「シ、シオン様、いかがでしょうか?」
「ふむ……」
トントンとこめかみのあたりを指で叩いてそれから、シオンはフィンガースナップを行う。すると、シオンの手元に爆弾が転送された。魔法でピンが動かない様に固定して、軽くお手玉しつつ、視線をこよりの方へ戻す。
こよりの元に転送された爆弾は、シオンが今しがた転送した物で最後。一旦解放されたという事実と解放感に、こよりは重い溜息をついた。
へたり込むこよりを他所に、シオンは頭を回す。状況は悪くない。メインメンバーの内、二人をここで無力化出来ているという事実、そして目的であった自分とわための捕獲がなせなかったという事実はかなり大きい。総帥個人の目的はさておき、組織単位で考えれば、作戦は頓挫したと考えていいレベルの状況だ。
「シオンちゃん?」
近づいてきたフブキが、シオンの顔を覗き込む。
「どうしたの?」
「どうしようかと思って。この二人を抑えた事を知らせていいものかと」
「あー……いいんじゃない? あの子も心配しているだろうし」
その言葉にシオンはきょとんとして。そんな余裕あるかなぁと少し考え。
まあ、それもそうかと思い、こよりから奪ったままだった通信機を取り出した。
耳に着け、通信機をオン。
「聞こえている? こっちはこよりといろはって二人を倒したわよ。アンタの部活の部長も一緒に居るから、心配しなくていいわ」
そう言ってから、シオンは通信機をこよりへ向ける。
その動作から、求められている事を悟り、こよりはうぐぐと不服そうな顔を浮かべるも。爆弾をちらつかせられ、渋々口を開いた。
「私といろはちゃん、負けちゃったー。ごめんねー」
それを聞いて、シオンは通信を切る。直後その内容に、首を傾げたシオン。少年宛の言葉というより寧ろ──。
「待ちなさい。今の通信って、アイツ宛だけじゃないの?」
「違うよー。シオン様が設定を弄っていないなら、今のはオープンチャンネルだから、holoX全体に届いているよ」
「……」
「……シオンちゃん、大丈夫そう?」
「……少し休んだら、行きましょう」
フィンガースナップを一回。こよりのバリアの中に、今度はいろはが転送される。
服はしっかり残されたまま、下着だけでの転送だった。
「痛ぁ!」
「狸寝入りバレているわよ」
「あ、バレていたんだ」
押し合いへし合いしているこよりといろはを尻目に、シオンはフブキへ視線を向けた。
「少し休んだら、移動しましょう」
「うん。ただ、その前に家によってもいい?」
***
空模様は相変わらずだ。降りしきる雪は、止まる事を知らない。少なくとも、去年は雪が降らず、フブキ先輩も「今年は雪、降らなかったなー」と残念がっていたから、多分結構珍しい事だと思う。明日は雪かきしないといけないかなと、そんなとりとめの無い事が、頭をよぎる。明日というか、もう今日だけど。
それにしても……寒いのに暑い。変な感じ。勿論体を動かし続けてはいるから、暑くなって当然なのだけど。体の芯の部分は寒いまま。熱を何かに奪われている感覚だ。あまりいい兆候とは思えない。なんというか、体が気持ちについてきていないように感じる。あまり、長々とはしていられないだろうか。
「──ふぅ」
足を止めて、一息つく。近くの電柱に貼られた、住所表示を確認。ラプラス指定の住所の近く。細かい番地は流石にローラーしないと分からないが、此処からそう遠い事は──。
『ワン!』
思考を遮るように、タロが一鳴き。その内容を聞いて、俺は視線を横に向けた。
鳥が一羽、塀の上へ降り立つ。鳥って鳥目と言われる程度には、暗闇が見えないと思うのだけど、大丈夫なのだろうか……大丈夫なんだろうな、多分。普通の鳥ならいざ知らず、記憶の限りでは、ずっとラプラスと一緒にいる鳥だ。普通な訳無い。
「久しぶり、カラス」
カラス。種族名としか思えないし、俺の知るカラスとは些かフォルムに差はあるが、彼か彼女か、この子は俺含め周りからそう呼ばれている。
普段はラプラスと一緒に居て、何なら多少の頼み事は聞いてくれるようだが、因縁浅からぬ相手らしく、ラプラス的に名前を付けるつもりはないようで。ほぼ飼い主のラブラスがつけないのであれば、わざわざ他のメンバーが名づける理由も無く。自然とそうなったと、以前聞いた。
