ホロ学園の「俺」君物語   作:零円

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 深夜だというのに乱暴に戸を叩く音で、フレアは目を覚ました。

 欠伸を漏らしながら体を起こし、時間を確認。日の出前。日付が変わって間もない頃。

 

「誰よ、こんな時間に」

 

 正直無視しても構わないのだが、一言文句を言ってやりたいという怒りと、何か不味い事態なのではという心配もあった。

 それぞれを天秤にかけて、睡魔が負ける。わしゃわしゃと頭を掻き、欠伸を漏らしながら立ち上がる。

 

「んー……出るの?」

 

 隣で寝ていたノエルもまた、体を起こした。

 大きな欠伸を漏らすノエルへ、「寝ていていいよ」とフレア。

 言われたノエルは、もぞもぞと布団の中へ潜っていく。そんなノエルの乱れた毛布をかけなおしてすと、フレアは、パジャマの上からカーディガンを羽織って、静かに部屋を出た。

 肌寒い廊下。腕をこすりながら、玄関へと近づく。

 玄関のガラス戸の向こうに、人影があった。フレアの接近に気が付いた様子無く、変わらずノックを続ける。

 

「……どちら様ですかー」

 

 扉越しに、フレアが声をかけると、ノックの音が止まる。

 

「──ん、──たん」

「ん?」

 

 か細い声。わざとという感じではなかった。何か必死に声を出そうとして、それでも出せないといった様子。

 ただ、聞き覚えのあるその声が、よもや悪戯とは思えず。それでも念の為、迎撃用に矢を一本、手元に用意しながら、フレアは玄関のカギを開け、来訪者を──受け止めた。

 

「わため!」

 

 倒れてきたその小さな体は、フレアにとっては異世界にて知り合った同郷の友人。

 この時間ならもう寝ているはずでは。なぜ此処にいるのか。なぜ靴を履かず、パジャマだけなのか。疑問は尽きない。尽きないが──。

 

「ノエル! きんつば! 手伝って!」

 

 酷く冷えた友人を、まずは温めてやらねばと、フレアは声を張り上げた。

 間も無く、ぱたぱたと急ぎ足のノエルと、その肩に掴まってきんつばが玄関前へと降りてくる。

 

「わためちゃん⁉ どうしたの⁉」

「分からない。とりあえず、ノエルは毛布を持ってきてくれる? 私は飲み物を用意してくるから、きんつばはわためを運んで」

「分かった」

 

 ピッっと敬礼をするきんつば。その二人を見てフレアは頷き、三人は行動を開始した。

 ノエルが足早に寝室へと取って返し、きんつばはわための体を魔法で浮かせると、そのままリビングへと運んで行った。それを見て、フレアは台所へ向かう。

 ケトルを使いお湯を沸かして、異世界から持ってきた茶葉を用意。その間に、タオルを持ってきて、濡れタオルを用意し、キッチンへと入る。

 キッチンでは、ソファに座ったわためが、体を抱えていた。きんつばが魔法で温めているようではあったが、それでも直ぐには暖まらない。

 

「大丈夫、わため?」

 

暖房をつけてから脇に座り、抱き寄せる。かたかたと小さく震える体は、寒さ由来もあるのだろうが、それだけの様には見えない。

 

「……きんつば。魔法でわための状態を確認してあげて」

 

温めなくていいのかというきんつばに、わためへの申し訳なさを感じながらも、フレアは頷いて返す。そんなフレアへ、同じくきんつばも頷き返し、使用する魔法を変更。わための状態を確認し始める。

 

「フレアー、毛布を持ってきたよー」

「ありがとう、ノエル。私、キッチンからお茶持ってくるから、毛布かけて、足を拭いてあげてくれる?」

「おっけー」

 

指示をしながら、ノエルと入れ替わる為、フレアが立ち上がる。そんなフレアの服の裾が何かに引かれた。視線を落とせば、服の裾をわために掴まれていた。どうしたのだろうかと、視線を上げれば、フレアとわための目が合う。

