ホロ学園の「俺」君物語   作:零円

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登場ライバー
白上フブキ
大神ミオ


エピソード・オブ・すこん部 ep.3 入部

 首を傾げる俺をよそに、したり顔の白上先輩の言葉は続く。

 

「恋とか沼とかと同じだよ」

「何で恋と沼が同列で語られたのか分からないですけど、好きにはなるものでは?」

「なろうとしてなるものじゃない、って事かな」

「……」

 

 禅問答の類だろうか。個人的には、好きにはなる物で、そのための何かしらは必要だと思う。

 一方、沼は良く分からないが、恋は落ちる物だと聞いた。どういう感覚なのかは知らないが、少なくともなるのとは違うとは思う。

 分からない。疑問が増した。自分は、一生この調子じゃなかろうか。

 そんな事を思う俺に助け舟を出したのは、大神先輩だった。

 

「難しく考えなくていいと思うよ。フブキもそうだろうし」

「そうそう……うん? ねえ、ミオ。それだと、普段から私が何も考えていないみたいじゃない?」

「そうでしょ?」

「……確かに」

「えぇ」

 

 認めるのか。

 

 

「フブキもそうだし、私もそうだけど。やってみて、それが続いたんだったら、それは好きなったってことだと思うかな」

「……でも、それは」

 

 自分がこの数ヶ月で失敗した道だ。

 ならやはり自分には無理なのかと、気落ちする。

 

「思い出したんだけど、君って確か、色んな部活を冷かして、退部させられた子じゃない?」

 

 その言葉に、思わず肩が跳ねた。

 続き、白上先輩が「あ」と声を上げる。

 

「聞いたことある。確か今は、生徒会室で罰清掃させられているって。君の事だったの?」

「……ええ、まあ」

 

 否定せず、素直に頷く。話が少し変わっているが、身から出た錆。受け止めるしかない。

 続く言葉は、叱責か、拒絶か。静かに待つ。

 やがて、白上先輩は静かに口を開いた。

 

「……なんで?」

「はい?」

「いや、なんで色々な部活を冷かしていたのかなって。話していた感じ、そんな事をしそうに無いというか。無駄な事、しないでしょ? スマホは必要最低限使えて充分みたいだし、オタク文化も興味が無いっていうのはあるだろうけど、幾ら何でも知らなさすぎだし。あの漫画とか、この間興行収入が凄くてニュースにもなったし、あっちの漫画は実写映画が大ヒットしていたんだけど」

 

 そう言われ改めて確認するが、やはり覚えはない。

 

「知らない?」

「知りません」

「そうだと思った」

 

 白上先輩は、そう言って笑顔を見せる。

 

「それに、人に気を使ってあげる事も出来る人だったし」

「そんな機会、ありました?」

「生徒会室前で都合のいい日教えてくれたじゃない。それに、誰にも話してないよ」

「……ありがとうございます」

「いーえ」

 

 一先ず生徒会長の握力が校内に知れ渡っている事は無いらしい。

 あの後、握力50㎏ってどの程度何だろうと思って調べたが、成人男性の平均握力のピークを越えているようだった。あの生徒会長、日夜握力を鍛えているか、実は女性ではなく男性なのかもしれない。

 

「そんな感じだから、君がわざわざ冷やかす為だけに入部したとは考えづらいかなって。例えば誰かに頼まれたとか。部員の水増しの為に」

「自白ですか?」

「……なんでかなって考えたら、それが真っ先に浮かんだの!」

「否定してください」

 

 水増しは画策しているらしい。俺に創部届を出してきた辺り、あまり進捗は良くなさそうだ。

 んん、と誤魔化す様に咳ばらいをする白上先輩。改めてといった様子で、口を開いた。

 

「それでどうなの?」

「違います。自分の意志で入部して、辞めました」

 

 当たりだろうと言わんばかりの顔をする白上先輩。

 残念ながら違うので否定すると、白上先輩は驚きの表情を浮かべた。

 

「……え? 本当に冷やかしで入ったの?」

「そんなつもりは無かったんですけど、結果的にそうなりました」

「……ふーん」

 

 じゃあ、と、白上先輩。

 

「何で、色々な部活に入ったの?」

 

 そしてこの話に戻ってきた。

 言えば言い訳になりそうで、その事に抵抗を覚えながらも、まっすぐとこちらを見る白上先輩を前に噓や誤魔化しをいうことは憚られ、素直に話す。

 

「自分、こんな感じですから。入ったら、興味を持つかなと」

 

 俺の言葉に、白上先輩がきょとんとした。

 暫しの間。

 そして、「……あー」と白上先輩。

 

「成程ね?」

「分かっていますか?」

「いや、うん。分かるよ? びっくりはしたけど。……なんていうか、随分行動力があるね? 普通、最低限興味があるから入部すると思うけど」

「そうですか? テレビで見たなんかのプロの人が、始めた時は興味無くてー、みたいな事を言っていたんで、そういうものなのかと」

「それはもう特別なパターンで、初心者で参考にするものではないと思うかな。大体は、何かの拍子に見たり聞いたりして、興味を持って、調べたり体験したりするのが普通だと思うよ」

