ホロ学園の「俺」君物語   作:零円

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「っと」

 

 雪に足を取られる。

 ばたつきながらも、ぎりぎり転倒を回避して、引き続き走る。

 すいちゃんと別れて暫く。走り続けているから、流石にばててきた。

 

「流石に補給しておくべきだったな」

『く~ん』

「大丈夫だよ。それにしても、すいちゃんも飲み物の一つでも買ってきてくれればいいのにな」

 

 すいちゃんに聞かれたら怒られそうだなと思いながらも、不安げなタロへ軽口を返す。

 実際、守護霊であるタロへはどれくらい、俺の体の状況は伝わっているのだろうか。

 俺の怪我の痛みが、そのまま反映されているのなら、流石に申し訳ない。自分が怪我する分にはいいのだけど、その痛みを誰かに押し付けたい訳では無い。

 

「タロこそ、無理しなくていいからな?」

『?』

「俺と居るのがしんどくなったら、離れていいって事」

 

 タロの事は最初こそ誰か分からなかったが、流石にすいちゃんとも再会した今なら、その正体が分かる。

 

「お前さん、保育園時代にすいちゃんと見つけた野良だろ」

 

 ある夏の日に出会った、独りぼっちだった子犬。

 親とはぐれたのか、捨てられたのか。ぼろぼろで首輪をつけていなかった子犬を見捨てられず、すいちゃんと一緒に拾った事があった。その時の子犬に付けた名前が太郎。ただ、昔の俺は発音が適当というか弱かったから、基本的には『タロ』と呼んでいたから、こいつは恐らく、自分の事を『タロ』だと思ったのだろう。

 拾ったタロは、しかしすいちゃんの家でも俺の家でも飼う事は出来ず。俺達は結局、近所の廃墟にてタロを匿いながら、暫し同じ時を過ごしていたのだが……俺とすいちゃんのように忍び込んで、あろうことか花火をした馬鹿によって、その廃墟は火事になった。

 火事に気が付いて俺が現場についた時には、酷く激しく燃えていて。

 飛び込みタロを探すも姿は見つけられず、追いかけてきた消防士に捕まって連れ出され。

 タロとはそれきりだった。

 

「あの時助けてやれなかった俺を、ここまで助けてくれたんだ。貰いすぎなくらいだよ」

『……? わん!』

「は?」

 

 何を言っているんだというタロに戸惑う。

 

「え? でもだって、お前さん、あの火事で」

『わんわん!』

「……そりゃそうか」

 

 多少煙に巻かれたが、ちゃんと逃げたらしい。

 その後は優しい飼い主に拾われ、子宝にも恵まれ、しっかり天寿を全うしたようだ。

 享年は十二歳。特に苦しいという事も無く、大往生だったらしい。

 

「……なら、その飼い主を守ってやれよ」

『わん!』

 

 俺の言葉に、タロは答える。

 タロはタロで、俺を心配していたようだ。

 自分と同じで親が居ない子供。自分にも余裕なんて無い癖に、それでも自分を構ってくる俺の事を。

 だから、死後の今、生前に返せるだけ恩を返せた主人ではなく、その主人と出会うきっかけであり、命をつないでくれた俺を守って、恩を返す。

 

『わん!』

 

 そのために、自分はここにいる。

 

「……そうかい。なら、これからも頼むわ」

『わん!』

 

 任せろと、自信満々に返すタロに笑顔を返しながら、角を曲がって、足を止める。

 肩の上に居るタロも、雰囲気が変わり、ぐるると威嚇姿勢。

 視線の先。進行ルート上にトンネル。高架線下の長い物では無いからか、トンネル内には電灯は無く、一番近い光はトンネル出口の光。その光が、トンネル内に立つ何かによって遮られていた。

 トンネル内の何かが動く。それに合わせて、重心を下げた。瞬間的に息を吐いて、新しい空気を取り込む。

 

「まったかねー!」

 

 答えるように、プシュッっと気の抜けるような銃声と共に、弾が放たれる。

 射線から体を外しつつ、突撃。続けざまに、同じような音の銃声が響き、その前に体を外す。

 

「無視は寂しいんだけど!」

 

 肉薄する。見上げた先で、相変わらず派手なサングラスをかけたルイ姉が、歯を見せて笑いながら、銃を振り下ろしてきた。

 銃底による一撃を腕で防ぐ。ミシミシという音を聞きながら、銃に手を伸ばした。

 ルイ姉が引くより早く、俺の手が銃へとかかる。

 

 ──……無理だな。

 

 そのまま銃を取り上げるには、時間が足りない。そんな事を考えている間にも、ルイ姉は動き、体を引く。距離を開けながら、銃口がこちらを向き。一瞬の表情変化。

 

「手癖の悪い子!」

「師匠の教えが良かったもので!」

 

 ルイ姉の手が動き、かけられた安全装置を戻そうとするが、それより早く足を跳ね上げ、銃底を蹴り上げる。

 何を思ったのか、ルイ姉がそのまま手を離した。蹴り上げられた銃が宙を舞い、思わずそれを目で追ってしまう。

 

「良すぎるのも考え物ね」

「っ」

『わん!』

 

 視線を戻すより早く、ブーツを履いた足が、腹部に突き刺さる。

 タロのお陰で、腹筋に多少力を入れて受けられたが、それでも重い。吐き出しそうになるのをくいしばって耐えつつ、ルイ姉の足を取るも、直後、横顔へ衝撃。視線を向ければ、掴んだのと逆の足によるハイキックだった。

