ホロ学園の「俺」君物語   作:零円

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 いろはは、眼前の光景に目を疑い──切り替える。

 斬るつもりが無い斬撃で落ちた首。斬った際の手ごたえ。一切反応を見せなかったフブキ。

 余りにも違和感が多すぎた。

 いろはは急停止し反転。向かうは先程無視したフブラ。

 走ってくるいろはを前に、びくりとフブラの体が跳ねる。

 直後、光線。フブキの指示は聞こえない。確信し、直線軌道のそれを躱しながら、再度加速。

 

「お主でござる!」

 

 肉薄し躊躇う事無く一閃。フブラの体を両断し、その体がぽむりと音を立て、煙へ変わる。

 てっきり受けられるものと思っていただけに、その事にも少々虚を突かれながらも、いろははそのまま周辺を警戒に移行した。煙に紛れ来るであろう、フブキの気配を探る。

 一つ……二つ……三つ……。

 頭で三を数えた所で、いろははチャキ丸を力任せに振り、その風圧で煙を散らした。

 斬り払ったフブラは全て煙へと変わり、その姿は残らない。その事から、いろははフブキが何らかの方法で作り出している何かは、破壊すればその形を残せない幻影に近い物と考えていた。

 そうだとして、いろはがその消滅を確認していない幻影はあと一つ。

 視線をそちらへ向ける。先程首を落としたフブキ。その時の感触が、フブラを斬った時と同じ物だった。故に幻影と判断し、残っていたフブラこそが、フブキの化けた物だと考えて、消滅を確認せずに視線を逸らしたいろは。

 しかし、自分がフブキの首を落とした場所を見れば、そこから更に進んだ所に、首の無いフブキの体が、変わらずこよりとシオンの方へ向けて走っていた。

 後ろから見るだけでも、中々の恐怖映像。それを向かってこられる側のこよりやシオンが見れば、その恐怖はどれほどの物か。がっつり零距離で、変わらず我慢比べ中の為、その光景に気が付いていない二人は、もしかしたら幸せなのかもしれない。

 

 ──っと、違うでござる。

 

 それどころじゃない。フブキが二人の元に着くのに、もう殆ど時間が無い。

 あの首の無いフブキが二人に合流した時の様子は正直見てみたい気持ちもあったが、それはそれ。用心棒としての責務を、今は全うするのみ。

 全力で走れば、まだ間に合う。何なら、後ろから押し飛ばしてシオンにぶつけてしまい、強引に二対二の状況を作り出してもいい。

 チャキ丸を納刀。軽く息を吐きながら脱力。前のめりに倒れながら、地面を蹴る。

 数歩で、最大速度まで加速。歯を食いしばって、その速度を維持しながら、いろはは右手をチャキ丸の柄へと添える。

 

 ──いざ、勝負! 

 

 その一歩で、いろははフブキへ追いつく。チャキ丸の圏内。シオンにぶつけるにはやや遠い。ならば、フブラ同様に輪切りにする。狙うは胴。

 左の親指で鍔をあげ、右手でチャキ丸を抜刀、走る速度すら威力に変換しながら、そのまま斬撃へと移行。

 斬撃を放ちながら、いろはは観察する。またフブキの反応は無い。偽物だろうか。否、それでも関係ない。ここまで来た以上、フブキがまた偽物で、煙に撒かれようとも、その時はこのままシオンを狙うのみ。

 チャキ丸がフブキへ到達。一瞬届いたチャキ丸越しの感触に、再度いろはが戸惑った直後。

 フブキの体が消える。チャキ丸が空を切る。

 

「……は?」

 

 思わず言葉が漏れた直後。前傾姿勢のいろはの背の上に、軽い衝撃。

 

「騙らないのも技の内。刀だけじゃ勝てそうにないから、許してね」

「──最後のは、合気の類でござるか?」

「内緒」

 

