ホロ学園の「俺」君物語   作:零円

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登場ライバー
桐生ココ
百鬼あやめ
天音かなた


生徒会と桐生会

『みなさーん、こんどらごーん!』

「桐生だ! 探せ!」

「今日こそ止めろ!」

 学園内指定非正規放送部『桐生会』の不定期放送が、校舎に響く。

 放送内容は多岐にわたるが、殆どは学園関係者のスキャンダルの事が多く、後ろ暗い事があるらしい一部の教員からの圧で、今日も生徒会は放送を止めるべく奔走するらしい。

 大変そうだなぁという他人事のような感想を抱いている心中を噯気にも見せず、俺はタプタプと操作していたスマホをポケットに戻し、纏め途中だった資料を手に取った。若干ずれたのを整え直し、ホチキスでバチリ。

 綴じた資料を脇に置き、新たな束を手に取り纏め、綴じ、脇に置く。

「……スパイでゴリラな天音先輩は、桐生先輩の居場所はご存じでない?」

「スパゴリゆーな! ボクだってココの事を何でも知ってるわけじゃないんだからね!」

 対面の席に座ってぱちぱち電卓を叩いていたスパゴリ先輩改め天音先輩が噛みついてくる。

「でも、捜索隊に入ってないって事は、疑われてるって事では」

「……え、やっぱりそうかな? ボクがココに生徒会の動向をリークしてるって思われてるかな?」

 途端に不安そうになる天音先輩。何かとても申し訳なくなってしまう。

「落ち着けかなたちゃん。そんなこと無いぞ」

 天音先輩を落ち着けるように、右側から声が一つ。

 どこか幼さの残る顔つきだが、銀髪を掻き分けるように額から角を生やし、傍らに炎が飛んでたり、背中に刀を背負っていたりと、中々にインパクトのある俺のクラスメイト兼我らが学園の生徒会長。百鬼あやめのものである。

 魔界出身のようで、俺の事はちょこ先から聞いているらしく、改めてよろしくなと、挨拶をされたのは三十分程前の話だ。

 ちなみに見た目を裏切ることなく、その正体は鬼。豆まきしたら、どれくらい怒られるのか少し気になる。

「お前様も、あまり先輩を困らせるんじゃないぞ」

「生徒会長直々に同級生を困らせている件については」

 帰ろうとしたところをつかまって、ここまで連行されている。

「余、生徒会長だから。一番偉いからセーフ」

「……成程」

「納得するんだ」

 生徒会長の覚えが良くて損をすることはない。今までにも何度か手伝っているし。

 それに、大空からあやめの手伝いしてあげてーと連絡を受けていた。

 最近の大空は、俺に頼み事をする事に躊躇いがなくなってきた。良い事だ。

「纏め終わったら何すればいい?」

「そこにある山の仕分け」

 百鬼の指さした先に、山積みに置かれた紙。先程バチバチ止めていた資料の数倍置かれている。

「……帰る」

「残念だったな、鬼火からは、逃れられない」

 ふわふわ百鬼の周りを飛んでいた炎が、いつの間にか俺の周りを、円を描きながら飛んでいた。

 円の中から抜けようと、右手を伸ばす。ばしばしばしばしと、炎がぶつかって物理攻撃をしてきた。

「熱い痛い熱い!」

「大丈夫!?」

「ほーら、余の言った通り」

「ちょっと会長! 手、怪我してるんですからね!」

「……え? なんで怪我している方の手を伸ばしたんだ?」

 なんでもなにも。何も考えていなかっただけである。

 抜糸したとはいえ、まだテーピングはされている傷。今の炎で怪我が悪化したりしていないだろうか。

 確認する為、サポーターを外し、包帯を解いた。特に問題はないらしい。

 安心しながら顔を上げると、視線をそらしている百鬼がいた。天音先輩も同じく。

「……テープだけですよ?」

「早くしまうんだ」

「うんうん」

「……そういえば、体の傷も」

「「出さなくていい!」」

 治ってるからなんともないのだが。

 怒られたので、素直に包帯を巻きなおし、サポーターをつける。

「しまいましたよ」

「……本当か? かなたちゃん、ちょっと見て」

「いやいや。ここは会長の方から」

「いやいや」

「いやいやいや」

 謎の譲り合いを尻目に、俺は作業を再開する。

 山の正体は嘆願書。とにかく生徒数が多いから、嘆願も多い。嘆願者も個人から部活、クラス単位までと様々だ。ここら辺、俺が見てもいいのだろうか。手伝いをしているだけの部外者だが。

