ホロ学園の「俺」君物語   作:零円

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登場ライバー
大神ミオ
角巻わため
不知火フレア
白銀ノエル


*表現的に違和感を覚えたので、前回の話の『手甲』→『ガントレット』に変更しています

*次話投稿でなくてすみません。1話の前に設定集追加です。(2021/04/27)


大男と戦う

 文字通り、火花を散らす爪とガントレット。

 ぶつかり合う度に舞うそれに、焦燥を感じる。

 攻めているのは、ミオ先輩だった。

 いつもの黒を基調とした服に身を包むミオ先輩は周辺の闇に溶け込んでいて、一見して分かりづらい。本人もその自覚があるからだろう。攻めて着地。動き、大男の視線を外れ、別の角度からの強襲という戦術を取っている。

 そしてそれらの攻撃を、大男は両腕に着いたガントレットで防いでいた。ミオ先輩の動きが見えているのか、強襲に合わせて突き出される爪は、ガントレットの表面を僅かに傷つけるのみで、それ以上の成果を見せない。

 何度目かの突撃も弾かれ、そこで距離を開けたミオ先輩は、両手を地につけた四足のまま、ぐるると唸り声をあげる。

「ねぇ、あの人、大丈夫かな?」

 後ろから、わための声。俺は答えられなかった。

 大丈夫かどうかで言えば多分大丈夫だろうという考えはあった。

 かつて一度見た、オーラの様な物を纏ったミオ先輩。るしあとの闘いの最中に見せたあの状態になっていない。あの時はるしあの出した巨大骸骨を前に、怯む事無く突撃を選んでいたから、多分あの状態になれば負けることは無いと思う。

 ただ、未だにそれを見せないのが、何故なのかは分からない。

 出すのに条件があるのか、出し渋っているのか。ただ、素人目に見る限りだと、ミオ先輩と大男の実力は恐らく互角だ。つまり、時間が経つごとにミオ先輩が怪我をする可能性は上がっていく。

 いっそ逃げ出してしまった方がいいのかもしれない。そうすれば、ミオ先輩も戦う必要は無くなる。

 しかし、そうした場合、引っかかるのは大男が連絡を取っていたという事実。どこの誰に連絡を取っていたのかは知らないが、俺とわためを捕まえるのに仲間と連絡を取っていたと考える方が自然だ。

 つまり、この周辺に大男の仲間がいて、此処で逃げだしたが最後、その仲間と鉢合わせて、という可能性もある。

 もっとも、逃げ出さないなら出さないで、その仲間が此処に合流して、ミオ先輩が二対一に追い込まれる可能性もあるわけだが。

 あっちもこっちも立たず、まさに八方塞がり。信じろと言われた以上信じるが、それでも心配しない事は出来ない。

 飛び出していきそうになる足を懸命に堪えながら、ミオ先輩の戦いを見る。

 戦いは局面を変えることなく、ミオ先輩が攻め、大男が守る形。

 だが、先程までと違い、大男が反撃を見せ始めていた。爪を弾いた後、振るわれる剛腕。ミオ先輩のヒット&アウェイ戦術だと、確かに連撃でもなければ片腕で防御し片腕で攻撃は出来そうだ。

 当たればどうなるのか想像し難いその攻撃を、ミオ先輩は躱す。今までの、攻撃から移動のルーティーンの中に回避の工程が入ったせいで、ミオ先輩の攻撃のテンポが落ちる。

 その開いたテンポのせいで、男は攻撃後でも比較的余裕をもって体勢を整えていた。

「ミオ先輩」

「大丈夫」

 何度目かの攻防の末、ミオ先輩は今までで一番退き、俺の近くまで戻ってきた。

 声を張らなくても、届く距離。軽く肩で息をするミオ先輩は、蹲踞(そんきょ)の姿勢を取りながら、しかし両手だけはいつでも加速出来るように地面につけたまま、俺の声に答える。

