『ワン!』
「分かっているよ!」
余裕が無く、タロへ言葉を返しながら、前進。直後、体の合った場所を弾丸が通過していく。
「おー、良く避けるね」
「師匠の教えが良かった物で」
「それだけじゃないでしょ!」
弾丸二発、速射される。
銃口の向きから行先を即判断。急停止、左へ跳ぶ。視線の先で、弾丸が俺の進行先、そして停止か下がった時に当たりそうな際を飛んで行った。相変わらずの精密性。だから避けられている節はある。
そのまま走って、一旦トンネルを脱出して、陰に隠れる。
一先ずいざという時にすぐに動けるように片膝で立ちつつ、腰を下ろした。
何度目かになる突撃も失敗。腰を下ろして休めるのはいいが、正直しんどい。元より体調万全でも怪しい相手。徒手訓練で勝った試しは無いし、銃もあるとなると猶更。
そんな相手に、消耗している今、勝たなければならない。横を抜ければいいという訳じゃない。必要なのは無力化。ラプラスとやりあう事になった時に、横やりを入れられないようにしなければならない。
「どうしたの? 行かなくていいの?」
「なら縛られてくれません?」
「何を言っているの」
様子を窺おうと少し顔を出せば、そこを狙って即座に弾丸が飛んでくる。
強いて救いをあげるのであれば、俺を狙う弾丸が、実弾ではなく麻酔弾な事だろうか。
実弾の都合と違って跳弾のようなアクロバティックな射撃は出来ない。だからこうして、陰に隠れて腰を下ろす事が出来ていた。
「タロ」
声を掛ければ、肩から降りたタロが、俺の代わりに様子を伺い始める。
それに甘えて一旦息を整えるのに、少しだけ体の力を抜き、時間稼ぎに声をかける。
「意外です。普通に実弾を撃ってくるものかと」
「元弟子で一緒に住んでいたんだから。情はあるよ」
「……その割に──」
「俺の事を捨てたじゃないかって?」
先読みされた言葉が返ってくる。
「ラプから聞いたよ。私とラプの会話聞いていたって」
「途中までですけど」
「最後までは聞いていないんだ」
「序盤の内容が衝撃的だったもので、そんな余裕は無かったです」
「そっか」
俺の言葉に、ルイ姉が口を閉ざす。
どうしたのかと様子を見ようとしたとき、フラッシュノズルが見えて、慌てて顔を引っ込める。
「まあ、あの時の話はラプに聞いてね」
「なら、縛られてくださいよ」
「それはその内」
歯噛みしている俺に、タロが『ワン!』と一鳴き。
その内容に、戸惑う。
「本当か?」
『ワンワン!』
「しょうがないだろ。俺だって戸惑うって」
ただ、タロが嘘をつくとは思っていない。そう言うのなら、そうなのだろう。
確認したいが、顔を出したら撃たれるのだから、確認しようがない。
「ワンちゃんとの内緒話は終わった?」
「……ええ、まあ」
タロの事も知っているらしい。戸惑いながら、暫し悩んで腹を決める。
雪玉を作り、深呼吸を一つ。地面を蹴って勢いよく飛び出した。
即行動、前のめりに走りつつ、射線から素早く外れつつ、雪玉を投げつける。
「む」
銃声の直後、雪玉が弾ける。その間に二歩進む。
銃口が向くよりも早く一歩踏み込み射線を外れ、同じ事で更に一歩。
ここからは攻めないといけない。回避運動よりもルイ姉が銃を向ける方が早い。
一歩進む。体を逸らし、放たれた銃弾を躱す。二歩。力を抜き、体を倒しながら、二発目を躱す。そのまま踏み込む。
『ワン!』
三歩。タロの合図に合わせて、闇雲に横移動。体の合った場所を、弾丸が抜ける。
前進。ルイ姉の直ぐ傍。驚き顔のルイ姉に笑って返す。
「抜いたぁ!」
その横を走り抜け。直後、後ろから銃声が響いた。
***
「せい!」
「ハァ!」
フブキといろは、それぞれの渾身の斬撃がかち合い、鍔迫り合いへ移行する。
視界の隅に、シオンとこよりの姿。零距離に詰めたシオンの斉射によって、膠着状態になっている。
かなり強引な手段だが、麻痺により思うように動けず、ガトリングガンの弾丸を防ぐのもぎりぎりの状況で、あの状態に持ち込んだ胆力には、素直に感心してしまう。
とはいえ、シオンの様子は、明らかに辛そうだ。フブキの耳には我慢比べだという、シオンの言葉は聞こえたが、果たしてあの状態を、どれだけ維持出来るのか。あるいは次の瞬間には急に電池が切れたように倒れてしまうのでは。そう思えてしまうくらいに、フブキにはシオンが限界に見えている。
──急がないと。
そう思うも、そんなフブキを嘲笑うようないろはの強さ。
こよりの状況を意図してか意図せずか、一対一での戦いが始まってここまで、攻め気は一貫している。いろはからすれば、この状況を維持させれば、高い確率で勝手に一人が戦闘不能になる状況と察しているだろうに、だからと言って現状維持の為に防御一辺倒になるという事も無い。
いっそそうなってくれた方が、御しやすかったし、あわよくばと考えてしまっていただけに、フブキは内心で歯噛みする。