酷く冷えて弱弱しい雰囲気のわためだったが、目の光は強く、何かを訴えているようであった。

靴も無く、着の身着のままといった様子。例えば喧嘩などして、勢いのままに飛び出して来たというよりは、のっぴきならない事態に直面し、焦って出て来た。もしくは逃がされたと言われた方が、しっくりくる。

同じ感想に至ったのだろう。何も言わず、ノエルがその場を外す。

キッチンへ向かったのだろうと当たりをつけ、心中にて礼を言いながら、フレアはソファへ着いた。

 

「きんつば、お願い」

 

 フレアの言葉に、きんつばが頷き返し。自身の魔素を用いて、魔法を発動。

わためがこちらの世界に来て間も無くの頃。その際はきんつばとフレアを繋いだ、迷子防止の念話魔法。それを使い、フレアとわためを繋ぐ。

 

『わため、聞こえている?』

 

 脳内に響いたフレアの声に、びっくりした様子を浮かべるわため。だがすぐ、これがきんつばの念話によるものだと気が付いて、わためはフレアに縋りついた。

 

『ふーたん、助けて!』

『ちょ、ちょっと! 落ち着いてわため!』

 

 感情が乗りすぎて、脳内に響く音量にフレアは驚く。ただ、フレアの言葉はわために届かず、音量そのままに言葉は続く。

それだけの事態なのだろう。そう察して、フレアはわための言葉を拾い始める。

 

『お散歩に行ったあの子が帰って来たと思ったら、シオンちゃんが襲い掛かって、そうしたら別の変な格好の人になって、多分あの子の知っている人だと思うんだけど、そもそも記憶が違うらしくって、それでその時の人だと思うんだけど、その人がシオンちゃんへ襲い掛かってきて、シオンちゃんがどうにかやっつけようとしたら別の人が変な物を撒いて、それすったらなんか体が重くなっちゃって、わためはシオンちゃんが何とか逃がしてくれたんだけど、とにかく家が大変だし、多分あの子も大変で!』

『う、うん。ちょっと待って』

 

 まくしたてられた言葉を何とか拾う。

 言葉の節々に気になるワードはあったが、一旦置いておき。わための言葉を整理、シンプルに纏める。

 

『とりあえず、家に不審者が来たのね?』

『うん!』

『それで、その不審者が襲ってきて、わためはシオンちゃんに逃がされた』

『そう!』

『それでうちに、助けを求めに来たって事でいい?』

『お願い、ふーたん! シオンちゃんも調子悪そうだったし、あの子も心配なの!』

『……』

 

 真っすぐわために見上げられ、フレアは少しだけリスクとリターンを考えてから、静かに首を縦に振る。

 正体不明の相手というリスクはあったが、わためとの友情やその家族との親交、それに少年と親しい天使や竜の事を考えたら、流石に受けない選択は無い。

 頷いたフレアに、わためは表情を輝かせる。

 

『いいよ。じゃあ、私、ひとっ走り、わための家見てくるから』

『わためも行く!』

『え⁉ いや、私が一人で行った方が、直ぐに行けるから、わためは家で休んでいた方が』

 

 フレアの言葉に、わためは散漫な動きながらも、しっかりと首を横に振る。

 

『二人が危ないのに、わためだけ、家でのんびりなんて出来ないよ。出来る事なんて無いかもしれないけど、あの子が頑張っている今、シオンちゃんを守れるのはわためだけだもん』

『わため……』

 

 譲る気配が無い。気持ちは分かるが、それでも状況に遭遇すれば、間違いなく戦闘になる以上、体調の芳しそうでないわためを連れて行くのは、リスクしかない。

 

『このまま念話繋いで、逐一報告するからさ。それじゃあダメ?』

『でも……』

『わための気持ちも買ってあげたいけど、やっぱり……』

『私も一緒にいくよ。わためちゃんには私がついているからさ、それならいいんじゃない?』

 

