ホロ学園の「俺」君物語   作:零円

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 フブキとの電話を切って、ミオは意識を戦場へ戻す。未だに止まぬ雪。しんしんと降り続くそれに音は呑まれ、特有の静けさが──ルイの振るう一本鞭の音に切り裂かれていた。

 鞭は思いの他長く、長さは三m程。自身の身長よりも長いそれを、ルイは自身の手の延長のように、器用に操っている。

 

「てぇえええい!」

 

 気合と共にノエルが迫り、眼前から破壊力充分のメイスの一打が振るわれる。それに発射音を隠し、視界外からの隠密の一矢を放つフレア。タイミングは完璧。熟練された連携。初対面の際、敵対していなくて良かったとそんな事を思いつつミオは音を消しながら駆け出し、ルイの視界を外れる。

 完璧な連携は、強さがある一方、読まれやすさという弱点もある。そこを補う為の動き。連携を妨害しないように一歩引きつつ、姿を消した自分をルイに意識させ、集中力を奪う。連携が防がれたのであれば強襲を掛ければ良い。そうして時間を稼げば、フレアとノエルの切り返しも行える。フレアとノエルでの連携、その連携を一つ考え、それとの連携を試みる。

 

「……成程」

 

 小さなルイの呟きを、ミオの耳だけが捉えた。

 鞭を持つ手を動かし、ルイは微かに下がりつつ、鞭を振るいながら反転。ノエルの迫る前面ではなく、フレアの矢が迫ってきている背面を向いた。ミオの姿も矢も両方見つかる。ただ、迫るノエルの勢いは止まらない。振り上げたメイスを振り下ろす。その下から、獲物を前にした大蛇の如き勢いで鞭が跳ねあがり、手首へ絡みついた。

 ルイはそのまま鞭を掴むとノエルの体を振った。矢の射線へ、そのままノエルの体を落とす。

 

「そのまま」

 

 届いたか分からないが、そう言った直後、ミオは加速する。矢を抜き、一足跳びにノエルの元へ駆けつけると、その体を掴んで矢の射線より外した。次いで、爪でもって鞭を切り裂こうとするが、爪が届くや否や、ルイは鞭を弛ませて爪の勢いを殺し、ノエルに撒いた鞭を解く。

 そのまま再度振るい、しっかりとミオを迎撃しつつ、迫ってきた矢を叩き折る。その光景に感心するミオ。鞭の一振りに、どれだけの仕事をさせるのか。

 

「ありがとうミオちゃん」

「どういたしまして」

 

 ノエルを降ろし、別れる。再び闇に紛れた。塀から屋根へ、屋根から次の屋根へ。縦横無尽に移動する。

 眼下では、再び接敵しているノエル。今までと違う、コンパクトな動き。そんなノエルの背後から、立ち位置を移したフレアが、ノエルの動きに合わせて速射していく。先程までと違う攻め方。手数を増やした、鋭い攻め。それに対してルイは、鞭をあえて短く持ち、機動力を上げて対応していた。こちらはこちらで、手札はまだまだあるのだろうと、そう思えてならない。

 

 ──この状況で合わせるのなら、攻めの合間を突いた背後からの不意打ち。多分、ノエルちゃんとフレアちゃんもそれは分かっている。

 

 だからこそ、敢えて二人とも、ルイの前に姿を見せた。先程のように、ミオの場所を探ろうと振り返れば、途端に二人に背中を晒すことになる。加えて、フレアだけではなくノエルも、大振りの一撃ではなく、コンパクトに早い攻めであるから、先程のような鞭の仕掛けをする暇を与えない。

 後方への注意を払いきれなくなった隙をつけ。言外のフレアとノエルからの言葉を受け取り、ミオは闇に紛れ、力を溜める。下手に仕掛ければ、自分がノエルとフレアの攻撃に晒される事は間違いない。狙うは一瞬。刹那の間。

 地面に着地、足で雪を掘り、アスファルトを露出させる。息を吸って、止める。歯を食いしばる。

 

 ──いざ。

 

 地面を蹴る。勘繰られない為、ノエルやフレアとの共有は無しに、視線の先にあるルイの背中へ強襲。後輩の知り合いの様だったから、一応命は取らぬ為、首は狙いながらも、裂いたり貫いたりする事が無い様に爪はそのまま。抑えつける事を試みる。

 一足ごとに、距離は縮む。足元は滑りやすいが、その分足音は消えた。気づかれている気配は無い。

 そのまま、残り一足の所まで、距離を詰め。ミオはそのまま、勢いよく踏み切った。伸ばした手がルイへと迫り。首へと届くその間際に、ルイが動いた。

 ミオの方を一瞥もする事なく、体を右へと動かす。突き出されたミオの腕が空を切り、ノエルの振るうメイスの前へと晒された。ミオとノエルの目が合い、お互いがお互いを傷つけないよう、反射的に動きが止まってしまう。

