ホロ学園の「俺」君物語   作:零円

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登場ライバー
宝鐘マリン
???


潜伏先にて

 最近意識失う事、多いな。

 寝起き一番の感想は、それであった。

 ふわふわと夢見心地な意識を、頭を振ったり瞬きをしたりと数分程色々試し、覚醒させる。

 周囲を見渡す。電気が点いておらず、隣室から差し込む光程度しかない薄暗い室内。

 壁は木製の建物のよう。とはいえ、ログハウスというには、聊か風情に欠け、掘っ立て小屋という方が正しそうな印象を覚える。部屋に窓は無く、壁に立てかけるように置いてある道具類を見るに、物置なのだろうか。何かしら使える物はありそうだが、両手両足ともに椅子に固定されていた。見渡した感じ、通学用の鞄も無いし、ポケットに入れていた筈のスマホの気配も感じない。

 一先ず目先の問題を解決するべく、拘束から抜けないかなと踏ん張っては見るが、きちんとした拘束のようで、びくともしない。こうして拘束をされるのは幼少期以来だ。懐かしさを覚える。あの時はタオルだったので、もがけば拘束を解けたのだが、今回は自力での脱出は難しいようだった。

 一旦諦め、次の問題へ。

「……タロ?」

 肩が定位置の守護霊の姿が無い。名前を呼んでも、応答無し。半透明な人達が少なくない数、俺の周りに群がっているから、多分近くにも居ない。守護霊が居ない状態がどの程度不味いのかは分からないが、少なくともミオ先輩とのホットラインは無くなっているらしい。

 骸骨はどうだろう。まだ、血を流したら、俺の影から出てくるのか。百聞は一見にしかないので試してみたいのだが、身動きが取れない今、血を流すには舌を噛み切るしかなく。ただ、それを行うだけの度胸は無いので、意図的に自分の血を流すのは難しい。

 一端諦め、情報を得るべく耳をすませば、扉の向こう。光の漏れている方から、人の声が聞こえる。

 何処か責めるような口調の女性の声が一つに男性の声が複数。聞こえてくる物は俺の理解出来る言語だが、声の主が誘拐犯と仮定するなら、意識を失う前の流れから考えてもフレアさんやノエルさんの同郷の人と考える方が自然な気がする。必然、喋っている言葉は俺の知っている物とは違う筈なので、それでも俺が理解出来るという事は、少なくともきんつばのかけてくれた魔法の効果が活きている。きんつばが謙虚にも効果期間を短く告げたという事が無ければ、三日以上は経っていないと思う。

 ……それにしても、今日はるしあとちょこ先が来ない日で良かった。もし来る日なら、多分ミオ先輩経由で俺の誘拐問題があの二人にも知れ渡ってしまう。それに、ちょこ先から親へ連絡が行こうものなら……どうなるだろう。案外何もないかもしれない。流石に一瞬帰ってくるとは思うが、数時間後には呼び出されて職場に戻りそう。

 ならばれてもいいのだろうかと、そんな発想に至り始めた頃。扉の方から漏れていた光が遮られる。

 寝たふりをしようか一瞬悩み、辞める。いつまで寝ているんだと、叩き起こされる可能性を鑑みた。

 間もなく、戸が開いた。逆光の中に、女性らしきシルエットが一名。

「えっと……この辺でしたっけ」

 ぱちりと音。直後、俺のいた部屋の明かりも点いた。

 急な明るさの変化に視界が眩むも無く、しっかりと電気を点けた主の姿を捉えた。

 大き目のリボンで赤い髪を二つに結っていた。左目には眼帯。纏っている服や眼帯には大男にあったのと同じ、錨の意匠が散りばめられている。

「起きました? 大丈夫ですか?」

「誘拐したのはそっちなんですけど」

「うっ。それを言われると弱いので、やめてください」

 コツコツとヒールを鳴らしながら女性が近づいてきた。そのまま腕が動くのなら触れる距離まで近づき、足を止め。徐に眼帯を外すと、上体を曲げて俺の顔を覗いてくる。

 左右色の違う、オッドアイの瞳。隠されていた左目が、まっすぐ俺を貫く。

「ふむふむ」

「あの」

 何だろうか、落ち着かない。見澄まされるだけではなく、見透かされるような感覚。居心地の悪さがあった。

 暫くの間、視線が交わる。顔を上げると、女性は左目にいそいそと眼帯をつけている所であった。

「……ノエルさんの知り合いの元海軍の山賊の方ですよね」

「おっと。我が名は宝鐘海賊団船長、宝鐘マリン。船を持っていないだけで、心は立派な海賊なんですから間違えないで下さい。いつか自分の船で宝探しに行くんですから。ついでに私の事を呼ぶときは、船長と呼んでくださいね」

