ホロ学園の「俺」君物語   作:零円

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登場ライバー
白上フブキ
大神ミオ


幽世

 玄関を開け、先輩方を出迎える。

 二人とも、制服ではなく私服。それぞれのイメージカラー通りの、白と黒。

「お久しぶりです」

「そうだね。怪我の具合は?」

 尋ねてきたのは、ミオ先輩だった。フブキ部長は無言のまま。微かに俯き、こちらを見ない。

「大丈夫です」

「そっか……。話したいことがあるんだけど、上がってもいいかな?」

「もちろん。俺も話したいことがあるので。上がって下さい」

 道を開け、招き入れる。静かに、二人が中に入る。

 二人ともいつも通り、というわけでは無く、雰囲気が違う。ただ、落ち込んでいる、という感じではない。

 ミオ先輩もフブキ部長も。フブキ部長はより顕著に。どういうわけか、その雰囲気は別人に近い。

「フブキ部長とミオ先輩に違いありませんよね?」

「うん。そうだけど?」

「ですよね」

 ピクリとも動かないが、獣耳と尻尾も見えていて、それらも偽物には見えない。

「……とりあえず、客間へどうぞ」

 フブキ部長が遊びに来た時なんかは、リビングや自室なのだが、なんとなくリビングでのんびり、という気にはなれず、二人を客間としている和室へ通し、自分はお茶を煎れに一度キッチンへ。

 一通りの作業をして客間に戻ると、フブキ部長とミオ先輩は、それぞれ正座して待っていた。

 フブキ部長がテーブルの近く。ミオ先輩はその隣ではなく、少し後ろに。

「ミオ先輩、もっとテーブル寄らないんですか?」

「うん。うちはここで大丈夫」

「そうですか」

 まあ、大丈夫と言うなら、大丈夫なのだろう。

 二人分の緑茶をそれぞれ湯呑に注いで、二人の方へ置き。

 フブキ部長の対面へ、腰を下ろし、口を開くのを待つ。

 時間にして数分か、それ以上か。口火を切ったのは、フブキ部長であった。

「まずは、先日の件。我が従者の不祥事について。白上家次期当主。白上フブキが、正式に謝罪させていただきます」

 頭が二つ、下げられる。そんなかしこまった謝罪をされたことがなく、慌てるレベルだ。

「あ、特に気にしてもいないですから、頭上げてください。自業自得なので」

 それにしても口調が硬い。こんこんきーつね、とか言いそうにない。

 それに、白上家次期当主って言われてもピンとこない。白上家って偉いのだろうか。聞いたことないけど。

 俺が声をかけると、二人が顔を上げた。

「詳しい事情は、癒月ちょこから。随分と、災難に苛まれている様子。治療に向け、魔界で活動している者もいるとか。生憎、そちらの方では力をお貸しできませんが、迫る災難の盾として、こちらの大神をお貸しいたします。それをもって、謝罪を締めていただければ」