 まあ、やれと言われた以上はやるので、検討と書かれた箱と却下と書かれた箱をそれぞれ手元に持ってくる。

 とりあえず一枚目。

 『総合格闘技部のサンドバッグ修理用のガムテープが滅茶苦茶予算使うから増やしてほしいッス!』という嘆願書を、検討と書かれた箱に入れる。

 二枚目。

 『すこん部の部室崩壊の影響でゲームハードが幾つか壊れたので、修理費が欲しいです』という嘆願書には凄く申し訳なくなりながら、総合格闘技部の嘆願書の上に置く。

 三枚目

 『料理部で蠍』とまで読んだ嘆願書は捨てるかどうか悩んで、興味本位ですこん部の嘆願書の上に置いた。

 四枚目。同好会の備品購入費だが、購入物の用途的に活動では不要そうなので却下。

 五枚目。校舎にエレベーターを付けては、却下。パワポとか用意して、本気の説得に期待。

 六枚目――却下。

 七枚目――検討。

 まあ、ここで分けたところで、後で百鬼は検討の方も却下の方もどっちも見るらしいので、あまり意味はない作業ではあるのだが、曰く、検討度が違うらしい。

「おお、そうだ」

 ふと、百鬼。譲り合いは終えていて、最初に座っていた椅子に戻って自分の作業中に、思い出したように言う。

「作業しながらでいいから、ちょっといいか?」

「ん?」

 お言葉に甘えて、嘆願書に目を落としたまま返す。

「ココちゃんは、今日どこで配信してるんだ?」

「桐生先輩なら、体育用具室だろ。搬入手つ――だって無いけど」

「はい用具室行って~」

「お前じゃねぇか!」

 百鬼がスマホでどこかに連絡を取る中、天音先輩が台パンしながら立ち上がった。

「スパイってボクの事言ったのに、そっちがスパイじゃん!」

「いや、俺は搬入を手伝って、生徒会の捜索始まったよとしか連絡してないから」

「してんじゃねーか!」

『あ、待て! 我々には報道の自由が!』

 BGMと化していた桐生先輩の放送が、完全に終わる。我々と言ったが、誰が数に入っているのだろう。

「ご苦労様。じゃあ、桐生先輩は生徒会室まで連行してくるんだぞ」

「じゃあ、俺はここで帰るわ」

「鬼火からは――」

「座ってます」

 待っている間暇なので、嘆願書を手に取る。

『校長室を桐生会の部室にしたい』

 当然だが、却下である。

***

 少し前。

 大空からの連絡を受け、生徒会室に向かう道すがら。

「おーい!」

 呼びかけられて振り返った。

 オレンジにも近い明るい茶髪と外国人の様な高身長が特徴的の先輩。以前は見えなかった側頭部から斜めに伸びる長い角と、爬虫類の様な鱗に覆われた紫の尻尾も持っている彼女は、桐生ココ先輩である。天音先輩のマブダチと評判だ。

「舎弟、ちょっと手伝ってもらえますかー?」

「押忍」

 舎弟呼びされ始めたのは何時からだったか。昔は普通に呼ばれていた筈なのだが。

 舎弟として頼まれ事を断るわけにいかず、傍らに置かれている放送機材を、目算で半分ずつ持ち上げる。

「今日はどちらへ?」

「体育倉庫」

「了解です」

 放送機材はそれなりに重く、特別鍛えているわけでもない俺には重労働。荷台にでも載せて運べればいいのだが、生徒会が管理している備品は、貸出の際に生徒会役員が立ち会うため、借りる訳にはいかない。

