ホロ学園の「俺」君物語   作:零円

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電灯を壊し視界を瞬間的に奪ってから、強烈な発光による目晦まし。

 シンプルながら有効な手。目が暗闇に慣れかけていたから猶更だ。目を庇った事は当然の反応。後退した事も、戦闘中に視界を奪われたのであれば、防御反応としておかしくは無い。我が身犠牲に兎にも角にも前進して、一撃を入れる事に執念を燃やす猪でも無ければ、大体の人間はそうするだろう。

 それに、フレアにはきんつばの魔法もあった。散布させた魔素により、空間へと張る防御魔法は、魔素のありふれた異世界においては、戦闘を生業とする者が好んで使用し、遠距離攻撃や威力の軽い近距離対策としても用いる、『魔鎧』と称される技だ。

 勿論この世界には魔素が無い為、これを実施しているのもきんつばの含有魔素により実現されている為、異世界で作成される物よりも劣化こそしているが、ルイの弾丸を二度、しかも近距離から放たれた物を防ぎ、弾いて見せた。

 故に後退し、最初の中距離戦へ戻した所で、ルイからの射撃は自身に届かない。ルイ自身、それを分かっているはずだから、あわよくばこの光に乗じて撤退するのではと、そんな淡い期待を抱くフレア。故にガチャリという重い音がルイの方から聞こえてきた時に、反応が遅れた。

 治まりだした光のその向こうに、ルイの陰。その手に、何かが握られている。先程まで撃っていた物とは明らかに違うサイズ。凡そ、立ち姿勢から支え無しに、更には片手で扱う事など想定していなさそうなそれを、しかしルイは右手だけで持ち上げて構える。その何かが向けられた先に自分が居る事は間違いなく、フレアは反射的に感じた危険に従い、速度を上げて、きんつばの隠れているのと同じトンネル入り口の陰へと急ぐ。

 ドンッっと鈍い音が、自身の背後から響くのをフレアは聞いた。音源を確認するのに、振り返るまでも無い。直後、二の腕のあたりに衝撃。腕がもげたのではと思わざる得ない勢いで、跳ねあがり。視界の隅に、亀裂の入る魔鎧を捉える事になる。

 二度目の音が響き、丁度踏み出そうとしていた左足に被弾。勢いに足がとられ、バランスが崩れるが、転ぶ前に手を付きそのまま遁走。滑り込む勢いで、きんつばの元へと飛び込んだ。

直後、三度目の音と共に、コンクリートが弾け飛んだのを見て、慌ててきんつばを抱えながら縮まる。

 

「いったぁ」

 

 衝撃を受けた右腕と左足それぞれに痺れを感じる。魔鎧越し、それもきんつばがフレアの動きに合わせて、後面のみに特化させ、更に強度を上げた魔鎧である。それでなお痛みを覚えた挙句、魔鎧を砕かれかける始末。

 右肩を回して、一先ず異常の無い事を確認して、フレアは漸く一息つく。様子を確認したい所ではあったが、流石に顔を覗かせるのは怖い。

 

「きんつば、状況は?」

 

 ピッっと、指が立てられる。頼んでいたことは、もう少しかかりそうだった。いや、こうなってくると、頼み事が完了した所で、意味が無いかもしれないが。多少はマシになると信じながら、フレアは腹を決め、状況を確認しようと顔を出そうと――。

 

「フレア、上!」

 

 響いた声に、地面を蹴りながら、フレアは体の天地をひっくり返す。フレアの見上げた先に、こちらを見下ろすルイ。いかにして飛んでいるのか、地上五百米のあたりに滞空。先程はしっかり確認出来なかったが、その手に握られていたのは大筒、フレアの知らぬその名は、対物ライフルと称される物が握られており、その銃口は真っ直ぐフレアを狙っていた。

 フラッシュノズルが輝くのと、きんつばが防御魔法を展開するのはほぼ同時。撃ち落されたその弾丸を、きんつばの魔法が受け止める。ぎりりと食いしばって耐えるきんつば。そんなきんつばへ追撃しようとするルイの元へ、飛来物があった。反射的に銃口がきんつばから飛来物の方へ向ける。引き金を引き、弾丸を飛来物へとぶつければ、その飛来物は弾かれて落ちていった。その光景に、ルイは驚く。

 

――砕けないの、あれ。

 

 パッっと見で、棒のように見えたそれ。念の為壊しておこうと撃ったのに。撃たれたそれは、破片を舞わせる事も無く、ただ落下していったのみ。恐らくは異世界の何かなのだろうと思いながら、視線を下げれば、フレアが走り去る所であった。弾丸は防ぎ切られたらしい。

 一見して無防備そうなその背中を狙って、ルイは対物ライフルを構えるが、それより早く、フレアは角を曲がり、射線を外れた。すぐさま後を追い曲がり角を覗けば、既にフレアはその場を離れ、別の曲がり角に入っている所であった。

 

「……」

 

 逃げるつもりか、それとも何か目的があるのか。

 引っかかるのは、先程の声。声の主をルイは把握していた。白銀ノエル。フレアと一緒にいる銀髪の女性。姿を見せていないが、近くにいるのだろう。恐らくは先程の棒のような物の投擲もノエルによるものと、ルイは当たりを付ける。

 どうやら状況は、きんつばも含め三対一。この後、こよりやいろはの回収にサンプルの捕獲とやることの多さを考えると、此処で時間を使いたくない。逃げに徹するというのなら、無視して他のサンプルを狙う方が得策――。

 

「てぇえええい!」

 