 それにしても、この人は。

「実力の程は、存じ上げているかと。厄災を砕かせ、それが叶わずとも盾には出来ましょう。この者も、貴方への贖罪をしたいと望んでいた故。かまいませんね、大神」

「勿論です、フブキ様」

 いつまで。

「これをもって。白上家の謝罪とさせて──「あの」──なんですか?」

 フブキ部長を出さないつもりなのか。

「俺、フブキ部長に謝りたいんです。謝って、仲直りしたいんです」

「……謝罪は不要かと」

「フブキ部長は逃げました。逃げたって事は、見られたくなかったって事ですよね。なら、見てしまった以上、謝らない訳にはいきません」

「なら、その言葉を謝罪として受け取「だからフブキ部長を出してください」」

 その言葉に、目の前に座るフブキさんが、閉口した。

「白上家次期当主のフブキさんじゃなくて、すこん部の部長のフブキ先輩と話がしたいんです」

「同じ白上フブキですよ」

「少なくとも貴方の中では違うように感じますが」

「っ」

 フブキさんが唇を噛み締める。また、傷つけているだろうか……いや、実際傷つけているのだろう。

 とはいえ、夏色先輩の言っていた通り、逃げるフブキ部長を捕まえるには、逃げ道を封じるしかない。

 フブキさんは、泣きそうな顔。怒っている様子ではない。怒られたって、辞めるつもりもないが。

「フブキ部長。お願いします。ちゃんと、俺と話をしてください」

「……そんなこと」

「お願いします」

「……」

 再び無言。何を言うか考えている様子。

 少し口を開き、閉じる。開いて、閉じる。言葉にできない言葉を、何とか言葉にしようとしているようだ。

 何か言うまで、待つかとも思ったが。雰囲気はすっかり、フブキ部長のそれで。

「フブキ部長」

 声をかけると、口が閉じる。きゅっと、唇も締まった。

「すみません。嫌な想いをさせてしまいました」

 顔を、ミオ先輩に向ける。

「ミオ先輩も、すみません。今回の件は、自分の軽はずみな行動の結果です。ミオ先輩は何も悪くありません」

 少し下がり、両手を床につけ、頭を下げる。

「本当に、すみませんでした」

「……顔を上げて」

 頭上から、声。その声につられ、顔を上げる。

 フブキ部長と、目が合った。その顔は、なんかすごい真っ赤。

「ごめん、ごめんね」

「いや、謝るべきは自分で──「そうじゃなくて」」

 俺の言葉を遮り、いつものフブキ部長は顔を押えながら。

「逃げてごめん」

 そう言った。

「……いや、嫌な想いをさせましたし」

「だから、そうじゃないの。そうじゃなくて」

「……?」

 そうじゃないとは。

「……あの時逃げたのは、恥ずかしかったからってだけなの」

「……はい?」

「霊狐の私が人間に正体を見破られるとか……唯々恥ずかしくて」

「……フブキ部長、実はれーこって名前なんですか?」

「そうじゃなくてぇ」

「はいはい、落ち着いて」

 ミオ先輩から、助け舟。こちらも、気づけばいつも通りの雰囲気。

「ミオー」とフブキ部長が、ミオ先輩の方を向く。

「なんか、皆してずれてる感じだから、整理するね。まずフブキなんだけど……」

「れーこって何です?」

「霊狐ね。幽霊の霊に狐。最近だと意味は色々あるけど、今は人間に信仰されている狐と思ってくれたらいいかな。もっとざっくりいうなら、神様の一種って思ってもいいと思う」

「神様……」

 視線を向ければ、どや顔で胸を張るフブキ部長。

「些か俗に染まり過ぎでは」

「言い方!」

「それは否定しないんだけど」

「ミオ⁉」

 いや、ドルオタゲーマーで神様って言われてもちょっと。

「信仰されてるとはいえ、狐だからね。化けてなんぼ、化かしてなんぼの存在だから、人間に正体が見破られて恥ずかしくて逃げちゃったみたい」

「……はい」

「別に、耳と尻尾が見える程度ですけど」

「それはそれで化けきれてない姿が見られてるみたいで恥ずかしいの!」

 狐って難しい。 ……もしかして、自分が逃げた事が大事になりそうだったから、偉ぶって誤魔化そうとしてたとかないよな?

「やっぱり嫌な思いをさせてしまったみたいですし、きちんと謝罪を」

「……それに関しては許してるから、大丈夫。私は全然気にしないでいいから。学校辞めたりとか、部活辞めるとか、しなくていいよ」

「……? そんなつもりは無かったですけど」

「あれ⁉」

 というか、正直起きたばかりで何も考えていなかったというのが正しい。

 とにかくフブキ部長に謝って仲直りがしたいと、それだけだった。

「て、てっきり逃げたことに責任を感じて、学校辞めるとか、そこまでいかなくても部活辞めるくらいは言い出すかなって思って」

「大丈夫です。部活も学校も辞める気はありません。フブキ部長の話聞きたいし、ミオ先輩と一緒にゲームしたいです」

「……そっか。良かった」

 えへへとフブキ先輩。

 その様子に、安堵したように吐息をこぼしたミオ先輩の姿が見えた。

「次に私なんだけど……怪我の件は、本当にごめんね」

「大丈夫です。ミオ先輩とるしあはどうですか?」

「あの後すぐにちょこ先生が来たから。るしあちゃんが暴れそうになったのを取り押さえて、君に処置して、そのまま病院に」

 そういえば、まだるしあとちょこ先に連絡してない。スマホは鳴ってないから大丈夫だと思うが、後で連絡したほうがいいだろう。

「君については、翌日にフブキと一緒にちょこ先生から聞いたよ。なんか大変みたいだね。そうとは知らずに、私は……」

「そういえば、あの時何か言ってましたよね。あやかし? がどうとか。それに、ちょこ先とかるしあの事も知らないみたいでしたし」

 また落ち込みそうなミオ先輩をごまかすべく、話を振る。

 気にもなっていた。正直、俺の視点だと人間か違うかのざっくりした分類しかない。シオンやちょこ先、るしあは魔界出身というぐらいしか知らない。

「ちょこ先生とるしあちゃんの事はびっくりしたよ。ちょっと匂いが違う程度にしか思ってなかったから」

「匂いですか」

「うん。それで、君は普通の人間の匂いだったのに、数ヶ月か前から別の匂いがするようになって気になってたんだけど。あの時、急にフブキの正体が見えるって言いだしたから憑りつかれているって確信して。ああやって憑りついた人間に害が及べば、自分の身を守ろうとして妖や化生の類は外に出てくるから、出てきた所を狩ろうと……。爪伸ばしたの久しぶりで力加減間違えて首に怪我させたのは本当にごめん。それはうちのミスです」

