目なら力で勝負と言わんばかりに、チャキ丸を全力で薙ぐ。
それに合わせるフブキ。手に持つ刀でチャキ丸を受けた。刀越しに感じる圧に、フブキは少し表情を歪め、弾かれるように後退する。
──成程。かなり出来るね。
そして余裕も感じられた。速さも重さも、ここからもう数段、上がるだろう印象を受けるフブキ。
いろはは前傾姿勢。チャキ丸を構えるその姿に気を取られる。そのせいで、反応が微かに遅れた。鼻をつく臭い。
「上よ!」
シオンの声にフブキが顔を上げる。降ってくる、テニスボール大の球が幾つか。臭いの元はそこだった。フブキは動く。
離れた直後、球が地面に落ちた。炸裂し、煙が上がった。
思わず顔をしかめるフブキ。口元を抑えながら、更に後退。シオンの元まで下がる。
「ありがとう、シオンちゃん」
「それはいいけど……これは何?」
後ろに居る、シオンを見上げ、礼を言うフブキ。シオンはシオンで、見下ろしていたフブキから、更に自分の下を見る。
二メートルくらいの身長の、デフォルメしたした狐のような……白い何か。
フブキが援軍に来た直後、地面から湧いてきて、シオンを頭に載せたまま移動、安全地帯まで下がったから、多分味方。
「フブラだよー」
「……」
だよー、と言われてもシオン的に納得しかねるところはあるが。
そんなシオンを置き去りに、フブキは刃先をいろはとこよりの方へ向けた。
「フブラ、構え──撃てぇ!」
顔を上げたフブラ。その口元に青い光が集まり──光線が放たれる。
「えぇ」
戸惑うシオンを他所に、放たれた光線を、いろはは躱す。直線コースには、仁王立ちして不動の姿勢を保つこより。
直後、こよりの周囲に貼られている壁に、光線が直撃。拮抗することなく拡散され、後ろへ流される。
流された光線が背後に着弾。地面をえぐり、体育倉庫を破壊する。
「あ、やば」
「それどころじゃなくない?」
いろはが肉薄する。狙いは──フブラ。
「何でござるか、この生物!」
逆袈裟の斬撃。それを見て、フブキが反応。跳んで、シオンを回収しながら下がり。
両断されたフブラは、ポンッっと軽い音と共に煙を上げ、その姿を紙へと変えた。
「折り紙?」
「式神って言うの。幾らでも作れはするけど、あの二人には通用しそうにないかぁ」
シオンを抱えたまま、着地。一先ず時間稼ぎのために、フブキは再度フブラを三体作成。いろはへ突撃させる。
「体はどう?」
「耳は回復しているけど、体は重いままね。時間稼いで貰えているから、手は打ててるけど」
「そっか。でも、そろそろそれもしんどそうだね」
フブラの一体が両断され、別の一体は弾け飛ぶ。残りの一体も、間もなくやられそうだ。
「様子見は終わりみたい。ここからは本気で来そう。どうする?」
「……フブキちゃん、今からでもアイツの方に──」
「行かない。状況は分かっている。天秤にかけて、こっちに来ている」
「なんで」
「シオンちゃんの方が危ないでしょ!」
フブラ再作成。シオンをフブラへ投げ渡し、フブキは地面を蹴る。
そのまま、最後のフブラを処理したいろはへ、今度はフブキから攻め入った。
フブキの刀とチャキ丸がぶつかり、火花が散る。間を置かず、2度、3度と、刃がかち合い、甲高い金属音が周囲に響く。
──強いでござる。中々切り崩せない。
──強い。切り返しても、直ぐに返される。
お互いの感覚として、剣術の腕は互角。正攻法での決着は厳しい。
ならばこそ、その決着をつけるだろう要素は二つ。
その内の一つは──外部支援。
「っ」
先程と同じ鼻につく臭いに、強めにチャキ丸を弾きながらフブキは下がる。
その直後、球体が地面に着弾。爆発を──起こす前に、いろはがそれを、フブキへ向かって弾き飛ばす。
「器用だこと!」
負けじと弾き返そうとするが、直前に炸裂。煙が周囲を覆う。
すかさず、口元を覆いながら、後退。煙を抜けるた直後。フブキが刀を持つ逆側より、いろはが迫り。
それを妨害するように、魔力の弾丸が、二人の間を抜けた。
足を止めるいろは。すかさず、フブキは順手から逆手に刀を持ち替え、いろはへ斬りかかる。
「流石に不利でござる」
受けつつ後退。煙の中へと姿を消すいろは。
「忍者みたいなことするじゃん」
「のっと! ニンニン!! いえす! ジャキンジャキン!! でござる!」
煙の中からのツッコミを聞きながら、フブキもまたシオンの元まで下がる。
「勝手に初めないで」
「ごめんごめん。それで、どうする? シオンちゃんだけ、先に逃げる?」
「……あいつらの仲間、他にもいるかもしれないって考えたら、そういう訳にもいかないでしょ」
「──それもそうだね。なら2vs2で……」
「いや。フブキちゃんはいろはって侍にだけ集中したらいい。私はもう一人やるわ」
「その心は? こう言うとあれだけど、さっき見たとおりだよ」
剣の腕は互角。いつ決着がつくか、分からない。
「あの侍がフブキちゃんから私に狙いを切り替えたら、フブキちゃんが自由に動けないでしょ」