俺の言葉にカラスは特に何も答えることなく。一度畳んだ羽を広げて飛び上がり、こちらへ飛んできた。鳥目を感じさせない安定感をもって飛ぶカラスは、そのまま俺の頭の上へと着地する。
「……重い。カラス、ちゃんと運動しろ──痛い!」
やかましいと、つつかれた。怒るくらいなら痩せればいいのに。ずんぐりむっくりした体型の通り、普通に重い。幽霊のタロや妖精のきんつばばかり乗せていて、感覚が狂っているのもあるかもしれないが、そもそも昔から飛ぶのをサボってラプラスの頭に乗って移動しているから、運動不足気味なのも間違いない。
とりあえず、ラプラスと違って大きな首輪で頭が固定されていないから、普通に首がしんどい。とりあえず、肩に移動して貰えないかと進言したが、降りる気配はない。ラプラスのように角がある訳でも無く、すわりが悪そうなものだが。
再びつつかれる。ここにカラスが来た理由は、何となく分かる。多分ラプラスが待ちくたびれたのだろう。それならルイ姉を差し向けなければ良かったのに。
……ただまあ。
「カラス。そこに居られると、どっちに向かえばいいのか分からんのだが」
ほれ、と手を伸ばせば、カラスが手の中に降りて来た。そのまま抱える。
ピッっと、翼で進行方向を示され、俺は止めていた足を動かし、小走りに移動を再開する。
角を数度曲がって、のちに直進。思っていた通り、大した距離は無く。カラスに案内された先には、丁字路の突き当りに広がる、大きな空き地だった。
タロが戸惑っているのが分かる。俺は昔と変わっていない事に、いっそ安心感すら覚えた。あの事は手間だなと思っていたけど、今考えると、中々浪漫に溢れている。
カラスが手元を離れ、空地へ向かって飛んで行った。それを追い、俺も空き地の中に入った。空地の中を暫し進んでいると、カラスが地面へ降りる。直後、大きな音を立て、地面がスライドした。観音開きされたその先に、地下へ続く階段。
懐かしさを覚えながら、迷うことなく、足を踏み入れ、階段を下っていく。
背後で、再び音が聞こえ、階段が暗闇に包まれた。直後、壁に設置された電灯が輝き、階段とその先が照らされる。フブキ先輩が見たらテンション上がりそうだなと、そんな事を思いつつ、階段を下り、最下部へ。
左右に続く廊下。迷わず左折。壁をなぞったり、天井を見上げたりしながら、ずんずん進む。本来なら侵入者迎撃用のロボットの一つでも出てきそうな物だが、今回は出て来ない。招かれているのだろう。
余裕があるなぁとぼんやり考えている所に通信が入った。聞こえて来たその内容に、ぽかんとして。それから思わず笑ってしまう。
一際大きな扉の前。開くものだろうかと、電子錠に触れれば、問題無く開いた。
奥の玉座に、ラプラスの姿。カラスが傍へ飛んでいき、玉座の背もたれに降りる。
「だってさ。どうする?」
「ちょっと予定が狂った」
頭を抱えているラプラス。ざまあみろと思った俺は、多分悪くない。
「──しょうがない、幹部に何とかして貰おう」
「……いやいや。ここは手打ちに」
「するかよ」
顔を上げたラプラス。腹の決まったその顔に、面倒だなと思いながら、俺はジャージとパーカーを纏めて脱ぎ捨てた。
「holoXが舐められるわけにはいかないからな」
***
状況は自分有利とルイは考えていた。
矢を槍として扱う技術には少し驚かされたが、所詮は急場しのぎの技。頑丈さでもリーチでも、矢では槍にたりえることは無いし、フレア自身もまた、弓兵であり槍兵ではない。
一方ルイは、メインは銃器であるが、近距離から遠距離まで、全て対応している。勿論近接に関してはその道の専門家には劣る事もあるが、それでも有事の際の選択肢として最初から想定しているのと、緊急避難的に使用する程度では、開きも出てくる。
「シッ!」
フレアは数ステップのフェイントを挟み、その後に槍撃。突き出される矢を避ける。鋭いが、やはり並。近接のみに限れば、弟子達の方が上だろうと当たりをつける。
故にルイは、自分の方が上と判断。次の一撃で終わらせることに決める。選択はカウンター、攻撃に合わせ、弾丸を撃ち込む。そう決めて、後ろに下がる。銃口を向けるが、それより早く体を動かされ、射線から外れられる。構わず撃つ。当たれば儲けものだ。弾丸にも余裕がある。