 悠々と運ぶ桐生先輩の脇で、俺は男の子の意地で運ぶ。明日は筋肉痛確定だ。辛い。

 ひーこら言いながら階段を下り、渡り廊下を通って、体育館。

 奥のアリーナまで入らず、その脇を抜けて、体育倉庫に入る。

 雑多に物が置かれたその中を歩き、事前に運び込んでいたらしい、電源設備の近くへ、荷物を下ろした。

「配線とか――」

 振り返りながらの言葉。言い切るより早く、眼前に尻尾が突きつけられていることに気がつき、反射的に言葉を止めてしまう。

 ぐるりとそのまま、桐生先輩の尻尾が俺の首に巻きついた。

「正体が見えるって噂で聞きましたけどー……ホントみたいですねー」

 しゅるりと尻尾の輪が縮む。半分から上がひんやりと冷たい感触。下は温い肌の様な感触。どうやら上半分にだけ、鱗があるようだった。

「えっと、桐生先輩」

「喋るな」

「ひう」

 首が閉まって変な声が出た。

「……成程。その目のせい、みたいですねー」

 ぐいっと、上に持ち上げられ、桐生先輩と目が合う。

 首で持ち上げられるってこういう感覚なんだなと、足の指で立ちながら思った。もう少し持ち上げられると、完全に浮いてしまう。それは流石にやばそうだ。

「……まあ、いいか」

 しゅるりと尻尾が外れる。途端重力に引っ張られるように膝が折れた。

 床に膝を付けながら、せき込む。

「おっと、大丈夫ですかー? Sorry」

 背中を手で摩られる。

 暫く摩られ、息が整ってきた。

「流石に命の危険を感じました」

「まあ、もしかしたら、そうしてたかもしれませんね」

 ポキッっと軽く言われ、息をのむ。偽りは無いのだろう。

「……もう桐生先輩に近づかない方がいいでしょうか」

「Noproblem。大丈夫。今まで通りでいいですよー。問題ないですよー」

「はぁ」

 大丈夫らしい。

「ただ……」

「ただ?」

「その目で何もしないこと。それが条件です」

「……??」

 その言葉の意味、というより真意はすぐに理解出来なかった。少なくとも。

「見ようとしているわけではないので、特に何かをしようとは思っていませんけど」

「ならいいです」

 いいらしい。

「……ちなみに聞いても大丈夫ですか?」

「なんですか?」

「桐生先輩って何者なのでしょうか」

 頑丈な鱗を持ち、毛のない尻尾からイメージできるのは、爬虫類系なのだが。

 自分の頭のなかに、ピンと来る生物がいない。

「んー」

 俺の質問に、桐生先輩が悩む。

 答えにくいなら別にと、言おうとするより早く、桐生先輩が上着を脱いだ。

 何事かと思うより早く、もう一段変化。

 その背中に、巨大な羽が生える。鳥や天音先輩の持つふわふわとしたそれでなく、尻尾と同質の鱗と薄い皮膜を持つ羽だ。

「これでわかりそうですかー?」

「……えっと」

 巨大な羽と尻尾を持ち、頑丈な鱗で覆われていて、角も生えている。

 生憎そんな生物は存じ上げない――のだが。

 頭の片隅で、ある可能性に思い至っていた。

「……ドラゴン?」

 巨大な羽と尻尾を持ち、頑丈な鱗で覆われていて、角も生えている。

 角に関しては正直あったりなかったりの気もするが、羽と尻尾と鱗を全て兼ね備えていそうな実在の生物は正直思いつかない。

 俺の言葉に、桐生先輩はにこりとだけ笑い

「手伝いご苦労、舎弟。帰っていいですよ」

 とだけ言われた。

***

 帰れてれば良かったなぁなんて。

 あの後律義に生徒会室に足を向けなければ、百鬼に捕まる事もなかっただろうし。

「くそー、裏切ったなおめー」

 びったんびったん、不満を表すように床へ尻尾を叩きつける桐生先輩の脇で、そんなことを思う。

「口が滑っただけでして。ていうか、構成員じゃないから、怒られる謂れないです」

「私が怒られるんだから、舎弟も怒られなきゃダメだろ」

「じゃあ、天音先輩も座らなきゃダメじゃないですか」

「ちょっと」

「確かに。かなたんも座りなさい」

「ボクも舎弟のくくりなの!?」

 突っ込む天音先輩だったが、何故か大人しく桐生先輩の隣に座る。仲良く三人、これで正座だ。

