紫咲シオン
潤羽るしあ
角巻わため
客間とされている和室の中に、骸骨達の手によりわためは連れ込まれた。
電気が点いていないせいで、暗い。
明るい所に居たせいで、目が慣れるのに、暫く時間がかかる。
漸く目が慣れると、そこは不思議な部屋だった。
紙の壁、草で編まれた床。さっきまでいた、木の床とは趣が違う。
この部屋を借りたいななんて、そんな現実逃避を暫しして。恐る恐る、わためは振り返る。
「あの、るしあさん」
尋ねるがるしあからの答えは無く。
代わりとばかりに、からりからりと、そこら中から音がする。
先程の件で、音の原因が分かっているわためは、「ひぃぃ」とひきつった声を上げながら、周囲を見渡す。
そこかしこから現れる、骸骨。また、骸骨。
死霊術なんて言葉を知らないわためにとっては、その光景は悪夢でしかない。
「……さて、わためちゃん」
声を掛けられ、わための肩が跳ねた。
視線を、るしあへ移せば。闇の中でも分かるほどに、赤い瞳が煌々と輝いていた。
「色々、聞かせて貰えるかなぁ?」
***
先日の晩。わためとフレアさんと会う前日。
るしあを交えた3人での夕飯を終えた後、ダイニングからリビングへと場所を移していた。
場所を移すと言っても、壁等で仕切られているわけでもないから気分の問題でしかないのだが。
それでも、気分を改める、という意味では効果があって、ソファーに座るシオンの前で正座をする俺とるしあは、すっかり生徒の気分だった。
おほんと、シオンが仰々しく咳ばらいをする。
「まあ、やろうとしてることは単純なの。アンタから、一時的に魔力を全て奪うわ」
「セリフの悪役感が凄い」
「魔界でそんな事を言ったら、暴動が起きますよ」
「黙りなさい」
怒られたので口を噤む。
「現状、アンタの問題点は目に魔力が行き過ぎている事。そのせいで、見えなくていい物が見えてるし、るしあちゃんの影響で死霊術まで発動してる」
「そうだな」
暇じゃよと言わんばかりに、顔にしがみつくタロを見ながら答える。
「ちょっと、退いてましょうね」と、るしあに連れていかれるタロ。んっんと、シオンは再度、咳払い。
「じゃあ、なんでアンタが目に魔力を与えすぎているか。原因は幾つかあるでしょうけど、1番はやっぱり制御出来ていないから。そのせいで、必要以上の魔力が、現状唯一魔力を使う器官である目に多く集められている……って、所だと思う」
「成程?」
分からん。とりあえず、目に沢山魔力が吸われてる事だけ分かった。
「でも、聞いている限り、結局制御しなきゃいけないって事なんだろ? それについては、さっきシオンが言ってたじゃないか。走り方を教えるみたいな、こう、教える類の物じゃないみたいな事」
だからシオンは悩み始め、だから夕飯を作り始めたというのに。こくこくと、同意するようにるしあが首を縦に振る。
「正確には、正常な状態を教える事が、そういう事って意味で言ったの。言っとくけど、魔力の制御を教えるだけなら、出来るわ」
「……え? そうなの?」
「ただ、それは最低限、アンタが魔力を感じられる状態。要は、最低限走るって言う事が何かを知って、実行出来る状態でないといけないの。魔力の制御って言うのは、魔法の効果を上げたり、魔力の消費を抑えたりって、+αの技術を教えるって事だから」
「ああ」
シオンの言いたいことが分かってきた。
「つまり、シオンが思いついたのは、俺が魔力の正常な状態を学ぶ方法って事なんだな」
「そういうこと。そのために、アンタの魔力を奪うわ」
「ちょっとそこが繋がらないんだけど」
というかワードチョイスが物騒なのはわざとなのだろうか。
「さっき言った通り、アンタは一応魔法を使うための必要十分な魔力を体内で作れる状態にはある」
「言ってたな」