 いろはの足がとられ、宙へ浮く。次の衝撃を予想がついて、いろはは歯を食いしばった。

 直後、急加速。強制落下させられ、地面へと叩きつけられ。

 

「ほいっと」

 

 さらに、頭上からの衝撃に、いろはの意識は刈り取られた。

 

 ***

 

 直ぐ近くからのズンッっという衝撃に、シオンとこよりの視線がそろってそちらを向いた。

 視線の先では、額の汗を拭うフブキとその隣には大きなフブラ。そして、フブラの下ではいろはが目を回している。

 

「いろはちゃん⁉」

「フブキちゃんやるー」

「いやー、流石に疲れた。シオンちゃん、良く二人相手にもっていたね」

「ま、天才だからね」

 

 軽口を叩きあうシオンとフブキ。それだけの余裕が、実際あって。残されたこよりは、必死に頭を回していた。

 状況は最悪。シオンの弾幕のせいで自分は動けず。仮に動けるようになったとしても、いろはと互角に戦うフブキに近接で挑まれれば勝ち目はない。

 ならばこうして保護されている隙に、逃げるしかない。幸い定点転送用の装置は持ってきている。起動に時間がかるのが難点ではあるが、一先ず問題は無い。気が付いて直接どうにかしようとしてきても、バリアーを解かなければいいだけだ。

 いろはについては、一旦置いていくしかない。転送装置の範囲は狭く、いろはまで届かない。

 それに、いろはは気絶しているだけで、人質にする様子もなく、何よりシオンとフブキはこよりの弟分の連れ。なら、一度預けても、恐らく問題は無い。

 

「シオンちゃん大丈夫? 汗だくだけど」

「慣れない魔法を使っているからね。流石に疲れたけど──まあ、何とかなったわ」

 

 転送装置を起動させようとこよりが腰に手を伸ばすも、それより早く、シオンのフィンガースナップが響いた。

 直後、こよりの手が腰に到達するも、空を切る。指を動かすが、何かに触れる気配がない。はてと体を見下ろして。自分の体が、一糸纏わぬ生まれたままの姿になっていることに気が付いた。

 

「…………き、きゃああああああああ⁉」

 

 胸元を抑え、その場に蹲るこより。辺りを見渡せば、シオンの弾幕は止んでいた。

 そして、少し離れた場所で、シオンが何やら漁っている。

 間違えようもない。こよりの服だった。

 

「こよの服返してええええ!」

「うっさい。必要な物を見つけたら返してあげるから、それまで待ってなさい」

「容赦無いなー……」

 

 少し離れた場所で、こよりの事を見張りながら苦笑するフブキ。

 そんなフブキを他所に、シオンはこよりの白衣を持ち上げる。がらがらと何やら色々零れてきた。明らかにポケットに収まる量でも無く、シオンは暫く白衣を検分し、自分の帽子に詰めていく。

 

「こよの白衣、持ち帰ろうとしないでよ!」

「ここにあるがらくたの事を聞きたいんだけど」

「聞けええええええ!」

 

 完全に形勢は逆転。いつものペースのシオンを見て、とりあえずの決着を確信し、「ねぇ」とフブキ。

 

「こんな事が出来るならもっと早くやれば良かったのに、どうしてしなかったの?」

「こいつの薬が効いていたからね。体は動かないし、魔法の精密操作だって出来なかったのよ」

「……」

 

 それにしては自由に動き回っていた印象である。

 それを察したのか、「言っとくけど」とシオン。

 

「私の魔法操作をもってすれば、もっと動けるのよ。それをあんな大雑把な動きしか出来ないなんて……屈辱だわ」

「そう……」

 

 聞いてはいたが、恐ろしい意識の高さに、感心するフブキ。

 

「なら、もう薬は抜けたって事?」

「そうね」

「こよのお薬がそんなに早く抜けるわけ……」

 

