ホロ学園の「俺」君物語   作:零円

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登場ライバー
大空スバル
潤羽るしあ
大神ミオ
癒月ちょこ
夏色まつり



持っている人

 部室の隅で、俺の影から出てきた骸骨の後ろに身を隠しつつ、窓の外を眺めながら俺は大空と通話していた。

「どうした。何か用か?」

『いきなり怒鳴られたことに対しての弁解は?』

「タイミングが悪かった大空が悪い」

『解せない』

 実際、タイミングは最悪だった。明らかに着信音が開戦の合図である。

『いや、今日部活休みだったから、暇ならちょっと付き合って貰おうかなって』

「というと?」

『駅近にある喫茶店で、男女ペアで行くと食べられるパフェが食べたくて』

「それ、カップル専用っていうんだと思うが。部活休みなら大空の所の部員に頼めばいいじゃん」

『本気で言ってる?』

「……ああ、すまん。何でもない」

 部外の人間を本気で追いかけるような奴らだ。部内で裏切者が出たとなったら、それこそ今の部室内の状態と同じになるだろう。

『ていうか、なんかうるさいけど、どこにいるの?』

「部室」

 言いながら、視線を部室内へ戻す。

 部室の中を、所狭しとミオ先輩が跳びまわっていた。

 テーブル、椅子、棚、床、壁、果ては天井まで。手足が付けば、そこが足場と言わんばかりの立体起動。

 加えて四つん這いという低姿勢は、ミオ先輩の持つ全身のバネを全て使える姿勢らしく、全方位足場も相まって、鋭い角度から恐るべき速度で繰り出される突撃は、るしあの操る骸骨を次々バラバラにしていた。

 とはいえ、るしあも負けていない。始まりこそ、押され気味だったように見えたが、一人壊されれば一人、二人壊されれば二人と、壊された以上の骸骨を召喚し、迎撃していた。

 更に、バラバラになっていた骸骨にも動きがある。ミオ先輩によってバラバラにされた骨が、るしあの方へと集まり、形を成していた。

 元の形に戻るわけでは無い。骨達が集まり作られるそれは、上半身のみの巨大な骸骨。

「えっと……ああそうそう。がしゃどくろだ」

 通話を維持したままスマホで調べ出てきた妖怪の名は、まさにそれである。

『部室で何やってるの?』

「……スマブラ?」

 女子二人だしシスターズだろうか。

『いや、草』

「草じゃないが」

 本当に、笑えない状況である。

 この状況で頼れそうな相手は一人だ。来たら二対一になるかもと思ったが、そうも言ってられない。

「大空。今どこにいる?」

『まだ学校だけど……』

「ちょこ先に緊急事態って伝えてくれ。伝えてくれたら、今日は無理だが後で食べたがってるパフェを奢るわ」

『良く分かんないけど……ちょこ先にそう言えばいいのね』

「すまん。なる早で頼んだ」

 それだけ言って、通話を切る。

 部室の様子は、最終局面に近い。

 ミオ先輩からは、なんかオーラのようなものがあふれてるし、るしあの元に集まっていた骨達は、完全に一体の巨大な骸骨とかしていた。ミオ先輩の速度を真正面から打ち取るために、攻撃面積を広げたかったのだろうが、室内で出すものではない。