「あ、はい」

 別の匂いというのは多分シオンの事だろう。

「じゃあ、やっぱりミオ先輩もフブキ部長も魔界出身というわけではないんですね」

「そうだよ、どちらかといえば、この世界に近いかな。幽世っていうんだけど、知ってる?」

「かくりよ……とろみを、つけます」

「片栗粉だねぇ」

 違うらしい。

「幽世っていうのは、この世界。君が今いる現世の裏側。日が昇らず、常に夜の世界。人間のいない、私達みたいなのが住む場所。まあ異世界って意味では、魔界と変わらないのかもしれないけど、魔界と違って独立世界って訳じゃない」

「……三行でお願いできませんか」

「無理かなぁ」

 そう言いながら、ミオ先輩はお財布から、小銭を二枚、とりだした。

「この小銭が世界だとしたら、今いる世界と魔界の関係は、左右それぞれの手に持った小銭の関係。でも、幽世と現世の関係は、右手に持った小銭の表側と裏側の関係っていう考えで、そう間違えてはいないと思うよ」

 何となく分かるような、分からないような。

 戸惑いに気が付いたのだろう。ミオ先輩がクスリと笑う。

「必ずいるけど、本来なら絶対交わらない筈の隣人、かな。それが私やフブキと君の関係。少なくとも君のその目が無ければ、私達の事を君は人間だと思ったままだったし、幽世の事を知ることも無かったでしょ?」

「……そうですね。確かに」

 これを、より親しくなれたととるか、知る必要のないことを知ったととるかは、悩みどころである。

 無為にこの二人の──いや、るしあやちょこ先なども含め、いろんな人の秘密を暴いたというところは、正直気がかりだ。

「まあでも、最初にばれたのが、私達っていうのは、不幸中の幸いだったね」

「そうですか?」

「妖の中には、自分を認識する相手に悪さをするのもいるから。見えるって分かったら大変だよ」

「……世界が変わっても、それは変わらないんですね」

「ごめん」

 目をそらされる。もしかしてるしあとの一件を聞いていたのだろうか。

「……と、とにかく!」

 ちょっと気まずい雰囲気になりそうなのを察したのか、フブキ部長。

「私達が話を通しておくから、安心して。幽世の子達から襲われたりすることは無いようにするし、さっきも言ったけど、暫くはミオもつけるから」

「そういえば、最初にそんなこと言ってましたけど、フブキ部長のお家って偉いんですか? ミオ先輩の事を従者って呼んだりもしてたし」

 尋ねた俺に、したり顔をしたフブキ部長が腕を組んで答える。

「ふっふっふー。なんといっても、我が白上家。幽世でも十指に入る名家なんだよ!」

「な、なんだってー」

「反応が薄い!」

 しょうがない。なんとなく察しがついてしまっていたから。思ったより偉くてびっくりしたけど。

「因みに、私達大神家は、白上家に仕えている家系なんだよ。もっとも私とフブキは、小さいころから一緒にいたし同い年だったから、公式の場なら兎も角、普段はこんな感じなんだけどね」

 幼馴染ということらしい。三輪車で追いかけまわしあったりしたのだろうか。

 ……ちょっと笑える。

「でも、ミオ先輩は好きですけど、常時そばにいられるのはちょっと落ち着かない気がしますね」

「……確かに。私もミオの事は好きだけど、常に控えられてたら、ちょっと気になっちゃう。プライベートは大事だよ、やっぱり」

「ですよね」

「フブキの言い草は、従者の仕事をするなと殆ど同義だから後で話し合うとして。確かに後輩君に常時ついてるのは、学校とか用事もあるし、少し難しいか。うーん、じゃあ」

 ミオ先輩が立ち上がる。そのまま俺の方へと近づいてきて、俺の頭──ではなく、タロの頭に触れた。

 何か黄色い粉のようなものが、タロの体に吸い込まれていく。

「何を? ていうか、見えてるんですか?」

「うん。初めて会った時から、ずっとこの子を肩に乗せてたよね。今はうちの霊力を君の守護霊に分けてるの。少しは悪いものも追っ払えるし、この子の遠吠えは私の耳に届くから、何かあれば直ぐに分かる」