「それは部下になったみたいなんで嫌ですけど。それより、自分、なんか誤解されて此処に連れてこられたんです。解放して貰えませんか?」

「至極もっともな要求ですね」

 うんうんと、納得するように頷く。

「まあ、縄は解いてあげます」

 そう言って、女性が俺の背後に回った。後ろ手に縛られていた手が、少しして解放される。

 手を前に持ってきて、確認。擦れた痕はあったが、特に不調は無い。

 手の次は、足。背後に回っていた女性が俺の足元へ移動して、両足の縄も解かれる。

 女性が離れてから、足を確認。ズボンの上から縛られていたようで、足には痕が残っていなかった。

 思った以上にあっさりと解放されて、素直に喜べない。

「帰っていいって事ですか?」

「いえ。それはダメです。というか、無理です」

 何が何だか。

 それなら縄も解かなければ良かったのにと思う俺に、女性がポケットから取り出した懐中時計を見せてきた。

「もう夜も遅いので、出歩くのは辞めた方がいいですよ」

「……いや、多少暗くても」

「ここ、山の中ですし」

「……」

 やっぱり山賊なんじゃないだろうか。

 

 ***

 

 外を確認すると、すっかり日は暮れていた。まあ、わためと会ったのが放課後の夕暮れ時だった事を考えれば、当然と言えば当然かもしれない。

 夜空を見上げれば、曇っているようで月も星も出ていない。それでも、見えなくはないから歩こうと思えば歩けそうではあったが、軽く見渡した感じ、道らしい道が見当たらない。

「一応確認なんですけど、普段どうやってこの山小屋から出かけて、戻って来てるんですか?」

「普通に山を登ってますけど?」

「道が無さそうなんですが」

「それがどうかしました?」

「……いえ」

 これが若さか。いや、元海軍だし元々山暮らしのようだから、歩きなれているだけだろう。

 歩きなれていない俺では、何なら日が出ている時でも危ない気がする。一先ず、家に帰るのは諦めて、山小屋の中に引き返した。

「そうだ。ご家族に連絡も取った方がいいですよね」

「そうですね。なら俺のスマホ返してもらえますか?」

「……すみません。君の荷物は、君を誘拐した時に何処かへ落したようで。必ず弁償させるので、一先ず私の携帯で連絡して貰えます?」

「……」

 手渡されたスマホを見る。一先ず通話アプリを起動するが、テンキーを前に止まる。

 事態を間違いなく把握しているであろうミオ先輩やフブキ先輩とは、メッセンジャーアプリのアカウントなら交換したが、携番を交換した記憶が無い。というか、学校の友人知人と携番を交換した記憶が一切無い。

 他に使えそうな物だとSNS位だが、持っているアカウントは鍵垢で、フォローしている人の中でリアルの知り合いは居ないから、連絡には使えそうにない。

 今度、携番を教えて貰おうと心に決めつつ、役に立たなかったスマホを返そうと宝鐘さんの方へ視線を向ける。その視線を向けた部屋の一角に置いて、自分が目を覚まし、物置を出た時と変わらず、正座をさせられたままの大男と知らない痩身の男。大男の頭には漫画の様な大きな瘤。あれはノエルさんの仕業だろうか、宝鐘さんの細腕だと厳しそうだし。

「キミ達。いつまでそうして無言を貫くつもりですか。何がどうあれ、こっちが間違えて迷惑をかけたんですから、謝らなきゃダメでしょう」

「……しかし、船長。自分は間違えた行いをしたわけでは」

「貴方の正義感は私も良く知る所ですけど、今はただの海賊。無頼漢でしかありません。故に善行は美徳ですが義務ではありません。

 残念ですが、貴方の今日の行いはただの自己満足です。思い込みの末に、無辜の民へその拳を振るった。報告にあった獣人の様な誰かの割り込みが無ければ、この少年は亡くなっていたかもしれません。貴方の拳にはそれだけの力があります。それを踏まえたうえで、なお謝る理由にはならないと?」