「あのー、二人とも、落ち着いて貰えないでしょうかー」

 物は試しと声をかけてみる。返事はない。やっぱり窓を割るしかないだろうか。

 ちょこ先が間に合ってくれればいいのだが、まあ無理だろう。

 深呼吸一回。覚悟を決めて。

 骸骨の陰を出て走った。

 僅かに遅れ、ミオ先輩、がしゃどくろも合わせて動く。

 ミオ先輩が踏み込み、がしゃどくろが拳を振って。

 一抹の不安を抱えながらも、二人の間に身を躍らせる。

「そこまでぇえええ!」

 ミオ先輩の驚いた表情が見える。右腕が振られる。ただ少し距離があった。

 なんでそんな早くにと、疑問に思う俺の背中に、何かが当たる。

 いや、曖昧な表現はいらない。流石に分かる。

 当たったのは、がしゃどくろの拳だ。

 成程と思った。ミオ先輩は右手でがしゃどくろの拳を防ぐなり破壊するなりして、左手でがしゃどくろかるしあをどうにかしようとしたのだろう。

 以上、現実逃避おわ――。

 衝撃。昨日窓ガラスで切った時とは、比べ物にならないそれ。

 鮮血が舞うのが見える。痛みが来るのは、もう間もなくだろう。

 ……ああ、来た。当たり前だが痛い。あと熱い。

 目が変わる時の頭痛とは違う、純粋な痛み。

 悲鳴は上げない。一度漏れたら、喋れなくなりそうだから、気合で耐える。

 耐える。我慢。大丈夫。

 傷口を抑えたいのを我慢して、ミオ先輩の手を取った。ぬるりとした、血の感触が煩わしい。

「ミオ先輩」

「ひっ」

 ミオ先輩に引かれる。

「見えるようになったのは最近で。ミオ先輩の事もフブキ先輩の事も、知らなかったです」

「え?」

「るしあは俺の事を、心配してくれただけなので、喧嘩は止めてください」

 それから、振り返る。るしあの顔に、焦り、恐れ。

「るしあも。大丈夫だから。喧嘩辞めてくれ」

「先輩!」

「あとは、ちょこ先におまか――」

 

***

 

 白い天井であった。

 清潔感のあるそれは、しかし見慣れた保健室のそれとは違う。

「……どこ」

「病院」

 声を掛けられ、視線を向ける。

 目の前に、ちょこ先の顔。

「…………ちょっこーん」

「案外余裕?」

「いえ、あまり」

 数秒目を閉じたら多分寝る。瞬きすらつらい。

「二人は?」

「大丈夫。特に怪我もしてない。今日は時間も遅いし、いつ起きるかも分からないし、貴方の負担にもなりそうだから、とりあえず帰らせたわ」

「さいですか」

 怪我が無いなら、良かった。負担に関しては、ちょこ先に感謝。正直喋るのもつらい。

「もう少し眠りなさい。回復には、もっと時間がかかるわよ」

「……はい」

 目を閉じる。やはりというか、意識を維持することは出来ず、ずぶずぶと沈んでいく。

「――なさい」

 ちょこ先の声に答えようとするも、口が動かなかった。

 

***

 