「全く、異世界人って言うのは皆ああなの? 半端に強いせいで、手加減しづらいんだけど」

 言いながら、俺を見上げてくるミオ先輩。目が合う。何が言いたいのだろうか。

 暫しの間を開け、ふるふると首を横に振ったミオ先輩は、再度突撃しようと腰を上げる。

 合わせるように、大男は先んじて初めての攻勢を見せた。両拳を腰まで引いて突進してくる。

 一方で唐突な指示を受け、俺は膝をついてミオ先輩の腕をつかんだ。丁度突撃しようとしていたのか、力のこもっていた腕を掴まれて、ミオ先輩は驚きの表情を浮かべる。

「ちょっ。何するの!」

「ごめんなさい、そうじゃ──」

 言葉を遮るように、俺とミオ先輩の上を何かが飛んでいく。

「──矢⁉」

 声を上げたのは、ミオ先輩であった。

 飛来したそれを、足を止めた大男は両の腕で防ぐ。オーソドックスな、羽と矢じりのついた木製のそれが二本、僅かにガントレットへ突き刺さっていた。

 驚きの表情を浮かべているのは、大男も変わらない。バックステップを踏み距離を開けた男からは、「まさか」とそんな言葉が届いた。

 直後、新たな影が、俺とミオ先輩の上を飛び越えていった。

 着地時の姿は、依然見たものと同じ白のセーターとチェックのスカート。

 だが、そこから更に一歩踏み出し始めた途端、姿が変わりだし、二歩目を踏み出した時にはその恰好は完全に変わっていた。

 両の手足と左肩、左胸を覆う甲冑。服の下にチェーンメイルを付けている様子は無く、白を基調とした服にはどこかの国の意匠。成程、騎士だと聞いていたが、確かにそう見えた。

 そんな彼女、ノエルさんは、大男へ向かいながら左側に下がったメイスを引き抜く。重そうなのだが、その重さに引きずられる様子は全く見せず、危なげなく引き抜いたそれを腰だめにかまえ、一息後に更に加速。瞬く間に大男をそのメイス圏内に入れたノエルさんは、迷うことなくそのメイスを振った。

 反応を見せた大男が、ガントレットをもってそのメイスを防いで見せるが、ミシリかメキか、そんな嫌な音が、男の腕から聞こえてきた。

 再三ミオ先輩の爪を防いだガントレットが、メイスの一撃をもって歪んでいるのが、遠目にもわかる。そのまま、鍔競り合いの様な状況に移行したが、大男はその顔に焦燥を浮かべている。体付きだけなら、明らかに大男の方がパワーがありそうなのに、押しているのはノエルさんだった。

