ホロ学園の「俺」君物語   作:零円

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今更ですが、時間軸は本編より未来になってます

前半が海に誘う前の話
後半が海から帰ってきた後の話

それぞれミオちゃん目線で語られます

元々前々話と前話でまとめていたのを3分割したので、ちょっと短め


浜辺(に来る前と後)の女神

 2週間前。

 ショッピングモールへ買い物に行った時の話。

 

「ミオ。ちょっと水着、見ていかない?」

「水着? 別にいいけど」

 

 フブキの鶴の一声に、フブキとミオはアパレルショップへと立ち寄った。

 丁度シーズンというだけあり、人の出が多い。フブキとミオは賑やかな店内を、物色しながら進んでいく。

 単純に言えば、ビキニかワンピース位なものだが、ビキニだけでもトップスとボトムスの種類やらパレオの有無などで幅広いし、細かい装飾や色等の違いも含めれば多種多様。

 幽世には水着どころか海水浴という文化自体無く、川辺でちゃぷちゃぷと遊ぶくらいのものだったから、こちらに来た頃はかなり衝撃を受けたことを、ミオは覚えていた。

 今となってはすっかり馴染み、時折プールに行ったり海に行ったりしているし、こうして多くのデザインから水着を選ぶのにも、慣れてはいるが。

 

 ──去年の水着、まだ着れそうなんだよねぇ。

 

 白上家より2人が暮らすには充分過ぎる仕送りを貰っているとはいえ、流石に無駄遣いは気が引ける。

 それに特別拘りも無いから、もし買うなら、去年の水着が着られるかどうか、確認してからにしたい所。

 体感ではあるが、去年からあまりスタイルに変化は無い。去年購入した黒のワンピースタイプの水着は、恐らくまだ着られる筈だった。

 

 ──まあ、うちはいいかな。

 

 何となく手に取った水着をラックに戻し、ミオはフブキの方へ視線をやった。

 ミオとは打って変わり、フブキは真剣な様子で水着を見ていた。

 本来インドア派で、家にばかりいるのに、何故そんな熱心に水着を選ぶのか。

 その光景にミオは疑問を抱き。やがて、「あっ」っと声を上げる。

 

「もしかして、プールか海にでも誘われた?」

「へ?」

 

 ミオの言葉に、フブキが首を傾げた。

 その様が逆にミオを困惑させ、「えっ」っと同じく声を上げる。

 

「あの子に誘われたんじゃないの?」

「そんな事無いよ?」

「……え? じゃあ、なんでそんなに熱心なの? 海とかプール行く予定あったっけ?」

 

 手帳を取り出し確認するが、少なくともミオの手帳には記載が無い。

 護衛であり従者であるミオは、フブキの予定は基本的に把握している。仮にミオが誘われていなかったとしても、それは変わらない。

 最後に予定を確認したのは昨日の晩。朝起きてからここまで、基本一緒に居たから、知らない間に予定が増えた、という事も無いはずだった。

 首を傾げたミオを見て、疑問を悟ったらしく。フブキはフッっと、シニカルな笑みを浮かべた。

 

「ミオ。今年の私はひと味違うんだよ」

「というと?」

「今年は……私が誘う!」

「──えー⁉」

「なんか思ったより本当に驚かれたんだけど」

 

 解せぬという表情をしているフブキを尻目に、ミオは店内の他の人へ頭を下げる。

 一通り謝ってから、視線をフブキへ。ドヤ顔を浮かべる彼女に、成長を感じる。

 

「フブキ、立派になったねぇ」

 

 そう言いながら、ミオは目頭を拭う。

 

「なんかおかしくない? その反応」

「ちょっと褒められるだけで、直ぐ照れるのに。自分が誘ったなんて」

「いや、まだ誘ってないけど」

「……あれ?」

 

 その言葉に、ミオは少し前の会話を思い出す。

 

『今年は……私が誘う!』

「……」

 

 言われてみれば確かに、そうであった。

 

「フブキ。夏休みも後半なわけだけど」

「うん」

「まだ、水着も買っていないし、誘ってすらいないの?」

「うん」

「こういうのって、夏休み前とかに、決めておくものじゃない?」

「……海に誘うって覚悟を決めるのに、1ヶ月かかったよね」

 

 これは今年もダメかなと、呆れるミオ。その脇では、フブキは水着選びに戻っていた。

 余り拘りが無く、恥ずかしがり屋でもあるから、普段はミオと同じく露出の少ないシンプルなワンピースタイプの水着と選んでいるフブキ。

 しかし今は、着た時の想像をしているのか、少し顔を赤らめながらも、フリルなどのついた、可愛いタイプのビキニを中心に見ている。

 この子なりに頑張っているんだなと、親のような目線でそんな事を思うミオ。

 

「ミオも選ぶの手伝ってよ」

「はいはい」

 

 フブキと並び、ミオは水着を見る。

 