「成程」

 

 まるで啓示を受けたような感覚。思わず両手を合わせ、目を閉じ、拝む。

 

「重っ⁉ 辞めて! 私の感覚語っただけだからね⁉」

 

 白上先輩の声。辞めてというので、合掌を辞め、目を開けた。

 拝むのを辞めた俺に、白上先輩が安堵した様子を見せる。

 そんな白上先輩へ、言葉をかける。

 

「人生の大先輩として仰がせてください」

「だから重い!」

「ちなみに、今この紙のここの部分にサインすると、今後もこのセミナー受けられるよ」

「書きます」

「ミオ⁉」

 

 さっっと、横から紙が差し出された。

 大神先輩に言われるがまま、その紙に自分の名前を書く。

 

「どうぞ」

「ありがと」

 

 紙はそのまま、再び大神先輩の手の中へ。

 

「これで3人揃ったね」

「いや、なんか嫌だよ⁉ この流れで入られるの、なんか洗脳したみたいじゃん⁉」

「あながち否定出来ないよ?」

「これはほら! 卵から孵ったひな鳥が、最初に見たものを親だと思うようなやつだよ!」

「刷り込みは洗脳に近いかと」

「君が言うの⁉」

 

 つい。

 

「ほら、早く創部届、出しに行こう? 確か創部メンバー全員でいかないといけないんだよね?」

「はい。名前だけ貸している可能性もあるので。念の為らしいです」

「凄く乗り気だ! いいよ、分かった! こうなったら、君もありとあらゆる沼に落とすからね!」

「……あの、殺したいほど嫌なら、辞めますけど」

「ごめん、物理的な話じゃなくて」

 

 物理的じゃない沼に落とすってどういう意味なのだろうか。

 

「行くよー」

 

 大神先輩から声がかかり、俺は首を傾げながら立ち上がる。

 白上先輩も立ち上がりながら、「えっとね」と前置きをして、歩きながら沼という言葉の説明を始めた。

 初めて聞く意味に、色々あるんだなと感心しながら、大神先輩に次いで、部室を出る。

 最後に白上先輩が廊下に出て、扉を閉めるのを確認してから、3人揃い、生徒会室へ向けて歩き出した。

 

 

 ***

 

 

 がたりという物音が響き、驚いて起き上がる。

 周囲を見れば、やってしまったという表情のフブキ先輩と、目が合った。

 

「あー……ごめんね、起こしちゃって」

「……いえ。俺の方こそ、部室で寝てすみません」

 

 背筋を伸ばし、体を解して。

 フブキ先輩の近くを見れば、テーブルの上には積まれた漫画が置かれていた。

 そのタイトルは、そういえば始めてこの部室に来た時に、教わったものである。

 

「確か、去年映画化したんでしたっけ? それ」

「そうそう。なんか久しぶりに読みたくなっちゃって」

「……終わったら貸してください」

「あれ? 読んだことなかったっけ?」

「ありますけど、久しぶりに読みたくなりました」

「じゃあ、先に読む?」

「いえ。ゲームでもして待っていますから。ごゆっくり」

 

 返しつつ、スマホを取り出す。

 指紋でロックを外し、最低限整理されたアプリの中から、ゲームを起動した。

 タプタプと操作していると視線を感じる。顔を上げれば、フブキ先輩の目が漫画ではなく俺を向いていた。

 

「何でしょうか?」

「ううん。すっかりオタクに寄って来たなと思って」

「……おかげさまで沼に落とされました」

「え? いやいや。まだ、足裏を水面につけたり離したりして、ちゃぷちゃぷ遊んでる程度だよ?」

「業が深すぎる」

 

 我ながらかなり染まってきていると思っていたのだが。

 オタク怖い。これ以上は恐ろしすぎるので、これからもその程度で居たい。

 

「約束したから、ありとあらゆる沼に沈ませるつもりだよ。覚悟しといてね」

「……殺人予告はちょっと」

「ちーがーいーまーすー」

 

 言い終わると、どちらからともなく、噴き出した。

 笑いあっていると、がらりと戸が開き、ミオ先輩が部室に現れる。

 

「お疲れー。どうしたの? 扉の外まで、笑い声が聞こえていたけど」

「お疲れ様です。何でもないですよ、ミオ先輩」

「お疲れミオ。そうそう、何でもないの。ちょっと思い出し笑い」

「えー。なにそれ、気になるじゃん」

 

 教えてよーと言うミオ先輩が、部室の戸を閉め、今日も活動が始まる。

 とはいえ、特にやることは無い。基本的にはフブキ先輩のオタ活を見守るだけのペーパー同好会でしかなく、今日は多分漫画を読んで、飽きたらゲームをする程度だろう。

 そういえば、そろそろ、学園祭の内容、決めないとなーと思いながら、俺はスマホをタップした。

 

 




真面目が続かない病
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