「あのバリアーは?」
「今は何ともならないけど、策はある。それにアイツの壁はすり抜けることも出来るけど、守るのと同時には出来ない」
「常に攻撃し続けとけば、援護は出来ないと」
「一先ずね」
「了解。じゃあ、それでいこう」
一歩引いたシオンが、細く息を吐き、汗を拭う。
「大丈夫?」
「平気よ」
やり取りの最中、煙を裂いて、飛んでくるのは──ミサイル。
「「……は?」」
想定外の飛来物に虚をつかれ、直後、慌ててシオンが弾丸を斉射。
飛んできたミサイルに何発かの弾丸が突き刺さり、ミサイルが爆ぜる。普通の爆炎。毒ガスの様には見えない。
「あんなの飛んでくるなんて聞いてないんだけど!?」
「私だってそうですー!」
言い合う二人の頭上より、いろは。
すかさずフブキが反応、チャキ丸を受け、弾く。
「作戦は!?」
「──継続!」
「了解!」
弾いた直後のフブキが、そのままハイキックでいろはを蹴飛ばす。それを見ながら、シオンは動いた。
動きながら、千里眼でこよりの位置を確認。その光景に再度、「は?」と声を漏らしながらも、大体の位置目掛けて弾丸を発射。
黒煙の向こうから「うわ! びっくりした!」とこよりの声が聞こえてくる。
「フゥ」
魔力操作。体を操り、地面を蹴って高く跳ねる。
全てを跳び越え、その先の眼下。白衣の下からマジックアームを生やしたこよりの姿を見つける。
「なんで腕増えてんのよ」
呆れ声を上げながら、力を籠め、一発だけ発射。威力重視に放ったそれは、こよりの周囲に展開されている壁へと刺さるが、貫けない。
その音に一瞬怯みながらも、こよりは見上げた。こちらを見下ろす、シオンと目が合う。
「やっぱダメか」
「撃ち合い希望って事?」
「いいえ」
弾幕に切り替え。三発の球からの斉射。壁に当たり、拡散するも、攻撃は辞めない。
「我慢比べよ」
「そう言う事なら」
マジックアームが一度引っ込み、再度展開。
その手には複数の銃身が環状に配置された斉射砲。ガトリングガン。
どうやら背面の壁をすかせたようで、ガトリングガンを携えたマジックアームが頭上に掲げられる。
こよりの手に、ボタンが握られる。それが何かは、火を見るよりも明らかだった。
「どういう原理よそれ!」
「いくよー!」
かちりと、押下。
直後、ガトリングガンは火を噴いた。
「あんた、後で覚えておきなさいよ!」
着地直後に、シオンは地面を蹴った。
球からの斉射は継続。ただ、動きながらと体の痺れのせいで、狙いは雑。
こよりの方へは飛ばしているが、ガトリングガンを狙って破壊が、中々出来ない。
──私が狙われている分には問題無い。フブキちゃんが狙われる事だけは何が何でも防ぐ。
よもや、させる筈だった我慢比べをさせられる事となり。
こんな破天荒なのと一緒にいたら、そりゃバグるかと、家主の事をぼんやりシオンは思い出した。
***
刃が走る。打ちあい、金属音だけでない、ガトリングガンの喧しさにも顔をしかめながらも、フブキは動きを止めない。いろはの攻撃を前に、止めている余裕も無いのだが。
──完全に分断すれば、多少隙が出来るかと思ったけど。
その逆。フブキへの集中力が増し、動きの冴えが上がった。
寧ろ、正直フブキの方が隙を晒しそうである。実際、ガトリングガンの発射直後に一瞬晒してしまい、一張羅のリボンが少し斬られてしまった。
しかしミサイルを撃ってきた時にもしやと思ったが、まさかガトリングガンまで携えているとは。
──シオンちゃん、大丈夫かなぁ!
チャキ丸を弾く。視線は敢えて真っすぐいろはを見据える。
周辺を見ていたら、視界の隅にシオンを捉えてしまいそうだ。
フブラを召喚、援護に向かわせるのも考えたが、フブラ処理のために、更なる火力が出てくるとも限らない。
「もうちょっと、集中した方がいいでござるよ!」
「分かっているんだけどね! 寧ろ、君は気にならない訳!?」
「こよちゃんはいつもああでござる。それに──」
「それに?」
「ここまでかざまとチャンバラ出来る相手もいないから、楽しくなってきたでござる!」
「君もそっち側なわけね!」
思い切り振られた二刀がかち合い、一際の音と火花を散らしながら弾き合い、フブキといろはの間に、僅かに距離が開く。
間髪入れずに前進してきたいろはの一撃に合わせる。
──頑張ってね、シオンちゃん!
互角状況かから、決着をつけるための二つ目の要素。相手を出し抜く、その為に。
ミオを追いてきた事を若干後悔しながら、フブキは頭を巡らせ始めた。
次回14日0時更新予定です。
足は止めずに行きます。
文章の構成はどちらがいいですか
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全部詰める(全話までのやり方)
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地文と会話文の間に改行を入れる(今回)