 手を放してしまう。蹈鞴を踏みつつ下がる。それでも何とか、ルイ姉から目を逸らさない。

 地面に降りたルイ姉は、そのまま少しだけ下がり、落下してきた銃を空中でキャッチ。慣れた手つきで、安全装置を外す。

 

「ちぃ」

 

 向けられるより先に地面を蹴る。前進ではなく後退。無理無く躱せる位置へ。

 

「離れちゃったけどいいの?」

「ちょっと休憩しようかと思っていた所だから」

 

 想像はしていたが、改めて自覚させられる。

 この後に控えるラプラスの事を考えると余力を残したいのに、ルイ姉の相手はしんどい。

 しかも、今の銃底での一撃は、しっかり沙花叉の小剣が刺さっていた位置への物だったせいで、痛みが悪化した。

 

 ──どうしたもんかな。

 

 荒くなる息を整えつつ、痺れる左手を軽く動かして誤魔化しつつ、四股を踏むように腰を落とした。

 

 ***

 

 一方、ホロ学校庭。銃声と金属音の響くこの場所での、シオンとこより、フブキといろはそれぞれの戦いは、そのどちらもholoX側の優勢に進んでいた。その内、フブキといろはについては、見ようによっては互角の様にも見えたが、シオンとこよりにの方はそうではない。

 こよりはガトリングガンで、シオンは魔力球より放つ弾丸で、それぞれ攻撃しあってこそ居たが、弾丸の密度に破壊力、そして飛んでくる弾丸に対しての対応、その全てにこよりが優勢だった。

 

「大丈夫? 息上がってきているよ」

「わざとよ」

 

 先程から微動だにせず、撃っているだけのこよりに対し、シオンは必要に応じ、地面を蹴り、跳ね、かがんだりしている為か、その息は荒く、額には汗が滲んでいる。

 どうみてもスタミナ切れ間際の様子。それを裏付けるように。

 

「ぐっ」

 

 シオンの力が一瞬抜け、膝が崩れる。慌てて支えるも、迫る弾丸を躱せず、盾で受ける。その衝撃に耐えきれず、体が弾き飛ばされた。

 こうなると、残りの弾丸もどうしようもない。防御用の盾を、体を覆うように張りつつ、地面を転がる。

 その間も着弾は継続。ギリギリ防げて入るが、余裕は無い。砕け散るまで、そう時間も無いだろう。地面を蹴りつつ、新しい球を作成。弾丸ではなく、作成した球そのものを飛ばしつつ、フブキの位置を確認。こちらを向いていない事も合わせて確認。

 好都合であった。視線をこよりへ向ける。丁度球が、こよりの貼る壁へと当たった所。

 視線を外す。直後横から、強い光が届いた。

 

「きゃっ」

 

 こよりの声。一瞬弾幕が止む。その隙に体勢を整えながら、シオンはガトリングガンを破壊するために撃ちあいが始まってから初めて、球それぞれから、単発狙撃の弾丸を三発用意するも──放たない。ガトリングガンはこよりの背中側へ引っ込んでいた。代わりに連射仕様へ切り替える。

 

「眩しいなぁ、もう」

 

 言いながら、目をこすりつつ、こよりは再びボタンを押す。ガトリングガンが動き、斉射を再開。シオンの場所を捉えていないはずなのに、ガトリングガンの銃口は正確にシオンを捉え、そちらを捉えていた。

 一方で、シオンもまた、斉射を再開しながら、その様子を捉える。

 

 ──見ていない癖に、狙いが正確。実は見ている? 

 

 ただそれを隠す理由が分からない。それなら逆に、見えていないが見えている振りをしている方が、まだ理解できる。

 

 ──正直どっちでもいいけど……。

 

 見えていようがいまいが、狙いが正確である以上、回避するしかない。

 ただ念の為確認しておいた方が良いかと、弾丸に混ぜて、先程と同じ閃光機能を備えた球を飛ばし、フブキの方を確認する。

 フブキの状況は変わっていなかった。変わらず斬りあい、互角の状況。フブキの顔が、こちらを向いていない事を確認し、炸裂を──。

 

「これか!」

 

 中断。フブキの方を見れば、いろはにより、こちらへ顔を向けられているフブキと目が合う。

 

「気づかれちゃったか」

「フブキちゃん目を閉じて!」

 

 言いながら、魔法で目を保護しつつ、今度こそ炸裂させる。激しい発光が周辺を包むのをフィルダー越しに見ながら、前面へ盾を全開に貼って突撃。弾丸の雨が止んだことから、ガトリングガンを再度格納したのだろうと察しながら、こよりへ肉薄、そのまま勢い良くぶつかる。

 弾丸発射の魔力球を追加で生成し、こよりの左右と背後、そして上部へ展開。

 

「撃ちなさい」

 

 フィンガースナップと共に、斉射を開始する。四方からの弾丸にこよりの表情が初めて歪む。

 

「こんな豆鉄砲、何発撃っても、こよのバリアーは破れないよ」

「言ったでしょ、我慢比べだって。悪いけど、フブキちゃんが勝つまで、このままでいさせてもらうわ」

「それじゃあずっとこのままだね、だって、いろはちゃんが勝つもの。それに」

 

 こよりの目がシオンを捉える。

 息が上がり、滝のように流れる汗を拭うその姿を暫し観察。

 

「もつの? かなりしんどそうだけど」

 

 その言葉を、シオンは鼻で笑った。

 

「言ったでしょ、わざとだって」

 




再三遅れて申し訳ございません
自信はないのですが15日0時が更新予定となります


*追記
すみません、更新日1日ずらします。

文章の構成はどちらがいいですか

  • 全部詰める(全話までのやり方)
  • 地文と会話文の間に改行を入れる(今回)
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