 大男が、無言で拳を握る。

 素人目にもわかる、鍛えられた拳。俺より何周りも大きいそれが、更にガントレットに覆われていたのだ。

 結果更に大きさを増したそれを前に、あの時自分が覚えた感覚を思い出す。

「あの、船長。その辺で。こいつも悪気があったわけでは」

 痩身の男がそう口をはさむ。宝鐘さんの矛先が、そちらに向いた。

「黙りなさい。当たり前です。悪気があっての行いなら、そもそもとっくにフレアとノエルに突き出しています。それと、無関係な振りをしていますが、貴方も貴方です。一般人相手に薬を使うやつがありますか」

「て、敵か味方か分からない以上、躊躇う必要は……」

「副隊長の傷はノエルからつけられたものでしょう。貴方が合流した時にノエルは居なかったですか?」

「……いえ。既に戦闘中でした」

「なら、ノエルに守られている彼が、少なくともノエルやフレアの関係者というのは想像がついたと思いますが」

「……すみません」

「拉致の理由は? ノエルやフレアへの対策以外でお願いします」

「……」

 図星だったのか、押し黙る。

 対策、という言葉の辺り、あの二人への人質として拉致されたという事なのだろうか。

「……すみません。海軍のころから、貴方が私の事を気にして、裏で動いていた事は知っています。私達があの二人から逃げおおせたのすら、貴方の力があった事。分かって居て、黙認していました。やはりきちんと、止めるべきでしたね」

 ちらりと、宝鐘さんの視線が、俺を向く。つられて、男達の視線も俺へと向いた。

 暫し、沈黙の時間が流れる。

「……貴方達。正座はもういいので、今日はもう寝なさい。いいですね」

「「はい」」

 宝鐘さんの言葉を切欠にして、男達が立ち上がる。

 大男が先んじて歩き出し、俺を一瞥。近場で足を止め、「すまなかった」と呟き、歩き去る。

「坊主」

「はい」

 そして痩身の男。足を止め、俺を見る。

「具合は? 吐き気とか、しびれはあるか?」

「えっと……いえ、とくには」

 寝起き直後は気だるさもあったが、今は平気だ。

「そうか……。悪かったな」

 そう言って、彼も歩きだし。

 やがて二人とも扉を出た所で宝鐘さんに一礼して、戸を閉める。

「……やれやれ。手のかかる子達ですね」

 そんなことを言うと、宝鐘さんに名前を呼ばれる。

 振り返ると、宝鐘さんが間近によっていて。

「ごめんなさい。悪い子達では無いんですが……大丈夫ですか?」

 と、そんなことを尋ねられた。

 宝鐘さんのその言葉に、一瞬戸惑う。

「はい。別に、大丈夫です。特に怪我をした、というわけでもないですし」

 逃げきれたし、救援も間に合った。

「誤解も解けたようですし、明日の朝、家に帰して貰えれば、それでいいです」

 家に帰って、心配をかけているであろう人達に謝ろう。ミオ先輩やフブキ先輩、もしばれているのなら、るしあやちょこ先にも謝る必要があるだろう。フレアさんやノエルさん、きんつばにも謝った方がいいだろうか。わためとは……まあ、今後について話をする。今更だけど、本当に住むつもりなのだろうか。

 そうして、いつもの日常に戻れれば──。

「いけません」

 両頬に手が当てられる。オッドアイの瞳が、まっすぐ俺を捉える。

「我慢をする必要は無いんですよ」

「はい? 何の話ですか?」

「怖かったんでしょう、本当は」

「そんなこと無いです」

 平気だ。大丈夫、問題ない。いつも通りだ。

「真っ青ですよ、顔」

「……」

 その顔は、嘘をついているようには見えない。

 宝鐘さんの手が頬を離れ、俺の手を掴む。宝鐘さんの手が震える──いや。震えているのは俺の手だった。俺の手が震えているから、宝鐘さんの手も震えている。

「あれ? いや、本当に大丈夫なんです。自慢じゃないですけど、此処一月位、色々ありましたから」

 命の危険はあったりなかったりだが。それでも、かなり濃い一月を過ごしてきたことは、間違いない。

「だから、全然大丈夫なんです」

「いいえ」

 そんな俺の言葉を、態度を、宝鐘さんが一蹴する。

「私にも海軍としての生活の中で多くの危険や命のやり取りが何度もありました。ですが、一度たりとも平気だった事はありません。怖いのを押し殺して、何事もないかのように振舞っていただけです」