「……余だって怒りたくない。ココちゃんの放送好きだし」

「なら、いいじゃないですかー」

「やり方に問題がある。放送室ジャックしたり、勝手に機材持ち込んだり。しかも、お前様はそれを手伝うし、かなたちゃんはきちんと監督しない」

「それが楽しい」

「舎弟だから逆らえなくて」

「それって、ボクの仕事なんですか?」

「とにかく」

 とにかく。

「今回の罰は校内奉仕で許してあげるけど、次に見つけた時は、もっと重い罰にしないといけないから、注意するように」

「というと?」

「……放送機材を、斬る」

「へぇ」

 ざわり、桐生先輩の雰囲気が変わる。大事な放送機材を斬ると言われて怒ったらしい。

 それに応えるように、百鬼先輩の気配も変わった。

「いくら生徒会長でも、それは横暴なんじゃないですかねー」

「前科がねー。もうそろそろ庇い続けるのも限度があるんだよ」

「なら、今度は見つからないようにしますねー」

「余的に辞めるか、きちんと許可を取ってくれればいいだけなんだけど」

 ざわざわしてきた。心なしか、空間が歪んでいる気がする。目もぐるぐるしているし、なんか頭が痛くなってきた。

 最近若干感じられるようになった体内の魔力っぽい何かの反応が、ミオ先輩とるしあがやりあってた時と明らかに違う。危機意識が働き、逃げようと後ろに下がろうとしたところで、何かにぶつかる。

 振り返れば、いつの間にか天音先輩が俺の事を盾にしていた。

「何やってんすか?」

「いやいや。ドラゴンと鬼の喧嘩とか無理だし。死んじゃうよ」

「だったら天使的には人間の俺を庇うべきでは?」

「後輩なんだから、先輩の盾になりなさい」

「パワハラが過ぎる」

 逃げ出そうとするも。

「動けないです、離してくださいこのゴリラ」

「ちょっと! 女の子に何てこと言うの!」

 がっちり制服を掴まれて、固定されている。微動だに出来ない。制服を脱ぎ捨てて逃げるしかなさそうな感じだ。

「こんなところにいられません。俺は帰らせてもらいます」

「それ、真っ先に死ぬ奴じゃん!」

「天音先輩が離してくれたら、多分フラグのままで終わるんですけど」

 もう上着脱ぐかとボタンに手をかける。途端、脱げないように天音先輩がおぶさり、妨害してきた。

 大事の傍で小事。ドラゴンと鬼がメンチを切りあっているそのわきで、ワーワー言い合ってる人間と天使。……もしかして、帰っても気づかれないのではないか。

 視線を天音先輩に向ける。同じく二人に視線を向けていた天音先輩が俺に気がつき、視線を向けてきた。

 視線が交わる。束の間のアイコンタクト。どちらともなく、頷いた。

 決めたら早い。天音先輩をおんぶしたまま立ち上がり、俺と天音先輩の荷物を回収。そのまま生徒会室を抜け出す。これら一連の行動を、音をたてずに行い、廊下に出て扉を閉めたところで、漸く一息。

「死ぬかと思いました」

「ほんとだね」

 そんなことを言いながら振り返る。

 振り返った先に、生徒会の役員達。百鬼の説教に伴い、追い出された者達だ。真面目に待機していたらしい。生徒会の未来は明るい。

 一方、後輩におんぶされて生徒会から出てくるという姿を見られ、若干未来の暗い天音先輩。僅かにわなわな震えながら、どうしたらいいのか分からないのか、俺にしがみつく腕に力が籠る。

「えっと、天音先輩」

「私達、どうしたらいいでしょう」

 待機指示をされた役員達が困ったような声を出すものだから、とりあえず、と俺。

 次の瞬間にはどっしゃんがっしゃん言い出しそうな生徒会室をバックに、代理で告げた。

「今日は、解散」

 お仕事は、また明日。

***

 

 ちなみに、天音先輩に後から聞いた話だが。

 あの後、二人は一発だけ打ち合ったらしく、その衝撃で生徒会室はボロボロ。

 大掃除が大変だったらしい。




一瞬バトル展開になりそうだったのは、オルタナティブのPVが出た頃に書いてたから

4日遅れですが、みこちゃん誕生日おめでとう。
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