角巻わため
不知火フレア
5年以上はかけていた筈なのだが、1ヶ月丸々つけていないと、やはり違和感を覚えるものらしい。
鏡の前で若干座りの悪いそれを少々弄り、納得のいく位置に持ってくる。
髪型をちょっと弄り、問題無い事を確認。
「……よし」
問題が無い事を確認してから、洗面所を出た。廊下を通り、リビングへ。
「あ、おはよー」
「おはよ」
椅子に座ってテレビを見ているシオンと挨拶を交わす。
「出掛けるの?」
「ああ。シオンは、今日の予定は?」
「なーし。何か用事が出来たら、その時は連絡する」
「分かった。俺は何事も無ければ普通に帰ってくる予定」
「物騒」
そう言われても。
「俺はもう出かけるから、洗い物だけ頼んでもいいか?」
「おっけー」
言うや否や、キッチンから、カチャカチャと洗い物の音。
数枚浮いた皿の周囲を、スポンジが勝手に動いて洗っている光景が、見ずとも想像出来た。
「所でシオン」
「ん?」
「変じゃない?」
「そんな事を聞いてくるのが変」
「辞めろよ」
傷付くだろうが。俺だって、お洒落ってやつに多少気は使って無い事も無いんだから。
シオンの視線が、俺の方を向いた。頭頂部からつま先まで何度か往復する。
「普通じゃない? というか、いつも通り」
ジャケットに、シャツに、ジーパン。ぱっと見小綺麗で、考えなくて済むから楽。
「まあ、しいて言うなら、眼鏡に違和感はあるけど。出掛ける時はかけて無かったよね? コンタクトじゃないの?」
「捨ててしまった」
マンスリーコンタクトを元々使っていたのだが、魔界の目になった折、テンションのままに捨ててしまった。
だから久しぶりの眼鏡で、しかも出掛ける時につけるという事で、ちょっと不安だった。シオンの反応を見るに、大丈夫らしい。
「それにしても、見た目気にするなんて珍しいじゃん。デート?」
「……? 違うが」
「あ、うん。ごめん」
何故か謝られた。
「じゃあ、行ってくる。出掛ける時は鍵かけてな」
「はーい」
時計を見れば、約束の時間が近い。
財布とスマホをポケットに入れ、急ぎ家を出た。
***
駅前へ着くと、待ち人が手を振っていた。
振り返して、駆け寄る。約束の時間には間に合ったが、少し待たせてしまったらしい。
手の届く範囲まで寄ると、頭を触られる。何か入ってくるような、違和感を味わう事、暫し。手が離れた。
顔全体の内側に違和感。何だこれと思っていると、待ち人が不思議そうに首を傾げた。
「どうかしたの?」
「あ、いえ」
ふるふると首を振ると、少しマシになった。改めて、待ち人に会釈する。
「お待たせしました、フレアさん」
「大丈夫。今来たところだから」
「そうですか。なら良かったです」
待たせてしまったかと思ったが、そうでもないらしい。
「今日は眼鏡なんだね。似合ってる」
「そうですか? ありがとうございます」
お世辞だろうが、褒められたら嬉しいものだ。
つい意識して眼鏡の位置を直しながら、そういえば衝撃が来ないことに気が付く。
「きんつばとかノエルさんとは一緒じゃないんですか?」
「今日は買い物だって。予約してたものが届いたみたい。きんつばは、ノエル一人だと翻訳が使えないから、ついていったの」
「成程。じゃあ、わためは?」
「あそこ」
フレアさんが指さした先に、わため。そして、6名程が足を止めている。耳をすませば、微かに歌声も聞こえてきた。
「ストリートで、ああやって足を止めている人が居るのって、初めて見た気がします」
「そうだね。向こうだと、結構吟遊詩人の興行って結構見てる人いたんだけど」
「そうなんですか?」
「娯楽も少なかったし」
そういうと、フレアさんはちょっと寂しそうな顔をする。
「どうかしました?」
「……わための歌ってる曲が故郷の曲だから、ちょっとホームシックなだけ」
「ホームシックですか?」
「まあねー。2年以上こっちに居るし、久しぶりに帰りたいんだけど、なかなか難しくて」
「2年……長いですね」
「ハーフエルフの寿命からすれば、あっという間の筈なんだけど」
そう言いながら笑うフレアさんを見て。
「関係無いですよ」
と、そんな言葉が口をついた。
「関係無い?」
「フレアさんがどれだけ長生き出来るのかは知りませんけど、帰りたい場所があってもそこに帰れないなら、寂しいって思って当然です」
俺の言葉を聞き、フレアさんがクスリと笑う。
「そうだね。うん。私は寂しい! きんつばもノエちゃんもいるけど、やっぱり故郷が恋しいし、あんまり美味しくないけど向こうのごはんも食べたい!」
「きんつばとかノエルさんに慰めて貰ってください」
「……あの言葉の後にしては冷たくない?」
「自分がフレアさんを慰められるビジョンが見えなかったので」
もしかしたら地元の料理を作ってあげるとか、そんな感じの慰め方はあるのかもしれないが。異世界の料理だとそもそも原材料からして違うだろうから、やっぱりお力にはなれそうにない。
「これは、わための事を頼むのは辞めておいた方がいいかなー」
「……最後に決めるのはわためなのでは?」
「残念。この世界での彼女の身柄は私が預かっています」
「そうですか……。わためにはまた縁があればと伝えてください」
「諦めるのが早くない?」
