ホロ学園の「俺」君物語   作:零円

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登場ライバー
癒月ちょこ
潤羽るしあ


大異小同

 人間ではなくなるという言葉を、頭の中で咀嚼する。

 本当に聞いた通りの意味なのか。同音異義語は存在しないのか。

 考えてみて、思い付かず、言葉を飲み込んだ。

「続けてください」

「大丈夫なの?」

「はい。お願いします」

「なら続けるわね。まあ、大体察しているとは思うけど。

 そもそもあの娘が別の世界から来たってことは知ってるわよね?」

「魔界とやらから来たことなら」

 なのでこちらの世界の住み処やお金は一切無いので、お世話になりますとは、出会って数分後に言われた。

「あの娘が貴方に使った目薬は、その魔界で作られた……魔法薬って言って伝わるかしら?」

「特別なお薬的な」

 いまいちピントこない。

「私も説明苦手なんだけど……魔法になるお薬って思ってちょうだい」

「魔法が入ってるのではなく?」

 さらにピンと来なくなった。

「普通のお薬って口からとか注射とかで直接体にいいものを接種するでしょ」

「そうですね」

 俺としても、薬の認識はその程度だ。

「魔法薬は薬そのものじゃなくて、魔法で治す物なの。薬品部分はあくまで媒体。

 今回を例にとるなら、貴方に目薬が差されたのを切欠に、貴方の目を治す魔法が発動したって事」

「うーんと……俺は魔法がかけられた?」

「その程度の認識で充分。問題は、点眼時点での貴方の異常が二つ合ったこと」

「二つ? 玉ねぎのせいで凄く目が痛い以外の異常は無かったはずですけど」

「それは問題ですらないわね。一つは目が悪かったこと。先天的な問題でもなければ、魔界の子の視力は基本的に一.二程度は維持してるわ。目の酷使による視力低下は、魔法で治して当然ってこと」

「だから眼鏡とかコンタクトつけなくて良くなったんですね」

 滅茶苦茶痛かったが。それでも見えるようになったのはありがたい。

「問題は二つ目。貴方が倒れたり、色々見えるようになったのは、こっちのせいね」

「というと」

「前提の話をすると、魔界の子と人って体の作りが違うの」

「……まあ、でしょうね。角とか羽は、少なくとも俺には生えてないですし」

「外見的な違いもそうだけど。それだけじゃないわ」

「外見じゃなければ……内面?」

「というより、構造ね」

 それを聞き、少し悩み、昔聞いた、意味が分かると怖い話を思い出した。

 その話の中で病気の男は、悪魔と契約し、薬を貰った。

 悪魔は、その薬で体が正常に戻ると言った。

 契約をした以上、悪魔は嘘をつくと途端に死んでしまう事を知っていた男は、安心してその薬を飲み、結果、人間ではない怪物になってしまいましたとさと、そんなお話。

 この話の肝は、視点であった。悪魔の語った正常が、果たして誰の視点での正常であったのか。

「俺の目は、魔界的には欠陥品だったんですか」

「ええ。魔界とここでは接種する物が違うから、それを受け入れる為の体の作りが違う。魔法の有無という違いがあるから、生物として魔法に対しての抵抗力が違う。ほかにも色々、世界的な違いがあるから、外見は似てても、作りが違う」

 そこまで言われれば、流石に俺の身に何が起きたかは分かる。

「魔法薬で発動した魔法が、俺の目の機能が足らないことに気がついて、改造した」

「そうね。貴方が今見ている世界は、私やシオンが見ている世界。最初目にノイズが走っていたのは、恐らく目が捉えた景色を脳が処理しきれなかったからでしょう。でも、それもこの数日の眠りの間に完了した。