 そんなミオの視界の端で、反転するルイの姿があった。

 直後、後頭部へ衝撃を受け、ノエルを巻き込みながら、弾き飛ばされる。

 後頭部の痛みに、ノエルと共に転がるせいで、上を見ているのか下を見ているのか。視界が回転し混乱し、気持ちが悪い。

 そんな中でも、フレアの弦音を何度か聞いたミオ。その音を頼りに、自分の位置を探り、最終的にうつ伏せの状態で止まりながら、ノエルの体を抱えて移動。フレアの元へと下がる。

 

「二人とも、大丈夫?」

「私は大丈夫だよ。ミオちゃんは?」

「何とか。ごめん、失敗した」

 

 ノエルと二人で立ち上がりつつ、ミオはフレアとノエルへ謝罪する。

 ミオからの謝罪に、「いや」とフレアが答える。

 

「完璧だったよ。普通躱せない」

「そうだよ。いきなり目の前に現れてびっくりしたもん」

「でも、躱された」

 

 ミオの言葉に、フレアは顎に手を当てた。

 

「ノエル。ちょっと時間稼いで貰える?」

「オッケー」

 

 フレアの言葉に、軽い返事を返し。ノエルはルイへと向かっていく。

 そんなノエルの背中を見るミオ。そんなミオの脇で、顎に手を当てたまま暫し考え込んだフレアは、「ミオちゃん」と声をかけた。

 

「あの人に躱された時、どう思った?」

「……正直躱されると思っていなかった」

 

 闇夜に紛れ、気配を消した。隠行は完璧だったと、そう思える。その状態からの不意打ち。ミオの知る限り、あの不意打ちをああも完璧に躱せる者等、片手で数えられる程度しかいない。その者達ですら、ある程度は顔を動かし、周囲の様子を探る必要がある。

 にもかかわらず、ルイはミオが隠行を開始してから不意打ちに失敗するまでの間、一度も周囲を探る様子が無かった。それは、隠行中、ルイを観察し続けたからこそ、自信を持って言える。

 無論ルイが、ミオの知る誰よりも強いという可能性もあるが、俄かに信じられず、釈然としない。そんな気持ちが伝わったのだろう、フレアも頷く。

 

「私もだよ。少なくとも、私はミオちゃんの気配を追い切れなかった。あの人が、どの位の察知能力があるかは分からないけど、森で狩りをして生きていた私以上とは考えにくい。仮にそれだけの能力があったにしたって、敵が姿を消して探る様子が一切無いのは明らかに異常。

 加えて、さっきまで使っていた大型の火砲。あれをどこから出したのかって話。あのサイズの物を隠して置ける場所なんて、この辺りには無い」

「……それなら、つまり」

「誰かがいる可能性が高い。その何者かが、ミオちゃんを観察して、タイミングをあの人に教えた。……まあ勿論、ミオちゃんの件も含めて魔法の様な何かを使っている可能性は残るけれど。その場合はどうしようもないから、考えるだけ無駄だしね」

 

 フレアの言葉に対し、ミオは頷く。一先ず不意打ちは通らないと考えて。その上で、自分の仕事を考え、口を開く。

 

「なら、ウチが探しに行けばいいね」

「お願い。時間は私とノエルで引き続き稼ぐから。きんつばと一緒に探して来てもらえる?」

「きんつば?」

「──ああ、そうか。会った事無かったね。きんつば、お願い」

 

 フレアがそう言うや否や、目に微かな違和感を覚え、思わず閉じる。

 少しして、違和感が消え去り、ミオは静かに瞼を上げた。開ける視界。フレアの場所は変わらず、その脇には小さな空飛ぶパンダの姿。

 目を疑う。目を擦って再度見るが、消える様子は無い。そんなミオの反応を見て、フレアがケラケラと笑う。

 

「普通吃驚するし、目を疑うよねー。本当、きんつばを初見で声をかける所まで行ったの、あの子位じゃないかな?」

 

 それが誰かは、直ぐに分かった。成程、あの子なら確かに、そうするだろう。

 少年と異世界出身のフレア達との馴れ初め。きんつばが置かれていた状況は聞いていたから、猶更そう思う。お節介焼きなのだ。正味其れが地雷だと分かっていても、他の人が見て見ぬ振りをしても、誰も文句を言わなそうな状況であっても。それでも困っていそうならば、声を掛けずにいられない。

 そんな不器用さを、なんだかんだと、ミオも気に入っていた。

 

「よろしく、きんつば」

 

 ミオの言葉に、きんつばが敬礼を以って答える。

 

「……それじゃあミオちゃんよろしく。仕掛けるタイミングは任せるよ」

「うん。それじゃあお互いに武運を」

 

 軽く拳を当て、ミオは再び闇へと紛れた。

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