ホロ学園の「俺」君物語   作:零円

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登場ライバー
白上フブキ
大神ミオ


エピソード・オブ・すこん部 ep.2 隠者

 1日と少し前。フブキ宅。

 食後。満腹感を覚えるとともに、寝るにもいい時間。

 普段なら気だるい雰囲気の中、のんびりとゲームをしたり、漫画を読んだりと趣味に費やしている時間だったが、空気としては、やや緊迫していた。

 腕組み難しい表情のフブキ。その対面で、ミオがタロットカードにより占いをしていた。

 

「……どう?」

「ちょっと待ってねー」

 

 フブキとは裏腹に、至極落ち着いた様子の、いつも通りのミオが、タロットカードの束をシャッフルする。

 占いの内容は、部活の件。

 火曜日に創部届を提出したのはいい物の、部員が足らずに突き返されてしまった。

 正直、部活だけなら、真面目な部活動をするつもりはなく、フブキの置けなくなってきたグッズ類などを置き場所として使いたいというだけの、ペーパー部だから、名前だけ借りる事が出来れば問題は無い。

 しかし、申請した以上は、週に最低1度は何かしらの活動をせねばならず、名前を借りた相手もそこに来るかもしれない。その際、何かの拍子に自分やミオの正体がばれる恐れもある。そう考えると、やはり人員はある程度選別しなければならない。

 ならないのだが、既に部室として使うつもりだった空き教室を私物化し始めている以上、早めに人員は決めなければならない。

 申請から暫く。二進も三進も行かなくなってきたフブキは、遂にミオの占いに頼る事に決め、頼み込み始めたのは30分ほど前。元々私的理由に勝手に学校設備を使う事に反対していたミオに占って貰う事に難儀したが、そこは何とか宥めすかし、占わせた。

 そして現在。フブキの眼下。テーブルの上に、タロットカードが置かれていく。

 占い自体は何度か見ているが、未だにタロットカードの良し悪しは分からず。そもそも、タロット占い自体、カードこそ同じだが、カードの切り方や置き方に決まりはなく、どのように置いて、どう見て、どう解釈するのかは占い師次第であるから、フブキには現状がいい結果なのかどうかも分からずモヤモヤが続く。

 

「……どう?」

「……」

 

 今度のフブキの呼びかけにはミオは何も返さない。集中しているようだ。

 最終的に枚数にして、4枚。カードは置かれる。それぞれが何で、どのような意味を持つのか。それらをどう解釈するのか。

 

「まずは」

 

 結論づいたらしく、ミオが口を開く。

 

「これがこれから。未来を示すカード。戦車の逆位置。意味は混乱、暴走。単純に思い通りにはいかないって思っていいよ。今のままだと、新しい子は見つからず、部室は没収だね」

「……まあ、そんな感じではあるよね」

 

 だからこそ、ミオに頼った。

 

「この未来を回避出来るのかどうか。これについては、このカード。正義の正位置。今回の意味なら合理とか客観的が近いかな。自分の事しか考えずに突き進むんじゃなくて、色々な意見を取り入れて、バランスを取った方がいい」

「今、ミオに相談しているみたいに?」

「うん。勿論、私だけじゃない方がいいけど」

 

 相談できる対象が少ない事は分かっているのだろう。ミオの言葉の後半は、尻すぼみになっていった。

 

「最後のカードは、どういう子が狙い目なのか。出たのは死神の正位置と魔術師の正位置」

「……魔術師は分からないけど、死神はあまりいいカードじゃなさそう」

「そうでもないんじゃない? 死神のカードは、色々な事の終わりを示すカード。その先が無いカードとも言える。その人にとって、それが望むべきものか望んでいないものかはさておき、やる事が無いなら、フブキのわがままも聞いてくれるかもよ?」

「……やっぱりいい感じはしないんだけど」

 

 それでは、まるで弱みに付け込むようではないか。

 自らの益の為に利用しようとしていることは否定出来ない。だからこそ、通せる仁義は通しておきたい。

 そう思うフブキの考えを、ミオもきちんと理解しているようで、「まあね」と肯定しながら、しかし「でも」と言葉を続ける。

 