「それでも実感出来ないのは、多分魔力を生み出せるようになる間、ちょこ先生の魔法で眠り続けていたから。起きたら変わり切ってて、それに体が慣れていたから、違和感を覚えなかったんだと思う」
「……ああ。そういえば」
目が変わって数日間、眠り続けていたことを思い出す。
「要は、その時間を追体験するの」
「追体験……。シオンの魔法で俺から魔力を抜き取るから、その後、魔力が作られるのを体で感じろって言う意味か」
「そうそう。それが問題無く済んだら、改めて制御について教えれば、魔法が使えるまでいかずとも、オンオフとかハイローくらいの制御は出来るようになる……はず」
「ふむ」
理解は出来た。しかし、そうなると。
「目はどうなる? 見えなくなるのか?」
「そうなるわね。今の状態は魔力によるものだから、魔力が無くなれば、見えなくなるわ」
「見えなくなるの?」
「盲目って意味じゃないわ。目薬を差す前みたいに、コンタクトをつける必要が出てきて、後は幽霊とか角とかが見えなくなるって事」
「あー」
それはちょっと複雑かもしれないけど。まあ、一時的ならいいかと、切り替える。
「他に質問は無い? 無いなら、さっさと初め──」
「……るしあは反対なのです」
「──ふーん」
動き出そうとするシオンを遮るように、るしあが声を上げた。シオンの視線が、るしあに向く。
「どうして?」
「だって、危険なのです。魔力を全て奪うなんて、そんな事」
「そうなのか?」
「魔界の事例の中には、身の丈に合わない大魔法を使った結果、魔力を著しく欠乏し、生死の境を彷徨ったり、酷い時だと亡くなる事もあるのです」
「……え、マジ?」
「本当」
「お、おう」
シオンにも聞けば、それがどうしたと言わんばかりに肯定される。
実際、そうなのかもしれない。少なくともシオンは、自身の魔力量を鍛える為に、自身を追い込んでいたらしい。その追い込み方が、果たして彼女が俺に施そうとしている事と同じか分からないが、全く的外れという事も無いだろう。少なくとも、魔力量増強の手段の話から、今の方法を思いついた時点で、全く無関係という事も無いだろうから。
シオンは溜息を一つこぼし、るしあに向き直る。睨むような表情のるしあに、シオンは平然としていた。
「魔界出身なら、確かに生体活動の一部に魔力を用いているから、著しく魔力を失えば生命活動に支障をきたすことはあるけど。こいつは人間の世界出身で、魔力を使っているのは目だけなんだから、大丈夫よ」
「先輩が魔法薬を使ったのは目だけじゃなくて、ミオ先輩の攻撃の怪我を治すのにも使いました。もしかしたらその時から、生体活動に魔力を使っていないとも限らないのです」
「あ、やっぱりそうなんだ」
なんとなく察していたけど詳しく聞いていなかったことが、さらっと暴露された。
やっぱ使われてたのか。まあ、明らかに傷の治り早かったし、ちょこ先にも病院で謝られたしな。
びくりとるしあが肩を震わせる。やってしまったという表情を浮かべる彼女の正面に居るシオンが、俺へジト目を向けてきた。
「……そういえば、聞いてなかったわね」
「俺も確証が無かったから。説明も受けてないし」
「…………他に何か隠してるなら、早めに言っておきなさい」
「…………多分無い」
正直自信は無かった。
「──とにかく! そういう事なので、先輩から魔力を全部抜き取るとか、反対なのです。もっといいやり方がある筈です」
「大丈夫。さっきも言ったけど、魔力を使っているのは目だけ」
「だから、それは」
「分かるから、言ってる」
有無の言わせぬ口調のシオンに、るしあは言葉を詰まらせた。
一方で、俺には疑問符が浮かぶ。
「シオン、気づいてたの? 魔法薬の事?」
「山小屋でアンタの事を見つけた時にはね」
「すげー」
「当然よ」
本当かどうかは分からないけど。胸を張るシオンへ、ぱちぱちと拍手を送る。