弾かれるように鍔迫り合いが終わり、二人の距離が開く。直後、動いたのはいろは。袈裟と一文字の二連撃でもって、フブキを狙う。
今なお持って、落ちるどころか増しているいろはの動きの冴え。一先ず攻撃をいなしながら、切り返しを試みるが、それよりもいろはの追撃が早く、受けに回ってしまう。
「いろはちゃんだっけ? ノリノリだね」
「楽しいでござる! シオン殿も良かったでござるが、此処まで動きについてこられるのは初めてでござるよ! 里を出て良かった!」
「なら、そんな私の頑張りに敬意を表して、一度引いてくれないかな?」
「それは雇われ用心棒的に無理な相談でござる!」
直後、いろはの連撃は四連。対してフブキは、初めの三発を弾きいなし、最後の一撃を受け流すことで、いろはの体勢を崩す。
蹈鞴を踏むいろはに対し、刀を振り上げるフブキ。刃を返し、峰の方を下に、いろはの意識を刈り取る為、首を目掛けて振り下ろす。
「なっ」
「っと」
だが、振り下ろされた刃は、金属音を響かせるのみであった。
いろはの背に、背骨に沿うように置かれたチャキ丸。
まさかの受けに虚を突かれたフブキ。直ぐに意識を改め、そのまま力でもって圧し潰さんとするが、それよりもいろはがフブキの刀を打ち上げる方が早かった。
体勢を崩すフブキ。一方のいろはは、そのまま、地面に平行に回転。逆手で持ったチャキ丸を、フブキの正中線へと振り下ろす。
──受け止め……切れない!
地面を蹴る。後ろに下がる。
本来なら長刀のチャキ丸の回避はそれだけでは叶わないが、今回は逆手持ちで腕が伸ばしきれていなかった。
ゆえにチャキ丸は、フブキの動きに取り残された胸元のスカーフのみを斬る。
──あっぶなー。
その光景に、内心冷や汗をかくフブキ。
固定されているわけでもない、ただ舞うだけの布が、半端な姿勢での、狙っていない物であったにもかかわらず、切断された。
これが仮に、しっかりと固定されて広げられた状態や、布ではなく紙や木の葉というのならフブキにも出来るが、動く布という条件では話は別。
感心するべきはチャキ丸の切れ味かいろはの腕か。何度目かになる、ミオを連れて来ない判断をした少し前の自分へ腹を立てつつ、フブキは次手を即決。フブラ召喚。光線即撃ち。
「撃てぇ!」
目晦まし目的の拡散砲。殺傷能力皆無の虚仮威しでしかないが、いろはが見た砲撃はこよりに無力化こそされたものの、校庭の一角を破壊する程度の威力を有した一撃。それがこの距離で直接撃ち込まれればどうなるのか。想像に易い。
イメージしてしまったその光景に引っ張られ、いろはは反射的に跳んだ。正面へ飛べるだけ跳び、前転を挟んで再度跳ぶ。
着弾の──音は無い。違和感を覚えいろはが視線を返せば、こちらに向かってくるフブラと、シオンとこよりの方へ駆けだしているフブキの姿が見えた。
虚仮威しと悟って即反転するも、フブラは次弾を装填済み。
「撃てぇ!」
振り返ることなく放たれたフブキの号令と共に、再び光線が発射。虚仮威しか否かは──少なくとも見た目では分からない。
このまま撃ちあいをされるのは面白くない。面白いことを探しに里を出て、holoXに用心棒として雇われた。その最中で、今日みたいな事は何度もあって、こうしてチャンバラに講じる事もあったが、此処までの相手は初めて。是が非でも、最後まで戦いたい。命のやり取りに興味はないが、仕合うとなれば話は別なのだ。
「邪魔でござる!」
光線を躱しつつ前進し、そのままフブラを両断する。だが、その後ろに追加のフブラを見つけ、歯噛み。斬るかどうかを少し悩み、無視に決める。
後ろからの光線を撃たれる可能性があるのは確かに面倒だが、それなら射線上にフブキを入れておけばいい。それで充分、牽制にはなるだろう。少なくとも、撃ったとしても虚仮威しになる可能性が高いと判断。
フブキの背中とフブラの位置を確認し、フブキの背に向けて加速。
ちらりと、フブキがいろはの方を肩越しに確認する。その姿を見て、いろはも背後を確認。
こちらを追ってくるフブラの姿があった。真後ろ。光線を撃てば、横にそれるだけで、フブキに向かう位置。
狙い通りの状況。加速し、フブキを追撃。走るフブキより、いろはの方が早い。いろはが一歩進む毎に、距離がどんどん縮まっていく。
息を思い切り吸って、最後の加速。刃を振りかぶる。
──どうせこれにも反応する。受けられたらそこから……。
展開を考えつつ、振る。
受けられる前提で、切り返しが早くなるように少し手を抜いて。
──さあ、続きでござる!
そう思いながらのチャキ丸の一閃は。
見事、前を走っていたフブキの首を落とすに至ったのだった。
「……は?」
次未定
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