ホロ学園の「俺」君物語   作:零円

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登場ライバー
紫咲シオン


未知との遭遇

 数ヶ月程度前の話。大空と知り合うずっと前。

 その頃の俺は一人暮らしだった。

 訳あり――と、言うほどの事はなく、仕事の虫である両親が出張族で、方々への移動を続けており、幼少期は兎も角、流石にこの歳にもなって環境が代わり続けるのは面倒という俺の言もあり、両親が出張の間は家を守る事が仕事になった、というだけである

 その日の晩は、溶かしたチーズをポテトチップスに絡めて食べたくなったので、コンビニに向かっていた。チーズが無かったのである。

 ついでに炭酸でも買おうかとワクワクしていると、前方の公園で、謎の発光が見えた。

「……」

 気になってしまった。

 街灯の点滅等では断じてない、紫色の発光。誰かが花火でもやっているのかと思ったが、それにしては発光が明滅しておらず一定で、しかも長い。

 駆け足ぎみに公園に近づき、覗きこむ。発光元はやや奥まった場所であり、公園の入り口からは見えなかった。

 迷いなく公園の中を進み、光源の方へ。斯くして見つけたその光源は、空中にあった。

 俺の身長からやや高い位置にあり、その形は円の中に幾何学的なマークの刻まれた、魔法陣と呼ぶに相応しいそれ。

 トリックらしきものは見当たらない。

 見ていると、魔法陣の中心から足のようなものが覗きだす。

 黒い靴、星の衣装。紫と白のストライプの靴下が見え始めたところで、慌てて視線をそらし、後ろを向いた。

 一般的な良心と、思春期男児の知的好奇心との狭間を葛藤すること暫し。「よっ」っとという声とスタッっといった軽快な足音が、俺の耳に届いた。

 もういいだろうか。多分大丈夫の筈。

 そう信じて、振り返る。途端、不思議な色の瞳と目があった。

 トパーズと呼ぶには、あまりに彩飾豊かなその瞳。この世ならざるその色に、飲まれる。

「あの」

「――わっ」

 声がかけられた。

 途端、集中が途切れ、自分が驚く程に近づいていた事に気がついた。

 慌てて距離を取ろうとして、足がもつれる。なんとか体勢を取り戻そうとしても上手くいかず、そのまま尻餅。

「なにやってるんですか?」

「いや、あの」

 瞳に見とれてました、何て言えようはずもなく。苦笑いしながら、差し出された手を取り立ち上がる。

 立ち上がって、改めて少女を観察する。

 瞳の色に気を取られていたが、良く良く見れば、少し生意気そうだが可愛らしい顔つきだ。

 歳は俺より下だろうか。ちゃんと食べているのか心配な位、体が細く、露出度が高い。

「なあ、寒くない?」

 冬も終わろうかという頃合いで、まだまだ寒い。にもかかわらず、ふとももに胸元、腹部が露出している。

「コート着る?」

「え? ああ、大丈夫ですよ。魔法で年中快適なんですから」

 ドヤる少女。

 後半部分は聞かなかった方がいいのだろうか。嫌でもあまりに堂々としているから、別に問題ないのかもしれない。

 葛藤している俺の前で、ドヤっていた少女が何かに気づき、首をかしげ、わなわなとし始める。成る程ダメらしい。

「消さなきゃ」

「待って」

 右手に何やら光が集まりだしたのを見て、慌てて止める。

「勝手にしゃべったのそっちじゃん」

「天才の私がそんな失敗をする筈ないでしょ」

「今したが? やっべやっちったって表情になったの見たからな」

「尚更消さなきゃ」

「待って」

 左手にも光が集まりだす。右手に集まっているのと比べ、禍々しさが尋常でない。

 なんか、記憶だけ消そうとしてたのを、存在ごと消そうとするのに切り替えたようにしか見えない。

「落ち着いて。誰にも喋らないから。本当に」

「信じられない」

「そこは信じていただければなと。ほら、こんな夜更けに一人でいた辺りから察してくれ」

「あっ」

 何か察した様子を見せる彼女。とたん、憐憫の目を向けられる。いい感じに誤解してくれたらしい。

「ごめんなさい、酷いこと言ったわね」

「……いや」

 なんだろう。謝られているのに、言葉の端々から揶揄されている気がしてならない。表情のせいだろうか。友達いないんだー、みたいに思われていそう。

「親も出張中だし、話す相手はいない。そもそも現代で魔法だなんだって言ったら、創作か頭おかしい人と思われるし」

「……それもそうね」

 納得した様が見え、こっそり肩の荷を下ろす。

 魔法を使っているところを俺に見られた、という事実は覆らないのだが、それについては忘れている様子。

 後は、面倒ごとになる前に逃げるのみである。早く家に帰って布団に潜らなければ。

 しかし、現実は非常である。「じゃあ」という言葉と共に、少女が俺の腕を掴んだ。

「暫く、お世話になりますね」

「なんでさ!」

 

***

 

 現在。

「ただいま」

「おかえりー。ねぇ、お腹すいたー」

 あの日出会った魔女、紫咲シオンは完全に我が家に住み着いていた。

 敬語を使われていたのは最初期だけで、最近はもっぱらタメ口。そしてクソガキ気味。

 一周回って愛しさすら覚える。手のかかる子程かわいいって言うし。

「今、作るから待って」

「今日の晩御飯、なに?」

「焼き魚と煮物」

「またー!?」

「文句があるなら、自分でつくってくださーい」

 ぎゃいぎゃい言うシオンを一蹴し、手洗いうがいに着替えを終えて、キッチンに入る。

 カウンター越しに未だにぶつぶついってるシオンを無視しながら、手早く調理を始めた。

 とはいえ、凝らなければ煮物はザクザク切って鍋に入れて煮込むだけだし、魚は捌いてあるのを焼くだけ。ご飯は炊いてあるから、煮込み時間こそかかれど圧力鍋様の力でそう手間はなく。