片手をあげて別れの挨拶をすれば、待ちなさいとその腕を掴まれる。
流石に冗談だから安心してほしい。
「た、助けてー!」
「「ん?」」
呼ばれた気がして、フレアさんとともに視線を声の方へとむけた。
バタバタと走ってきたわためがそのまま俺の脇を抜け、俺とフレアさんの後ろへ隠れる。
何事かと思えば。
「お疲れ様です」
「そういうの良いから」
あの時のお巡りさんであった。
シッシッと、追い払うように手を振られる。そして、巡回へと戻っていった。
あの時と違い、注意する前に逃げだしたから、見逃してくれるらしい。
「ふー……まあ楽勝だったね!」
額の汗をぬぐう動作をするわためが、そんなことを言った。
「じゃあ移動しましょうか」
「そうだね」
「……聞いてー!」
***
移動先は牛丼屋という事は無く、いたって普通のファミレスだった。
メニューを眺めるわための横で、フレアさんに渡された、わためをホームステイさせるうえでの契約書を見る。
紙面に書かれている文字は、フレアさんの出身である異世界において、某ドラゴンに滅ぼされた国の周辺諸国で使われている公用語らしいのだが、まあ読めない。契約書としていいのだろうか。
しかし、読めなくても意味は分かった。翻訳の魔法の力は、読む文字にも対応しているらしい。
「でも意外です。現地人相手のこういう契約書ってちゃんとあるんですね」
「基本的には秘密にしてるけど、一応現場判断で現地人との取引は認められてるからね。その時に使うこういった書面は用意してあるんだよ」
「……なら、ちゃんとこっちの言葉で書いた方がいいと思いますけど」
「あー……翻訳魔法があるからリテラシーは高いんだけどね。同じ理由で異言語習得への姿勢が低くて」
「ああ」
それに、この契約書を渡す想定をしている相手は、異世界側の情報を持っているだろうし、やり取りする上で翻訳魔法をかけられているはず。そう考えたら、態々こっちの言語で書くというのは確かに面倒くさい。
「気になるなら、頑張って書くけど」
「いえ。信じます」
フレアさんが俺を騙す理由も特に無い。とはいえ、今読まないと、次にいつ読めるかは分からないから、しっかりと読み始める。
ちらりと視線を上げて確認するも、フレアさんは、特に何か言うつもりは無いようで、読み終わるまで待つようだ。
そんな中、自分の事なのに蚊帳の外になっているわためが、声を上げた。
「ねぇ、ふーたん。何か頼んでいい?」
「いいよ。好きに頼みな」
「じゃあ、メニューの端から」
「その頼み方はやめて、食べられるだけにしよう? ドリンクバーも頼んでいいから」
「ドリンクバーって何?」
「色々な飲み物が沢山飲めるよ」
読み進める。わため滞在にあたっての費用は、持ってくれるようだ。報告義務のようなものがあるらしく、時々は責任者に会って、色々と話さないといけないらしい。フレアさんやノエルさんでいいのだろうか。
「ねぇ、ふーたん。このフライドポテトってお芋?」
「そうだよ」
「じゃあ、これとね。後はえっと」
「ゆっくり決めな」
守秘義務も発生するらしい。読んだ感じ、第三者には絶対秘密の様だ。とはいえ世界の為なので、流石に桐生先輩には話を通しておこうと思う。
……それ以外は、当たり障りの無さそうな内容だ。一先ず目を通していく。
「……決めた。じゃあ、これにするね」
「うん、分かった」
「後、ドリンクバー!」
「はいはい」
「……」
書類を置く。
「ねぇ、ふーたん。俺、一番高いステーキセットがいい。後デザート」
「急にどうした」
「私も食べたい!」
なんか聞こえてきた親子みたいなやり取りに混ざりたくなっただけである。
***
「それじゃあ、わため。何かあったら連絡してね」
「うん。ありがとう、ふーたん」
立ち去るフレアさんに、わためと二人で手を振り、別れる。
今更だが、どこら辺に住んでるんだろう。聞いたことが無い。
見えなくなるまで見送ってから、わための方を向く。
「しかし、良かったのか? フレアさんと相当仲良さそうだったが」
「折角だし、地元の人と一緒の方が、色々見れそうじゃない?」
「まあ、言いたいことは分かるけど」
わためがいいならいいかと、考えを改める。
「買い物して帰るか。食事したばかりだけど、夕飯は何がいい?」
「食べたこと無いやつ」
「わための食事事情は知らんのだけど……芋系でいい?」
「うん。いいよ」
じゃあまあ、コロッケとかでいいだろうか。
わためを促して、歩き出しながら、一応シオンには先に連絡しておこうと、メッセージアプリでメッセージを送る。
『同居人が増えます』
送信……あ、やべ。
急いで送信を取り消そうとしたが、それより早く既読が付いた。
即レスされる。
『どういうことなのです?』
『……紹介するので、今晩どうですか?』
ホロオルタPV2良すぎでバトルが書きたい欲が抑えきれないので、次回は番外編です。
文章の構成はどちらがいいですか
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全部詰める(全話までのやり方)
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地文と会話文の間に改行を入れる(今回)