大空スバル
「決まった?」
「んー……」
眼鏡屋にて。来店後、2時間経過。店員さんの視線が少し痛いのは何故だろう。眼鏡を選んで貰っているだけなのだが。
すっかり眼鏡付け替え人形が板についてきた俺は、大空の指示でまた別の眼鏡を掛けていた。
予算範囲内のコーナーは既に一通り装着し、少し前に予算オーバーのお高めゾーンに移動。
流石にここはちょっととは話していたのだが、サンプルは多い方がいいからと言う大空に負けて、此処でも一通り装着していた。
「やっぱ、こっち……でもなー」
この店で俺がかけていない眼鏡は、レディースのモデルだけではと俺が思い始めた頃に、漸く大空の中での選択肢は、3つ程に絞られたらしい。
その内の1つは、来店直後に掛けた丸いレンズだ。結構気に入っているらしく、似たような形の他のタイプを幾つか試着したが、これが勝ち残った。大空のお気に入りっぽい。
2つ目はレンズが細めの四角レンズ。1つ目の眼鏡は、掛けた時に柔らかい印象を与えるのだが、こっちは掛けた時の印象がキリリと鋭くなるタイプ。更に言うなら無難で、いつでも掛けられる。
3つ目は2つ目と同系統で、フレームのデザインが少し違う。お値段がちょっと予算オーバーなのだが、2つ目よりもデザインは好きだから、俺としては2つ目よりは3つ目かなといった感じ。ただお値段。安くなったりしないだろうか。
「もう一回、これ掛けてみて」
「ん」
渡されたのは、1つ目。かちゃりと着ければ、ぐぬぬと大空。
「やっぱりこれかなぁ。でも、いつでも掛けられるかって言われると、ちょっと違うかなぁ」
こっちもかけてと、3つ目を渡される。
「……こっちの方が、やっぱり普通かな。でも、締まりすぎな気がする」
「お前は俺をどう思ってるんだ」
「なんかこう……ふわふわ」
「……?」
良く分からない感想だった。
「俺程質実剛健眉目秀麗有智高才なのいないと思うんだが」
「有智高才出てくるの凄いのに、それだけ聞くと凄くアホだよね」
「……」
「だから四角い眼鏡が似合うんだけど、違うんだよ」
英明果敢なこの俺の頭脳をもってしても反論の言葉が思いつかなかったので、素直に黙る。
「でも良く使えるのは四角い方だし」
うーんと、悩む大空。こんなに熱心に悩んでくれるなんて……フブキ部長と同じ眼鏡フェチなんだろうか。
話が合いそうだなぁと思いながら、俺は眼鏡を手に取る。大空一押しらしい、丸いレンズの奴。
「これにするよ」
「え? でも」
「基本的にコンタクトだから、毎日掛けてるわけでもないし。だったら、大空が俺に似合ってるって思ってるやつの方がいい」
それとも、やっぱり似合わない? と聞いてやれば、一番似合うと、お墨付きをもらった。
店員を呼び、少しやり取りをして、持っているのと同じフレームを見つけて貰うと、視力検査のためについていく。
「……そう言う所なんだよなー」
「何が?」
「聞こえない振りしろ」
何を言っているんだろうか。分からぬまま、視力検査の機器の前に座る。ちなみに、この機械、オートレフラクトメータというらしい。
視力検査をした結果、両目視力共に0.1だったのは、まあ、お察しといったところ。乱視が無いだけましだったかもしれない。
レンズはちゃんとあったので、加工にかかる30分程を潰すために、スバルとともに店を出て、駅の周りで時間が潰せそうな場所を探す。
「どうする? どこか適当なお店にでも入る?」
「……せっかくだから、この前の埋め合わせをさせてくれ」
「埋め合わせって……あ」
***
というわけで、以前ドタキャンしてしまったパフェの約束を果たすべく、一緒に喫茶店へ向かう。
目当ての喫茶店は、駅の北口方面で、少し行った裏路地にある、隠れた店舗のような場所らしい。
家と学園、たまにスーパーや商店街を行き来するだけの俺の生活とは、無縁の場所であった。スバル自身も来るのは初めてで、件のパフェはクラスメイトから聞いたらしい。量が多く、味もいい。一見の価値あり。そんな具合だったらしい。
「まだ、行って無くて良かった」
「一緒に行く男友達の当ても無かったし」
「大空なら他にも誘ったら着いて来そうな男友達居そうだけど」
「そうかな?」
うーん、と大空が頭をひねる。
俺のクラスだと、大空スバルは割と憧れの対象だったりするのだが。俺のクラスだけなのだろうか。
歩きながら、暫く悩んだのち。
「いるかもしれないけど」
と大空。
「男子で最初に誘おうと思ったのは君だよ」
「……そう」
顔を扇ぎながら、なんとなく周囲を見渡してしまう。幸い、e-sports部も総合格闘技部も姿は無かった。
「此処曲がって……あった。あそこ」
大空が指さした先に、確かに喫茶店がある。少し日当たりが悪そうな立地。オープンテラスのようなものは無い様で、下半分がレンガっぽく、上半分は白のオーソドックスな店舗。通りに面した窓越しに中を覗けば、マスターらしき男性がカウンターの向こうに見えた。その背後に、酒瓶。アルコールの提供もしているらしい。バーって奴だろう。時間帯的に丁度営業が入れ替わりそうなタイミングだが、大丈夫だろうか。
心配している俺をよそに、物怖じする様子の無い大空がずんずん進み、扉を開けた。小走り気味に走り追いつき、大空の後ろから店へと入る。
「いらっしゃい」