 不意打ちではないのか。背後より、気合の入った掛け声が響く。振り返りながら、ルイはバットプレートで迎撃。ノエルによって振り下ろされたメイスと対物ライフルが、空中でかち合い、金属音が響く。暫しの拮抗、その後腕力のみで振り下ろされたはずのそれが、ルイの持つ対物ライフルを僅かに押し込む。

 その事にルイは微かに驚きの表情を浮かべ、直ぐに改める。

 

「わわっ」

 

 押し退けられないのであれば、流せばいい。こうしている間も、徐々に落下しているノエルを見て、ルイは即断。メイスを受けていた対物ライフルをずらして流し、ライフル本体を振って、ノエルを狙う。

 再び響く、金属音。対物ライフルは、ノエルの装備している手甲でもって、防がれていた。構わず、振りぬく。場所は空中。踏ん張りの利かないノエルの体は、そのまま弾き飛ばされる。

 そんなノエルへ向け、ルイは対物ライフルを構える。逡巡することなく、ルイは引き金を引いた。マズルフラッシュが輝き、銃声が轟く。

 しんしんと雪の降る寒空の下、何処までも響く銃声。やがてその音が止んだ時、「チッ」っとルイの口からは舌打ちが漏れた。

 

「次から次へと」

 

 ぼやきながら、視線を向ける。ノエルを抱える、人影が一人。

 闇夜に溶けそうな程な、漆黒の狼。黄金の瞳を輝かせ、まっすぐルイを見据えていた。

 

「……ミオちゃん?」

「一番厄介そうだったから。助けに来たよ」

 

 そのやり取りを聞きながら、ルイは深呼吸を一つ挟むと、対物ライフルを構えようとする。

しかしその直後。地響きが轟いた。

 音源から、思わず視線を向けてしまったルイ。視線の先、音源である場所は、少年が先程ついた空き地であった。いまや、そこから何かが、浮かび上がり始めている。

 

「……やりすぎでしょ、ラプ。聞いていないんだけど」

 

 自分と同じく、holoXを舐められない為の行動なのかもしれないが。それにしたって些か許容を超えている。止めるべきか。そう思い通信を繋げるが、無視された。何をやっているんだと、悪態吐きたくなりながら、ルイは地面へ降り立った。そのまま移動して、トンネルの方へと戻ろうとして。そこにいるフレアに気が付く。

 手には弓。折った筈のそれは、元の形を取り戻していた。予備――という事もなさそうだった。トンネル内に折れた物が落ちていない。そんな弓へ、番えられていた矢が放たれた。

 ノエルから始まり、ミオの参戦、ラプラスの先行にフレアとその弓の復活と続いたせいで、ルイの反応が遅れる。

 最早回避も迎撃も間に合わず。仕方なく、対物ライフルで受ける判断をしたルイ。矢の射線に合わせて対物ライフルを置き。直後、矢が刺さるよりも早く、謎の衝撃に襲われる。殴られたような衝撃に、思考が追い付かない。

 足元から掬われるような、感覚。踏ん張りがきかず、弾き飛ばされる。視界の端で、銃のパーツが舞っているのが見えた。だめらしい。諦めて捨てる。がしゃんと、落ちる音を二つ聞きながら、暫しの浮遊感を味わい。その後背中から地面へ落ちた。雪があったし、受け身も取ったが、多少の痛みが走る。それ以上に冷たくて、嫌になる。

 

――……魔法って言うのはつくづく何でもありね。

 

 理屈は分からないが、恐らくは矢の先にでも何かあったのだろう。それが銃とぶつかり、爆発したのだ。こより作の愛銃。必要十分な頑丈さはあったというのに、よもや一撃。その威力に感心しつつも、最近温い作戦ばかりで、危機感が欠けていたと自責する。

 反省しながら、右足の方へ手を伸ばし、備え付けた鞭を手に取る。此処からは鉄火場。前衛二人に後衛一人。シンプルながら厄介な布陣。口角が吊り上がるのを感じながら、寝たままの姿勢で鞭を振るう。

 

「っ」

「きゃっ」

 

 声が二つ。追撃してきたミオとノエルの物だった。

 起き上がりながら、更に鞭を振り下ろし、飛んできた矢を落とす。再び、先程のような衝撃が走るのを感じたが、柔軟な鞭は、多少その形を変えた程度で、切れも折れもしなかった。

 立ち上がり、ルイはマントを外し、次いでサングラスを外した。きんつばは見えなくなるが、最早些事。銃が無い以上、最早魔法対策など出来はしない。

 鞭を振るい、地面を叩く。切れのいい音が、辺りに響いた。金色に輝く瞳が、世界を見据える。

 

「秘密結社holoX幹部 鷹嶺ルイ。改めて、よろしくね」

 

 びりびりと、威圧感が、ルイと相対する三人の肌を焼く。

 ふぅ、と短く息を吐いて。ノエルが真っ先に声をあげた。

 

「白銀騎士団団長 白銀ノエル! 推して参る!」

「白銀騎士団応援 不知火フレア。右に同じ」

「部活で来ているからねぇ……ホロ学高等部三年、すこん部副部長 大神ミオ。以下同文」

「ノリ悪いよ! 負けちゃうよ⁉」

「それは無いから大丈夫だよノエル」

「そうそう」

 

 あまりにも軽いフレアとミオのその言葉に。ルイは構えて答える。

 

「なら、見せてもらいましょうか」

「「言われなくても」」

「……あれ? これ、私が一番空気読めていない感じ?」

 




少しお休みいただきました
ぼちぼち再開します

文章の構成はどちらがいいですか

  • 全部詰める(全話までのやり方)
  • 地文と会話文の間に改行を入れる(今回)
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