ホロ学園の「俺」君物語   作:零円

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登場ライバー
潤羽るしあ
癒月ちょこ


夜を往く

 車内。

 後部座席に、るしあと並び、座っている。

 保健室を最後に、るしあはだんまり。何か言った方がいいのかもしれないが、俺も思いつかない。

「しりょう術って知ってる?」

 口火を切ったのは、ちょこ先だった。

「しりょう……なんかこう、整頓術みたいな」

「資料じゃなくて、死霊よ。死ぬに霊って書く死霊」

「成程」

 そっちは存じ上げない。いや、仮に資料術だったとしても、存じ上げないのだが。

 るしあが、口元を押えて肩を震わせているから、まあボケた甲斐はあった。

「簡単に言うと、死者に干渉できる魔法ね。死者の霊とお話ししたり、死体を動かしたり。そんなことが出来るの。その魔法を使う者を、総括して死霊術士って言うわ」

「成程」

 何を急に、と思ったが、流石に行間を読む事くらいはできる。

「るしあは、死霊術士なんですか」

 だから骸骨をわんさか出したり、俺の方に乗っている、恐らくは霊なのだろうワンコの鳴き声も聞こえるのだろう。

「るしあだけって訳じゃないわ。魔界で濡羽の一族って言ったら死霊術の名門だもの。一族全員死霊術士よ」

「……なんか、賑やかそうなお家ですね」

「賑やか?」

「家にご先祖様が大勢いそうじゃないですか。年中お盆みたいな」

「あー」

 事あるごとにご先祖様がしゃしゃり出てきそうである。曾曾曾曾曾祖父とか常駐して居そう。

 同じような想像をしたのか、どうなのかしら、とちょこ先も呟いていた。

「えっと……、そんなことないのです」

 俺とちょこ先の期待を裏切るように、るしあが声を上げた。

「死を絶対と考えている死霊術士は、基本的に死後直ぐに消滅するように、生前から自分に術をかけていますから。家にご先祖様が常にいるって事も、こっちの世界のお盆とかも無縁です」

「……すみません」

 俺が産まれた時には、既に母方の祖父しか居なかったから、他の祖父母とも話してみたいな程度だったのだが、茶化したみたいになってしまった。

「いえ、新鮮なのです」

 だがるしあはくすくすと笑う。

「死霊術って、あまりいいイメージを持たれないので」

「……」

 何も言わない俺に、るしあは曖昧に笑って返した。

 確かに、るしあがどんな子なのかを知っているからこそ、彼女が骸骨を操って襲ってきても、どこか安心していた節はある。

 仮にるしあの事を何も知らないときに、今日のような事があったとしたら、多分、三階から飛び降りていたと思う。

「操る死体は、その人の生前に契約した人の死体ですし、死霊だって、ちょっと教えてもらったり、お願いを聞いてもらったりする程度なんですけど」

 俺に気が付くのはワンコの鳴き声が聞こえていたからで、部活の活動について教えてくれたときは、近くにいた霊に聞いたのだろう。種明かしすれば、その程度。

 でも、まあ正直。

「たまに虚空と話してるの見て、怖いなぁと思ったことはあるけど」

「あれはわざとなのです。先輩はそれでも何も、私との付き合い方を変えなかったので。つい」

 るしあが笑う。

 そして、笑みが引いた後は、悲しげな表情に変わった。

「この世界に来て、私と周りのズレがまだ分かって居なかった頃に、同じようなことをして、本気で引かれて、嫌われた事があって。私の一族の中には同じくこの世界で、死霊術を使っているところを見られ、化け物めと焼き討ちされた人がいるということも聞いたことがあるのです」

 表情と裏腹に、口調は平坦。それが当たり前だからと、言わんばかりに。

「もっとうまくやろうって思ってたのに、初めて死霊と話すのを見た時、先輩は驚いて引いたくせに、次に会った時は普通に話をしてくれて。何回もそんな感じで」

 だから、と。そう言いながら、るしあは俺の方を見た。

 まっすぐ俺を見て、そして頭を下げる。

「油断していました。ごめんなさい。急に髪の事を言われて、パニックになってしまって。死霊達の制御もままならず」

「そっか」

 恐らく、あの時のるしあの言葉は、あの骸骨達の言葉――。

「先輩が裏切ったなら、殺して死体にしちゃえばもう裏切らないよねって私の中に過った考えが、死霊達に伝播してあんな事になったと思います」

「……そっか」

 じゃない可能性がある。 飛び降りるのが正解だったかもしれない。

「二度と先輩に近づかないと誓うのです。学校であっても無視してください。すぐには難しいですけど、遠くないうちに転校します」

「それはだめだ」

「ですよね……はい?」

 顔を上げたるしあと、目が合う。

「転校される方が気になる。自分への罰とか、そういう風に考えるつもりなら、るしあは今まで通りにしてろ。俺もそうするから」

「でも」

「でもじゃない。実際俺も迂闊だった」

「ちょこ先生から聞きました。しょうがないと思います。それに、本当は今日、ちょこ先生から呼ばれてたんです。でも、後回しにしちゃってて。呼ばれたときにすぐに行って、ちゃんと話を聞いていれば、パニックになることだって」