「で? 他の質問が無いなら始めるけど」
「……無いのです」
「そ」
視線を逸らしたるしあ。シオンは俺へと手を翳す。
「るしあ」
「……はいなのです」
「ありがとうな。俺じゃ、気が付かなかったし、知らなかったから、助かったよ。お陰で安心出来た」
「……でも、意味無かったのです」
「そんなこと無い」
少なくとも、手を翳すシオンに恐怖を覚えないのは、シオンへの信頼は勿論あるが、るしあが質問してくれたからだ。
……ていうか。
「そもそもお前の説明不足が原因だぞ」
「大丈夫って分かってるのに説明するの面倒じゃない」
「気持ちは分からないでもないけど」
そのせいでるしあと若干揉めたという事実は、しっかり反省して貰いたい所である。
「……じゃあまあ、頼む」
「おっけー」
シオンの手が光り、直後、何かを吸い出される感覚に襲われる。
ぐらりと揺れた体を、るしあに支えられた。
「ちょっ。シオンさん、本当に大丈夫なんですか⁉」
「大丈夫大丈夫」
軽すぎて不安になってきた。吸い出される感覚はまだ続く。
時間にしてどれほどか。やがてシオンの手の発光が収まり、ぐったりと体の力が抜けた。
倒れそうな体をるしあに支えられる。礼を言わねばと顔を上げて、るしあの顔を見ようとするが。
「……先輩。何でるしあ、睨まれてるんですか」
「すまん、見えない」
「あ」
しょぼしょぼする目をこすり。
ようやっと力が入れられるようになった体に鞭を打ち、起こす。
「思ったよりきつい」
「想定より体に魔力が馴染んでたのね。ごめん」
「軽い」
ピントの合わない目に少々イライラしながら、眉間を揉む。
「……そういえば、どれくらいこの生活を送らせる予定なんだ?」
「うーん。経過次第」
「あ、はい」
***
油が跳ねても、目に入る心配が無いのは眼鏡の利点だなと思いながら、コロッケを揚げ切る。
千切りキャベツに立てかけるように並べ、後はご飯やお味噌汁を装う。
なんか、いつもの夕飯みたいだなと、わための歓迎用に拵えた筈の夕飯を暫し眺めてから、今更どうしようもないので、ダイニングテーブルへと配膳する。
「さて……わためとるしあの話し合い、終わってるかな」
「ジンギスカンになってたりして」
「うーん……」
流石にそれは無いだろうけど、過度のトラウマが植え付けられている可能性は否めない。そもそも骸骨に抱えて連れて行かれる時点で、まあまあトラウマものだ。
大丈夫であることを信じ、わためとるしあを呼ぶ為に客間へ向かう。
歩いて数分。客間の前。
「……」
空気が重いというか、禍々しいというか。
正直開けたく無いなぁと思いながら、俺は扉をノックした。
「るしあ。わため。飯出来たぞ」
「……」
返事が無い。ただの……辞めておこう。
深呼吸して、ドアノブに手をかける。頭の中でカウント。
3……2……1…………1…………2……。
「おらあ!」
一生カウントダウンが終わらない気配を感じ、気合一発、一気に開ける。
開け放った襖。その奥に広がる地獄絵図。
壁際に、自分の首であろう頭蓋骨を打楽器にしている骸骨がずらりと並び。
中央のテーブルの周りでは、骸骨達が正座をし、何やら崇めていて。
テーブルの上にも骸骨が数体。そして。
「お、下ろしてー!」
「ふはは! さあ吐け! 吐くのです!」
その骸骨達に胴上げされているわためと、一緒に胴上げしようとしているらしいのだが、届いていないるしあが居た。
「……テーブルに、乗るな!」
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全部詰める(全話までのやり方)
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地文と会話文の間に改行を入れる(今回)