「魔術師のカードの正位置は創造とか自信って意味だから、何かを始めようとしているともとれる。死神と合わせて解釈すれば、何かが終わるから、何かを始めようとしている子かもしれない。勿論、その子が始めようとしている事が、フブキの望む物かは知らないけれど、少なくとも弱みに付け込むとは少し違うんじゃない?」

「……まあ、確かに?」

「因みに、魔術師には男性を意味する場合もあるから、男子のがいいかもね」

「……うーん」

 

 友人に男子はいるが、余り積極的に絡んだことは無い。部の声かけも、そういえば女子ばかりだった。

 とはいえ、部員を引き入れなければ、部室を明け渡さなければならないのも事実。

 知り合いに居たかなと、一応目算立てながら、フブキは立ち上がる。

 

「ありがとう、ミオ。ちょっと考えてみるよ。じゃあ、お休み」

「うん。お休み、フブキ」

 

 そのまま、フブキが寝室へと消える。

 それを見たミオは、自分も寝るかと思い、カードを片付けようとして。気まぐれにもう1つ、追加で3人目について占ってみる事にした。

 今の所、何かが終わり、始めようとしている男子。

 そして出たカードは、隠者の逆位置。

 正逆問わず、意味は孤立。しかし正位置が知識や思慮をもって、心の充足を持った孤高を示すなら、逆位置は心の壁をもって、周囲を近づけない孤独を示す。

 

「そもそも入部させるどころか、話すのも大変そうだね」

 

 他人事のようにそう言いながら、ミオはカードを片付けた。

 

 ***

 

 現在。

 絶句する白上先輩を前に、俺はスマホを取り戻すことを試みる。

 しかし、手が届く前にスマホは持ち上げられ、取り戻すことは叶わなかった。

 

「……あの、そろそろ返して貰えませんか?」

 

 声をかけるが、俺のスマホはテーブルの対岸。白上先輩の側に置かれてしまい、手を伸ばしても届かなくなった。

 

「これみて、どう思う?」

 

 代わりとばかりに、自分のスマホを取り出す白上先輩。何やら操作をしたのち、言葉とともに、画面を俺の方へと見せてくる。

 背景の画像は白上先輩と大神先輩のツーショット写真で、並んでいるアプリのアイコンは自分の倍以上。気持ち、アイコンは人の顔がアップになっている物が多い。

 どうと言われても……、思いつかない。急にスマホの画面を見せられて、気の利いた言葉など出て来よう筈もない。

 

「……えっと、カラフルですね」

 

 やがて、口をついたのは、そんな言葉であった。それ以上の感想が思い浮かばなかったともいえる。

 

「カラフル度で言えば、君のスマホの画面の方がカラフルだけどね」

「……確かに」

 

 黄色を基調にしながら、様々な色のコントラストで成り立つその画面は、デフォルトの壁紙ながら確かにきれいだし、カラフルだ。

 

「えっと……じゃあ、そんなにアプリ、使いますか?」

 

 次に目に留まったのは、大量のアプリ。

 良く見れば、画面下部にアプリと関係ない丸が5つ並んでいて、そのうちの1つが他の物よりも一回り大きくなっていた。それの丸の意味が、画面の数という事は流石に知っている。

 つまり、あの大量にアプリが並んでいる画面が、最大で後3つか4つあるらしい。元々入っているアプリが画面的に1枚と半分程度だから、最低でも倍以上の数のアプリを後から入れているという事だ。信じられない。何に使うんだ。俺なんて、元々入っている物すら多すぎるというのに。

 アプリの用途について、白上先輩に尋ねる。すると、

 

「ゲームのアプリが殆どだから、使うっていうよりはやるっていう方が正しいかな」

 

 と、返ってきた。再度、耳を疑う。

 

「……え? 全部やっているんですか?」

 

 パッっと勘ぐっただけでも、両手足の指で数えきれないくらいのアプリがあると思うが。

 

「ものによっては、デイリーをこなすだけで、がっつりアクティブに動いていないやつもあるけど。全部最低1回は毎日起動するし、ストーリーは読んで、イベントもこなしているよ」