「……」

 次に起きた時には、また数日経ってこそいたが、すっかり元気だった。

 ひっかき傷はまだ塞がっていないのだが、縫われているから無理な動きをしなければ良く、殴られた背中も気にしなくていいとの事。

 そう言われると逆に気になるのだが、その日の内に気づけば退院である。この病院大丈夫だろうか、ちょっと心配。

ぼんやり空を見上げ、腕時計で時間を確認すれば、ちょうど昼前だ。食事をしてから退院すれば良かった。

 食べて帰るか、そのまま帰るか。

 考えているうちにあることを思い出した。今日は野球部の試合がある。

「ここからだと、そんなに遠くないか」

 一先ず敷地から出て、周囲を見渡せば、目当てであったシェアサイクルを見つけた。

 アプリをつけて、シェアサイクルの予約をして、そのまま借りる。

 誰が持ってきたのか、俺の着替えが入れられていた鞄を自転車の籠に入れ、かつてシオンと会った公園に併設された野球場に向かって走り出した。

 電動自転車だからか、ペダルが軽い。坂道も楽々だ。

 病院から野球場へは三十分程の距離。

 先日の朝礼で先生が言っていた試合時間にはかなり余裕がある。

 一度帰って、荷物を置いて来ようか。シャワーはわがままを言って病院で浴びてきたから、とりあえず大丈夫だけど、数日分の着替えの入った荷物は地味に大きい。

 試合まで時間もあるし、一度帰ろうかと、考え始めたところで。

「へい、タクシー!」

 大声で呼ばれた。

 断じてタクシーではないのだが、手を振っている主は、まっすぐ俺を見て、俺に向けて手を振っている。

 知り合いでなければ無視するのだが、知り合いだった。しかも、この時間にここにいるのはかなり危うい人物である。

「おはようございます、夏色先輩」

「おはよっ! 久しぶりだね!」

 夏色まつり先輩。茶色のサイドポニーを跳ねさせ、満面の笑みを浮かべるこの人は、チアリーディング部在籍である。

「今日は野球応援の日では?」

「うん」

「大丈夫なんですか?」

「出番までは余裕あるけど、ミーティング考えると結構ギリギリかな」

「……乗って下さい」

「ありがと!」

 荷物を抱えた先輩が、荷台にすわる。大丈夫か確認して、自転車をこぎ始める。

 流石電動自転車。荷台の人が乗って重くなっても、ペダルが漕げなくなるような事はなかった。

「助かったよ。通りかかってくれて良かった」

「いえ、偶然です。夏色先輩の運が良かったんですよ」

「そう? まあ、まつりは持ってる女だからね」

 夏色先輩の言葉に、「そうですね」と同意する。基本的に天真爛漫。だが下ネタが多く、息をするようにセクハラをする時はあるが、それでも人に愛されるタイプ。元気印のスバルとは違ったタイプの陽キャだ。

 とはいえ、実際この人とは滅茶苦茶接点があるわけじゃない。

 初回の対面は、チア部のクラスメイトの落とし物に気が付き持っていた時、対応してくれたのが夏色先輩だったというだけで、その時はこれといった事はなく。少なくとも今。こうして呼び止めて足替わりをお願いしても大丈夫な間柄になったのは、俺と夏色先輩の共通の友人による所が大きい。

 夏色先輩の親友。そして、俺の部活の先輩にして部長。

 白上フブキ先輩、その人である。

「因みにさ。フブキと何かあった?」

 夏色先輩が口火を切った。

「……まあ、ちょっと」

 この話をするために待ち伏せしていた、というわけでは無いだろう。

 少なくとも、俺が入院しておらず、自宅から野球場に向かうのであれば、通らない道だ。

 たまたま入院していて、たまたま野球部の試合の事を思い出して、たまたまシェアサイクルを借りたから、この時間あの場所で夏色先輩と会ったのである。

 そういう意味では、確かに夏色先輩は持っている女であった。

「なんで、ご存じなのでしょう?」

「フブキが最近挙動不審なの。角曲がる時とか、一々クリアリングしてるし、最近用事で全然出来なかったから楽しみーって言ってた部活だって、一回やったきりお休みしてるし。だから君と何かあったのかなって」

 なかなか鋭いが。

「部活で何かあったなら、ミオ先輩という可能性も」

「ミオちゃんとも何かあったっぽいね。ちょっとぎくしゃくしてたし。でも、君と話しているのは見かけなかったから。まあ他の誰かの可能性もあるけど、それなら部活しない理由は無いでしょ」

「成程」

 よく見ている方である。

「何かあったの? 喧嘩でもしたのかなって思ってたけど、君もフブキも、そもそも喧嘩しないし、揉めたら自分から謝るタイプだから、こんなに長続きする筈ないし。フブキの方が露骨に避けようとしてるのが気になるんだよね。セクハラしたの? パンツの色でも聞いた?」

「ははは。先輩じゃないんだから」

「あはは。こいつめ」

 後ろからぐいぐい頬を引っ張られる。やめて、ハンドルから手を離せないから。

「それで、実際どうなの?」

「……フブキ先輩の秘密を偶然知ってしまって。それで避けられているのかなと」

「フブキの秘密? 何?」

「流石に教えられないですけれども」

 秘密なのだから。

「すぐにでも謝った方が良かったんですけど、逃げられてしまいまして。それにフブキ先輩と一悶着あった次の日から、自分は学校を休んでいたので話す機会が無かったんです。休んでいた間は寝たきりでしたし」