「……れーりょく?」

「幽霊の霊と力ね。魔力みたいなもの程度の認識で大丈夫」

「魔力とは別なんですね……」

「多分君が私やフブキを獣耳+尻尾っていう中途半端な姿で見えているのはそれが理由じゃないかな。私達の偽装は霊力によるものだから、魔術の目だと中途半端にしか解けて見えてないんだと思う」

「じゃあ、ちょこ先とかるしあも獣耳+尻尾が見えてるんですか?」

「るしあちゃんはダメっぽいけど、ちょこ先生は見ようとしたら見えたって言ってたね」

 光が止まる。ぷるぷると体を震わせたタロが移動して、俺の膝の上を陣取って眠りについた。

 守護霊なら寝るなや。

「これで大丈夫。体に霊力が馴染んだら起きるよ」

「ありがとうございます」

「うちにはこれくらいしか出来ないからね。でも、いい? 本当に危なそうなら、まず逃げる事。あの時みたいに、割り込むとか絶対にしちゃだめだからね」

「……………………きをつけます」

「無言の時間が長い! しかも棒読み! 本当に死んじゃうからね⁉」

「はい」

 流石に俺も、危険地帯に好き好んで入るつもりはない。

「大丈夫です。ここまでの傾向から、軽はずみな事を言った結果、怪我をすると学んでます。つまり変なこと言わなければいいんですよ。楽勝じゃないですか」

「人、それをフラグと呼ぶ」

「フブキ部長、うるさいですよ」

 言ってて俺もフラグなのではと思ったけど言わなかったのに。

 まあ、学校の生徒でなければ、ここまで深く関わることもないし、大丈夫だろう。

「……ミオ先輩、やっぱり常時ついててもらえませんかね」

「今の間に何があったし」

 またフラグを立てただけである。

 やっぱり、早々に逃げ足を鍛えないとだめかなと再確認していると、膝の上にいたタロが顔を上げた。

 ぴくぴく鼻を揺らしたかと思えば、ぴょんと膝を飛び降り、どこかへ向かって走っていく。

「どうしたのかな?」

「玄関の方に行ったし、誰か来たんじゃないですかね。るしあとか」

 追いかけるべく、立ち上がる。玄関に向かって歩けば、それより早く、インターホンが鳴った。カメラを見て思った通りの人物であることを確認し、玄関へ向かう。

『タロちゃん! ってことは、先輩もいるんですよね! 先輩! 開けてください、先輩!』

 バンバンバンバンバン。

 勢いよく扉が叩かれる。

 溜息を一つついてから、錠を外した。

 途端に勢いよく扉が引かれ、チェーンで止まる。

 隙間から手が侵入してきて、煌々と輝く目が覗く。

「開けてください、先輩」

「……」

「どうして開けてくれないんですか。なんで、ねえ、どうして! 私は先輩を心配してるだけなのに! どうしてこんな意地悪するんですか! 早く開けてくださいよ。ねえねえねえ! 分かった、やっぱりあの人達に何か脅されてるんだ。そうだよ、そうに違いない。そうじゃないなら先輩がこんな意地悪するわけないもん。ねえ、先輩。そうですよね? だからこうやって意地悪するんですよね? 大丈夫です、安心してください。私に任せてください。あの時は不覚を取りましたけど、今度はもっとうまくできます。だからここ開けてください。先輩は私が守ります」

「今開けるから離れてくれ」

「……」

 隙間を覗く目が無くなり、手も引かれた。

 一度戸を閉め、チェーンを外し、開ける。

「こんるし、るしあ」

「こんるしなのです」

「楽しかった?」

「はい、すっきりしました」

「そりゃ良かった。何回言ったか分からないけど、二度とやるなよ?」

「はいなのです」

 るしあを招き入れ、周囲を見る。人影は無し。惨劇一歩手前のような状況だったと思うが、ギャラリーも連れも居ない様子。

「ちょこ先は?」

「後で来るそうです。ちょっとお医者さんとお話しがあるとか」

「ふーん」

「……ところで先輩。誰が来てるんですか?」

 足元。玄関に置かれた靴を見下ろしながら、るしあ。

「フブキ部長とミオ先輩」

 上げられた名前に、「スゥー」とるしあ。

「お邪魔でしたか?」

「いや、大体話し終わってたし、大丈夫」

「……聞こえてましたかね」

「多分な」

 タロを抱いているるしあの前を歩き、リビングへ。

 扉を開けると、客間から出てきている二人。

 臨戦態勢のミオ先輩と、その後ろに隠れるフブキ部長。

「……いつもの事なんで、大丈夫です。落ち着いてください」

 もう二度とやらせないようにしようと心に誓いながら、開口一番にそう言った。

 

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