「お待たせ」

 背後から声を掛けられ、振り返る。見上げれば、此方も装いを変えたフレアさん。

 以前きんつばが民族衣装の様な服を着ていると言っていたが、これを指していたのだろうと分かる。

 手には弓、腰には矢筒。先程の矢はフレアさんの放ったものらしい。

「ごめんね。もうちょっと早く着いてたんだけど、何か衝撃を受けちゃって」

 ちらりと、その視線がミオ先輩に向く。

「一応、あの人は元々海軍で鬼の副長って恐れられてた人なんだけど」

「鬼ですか?」

「そうだよ。並居る相手をばったばったと。国の中でも、相手取れるのはノエルとか船長くらいだったかな。で、船長と一緒に退役して、海賊始めた筈」

「船長……。じゃあ、あの人って逃げ出した無頼漢の一人って事ですか?」

「そうだね。とはいえ、何の理由も無く人を襲うような人じゃないけど」

 言いながら、次は視線をわための方へ。

「その子のせいかな? 名前は?」

「つ、角巻わためです!」

「どうして此処に? 遠征組のリストには入ってなかったと思うけど」

「えっと──」

 フレアさんによる、わためへの事情聴取が始まる。脇では戦闘中という状況なのだが、フレアさんは冷静だ。

 旅の途中におにぎりが穴にーと、おむすびころりんのような世界観を見せ始めたわための説明を聞いている最中、ちょいちょいと服の裾を引かれる。

「どうしたんですか、ミオ先輩」

「いや、君も大概冷静だね」

 ぺたりと獣耳を閉じながらも警戒しているらしく、尻尾は立てたままのミオ先輩に、嫌み気味にそう言われる。

「どちら様? ていうか何語?」

「この間部室でお話した異世界の方々です」

「……あー、そういえば聞いたね。何で話せるの?」

「魔法です」

 フブキ部長との約束はきちんと果たしていて、異世界との遭遇と幻想談義については、フブキ先輩にもミオ先輩にも説明済みだ。ちょこ先とるしあ、桐生先輩にも説明するかを悩みはしたが、話さない事のデメリットの方が大きいので、説明済みである。

 お陰でちょこ先とるしあにちょっと怒られるくらいで済み、桐生先輩には「いい心がけですねー」とお褒めの言葉すら頂いた。意図せず世界の危機を救った気分になったのは、何故だろうか。

「その時は、あの子の話は聞いてないけど」

「わためは今日知り合いました」

「今日知り合って即日厄介事に巻き込まれるんだね、君は」

「あはは」

「笑いごとじゃないんだけど」

 ちらりと、ミオ先輩の視線が動く。合わせてそちらを向けば、大男と戦うノエルさん。

 おっとりした顔は、多少鋭さを増してはいるがいまいち迫力には欠けている。だが、振られるメイスがガントレットと当たるたびに発する音は、カキンとかガキンのような金属同士の当たる金属音ではなく、ドゴォという音が近い殴打音。音が大きくて高い程ダメージは大した事が無いというのは良く聞くが、その逆の状況。受け止める男の腕が心配になってしまう。

「大丈夫ですか、ミオ先輩?」

「煩い」

「まあ、確かに」

 自分でも多少煩わしく感じる位だから、自分よりも多くの音が聞こえるであろうミオ先輩は自分以上なのは間違いないだろう。

「それに、何か変な気配があるんだよね」

「変?」

「うまく説明できないんだけど」

 くんくんと何か匂いを嗅ぎ出すミオ先輩。

 同じようにしてみるが、流石に何も分からない。

「──ねぇ」

 フレアさんから声がかけられる。

 視線を動かせば、話は終わったようで、フレアさんとわため、それに移動したきんつばがこちらに視線を向けていた。

「この子の事、保護してくれてありがとう。また、きんつばもお世話になったみたいだし」

「いえ。わためとは偶然会っただけだし、きんつばには助けられましたから。フレアさんとノエルさんが此処に来たのって、きんつばに呼ばれたからですよね?」

「あ、分かる? はぐれた時の合流用の魔法を色々練習中なんだよね。今回は念話の魔法。まあ、話すのに滅茶苦茶集中する必要があって、話している間に移動出来ないのがネックなんだけど」

「成程」

 きんつばが難しい顔をしていたのは、それが理由らしい。

「多分、あの人に襲われたというか、追いかけられたのはわためちゃんを連れてたからだと思う。保護しようとしたんじゃないかな、正義感の強い人だったし」

「……なら、海賊にならないんじゃ」

「そこはほら。船長に弱みを握られてたらしいから?」

 脅されたのだろうか。それなら可哀そうな人なのかもしれない。

「許せませんね」

「君が勘違いをしている事は何となく分かったよ」

 何をだろうか。

「まあ、話して分からない人じゃないから、ノエルが取り押さえたら私から説明を」

 フレアさんの言葉の途中で、首筋に痛みが走る。

 何事かと思うよりも早く、足の感覚が無くなり、視界が黒くなり始め。

 持ち上げられるような感覚をもって、俺の意識は途切れ──。

 

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