ホロ学園の「俺」君物語   作:零円

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登場ライバー
潤羽るしあ
紫咲シオン


魔法を語る

 きらきらと目を輝かせたタロが、俺の前に座っている。その尻尾は、はち切れんばかりに振られていた。

 遊んでくれるの? と嬉しそうに全身で語るタロを目に焼き付けてから、一度閉じて集中。

 暫くして開く。

「……タロ、おいで」

『わん!』

 呼べば嬉しそうに、飛び掛かってくるタロ。

 見えているから問題なく、その小さな体を受け止める。

「ダメそうですね」

「そうだな」

 横でその一連の流れを見守って居たるしあが、そう声をかけてきた。

 ひょいと、俺の手からタロを持ち上げて、さっきまでタロが座っていた場所に戻す。

 きょとんと首を傾げるタロを前に、再び目を閉じ、集中。開いて、名を呼ぶ。飛び掛かってくるのを、受け止める。

 ずっとこんな調子であった。

「ごめんなさいなのです、先輩」

「いや、俺の方こそ、物覚えが悪くてすまん」

「いえ。そもそも私がもっとうまく教えられたら良かったのに」

「それなら、そもそも俺が迷惑かけてるわけだし」

「それを言ったら──」

 こんな感じで、あーでもないこーでもないと、お互いに自分が悪いと言い合う。

 こんなやり取りが行われているのは、我が家のリビングであった。

 るしあとの一件の後、週に四回くらいのペースで行われている、霊を見えなくする訓練。既に両手の指では数えきれない程度には練習しているのだが、なかなか成果が見られない。

 最初こそ、初めてだから仕方がないとか、頑張りましょう等の言葉をかけてくれたるしあであったが、最近では自分の教え方が悪いのではと思いだしてしまったらしく、事あるごとにこんなやり取りが発生するようになってしまった。

 空気が気まずくなり、食事をせずに帰ることも最近では多々ある。

 申し訳なくて何とかしようと自主練してはいるのだが、やっぱり効果が無い。

 ずーんと沈むるしあを見て、何とかしなきゃと思っていると、リビングの戸が開いた。視線を向ければ、レジ袋を携えたシオンが、そこに居る。

「おかえり、シオン」

「ただいま。お客さん?」

「そういえば、話はしたけど会うの初めてか。こちら、潤羽るしあさん。俺の後輩」

「潤羽るしあ……ああ。死霊術士の。初めまして、紫咲シオンって言います」

「は、初めましてなのです。潤羽るしあなのです……本物だ」

 シオンを見て、驚くるしあ。そういえば、魔界学園出身ならシオンを知らない人はいないと言っていた気がする。反応を見るに、あの言葉は冗談では無かったらしい。

「何してるの?」

「目の制御。幽霊とか常時見えてるのも問題だから、見えないように出来ないかって事で、教えて貰ってる」

「ふーん」

 レジ袋をテーブルへ置いたシオンが、此方を向いたまま椅子へと座る。テーブルに肩ひじをつけ、頬杖をついてこちらを見る姿は、中々威圧感があった。

 どの立場なのだろうか。ちらりと見れば、るしあも緊張しているように見える。

 気にしなくていいと思うのだが、シオンの名前が出た時に驚いていた姿を思い出し、難しいかと思い直した。

 それなら、やはりここは一発俺が決めなければダメだろうかと、気合を入れて目を閉じ、開ける。

「……たろー」

『わんわん!』

 飛び掛かってきたその体を受け止める。

 元の位置に戻し、再度。──失敗

 戻し、もう一度。──失敗

 もう一度。──失敗。

 受け止めたままでいたら、ぺろぺろ顔を舐められた。優しさが胸に染みる。

「本当にごめん」

「いえ。私こそごめんなさいなのです」

 一人溌剌(はつらつ)としているタロを除き、どんよりと暗い雰囲気が漂う。

 お通夜とまでは流石に行かないが、中々重い。どうしようもなくなりそうな空気が漂い出した中、「ねえ」とシオン。

「何してるの?」

「「……」」

 この状況では最上級に空気の読めない発言に、場の空気が凍る。からりからりと聞こえてきた音は、果たして(うつつ)か幻か。とりあえずシオンが次の言葉を発する前に、俺は口を開いた。