「心構えが足りてなかった。その内起こりえた事が今日起きただけだよ」

「起こらなかったはずの事なのです」

「俺の身には起こることだった。相手がるしあだったってだけ。

 それとも、るしあはどうしても転校したいのか?」

 ずるいかなと思いながらも、そう問う。

 ここで転校したいと言われると、どうしようもないが。

「それは」

 それだけ言って、るしあが唇を強く結び、黙るだけだった。その様子を見て、安心した。

「ならこうしよう。お互いに一つずつ、お願い事を言って、それでチャラ。どう?」

「……最近スバル先輩としてる貸しって事なのです?」

「ああ。お互いに貸し一。それでどう?」

「……分かったのです。貸し一で」

「ありがと、るしあ」

『わん!』

 仲直りの気配を感じたのか、嬉しそうにワンコが鳴いた。

 ああ、そういえば。

「ところで、るしあ」

「はい?」

「このワンコ、一体何なんだ?」

「タロちゃんの事、見えるんですか?」

 タロというらしい。なんとなく、聞き覚えのある名前だ。

「なんか知らんが見える。聞こえもする」

「……えっと。その子自身は、先輩の守護霊なんですけど……」

 守護霊なのか。不安が募る。

「見える理由……」

 るしあは腕組。思考。暫しの間を開け。

 多分、と口を開く。

「私の魔力に触れたからだと思うのです」

「簡潔に頼む」

「うーんと、魔力に関しては私も専門ではないので……えっと」

「影響を受けたって事じゃないかしら」

 困り果てるるしあに、ちょこ先が助け舟を出した。

「影響?」

「魔力って、本来なら均一な物なの。簡単に言えば、誰かに出来る魔法は魔力を持つ他の誰かに出来る。るしあがシオンのように転送することも出来るし、シオンが死霊術を使うことも理論上は出来るわ」

「そうなんですか?」

 ちらりとるしあを見れば、ふるふると首を振って返される。

「私は転送魔法、使えませんよ?」

「知ってるわ。それにシオンも死霊術は使えない。そういう風に育ったもの」

「どういう?」

「成長の過程で可能性をそぎ落としてったの。そうしてそぎ落とした分、育てたい部分を育てやすくした。まあ、剪定みたいなもの」

「あー」

 頭の中で理屈が通ってくる。詰まる話。

「俺は生まれたての赤ちゃんって事なんですか」

「そういうこと。魔力を手に入れたて、つまり何もそぎ落としていない現状で、るしあの死霊術の魔力に触れたから、その方面で影響が出たんじゃないかしら」

 私も専門じゃないから、勘だけどと、ちょこ先は最後に予防線を張る。間違えていても私のせいじゃないぞと。

 自分も正直分からないが、筋は通っている気はしたので、一先ずその言葉を信じることに決めた。

「じゃあ、俺はもしかしてテレポートとかも出来るようになるのでしょうか」

「無理だと思うわ。シオンが好き勝手に飛んでるから知らないかもしれないけど、あれって結構大魔法よ」

「あはは。まるでシオンが優秀みたいに言いますね」

「うふふ。実際そうなのよ」

 ちょこ先は冗談が上手いなぁ。

「シオンって紫咲シオンさんのことなのです? 知り合いなのですか?」

「うん。一緒に住んでた。今は帰省中」

「……え゛ぇ゛え゛え゛ぇ゛え゛え゛え゛⁉」

 凄い声である。怪獣かと思った。喉が大丈夫か不安になる。

「るしあもシオンの事、知ってるのか」

「あの人の名前、魔界学園出身で知らない人はいないと思うのです」

「へぇ」

 現実を見たくないので、詳しくは聞かない。あいつは、「ねぇ、お腹すいたー」と言ってるクソガキで十分である。

 なので、話を戻すことにした。

「しかしとなると、俺はこの先、ずっと幽霊が見えたままって事なんですかね?」

「それは……ああ、るしあの影響で見えるようになったなら、るしあに魔法を教えてもらえばいいんじゃない?」

「魔法を?」

「死霊術。といっても、見えるようにするのと見えないようにするの程度だと思うけど」

 確かに、見えるようになったのだから、見えなくなるようにもなりそうだが。

 実際、魔法だ魔力だといわれても、きっちり理解しているわけじゃない俺に、そんなことが出来るだろうか。

 るしあの様子を窺えば、あごに手を当て、考え込んでいる様子。

「――多分行けるのです」

「……マジィ?」

 驚きすぎてちょこ先みたいになってしまった。

「マジなのです。死霊術士が最初に教わる魔法が、死霊を見えるようにする魔法なので。既に見えているなら、早いのです」

「成程」

 今は電源がオンになりっぱなしだから、オフにするやり方を教えるだけということなら、確かに難易度も低いのだろうか。とりあえず見えなくなるに越したことはない。るしあの向こう側にある窓の向こうに血まみれの女がしがみついているのが見えるし。

 大丈夫なのだろうか。さっきから、女の髪が伸びて、車体を覆わんとしているように見えるが。

 俺の目線に気が付いたのか、るしあが後ろを向いた。窓越しに、女と目が合う。

 るしあはおもむろにパワーウィンドウを下げた。バサバサ風と、それにあおられた女の髪が車内に侵入する中、るしあは女の前髪をつかみ、自分の方へ引き寄せる。

「消えて」

 ただ一言。

 それだけで、女の姿が霧散する。車を覆っていた髪も消え、まるで何事もなかったかのよう。

「すごーい」

「これくらい余裕なのです」

 ふふんと、るしあが胸を張る。俺にはあんなドスの効いたお願いは出来ないので、やはり見えないに越したことはなさそうだ。

「じゃあ、お願いします、るしあ先生」

「先生……。はい、任せてくださいなのです、先輩!」

 嬉しそうに笑うるしあに、漸く肩の荷が下りた気がした。




ちょこ先お誕生日記念感謝の4日間投稿5日目。

明日からはおかゆん誕生日記念感謝の3日間投稿が始まります。
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