ホロ学園の「俺」君物語   作:零円

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「ねえ、シオンちゃん」

「なに?」

「そろそろ自分で動けない?」

「無理」

「あ、はい」

 

 シオンが薬を吸い、今尚魔法でどうにかしようとしていることは分かっているのだが、それでも自分も一応疲れているのにと、少しだけ心中で愚痴らずにはいられない。それに、学校からここまで、シオンを背負ったままで地を蹴り、屋根を渡って来たフブキ。流石に少し草臥れて、溜息を漏らしつつ、最後に大ジャンプを決めて、現世での我が家である、マンションの玄関前へと降り立った。

 扉を開けて、中に入る。電機はついたままだが、人の気配がない。はて、と首を傾げつつ、室内を進む。

 

「ミオー! 帰ったよー!」

 

 暫し待つ。やはり返事が無い。トイレに行っているとかであれば、それにしても何かしらの反応はありそうなものと考えれば、やはり留守なのだろう。

 しかしである。出かけ際、フブキはミオに待機をお願いしていた。立場的には一応主。ちゃんとした命令でなかったにしろ、ミオがそれを破るとは考え辛く。はてと、首を傾げるフブキ。

 そんなフブキへ、「ねぇ」とシオン。肩越しに腕が伸ばされ、その指先が何かを示す。

 

「あれなに?」

「え?」

 

 シオンに言われて、気が付くフブキ。シオンの示す先、ダイニングテーブルに近づけば、その上には出かける前と同じく鏡が置かれ、その脇にはミオからの置手紙があった。シオンを椅子へと降ろし、置手紙を手に取る。

 

『フブキへ

 式であの子の様子を確認したら、危なそうだったので向かいます。

 ミオ』

 

 短くそれだけ。行先の住所は書いていないが、それは確認出来るから問題無い。問題無いが……。

 

「あの子の助けはいらないって事にしていたのに。全くミオったら。過保護なんだから」

「……ねえ」

「ん? 今度は何?」

「式って何なの?」

 

 テーブルに戻した手紙を見たシオンからの言葉に、「ああ」とフブキ。

 

「まあ媒体を使って作るお手伝いさんみたいな感じ? 私が出していたフブラとかそれだよ」

「……あんなん目立つでしょ」

「あれは戦闘用ってだけで。一応他にも色んな形に出来るよ。ミオが使っていたのだって、折紙で作った狼をそのままだったし」

「へー……フブキちゃんのフブラの媒体は?」

「……それはまあ、いいでしょ」

 

 実際は毛であるのだが、少し恥ずかしいので誤魔化す。戦闘中、戦いながら尻尾の毛を抜いていたなんて、必要な事とはいえ、少し間抜けに思えた。

 誤魔化された事は気付きながらも、まあ、そこまで突っ込まなくていいかと思い、「それで」とシオン。

 

「その式って言うのがあると、様子が分かる訳?」

「そうだよ。まあ、遠見の呪いを入れないといけないから、作った子が誰でもって訳では無いけど。その鏡で見えるんだー」

「……つまり、私の所にフブキちゃんが来たのは、その式で見ていたからと」

「そういう事」

 

 胸を張るフブキ。次いで来るのは、きっと感謝の言葉だろうと、そんな事を思っていたが。

 

「……覗いていたって事?」

 

 あまりに辛辣な言葉が届いた。

 

「──いや! 結果的にそうなったけど、プライベートは守っていたよ!? ただほら! この前の件では後手に回ったし、なんか怪しい組織が来るって聞かされたら、流石に用心するでしょ!?」

「本当は?」

「……本当だもん」

 

 嘘である。本当は一回だけ寝顔を覗いた。

 元々監視のために、ミオが少年の様子を見ているのを偶々覗いた際に、トレーニング中の無防備な姿を見てしまい、つい魔が差してしまった。

 後に罪悪感からミオに自首。滅茶苦茶怒られて以来、やっていない。

 

「ふーん、まあお陰で助かったからそれはいいけど。それで? アイツの状況は?」

「ああ、そうだね」

 

 鏡に触れる。少年につきそう式の見ている物が、それで確認出来る──筈だったが。

 