後ろに流れて行った弾丸を、フレアは一瞥もすることなく進撃。ルイの開けた間隔を詰めに行く。弓が無いのだ、これしかない。だからこそ、ルイの判断も変わらない。弾丸を撃ちつつ後退は継続。
そうしている内にマガジン内の弾が切れる。舌打ちしながらルイは腕を引いた。それを見て、再装填の隙をつこうと、フレアは加速。ルイがマガジンを入れ替えるよりも、右足に固定された鞭を抜き放つよりも早く、フレアはルイを射程に捉え。フレアの想定と違い、ルイは左手で素早く、左腰に下げていたデリンジャーを抜き放つ。
フレアが反応するも、その前に抜かれたデリンジャーの銃口は、そのままフレアを捉えた。
引き金が引かれ、弾丸が発射される。フラッシュノズルが輝き、銃声が響いて。
弾丸は天井に突き刺さった。
「は?」
戸惑うルイへフレアの攻撃が迫る。一突き目は回避。二突き目を、矢を持つ右手を弾く事でうけつつ、返す手でデリンジャーを突きつける。躊躇い無く、引き金は引かれ、弾丸が放たれた。だが、その弾丸はフレアへ到達することなく、フレアの周囲に展開される何かによって弾かれるのを、ルイは見た。
「厄介ね」
その光景に、ルイが悪態をついた。
それを実行した主の察しはついた。デリンジャーを投げ捨て、今度こそ新しいマガジンを取り出しながら周辺を探るが、きんつばの姿が見えない。隠れて魔法を行使しているらしい。そう遠くまで離れてはいないだろうが、今すぐ探すことは不可能だろう。近接策は失敗だったかとルイは悟る。
とはいえ、あのまま中距離で戦っていては、確かにきんつばの魔法は防げはするが、お互いに決め手には欠けたまま。千日手の勝負になっていた。そうなると、フレアと一緒に居るノエルが援軍に来てしまう可能性が高く、不利は免れない。そして、現状の装備で遠距離の撃ち合いとなると、魔法込みでフレアに分がある。そう判断したからこそ、自分に分があるだろう近接を選んだのだ。同じ状況だったら、自分は間違いなく同じ選択を選ぶと、ルイは確信している。
──それはそうと……どうしようかしらね。
撤退するのもありかとルイは考えた。元々、自分が此処に居たのは少年の足止め目的。それだって、ラプラスの指示はいい感じにという曖昧な物。しっかり訳せば『程々の力で相対、突破されたならそのまま通していい』という事だ。時間的に、少年は基地の近くまでは着いた頃だろう。ここで撤退したとして、フレアが少年の援軍に間に合うという事は無いし、間に合うのなら、その時改めて相手をすればいい。異世界人のサンプルは、少年と一緒に暮らしている角の生えた少女で一先ず充分であれば、わざわざここで戦う理由は無い。閃光手榴弾に煙幕、どれかしらを使って目を眩ませて、その内に逃げるだけでいい。
──退くか。
投げ捨てたデリンジャーは……そのままでいいと判断。どうせ弾は撃ち切っているし、弾丸はこより謹製の物しか使えないから、使われる心配も無い。
狙いの二か所を決め、即座に発砲。放たれた弾丸は、高架線下の唯一の光源だった電灯を砕く。
闇が包む。急に眩んだ視界に、思わず下がるフレア。それを確認しつつ己も下がり、ルイは閃光手榴弾を取り出した。サングラスを調整、光への耐性を上げて、閃光手榴弾のピンを抜き、投擲。
「まったねー」
空中で炸裂。閃光が包む。照らされた先で、目を庇うフレアの姿。
それを見て、ルイはトンネルを出つつ、転送装置を起動。基地へ帰還をしようとした直後、通信が届く。
その内容に、ルイは思わず、足を止めた。
「……あー、マジか」
そうしてルイは、やや気怠そうに呟くと転送装置をオフに変更。
ラプラスからの連絡は無し。手打ちにするという事は無いようだった。それなら、どうせ自分に丸投げしたのだろうと考え、ルイは空へ向かって、ハンドサインを送る。
自分の脇を落下していくトランクケースの取っ手を空中でキャッチしすれば、すかさずケースのロックが外れ、中身があふれた。
「これは流石に、帰れないかな」
シオンちゃん特別編は書くか未定
書くにしても本編完結後にします
文章の構成はどちらがいいですか
-
全部詰める(全話までのやり方)
-
地文と会話文の間に改行を入れる(今回)