 ノエルから念話に割り込みが入る。

 キッチンから、お茶を手に戻って来たノエルが、お盆をローテーブルへ置きながら

 

『ノエル……でもさ』

『きんつばもいるし、大丈夫だって。ね?』

 

 フレアがきんつばに視線を向ければ。ドヤ顔を決めてサムズアップを決めるきんつばの姿があった。

 行く気満々という様子。味方のいない状況に、困惑しながら視線をわためへ戻す。

 体調が芳しくない筈なのに、きらきら顔のわため。

 三対一。勝ち目が無い。諦めて、フレアはわために頷いて返した。

 

『分かった。一緒に行こう』

『ありがとう、ふーたん! ノエちゃん! きんつば!』

 

 きらきらとしたわために、打算込みで頷いている事実に少し罪悪感を覚えながらも、フレアはわための頭を撫で、立ち上がる。

 

『いいよ。それじゃあ、善は急げ。直ぐに行こう』

『うん。――わためちゃん、私におぶさってね。背中から、これを羽織って、お茶飲んで待っていて。靴は私のやつを貸してあげる』

『ありがとう、ノエちゃん』

 

 毛布を渡され、それを背中から羽織るわため。お盆の上に置かれた茶器を使い、きんつばがお茶を煎れる中、フレアとノエルは寝室へ戻り、身支度を整える。

 

『でも、聞いていたけど、どういう事なんだろうね?』

『さあ……まあ、怪我慣れしている学生って時点で、元々色々ありそうではあったけど』

 

 身支度を整えながら、念話でやり取りをするフレアとノエル。装備を軽く整備し、装着。

 その上から、魔法で持ってこの世界に適した物へと変更する。

 

『私ときんつばで先行するから、わための事はお願いね』

『大丈夫だから、安心して』

『ありがとう』

 

 頼りになる言葉に、フレアは頷き返し、共に部屋を出た。

 

***

 

「なっ」

 

 ルイ姉の放った弾は、俺に当たる事無く、その直前で止まる。その事にルイ姉が驚きの声をあげる。俺も同じ気持ちだった。

 本当にいた。いや、飛び出した際に確認はしていたけれども。目を疑ったのは本当だ。

 だが、分かっていた分、初動は俺の方が早い。すかさず屈み、足を狙う。

 

「っ」

 

 それを跳んで躱される。完全に虚を突いたのに、あまりに反応が良すぎる。

 正面切って勝てるビジョンが相変わらず湧かないが、一先ず距離を開ける為、即立ち上がりながら反転。後ろ回し蹴りを、空中に居るルイ姉に叩き込む。

 しっかり腕で防がれるが、踏ん張られる前に振り切り、蹴り飛ばした。

 

「――すまん、きんつば! ありがとう!」

 

 弾丸を止めたきんつばに礼を言いながら、振り返る。その直後、矢が飛来して、俺の脇を抜けていった。

 一瞬ルイ姉への心配が過ぎるも、あの人なら大丈夫かと、振り返る事無く、駆け出した。

 トンネルの入り口にて、弓を構えるフレアさん。何でいるのかと、顔に書いてあるフレアさん。多分俺も同じ顔をしていると思う。

 

「何となくわために事情は聞いているけど……どうしてほしい?」

「……すみません! 行く場所があるので、お願いしても良いでしょうか⁉」

「了解。頼まれてあげる。……少し行けば、多分ノエルと一緒にわためがいるから、顔だけでも見せてあげてね」

「ありがとうございます! お気を付けて! 自分が知る限り、負け無しです!」

 

 フレアさんの脇を駆け抜ける。

 

「そうなの? それじゃあ、後でなにかお返し貰おうかな」

「必ず!」

 

 背中越しに言葉を返し、俺は更に目的地へ向けて速度を上げた。

 




次回は一応24時間後予定です。

文章の構成はどちらがいいですか

  • 全部詰める(全話までのやり方)
  • 地文と会話文の間に改行を入れる(今回)
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