「あれ?」

 

 式の目に、少年の姿は映らず。代わりに、ルイVSフレアノエルミオの三人という光景が広がっていた。

 ルイの振るう鞭が支配する戦場。フレアの放つ矢は叩き落され、ノエルやミオが踏み込もうとすれば、それを牽制するように、踏み込み先を狙う。強引に踏み込めば足先を痛める事になり、踏み込まなければ、状況を停滞させる。

 三人の実力を、全てでは無いにしろ把握しているフブキとシオンは、その光景に目を疑った。特に、ミオの実力を信頼しているフブキは特に、その光景が信じられなかった。

 

「助けに行かなきゃ」

「どっちを?」

「……」

 

 無意識のフブキの言葉に、シオンが尋ねる。映像の中に、少年の姿は無い。先に進んだという事だ。その行き先がどこか分からないが、危険という事は想像に難くない。

 一方、鏡の向こうの光景は、確かにフレアノエルミオの三人が多少不利に見えたが、一先ずそれ以上という印象は受けない。

 助けが必要なのは、少年ではある。だが、それでも。物心ついた時からの親友であるミオの危機を無視しろというのは、流石に厳しい。

 

「……シオンちゃんの魔法で、さっきみたいには出来ない?」

 

 フブキの脳裏を過ぎったのは、シオンの転送魔法で裸にされたこよりの姿。それと同じことが、ルイに出来るのであれば、それで全て解決である。

 

「出来ない。あの時は相手が動かないでいたから、ピンポイントに狙えただけ。これだけ動き回られたら無理よ。それよりフブキちゃんのフブラで薙ぎ払っちゃえば?」

「流石に住宅街であれば使えないって」

 

 だだっ広いホロ学校庭だからこそ、遠慮無く光線を打てたし、逸らされても……まあ被害は少なかったのだ。塀を砕き、家を燃やしかねない光線を、流石に撃てよう筈も無い。

 

「なら、私達が此処に行って出来る事って、頭数を増やすだけなんじゃないの?」

「……確かに、そうだけど」

 

 シオンの言葉は的を射ていた。フブキ自身、それを理解している。

 だがこれは、理屈じゃない。鏡の向こうで、忌々しそうに表情を歪めるミオを、助けに行きたい。いつも助けて貰っているから。こういう時くらいは。

 

「──あれ?」

 

 鏡の向こうで、ミオが何か取り出した。スマホである。そのままミオは数度タップ。

 間も無く、リビングに置きっぱなしであった、フブキのスマホが着信を告げた。

 フブキがスマホに近づく。発信元は、やはりミオ。慌てて通話をつないだ。

 

「もしもし!」

『……出たってことは、こっちの状況、分かっている?』

「うん! だから、今からそっちに行くね!」

『来なくていい』

「……あれぇ?」

 

 辛辣な言葉再び。声の感じも鏡に映る表情も、どちらも強がっているからという感じでは無く、本当に要らないから来ないで欲しいと言わんばかりだった。これで向かおうものなら、それこそ空気が読めないレッテルを貼られそうな程である。

 電話の向こうから、『っと』という声を、鞭が地面を打つ音が聞こえてきた。鏡にも、同様の光景が映っている。やはり鏡の映像に間違いは無いらしい。

 

「いや、でもピンチっぽくない?」

『それはウチがフレアちゃんとノエルちゃんの二人と息を合わせられていなかったからだから』

「其れなら猶更じゃない?」

『もうそろそろ慣れそうなの。それなのに、フブキが来たら、また狂っちゃうでしょうが』

「……」

 

 なんか振られた気分になるフブキ。うちの従者、たまに自分への敬意を失っている気がするのだが、気のせいだろうか。

 流石に哀れに思ったのか、シオンに頭を撫でられる。それで更に悲しくなりながら、「それじゃあ」とフブキ。

 

「私、あの子の方へ行くね」

『そうして。流石にウチも、あれは予想していなかったから。シオンちゃんもいる? いるなら、シオンちゃんも行った方が良い』

「りょうかーい」

 

 ミオの言葉に、シオンが答える。

 