「俺は、宝鐘さんとは違うから」

「ええ。私と違い、今までこの平和な国で、安全に過ごしてきた。だからこそ、たった一か月の生活で、命の危機に慣れる訳がないんですから」

 俺の手を掴んでいた手が離れ、頭に乗る。そのまま、なでなでと撫でられる感触。

「我慢する必要は、ありません。怖かったと泣いても、私に何するんだと責めるのも、貴方の自由です」

 人に頭を撫でられるのって何年ぶりだろうか。心地よさにボーっとしてくる。最近見えすぎる位に見えていた視界が、一月前のように狭くなった気がした。

「ちゃんと聞きますから、安心してください……って、どの口が言ってるんだって話なんですけど。少なくとも、今は安心して、力を抜いていいんですよ」

 宝鐘さんの言葉に、素直に首を縦に振る。

 それを見た宝鐘さんが、満足げに頷いた。

「よろしい。さて、じゃあお茶でも煎れましょうか。座って待っててくださいね」

 手を離した宝鐘さんが、部屋の一角に置かれた水場の方へと向かう。

 名残惜しさを覚えながら、近くの椅子に腰を下ろした。体がズシリと、重くなったような気がする。思った以上に、疲れていたようだった。

 お湯を沸かす音が聞こえる。時間がかかるだろうし、少しくらい眠ってもいいだろうか。

 ぼんやりそんなことを思っていると、視線を感じた。視線を動かした先の窓の外に人影を見る。ばっちりと、目が合った。

 人影は、あたふたとしたのち、苦笑いを浮かべる。そんな人影に手を振ってやれば、おずおずと振り返される。らしくないその姿に苦笑いを浮かべながら、俺は立ち上がった。

「宝鐘さん」

「はーい、なんですかー?」

「迎えが来たので、帰りますね」

「そうですか……はい?」

 荷物は無いらしいので、手ぶらで戸を開け、外に出る。

 扉の前で、あの日と変わらぬ三角帽子に、やや視線の向け先に困る装いの魔女が立っていた。

「よっ」

 片手をあげ、挨拶をしてくる魔女へ、同じように片手をあげて返す。

「久しぶり。元気にしてた?」

「元気元気。そっちは?」

「ぼちぼち」

「そっか」

 そう短く返してきた彼女が、えーっとと、二の句を考え始める。

 話したいことは、まあ無いわけでもないから。

「積もる話もあるし……頼んでいい? シオン」

「……うん。おっけー」

 シオンがぱちんと、指を一つ鳴らすと、足元には人が二人分は入れそうな大きさの魔法陣が出てくる。

 振り返ると、驚きの表情を浮かべる宝鐘さんの姿がある。

「すみません、お世話になりました」

 会釈をする。その直後には、風景が切り替わった。見慣れた我が家の、庭先である。

 体がふらつき、蹈鞴を踏む。

「ちょっとふらふらする」

「転送酔いだから、暫くすれば治るよ」

「そっか」

 具合が良くなるまでと思い、縁側に腰を下ろす。一瞬、さっさと家に入ろうと言われるかと思ったが、意外にもシオンも腰を下ろした。

 一度座ると、先程までの睡魔がぶり返してきた。体調不良も相まって、直ぐその睡魔に侵されていく。

「……シオン」

「ん?」

「肩借りるわ」

「あ、ちょ」

 丁度いい高さにあるシオンの肩に頭を預けた。

「ったく、もー」

 シオンからの怒りの声。ただ、無理に引きはがされることはなく。安心して俺は、目を閉じた。

文章の構成はどちらがいいですか

  • 全部詰める(全話までのやり方)
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