「……良く分からないですけど、凄いですね」

 

 どれくらいの時間をかけているのだろうか。俺が家で何もしていない時間はずっととか? それで足りうるのか甚だ疑問ではあるが、それ以外に思いつかない。

 

「後は無料の漫画アプリなんかも入っているかな」

「……漫画ならそちらに沢山並んでいますけど」

「紙の媒体だと何時でも読めるわけじゃないし、アプリ限定の作品とかもあるから」

「でも、ゲームをしているのでは」

「そうだよ? 漫画も読むし、ゲームもやっているし」

「……」

 

 だが、それだと。

 

「時間、足りるんですか? さっき一瞬見ただけでも、ゲームっぽいアプリ、たくさんありましたけど」

「あるよ?」

「……ゲームやっていたら、漫画読めなくないですか?」

「漫画読みながらでも出来るゲームあるし」

「それじゃあもう、漫画を読んでいるのか、それともゲームをしているのか、分からないんじゃ」

「漫画も読んでいるし、ゲームもしているよ? あと、アニメも見ているし、絵を描いたりとかも」

「……はぁ」

 

 なんかもう、そんな生返事しか出来ない。

 この感情が、感心なのか。それとも呆れなのか。いまいち判断のつかぬまま、想ったことが口から出る。

 

「なんか、凄いですね」

「そう? 特別なことをしているつもりは無いけど」

「でも、色々していますし」

「それはそうだけど」

 

 うーん、と白上先輩は首を傾げる。言う通り、特別なことをしている自覚は無いのだろう。

 

「私は……楽しいし、好きだからやっているだけだからなー」

「強制されているわけじゃないと?」

 

 聞き返した俺の言葉に、白上先輩はきょとんとする。

 

「それはそうだよ。やりたくない事は言わずもがな。やりたい事だって、気乗りしない時にやれって言われたら、嫌でしょ?」

「確かに。たまにテレビに見入っている時に、洗濯機が洗濯終了のブザーを鳴らしてくるのは嫌ですよね」

「昼下がりの主婦みたいな感想言うじゃん」

「あー、確かにー」

「私のほうが少数派だと⁉」

 

 大神先輩からの賛同を得ると、白上先輩が酷く驚いて見せた。正直、俺も驚いた。

 

「大神先輩って、自分で洗濯しているんですか?」

「そうだよー。私とフブキの分。そういう君も?」

「両親が出張というか転勤しているから、自分一人暮らしなんです。なので、自分の分だけですけど」

「そうなんだ。……じゃあ、あんまりフブキの話は参考にならないかもしれないね」

「……そうみたいですね」

「待って。今のやり取りのどこに納得される要素があったの?」

「フブキ、何か言った?」

「……いえ、何でもないです」

 

 しゅんと、小さくなる白上先輩。落ち込むさまには、自分に非は無いとはいえ、少し申し訳なさを覚える。

 何とか持ち上げねばと思い、俺は話を戻す。実際、白上先輩のバイタリティは凄まじい。今の俺が、白上先輩と同じだけの時間を手に入れたところで、何もしない時間が増えるだけだ。

 白上先輩の自分の好きな事、やりたい事をやるその姿は、俺が大量兼部の末に求めた姿に近い。

 ……もしかして天音先輩は、これを見越して、白上先輩達が部室にしたいと言っていた部屋に、荷物を運ばせたのだろうかと、そんな事を思いながら、俺は白上先輩に尋ねてみる。

 

「白上先輩」

「何?」

「どうしたら、そんなに色々と、好きになれるんでしょうか?」

「うぇ?」

 

 予想外の質問だったのか、変な声を出した白上先輩。

 それからジッっと俺を見て、茶化しているわけではないと悟ったのか、んー、と僅かに唸る。

 

「……別に好きにならなきゃーって思ったことは無いかな。今までだって、プレイをやめたゲームとか、見るのを辞めたアニメに漫画、いっぱいあるから」

 

 此処まで言って、白上先輩は何か思いついたように、表情を明るくした。

 そして見せるのは、したり顔。

 

「好きっていうのはね、なるんじゃなくて、なっている物なんだよ」

 

 意味が分からなかった。

 

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