 たまたま玉ねぎが余っていたことを思い出し。

 折角だし煮物に入れるかと切り始め。

 お腹すいたーとシオンに叩かれ。

 その衝撃で乾いていたコンタクトが両方取れて、反射的に目を押さえ。

 硫化アリルが眼球に直撃しなければ今ごろのんびりしていただろう。以上現実逃避終わり。

「ぐぉおおおお」

「えぇええ」

 目を押さえ悶える。

 硫化アリル。ようは玉ねぎの目が痒くなる原因のそれ。

 それがそのまま目に入ったのだから、目が痛いのなんの。ボロボロ涙がこぼれて止まらない。

 このまま失明したらどうしようなんて考え出した所で。

「目薬! 目薬使うから、上向いて! 目、開けて!」

 ぐいっと顎を持ち上げられ、上を向かされる。

 ついで、目をこじ開けられる。本能的に嫌がる瞼を俺の方からも開けて、涙でかすれる視界にシオンの姿をとらえた。その手には、紫色の小瓶。

 こんな禍々しい色の小瓶、家にあっただろうか。そんな疑問を提唱するより早く、一滴目に垂らされた。

 途端に目の痛みが嘘のように無くなる。感動し、警戒が薄れたところに、もう一滴。反対の目にも落とされ、そちらも痛みがなくなった。

「お……おおー。すごい。痛くなくなった」

「そうでしょ? 魔界の目薬なんだから」

「魔界の? 魔法の薬ってこと?」

「こっちではそう言うことになるのかな」

 成る程。道理で見覚えのないはずである。シオンの私物のようだった。

「私に感謝して、明日の夕飯は豪勢に」

「因みにそれって」

「なに?」

「人間に使っても大丈夫なもの?」

 聞くまでもなく、俺の体が答えを出し始めているのだが。

 

 ソファーに横たわり、目を冷やす。

 作りかけの食事は火を止めるだけだったので、シオンに仕上げてもらった。

 玉ねぎを入れ損ねてしまった事だけが悔やまれる。

「大丈夫?」

「経験の無い痛みに襲われてる」

「……ごめん」

「怒ってないよ。氷おかわり」

「持ってくるね」

 とたたとシオンが走っていくのを聞きながら、溜め息をつく。

 眼球が痛い。その奥の視神経とおぼしきところも痛いし、頭も痛い。

 痛くて熱くて気持ち悪い。横になっているのにぐらぐらと揺れる感覚がある。やはりと言うか、飲んだ風邪薬が効く様子はない。

 冷やしていれば多少マシだが、その程度。気絶できるのなら、早くしたい。だが、そうしたら、シオンに心配をかけてしまうだろうか。

 我ながら、いつも通りの声色を装うのがうまいと自画自賛する。

 ふざけた行為がここまで大事になってしまって参っている様子のシオンに弱った様子を見せられないから、丁度良かった。仕事大好きの両親を心配かけまいと、繕い続けた幼少気の自分に感謝である。

「持ってきたよ」

「ありがとう」

 目の上に乗せられた氷入りの袋を手で押さえる。ひんやりと心地よく、少しマシになった。

「何か欲しいものとかある?」

「大丈夫だから、食事してきていいよ」

「食べれそう?」

「ちょっと無理そう。食欲無い。でも作っちゃったから、俺の分はラップしといて」

「……」

「看病してくれるなら、ちゃんと食事してシオンは元気でいてくれ」

「わかった」

 とたたと走り去る音。まもなく、キッチンでごそごそと何かする気配。

 少し間が空くだろうから、眠るならこの隙だ。

「私、そっちで食べるから、何かあったら、すぐに言ってね!」

 ひん。

 

 

 

 翌朝。

「治った」

 結局シオンが入浴に行っている間に寝落ちすることに成功し、朝に目を覚ました。嘘のように痛みは引いていて、ぐらぐらと揺れる感覚もない。

「あれ?」

 それどころか、視界がクリアだ。記憶が正しければ、コンタクトが外れたあと、つけ直した記憶はない。ためしに眼球にさわってみても、やはりコンタクトの気配はない。

「すげー」

 矯正器具とはおさらば出来るのだろうか。

 感動しながらキョロキョロしていると、視界の隅がノイズを捉えた。反射的に目を向ける。

 庭に繋がる窓があり、縁側にはコウモリが座っていた。ノイズはあの辺りからな気がしたが、発生源らしきものはない。

「てか、コウモリってぶら下がるもんじゃないのか」

 まるで座っているようにも見えるコウモリは、やがてパタパタと飛んでいった。

 飛び去り際に、再度ノイズ。コウモリの姿が一瞬女の子に見え、ただすぐにコウモリに戻る。

「……?」

 ソファーを降りて窓際へ。コウモリが飛んでいった方を見るが、すでに居ない。

「寝ぼけてるのかな」

 目を擦りながら部屋のなかを見渡す。

 リビング、テレビ、ソファー、床で寝ているシオン、ダイニングテーブル、キッチン、棚、時計。

「ちくしょうめ!」

 いつもは七時半には家を出るのに、時計は八時を回っている。

 今日から生徒会主催の遅刻取り締まり強化週間である。さっきのは気のせいと結論付けて、準備をするべく、走り出した。

 

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