 貴方の目は魔界のそれになった。その影響が今後肉体にどう出てくるかは、正直分からないわ」

「元に戻らないですか?」

「分からない」

 世界から外れた目。どんな影響が出るのかは未知数。元に戻るかも不明。よもや、話の男のように怪物になるかもしれない。

「出来れば、角とか生える程度の少しの変化か、怪獣みたいに滅茶苦茶大きくなるような極端な変化がいいです」

「いや、それも分からないけど。納得したの?」

「理解しました。ちょこ先に色々と生えたままなのは、それが理由ってことですね」

「う、うん。まあ、そうなんだけど……」

 目尻の涙を拭うちょこ先から、信じられないものを見る目を向けられる。そんな目で見られても、困ってしまう。

「ぐだぐだ言っても仕方がないですし、外見の変化が無ければとりあえず困らなそうなので」

「……んー」

 そうなんだけど、そうじゃないと言いたげなちょこ先の顔。

 もっとこう、あるじゃないとと言いたげでもある。

 そんな不満そうな顔をされても困る。

 泣かれてしまったら、おちゃらけ、飲み込むしかない。

「慣れるのに時間はかかるかもですけど、慣れたら毎日ハロウィンみたいで楽しそうです」

「……楽しいばかりじゃないわ」

 俺の言葉にちょこ先が答える。

「見られることに抵抗が無い子もいるけど、見られたくない子もいるし、見た者は殺すって子もいるんだから」

「最後の子については引きこもってていただかないと自分が死ぬ説ありますけど」

「例よ」

「お願いだから目を見て」

 ここまで基本的にまっすぐこちらを見ていたはずのちょこ先が、露骨に視線を外す。

「兎に角、基本的には見えない振りをしていなさい」

「はい」

 一先ず頷く。正直できる自信はない。嘘は苦手で、直ぐ顔に出てしまうタイプという自覚はある。見てしまったものを見なかった振りするのは、些か厳しい。 

 逃げ足を鍛えた方がいいかもしれない。それか目をつぶっても歩けるように心眼を鍛えるべきか。

「心眼の方がかっこいいから心眼にしよう」

「さては事の重要度の認識が甘いわね?」

 今度はこちらが目をそらす。

「本当に気を付けなさいよ。極端な例とはいえ、全くいない訳じゃないからね。まあ、学校に通っている子達にそこまで気性の荒い子はいない筈だけど。とりあえず、伝えられる子には私から伝えておくわ。それでも何かあったら、保健室に来なさい」

「ありがとうございます」

 頭を下げる。明らかに業務外だろう。礼を言うしか出来ない自分が情けない。

「何か手伝えることがあれば、言ってください。何でもやるので」

「ん? 今、何でもって言った?」

「文字通りの意味です」

「……重いわ。気にしすぎないで」

 でも、と漏らしたちょこ先が、静かに目を閉じ、そして頭を下げた。

「それなら、お願い。シオンを怒らないであげて。あの娘、本気で貴方を心配して目薬を使ったの。その結果は、貴方の望んだ事では無いけど、あの娘の優しさを責めないであげて」

「……」

 むしろ、そちらこそが本題だったような、静かな熱量。

 基本的に軽い人間だから、こういうのは苦手で。

 ただ、流していい事ではない事は分かるから、受け止め、返す。

「安心してください。そもそも怒っていませんし、責めるつもりもありません。一緒に暮らして、シオンの人柄は分かってますから。寧ろ、心配をかけたことが申し訳ないくらいです」

 頷いて返せば、再びちょこ先が渋い顔になる。

「私が言っておいてなんだけど、多少怒っても怒らないわよ?」

「いえ、全然怒ってないですけど」

「そう……。もうちょっと自分を大切にしてね」

「……? はい」

 何が言いたいのか謎であったが、とりあえず頷く。

「凄く心配なんだけど……。とりあえず、話はこれくらいね。質問はある?」

「シオンはいつ帰ってくるんですか?」

「一月位は、向こうで調べものをすると思うけど。どうして?」

「食材の買う量とか決めないと行けないので」

「食材ね。そういえば、あの娘、家にお金を入れてた?」

「なんならお小遣いを渡してましたけど」

 三食屋根付きとはいえ、文無しで過ごすのは辛いだろうと、三千円ほど渡していた。それ以上は流石に生活に障るので、我慢してもらっていたのだが。

 俺の言葉に、ちょこ先が頭を抱える。

「一応確認だけど、確かご両親は出張中よね?」

「はい」

「仕送りは? シオンの事はきちんと話してある?」

「……」

「視線を逸らさない」

 話していない。というより、話しようがない。同居人が出来ましたと、言えようはずもない。

 黙っているのだから、仕送りに変化はない。

 俺の反応で察したのか、ちょこ先は溜め息を漏らした。

「まあ、好きでやってますし」 

「そういう問題じゃないでしょ。一人分の食費で二人分の食事を用意して、お小遣いまで渡すなんて。ちゃんと食べてる?」

「一応」

 それよりも、女の子を家に住まわせている事を怒るべきな気がするが。魔界的にセーフなのだろうか。

「もしシオンがこれからもここで暮らすなら、きちんと生活費をいれるように言っておくわね」

「別にいいんですけど」

「そうはいかないわ。そもそもあの娘のわがままに貴方がお金を出す必要なんてないんだから」

「わがまま?」

「……それはともかく」

 ともかく。

「けじめは必要よ。あの娘がここで暮らす以上は、しっかりと生活費は入れさせるわ」

「分かりました」

 正直助かる。余裕があるに越したことはないので、貰えるのなら貰いたい。

「他に聞きたいことはある?」

「明日から学校に通えますか」

「調子が悪くなければ、構わないわよ。皆勤賞については誤魔化しておいたから、まだ目指せるわ」

「やったー!」

「今日一のテンション見せないで」

 立ち上がって両手をあげる俺に、ちょこ先の言葉。

 そんなことを言われても、嬉しいから仕方がない。

「まあその調子なら、大丈夫そうね。くれぐれも気を付けること。いいわね」

「はい」

 

 

 

 数時間後。

 放課後の、社会科準備室。

「ひえぇ」

 目を煌々と輝かせ、触れてもいないのに髪が逆立つるしあが、扉の前に立ちはだかっていた。

 るしあの足元から骸骨が現れた。一体、二体と続々沸き上がる。

「信じてたのに」

 るしあの声が届く。弁解しようとするが、遮るように骸骨がカタカタと嗤っているように震えだした。猛烈な誤解をされている事は分かるのに、こちらの声は届かない。

「やっちゃって」

 それなのに、るしあの声だけはやけにクリアに俺の耳に届き。

 直後、骸骨たちは俺をめがけて襲いかかってきた。

 




ちょこ先お誕生日記念感謝の4日間投稿2日目
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