『ああ、後』

「何?」

『こういう時は、ちゃんとスマホ持ち歩いて。連絡取れないと困るから』

 

 そう言うと一方的に、ミオからの電話が切れた。ミオがスマホを、自身のポケットへと戻している。折り返しても、出て貰えなさそうで、仕方なくフブキはスマホをポケットへ──仕舞うか悩み、動きを止める。その光景に、シオンは首を傾げた。

 

「ねえ、フブキちゃん」

「何?」

「何でスマホ、持ち歩いていないの?」

 

 シオンの言葉に、今度はフブキが、不思議そうに首を傾げる。

 

「だって、向かう先は戦場だよ? 壊れたら嫌じゃん。もし壊れて、ゲームのデータを復旧出来なかったらと思うと……」

「あ、はい」

 

 フブキとしては至極真っ当な事を言っているつもりなのだが、シオンは呆れ顔を浮かべる。あの子なら分かってくれるしと、ちょっとだけ不貞腐れながら、意を決し、スマホをポケットに収めた。ポケットに入れたスマホが、ズシリと重い。命の重みだ。

 

「……預かっておこうか?」

「シオンちゃんの服の方が、仕舞う場所無さそうだけど」

「あたしの帽子、何でも入るし安全なの」

 

 そう言うとシオンは帽子を外し、手を突っ込んだ。それからすぐに、分厚い本を取り出し、何事も無かったかのように帽子へ戻す。その後に出てきたのは手だけ。帽子をひっくり返しても、本が落ちてくることは無い。その光景に、フブキは素直に感動する。

 

「すごい! 魔法みたい!」

「魔法なの」

 

 そう言いながら、シオンが帽子を差し出す。それを見ていそいそと、フブキはポケットからスマホを取り出し、帽子の中を覗き込んだ。特に変わった様子の無い、普通の帽子の裏地。恐る恐るスマホをその中へ落とすと、暫しの落下の後、そのままいずこかへと消える。

 

「……だ、大丈夫? 壊れたりしていない?」

「大丈夫よ」

 

 多分と、シオンが心の中で付け加えた事など知る由もなく。シオンの言葉に、胸を撫で下ろしたフブキは、意気込みを新たに、振り返り、ベランダの方を見る。ミオの戦っている方は、そちらから出て行った方が早そうで。それなら、少年の居場所もこちら側だろうと、そう判断した。

 

「よし! いこ──」

 

 フブキの言葉が止まる。窓の向こうの光景に、目を疑う。

 

「どうしたの?」

「……あれ」

 

 フブキが指差すと、シオンもそちらを向いた。そして、窓の向こうに、フブキと同じものをみて、「は?」と思わず、声を漏らす。

 

「何あれ? 飛行船……って感じでも無いわね」

 

 風船のような感じではない。もうちょっとメタリックだ。それでいて、羽やプロペラのようなものは見えない。

 

「……UFO?」

 

 あまりにも、その言葉がしっくり来た。成程、これは流石に、ミオも想像出来ないだろうと、そんな事を思う。

 

「まあ、行先は分かったわね」

「……そうだね」

 

 この状況で相変わらず冷静なシオンの態度に、尊敬と安心感を抱きながら、フブキは深呼吸を一つする。

 

「よし、改めて行こう。どうやって入るかは……まあ、着いてから考えればいいよね」

「そうね。ん」

「……なに?」

 

 両手を差し出すシオン。それを見て、フブキが尋ねる。いや、想像はつくのだが。

 

「背負って」

「……」

 

 ミオはああ言っていたけど、やっぱ一人で行こうかなと、思わずそんな事を考えながら、フブキはシオンに背を向け、膝をついた。

 

「はい、どーぞ」

「ありがとー」

 

 しっかりおぶさられたのを確認し、フブキは立ち上がる。リビングを抜け、窓を開け、ベランダへ。履物を普通の靴へと変えつつ、ベランダの手すりの上に立つ。

 

「それじゃ、行くよ」

「ええ」

 

 ぴょんと、手すりから飛び降りる。

 暫しの自由落下の後、三つ下の階のベランダの外壁を蹴り、二人はそのまま、夜の街へと飛び出していった。

 

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