「制御の練習だが」

「そうなの? でも、アンタ目を開閉させてるだけじゃない」

「……」

 否定出来なかった。滅茶苦茶集中して、瞬きをしているだけの自覚はあった。正直、いまいちピンと来ていない。

 立ち上がったシオンがこちらに近づいてきた。俺の前にかがみ、じっっと俺を見る。

「ふむ」

 立ち上がる。

「治せないなら、一先ず制御だけでも出来るようにするって言うのは、いい考えね」

「え? ……ありがとうございますなのです」

「なんか煮え切らないんだけど」

「そんなこと無いのです」

 ドヤと胸を張るるしあ。言い出したのはちょこ先だったはずだが、言わぬが花だろう。

「でも、教え方が違う」

「教え方? でも、るしあはお父さんからこうやって教わりましたけど」

「貴方って潤羽家でしょ? 死霊術のサラブレッドなんだから、貴方のやり方でコイツが出来るようになるわけないじゃない」

「「……」」

 言われてみればド正論なのだが、言い方のせいか、こいつに言われると無性に腹が立つのは何故だろう。

 るしあも言い返してやりたそうな顔をしているのだが、如何せん思いつかないらしく、口元をむにゃむにゃさせている。

「目の制御って言うけど、それって要は魔力の制御。魔法を使ってるのと一緒なんだから。アンタ、魔法使えって言われてるのよ?」

「……」

 成程、確かにそれは出来る気がしない。

 俺から離れると、シオンはソファーへ腰を下ろした。俺とるしあは、何となく床に正座したまま。上下関係が出来て居た。

「一応、前提から話しておくと、アンタに魔法は使えるわ」

「そうなの?」

「目の維持が出来ているのがその証拠。幾ら魔界の目になったとはいえ、ちょこ先生が普段使ってる擬態を無視して角とか尻尾の生えた姿を見ようと思ったら、その目を働かせるための魔力は必要。でも魔法薬っていうのは、魔法の発動こそ出来るけど、一月なんて長期間の維持は出来ない。もって一時間とかそこらかしら。それなのに、ちょこ先生の姿が見えてるってことは、あなたには少なくとも目を働かせる魔力を持ってる。正確には、必要十分な魔力を作る事が出来るって事」

「成程」

 魔界の目になれば、てっきり何もしなくても見えるもんだと思っていたのだが、そうでもないらしい。そういえば、ちょこ先生がミオ先輩やフブキ先輩の獣耳とかを、見ようとすれば見れると言っていたから、もしかしたらそれも、より魔力を込めればとか、そういうニュアンスだったかもしれない。

「ただ、アンタの場合は魔力の制御が出来ていないから、必要以上に目に力が入って色々見えてる状態。加えて潤羽さんの死霊術に引っ張られたから、そっち系の魔法効果も出てる状態ね」

「だから、魔力を制御して、見えないようにしようと思ったんですけど」

「そのためには最低限、正常な状態を知らないと無理でしょ」

「あ」

 るしあの言葉を、シオンが一蹴する。

「とはいえ、どうしようかしら。言っちゃうと走り方を教えるとか、そんな類なのよね。速く走るコツを教えるとかはあっても、走り方そのものを教えるって無いでしょ」

「確かに」

 歩く時よりも早く足を出すだけだ。もちろん細かい動作は色々あるだろうが。基本認識はそんな程度である。

 早く足を出すやり方なんて、早く足を出す以外に思いつかない。

「うーん……」

 シオンが顎に手を当てた。るしあも腕を組み頭をひねる。

 俺はお力になれそうにもないので、夕飯の支度でも始めようかなと席を立った。

 今日の夕飯はハンバーグである。俺とシオンとるしあ。後は誰が来てもいいようにもう二つ分の計五人前のたねは、るしあとの練習開始前に寝かせておいたから、後は焼くだけである。

 サクッとサラダをこしらえ、付け合わせの野菜はソテー。スープは顆粒コンソメにお世話になる。後は白米。

「ご飯出来たよー」

「はーい」

「マイペースすぎるのです……」

 声をかけると、リビングから2人が、ダイニングテーブルへと場所を移した。

 盛り付けた食器類をカウンターに置くと、ふわりと浮いて、テーブルへと移動していく。

「魔法の無駄遣いなのでは?」

「そう? 使えるなら使ってなんぼじゃない?」

「いえ。さすがに配膳の為だけに、死霊を呼び出すのもどうかと」

「融通効かないわね」

「死霊術師たるもの、死霊への敬意は忘れてはいけないのです」

 えへんと胸を張るるしあに、ふーんと、興味が無さそうな反応を見せる。実際無いのだろう。こいつがたまに、歩いてすぐのコンビニにも転送魔法を使っている事を知っている。シオンは、魔法に対して特別な感情は抱いていない。

「そういえば、聞いてなかったけど、シオンの家もるしあの家みたいに有名な家なのか?」

「あ。私も聞いたこと無いのです。紫咲家ってどの辺ですか?」

「別に、私の実家は名家でも何でもないわよ。普通の家。そう、この天才が産まれてしまったこと以外、何の変哲もない一般家庭よ」

「「いただきまーす」なのです」

「アンタ達が聞いたんでしょ!」

 全くとぼやきながらも、きちんと挨拶をしてから食べだす辺りに、育ちの良さを感じる。

「でも、なら魔法の勉強とかって大変だったんじゃないのか?」

「いや。楽しかったし、そこは別に平気だったんだけど。やりたい事をやれないのが辛かったわね」

「やりたい事?」

「魔力保持量って個人差があるから、魔力消費の大きい魔法なんかは、人によって使えなかったりするのよ。だから、保持量を増やすのは素直に大変だったわ。別に少ないわけじゃなかったけど、いざそのタイミングで使える魔力が足らないから魔法が使えないとかあったら嫌だったし」

「……え? 足りなくなったから増やそうとしたんじゃなくて、足りなくなったら嫌だから増やそうとしたんですか?」

「うん」

 それは何というか。

「意識高過ぎなのです」

 同感である。

「因みに魔力ってどうやって増やすの?」

「筋トレと一緒で追い込むのが一番……」

「……ん? どうした?」

「いや、そっか。この方法ならありか。使える魔法もあるし。うん、いけるかも」

 話の途中だったのだが、シオンが何やら考え込み始めた。

「考えるのはいいけど、食べちゃいなよ」

 俺の言葉に反応して、シオンが食事を再開する。思い付きを早く試したいのか、心なしか食事の速度が上がった。

「何か思いついたみたいですね」

「そうだな」

「何か、心当たりはある?」

「いえ。正直全然」

 間違いなく俺関係なので、悪いことにならないかは少し不安だが、そこはシオンを信じる他無い。

 とりあえず、シオンが食べ終えたときに食べ終えていないと文句を言われそうだったので、同じく食事のペースを上げた。

 




本編では語られないホロ学設定解説:魔法編……未定!

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