「どんなのがいいかな?」

「フブキなら、淡い色の方がいいんじゃない? 白とか水色みたいな」

「成程」

「それから、ちょっと派手なのにする?」

「そ、それはまだ早いかなぁ」

 

 あーでもないこーでもないと言いながら、1時間ほどかけて決めた水着は、フリルのついた白いビキニ。

 勝負服を手に入れ、ホクホク顔のフブキを、ミオは健闘を祈りながら見守る。

 まさかこの後、誘う勇気を手に入れるのにさらに2週間かかり、当日いきなり相手の家に乗り込んでいくことになるとは、流石のミオも想像出来なかった。

 

 ***

 

 2週間後。

 朝、意気込み出掛けて行ったフブキを、家事をしながら待っていたミオ。

 何時もより遅い帰りに少し心配しながらも、いい雰囲気だったら申し訳ないなという気持ちが重なり、連絡を取れず。少しモヤモヤしていると。

 

「ただいまー」

「おかえりー」

 

 玄関から聞こえてきたフブキの声に、ミオに立ち上がると、玄関へ向かった。

 玄関では、キャップを被ったフブキが、いそいそとサンダルを脱いでいる所。そんなフブキへ、ミオは声をかける。

 

「遅かったねー。海、楽しかった?」

「うん。楽しかったよ。ゲームして、アニメとかアイドルの話をしていた」

「ふーん」

 

 いやそれ、いつもと変わらないじゃんという突っ込みを、ミオは一度飲み込む。

 まさか1日一緒に海に行っておいて、それだけという事もあるまい。

 

「他には?」

 

 そう思ったから、ミオは続きを促した。

 

「ナンパされたのを助けて貰って、また一緒に海に行く約束したよ」

「お! いいじゃんいいじゃん!」

 

 正にひと夏の思い出。アバンチュールといった感じの内容に、ミオのテンションが上がる。

 更なる恋バナに期待して、「他には他には?」とミオ。その為に、今日の用事を引き受け、フブキと後輩を2人きりにしたのだから、これ位は許される筈である。

 

「それから──」

 

 そう言ったきり、フブキの口が重い。中々開かない。

 恥ずかしがっているのかと思ってミオがフブキの顔を覗くと、顔は赤らんでおらず、むしろ青い。冷や汗も流れている。

 何か変だなと思いながら、ミオはフブキの持って行った鞄に手をかけた。洗い物を取り出そうと鞄を開け、中身を見る。

 中身は、出る時に入れていった物と変わっていなかった。

 タオル、日焼け止め、ビニールシート、ドライヤー、帰り用の下着。

 変わった荷物は特に無く、強いて言うなら、キャップが増えているくらい。

 

「……」

 

 一応タオルを手に取る。やはり特に濡れている様子はない。

 フブキの服の裾を掴み、めくり上げた。

 

「ちょっ」

 

 フブキが驚き固まる中、ミオはフブキの背中を確認。背中の紐が、水着のままであることを確認する。

 一応触るが、こちらも濡れていない。

 

「何しに行ったの?」

「……部活?」

 

 合宿かなと思いながら、続けてミオ。

 

「……因みに野暮かもしれないけどさ」

「うん」

「水着、見せられた?」

 

 明らかに海に入っていないであろう状態で、果たしてそれを見せる事は出来、それを褒められたのだろうか。

 一縷の望みにかけ、尋ねてみるミオ。そんなミオへ振り返ったフブキは、儚い笑みを浮かべた。

 

「何で人って……こんなに愚かなのかな?」

「……フブキは愚かじゃないよ。普通1日がかりの海に当日いきなり誘うのも、水着を着て行ったのに見せる事も海に入る事もしないって在り得ないけど」

「ミオが冷たい」

「嘘泣きって分かっているし、フブキがずっと、自分が誘うって言って何もしていなかったのも知っているからね。とりあえず着替えてきちゃいな。後、手洗いうがいね」

「はーい」

 

 脱いだサンダルを整え、フブキが脱衣所に消える。

 ミオは鞄を手にリビングへ。洗濯はしなくていいらしいから、後でタンスに戻して置こうと思っていると、スマホにメッセージが来ている事に気が付いた。

 鞄を一旦ソファへ置いて、ミオはスマホを手に取る。連絡の主は、フブキと一緒に海へ行った後輩だった。

 

『お疲れ様です。帰り際、フブキ先輩の様子がおかしかったですけど、今は大丈夫ですか?』

「心配されているし。大丈夫だよっと」

 

 まあ海で遊ぶという目的を果たせず、ゲームだけして帰ってくることになったのであれば、おかしくもなるかと、ミオが思っている所へ、もう1通。

 

『今度はミオ先輩も一緒に行きましょう。シオンやわためも誘って、大勢で遊びたいです』

「いや、2人きりじゃないんかい」

 

 アバンチュールとは何だったのか。

『今度は一緒に行こうね』と、ミオはメッセージを返しながら、春は遠そうだなと、そんな事を思うのだった。

 

 

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