「そうなんだ。風邪? 大丈夫?」

「はい。ちょっと怪我したってだけですから」

「そっか。……え、寝たきりになってたならちょっとじゃないんじゃ。自転車乗ってて平気なの?」

「それこそ、今更じゃないですか」

「確かにそうだけど」

 降りた方がいいかなという声が聞こえたので、大丈夫ですよと改めて伝える。数日寝たきりだったのに、存外体の調子はいいのだ。

「フブキ先輩がそんな感じなら、尚更謝らないとですね」

「んー、でも、難しいかも」

「難しいですか?」

「あの子が本気で逃げたら追いつけないでしょ? 話をするなら逃げ道を封じるくらいしないと」

「あー。足速いですもんね、フブキ先輩」

 ずっと疑問だったが、多分狐だからである。

 この目になって、何度か体育の時間や運動系の部活の様子を見たが、活躍している生徒の多くにケモミミと尻尾があった。ミオ先輩の言っていた『数か月前から俺の匂いが変だった』というのが、シオンの匂いをかぎ分けていたからという意味なら、あのケモミミも尻尾も飾りなどではなく、正真正銘動物かそれに近しいものが人間の姿になっているのだろうと推測していた。

「このまま、家に突撃しちゃえば? どうせゲームやってるでしょ。野球部の応援に行くより建設的じゃない?」

「フブキ先輩の家ですか? 場所は知ってますけど……って、チア部がそんなこと言ったら不味いでしょうが」

「やることやりなって話」

「……」

 何気なしにいう夏色先輩のその言葉は、今の俺としてはまさしく真理で。

 だが、しかし。

「やはり迷惑では無いでしょうか」

 及び腰になるのは、部室から逃げる時のフブキ先輩の表情が、脳裏をよぎるから。

 恵まれたことに、今までの人生であんな表情を向けられたことが無い。

 だから、踏み込んでいいのか、悩んでしまう。

「例えば、休み明け。もう少し時間を空けて、フブキ先輩が落ち着いてからとかの方が。もしかしたら、この休みの間に、フブキ先輩も一人でしっかり考えて落ち着くかもしれませんし」

「本気で言ってる?」

「……少し」

「まったく……」

 ぺしりと頭を叩かれる。そこそこ力を入れていたのか、ジンジンと痛んだ。

「さっさと行きなさい。これは親友の勘だけど」

「はい」

「フブキは、仲直りしたがってると想うよ」

「行きます」

「よろしい」

 自転車を止める。ここを曲がれば、元々の目的地であった公園がもう目の前。まっすぐ行けば、新たな目的地であるフブキ先輩の家がある駅の方へと続く。

 公園の入り口の辺りに、チア部の部員が見えると、夏色先輩が自転車を降りた。

 くるりと、サイドポニーを揺らしながら、夏色先輩が振り返る。

「じゃあ、頑張ってね」

「はい。ありがとうございます、夏色先輩。行ってきます」

「いってらっしゃい」

 ひらひらと手を振り、歩き出す夏色先輩。

 少し悩み、声をかける。

「――あの」

「ん?」

「お願い聞いて貰えますか? アドバイス頂いたのに、恐縮なんですけど」

「別にいいよ。何?」

「クラスメイトが今日、野球の試合に出ると思うんで、夏色先輩から激励していただければなと。先輩のファンなので」

「おっけー。任せて」

「ありがとうございます」

 応援に行かず、自分の都合を優先する不義理は、これで果たしたと言えるだろうか。

「じゃあ、改めて行ってきます」

「行ってらっしゃい、後輩君。頑張れ」

「はい」

 頷き返し、自転車を走らせる。

 直接フブキ部長の家に向かうことも考えたが、少し悩み、家に寄る。

 夏色先輩に会う前に考えていた通り、荷物を置き、軽くシャワーを浴びて。

 ついでにお昼も食べようかなと考えたところで、インターホン。

「はーい」

 リビングに移動して、モニターを覗く。

 見えた姿に息をのんで、逡巡。深呼吸ののち、覚悟を決め、マイクのボタンを押した。

「どうぞ、上がって下さい。フブキ部長、ミオ先輩」 

 




おかゆん誕生日記念感謝の3日間投稿3日目(遅刻)

次回更新は来週水曜0時です。
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