マスターらしき男性から声がかかる。特に何も言う様子が無い所を見るに、とりあえず問題ないようだ。
大空が通りに面した窓のあるテーブルにつき、その対面へと腰を下ろしながら、軽く店内を見渡す。
全体的にモノトーンのシックな店内。天井にはペンダントライトとシーリングファンが等間隔に並び、各テーブル席の間がかなりしっかりと開いていて、席の数が少ない。
日も暮れかけの薄暗さも合わさって、アダルティな雰囲気。これは、なんというか。
「パフェって雰囲気じゃないな」
「そうだね」
ポツリと呟いた俺の言葉に、同じように店内を見渡していた大空が反応する。なんか、珈琲を飲みながら一日の終わりを楽しむみたいな過ごし方を求められそうだ。
パフェ頼むのどうするかなという雰囲気になりつつある俺と大空の元へ、お冷が二つ。運んできたのは、カウンターにいた男性ではなく、その人と同じエプロンを身に着けた女性であった。
「いらっしゃいませ。注文は決まってる? もしかして、専用パフェ食べに来たとか?」
「専用パフェ?」
寡黙な印象を与える男性と違い、このウェイトレスらしいの女性は、結構おしゃべりが好きなのか、それとも若干雰囲気にのまれていた俺と大空に気を利かせてくれたのか、フレンドリーな口調でそんなことを尋ねてきた。
これ幸いと話に乗ると、ウェイトレスさんはテーブルに置かれていたメニューを手に取り、ぱらぱらとめくっていき。数秒と待たずに目当てのページを見つけたらしく、そのページを開いてこちらに見せてきた。
そこに載っていた写真は、まあ予想通りの品。
「カップル専用パフェ──なんていうけど、本当はパーティー向けの巨大パフェを一回り位小さくさせただけなんだけど」
「男女ペアでないと頼めない……って感じじゃなさそうですね」
特にそんな注意文句は書かれていない。
「今厳しいから。お一人様でも同性のお友達同士でも、頼まれたら提供するわよ?」
「……騙された」
頭を抱えた大空がぼそりと恨み節を呟くのを聞いた。
「じゃあ、そのパフェを一つと……何飲む?」
「……カフェオレ」
「カフェオレと珈琲を一つずつ」
「はーい」
ウェイトレスさんが立ち去る。鬼が出るか蛇が出るか。願わくば、普通に美味しいパフェが出ることを願うのみである。
「まあ、なんだ。食べたかったんだろ? ならいいじゃないか」
「そうだけどさ」
お冷の入ったグラスを呷り。勢いのまま──という事は無く、大空はゆっくりとテーブルへグラスを置く。
唇を尖らせる大空に苦笑しながら、空のグラスに新しい水を注ぐ。
「やっぱ悔しいじゃん」
「なら、その友達に異性とパフェを食べに行ったって本当の事を言ってやったらいいんじゃないか? そうしたらマウントもとれるだろ」
俺の言葉に一瞬ぽかんとした大空。それから何事かを考え始め、にやりと笑う。
「確かに」
シュバシュバシュバと、大空が悪そうな笑い声をあげる。異性と交遊の有無があるのかは、やはりヒエラルキーに関わってくるのだろうか。クラスメイトの男子にも、少し前に女子と遊んだとかでマウントを取られた記憶がある。その時にはもうシオンと暮らしていたから、俺は一緒に住んでるとマウントを取り返そうかと少し考えた所を大空に声を掛けられ、別れた所でフブキ先輩、最後はるしあに声を掛けられたので、有耶無耶になってしまった。
ただ、るしあの用事が終わった時には、「すみません、生意気言いました」と謝られたので、良く分からないが勝利したのだと思う。
「それに俺としては、大空に誘って貰わなければこの店を知る機会も無かったんだから。その騙してくれた大空の友達に感謝だ」
「……お、おう」
「どうした?」
「いや、何でもないッス」
ぱたぱた顔を扇ぐ大空。はて、その反応は何処かで見た気がする。
どこだっけなと思いながらお冷を飲んでいると、「お待たせしましたー」と先程のウェイトレスさんの声。
見上げれば、トレイを片手に顔をひきつらせたウェイトレスさんが居る。なんか、表情が崩れそうになるのを懸命にこらえている感じの顔だ。
「どうしました?」
「いえ。何でもないのよ?」
「何でも無い顔には見えないですけど」
大空も心配そうな顔をしている。
ウェイトレスさんは、おほほと誤魔化すような笑い声をあげると、テーブルに俺と大空が注文した珈琲とカフェオレを置く。
「パフェはもう少し待っててね」
それだけ言い残し、下がるウェイトレスさん。
「どうしたのかな?」
「さあ?」
何か大変な事が起こったのなら、もう少し変な顔をしそうなものだが。
どこか呆れた様子の、マスターさんの顔が気になる。
何なんだろうかと思いながら、珈琲を啜る。美味しかった。これならパフェも期待出来るだろうか。
大空も同じ感想を得たようで、カップから目線を上げ、大空と目が合った時。
大空は楽しそうに笑った。
「パフェ、楽しみッスね」
「ああ」
閑話がまだ続くバグ
文章の構成はどちらがいいですか
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全部詰める(全話までのやり方)
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地文と会話文の間に改行を入れる(今回)