 二人のやり取りに、反応を見せたこよりの言葉が止まった。そのまま、顎に手を当て何やら考え始めた。

 その様子をちらりと見たシオンが、そのまま漁るのを再開。ぽいぽいと、何かのパーツやら上着やら下着やらを、雑に持ち上げ、軽く見分しては投げ捨てていく。

 

「何を探しているの?」

「んー……そいつの使っていた爆弾」

「ばっ」

 

 何を言っているのかと驚くフブキを他所に「あっ」っと声をあげたシオン。

 

「見つ「分かったあああああ!」……」

 

 シオンの言葉を遮り、こよりが声をあげた。

 

「あの異世界魔法を参考にしたんでしょう。つまり、薬を抜く為に代謝能力をブーストした! 貴方が汗だくなのはそれが理由! 当たり⁉」

「当たり。良く分かったわね」

「こよはholoXのずのーだからね」

 

 ふふんと、どや顔を決めるこよりを見ながら、シオンは見つけた爆弾からピンを抜いた。

 

「はいこれ、景品」

 

 そのまま転送。こよりのバリアーの内側へ飛ばす。

 

「……ちょっと!」

 

 慌ててこよりがその爆弾をキャッチ、そのままレバーを抑える。

 

「なにするの⁉」

「次行くわよー」

 

 ぽんぽんと、次々にピンの抜かれた爆弾がこよりのいるバリアーの内側に転送される。

 それをこよりは、掴んだり踏んだり挟んだり咥えたりと、あらゆる手段を用いて爆発を回避していく。あまりに一方的な曲芸染みたその光景に、フブキは感心半分抵抗半分と言った様子。

 やがてひと段落したのか、シオンが転送を止めた時には、体の至る所に爆弾があるこよりの姿があった。

 

「ももももももももー!」

 

 咥えた爆弾を外せないから、そのまま必死に怒りを見せるこよりを前に、シオンはフィンガースナップを一つ。口元の爆弾を、自分の手の内に戻す。

 口が自由になったこよりは、一先ず何度か大きく息を吸って。

 

「なんてことするのー!」

 

 再度怒鳴った。そんなこよりへ、シオンが返す。

 

「爆発間際のこいつを直接そこに送ることも、今すぐあんたを人が大勢いる場所とか、海のど真ん中とかに飛ばす事だって出来るわけだけど」

「生意気言って、本当にすみませんでした」

 

 流石に土下座は出来ないようだが、声のトーンは本気だったため、一旦シオンは見逃すことに決める。

 

「それで、色々聞きたいんだけど、ちゃんと教えてくれるわよね」

「シオンちゃんのお願いだったら、こよ、何でも聞いちゃうなー」

「ちゃん?」

「シオン様! 何なりとご命じ下さい! ただ、出来ればその前にこの爆弾達をどうにかしていただけると、こよはとても嬉しく思いますー!」

「私の質問に一つ答えるごとに一個ね」

「ありがとうございます!」

 

 ぶんぶんとこよりの尻尾が大きく振られる。

 あれは果たして、どの感情由来なのだろうか。そんな事を思いながら、フブキはちょっと移動して、いろはの隣に腰を下ろした。

 

「そのまま寝たふりしておいた方が良いと思うよ」

「……そうさせていただくでござる」

 

 すー、すーとわざとらしい寝息を立てるいろはのポニテを弄りながら、フブキは遠く。恐らくは部員の少年が居るであろう位置を見る。

 

 ──大丈夫だといいけど……。

 

 シオンを見る。動機からholoXの事情に至るまで、こよりに色々聞いている彼女は、フブキの目には強がっているように見えた。まだ完全に薬が抜けたという訳では無いのだろう。そんな彼女をおいては流石にいけない。

 今日何度目か。ミオを連れて来なかった事を後悔しながら、フブキは今日一番の溜息を漏らした。

 




結構お怒りシオンちゃん。

次は12時間~24時間後になります。
宜しくお願いします。

文章の構成はどちらがいいですか

  • 全部詰める(全話までのやり方)
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