大空スバル
「お待たせしましたー。ごゆっくりどうぞー」
「「……」」
テーブルの上に、パフェが鎮座していた。それを見て、 パフェ楽しみだなとか思っていた、数分前の自分をしばきたくなる。
対面に座る大空も似たようなことを思っているのか、ゲンドウポーズをして、座った眼で届いたパフェを見ていた。
総重量……何キロくらいなんだろうか。高さは俺や大空の顔よりも長い。チャレンジメニューの類なのではと思わざるを得ない様相。倒してしまったら大惨事間違いなしだ。
「……大空」
「……何?」
「どれくらい喰えそう?」
「3……4分の1かな」
「そっか」
まあ、俺も同じくらいだろう。小食というわけでは無いが、大食いというわけでもない。
頑張って、頑張って半分だろうか。それでも……普通のパフェの総量より多そうな気がする。
ぱっと見の印象だが、このパフェ、5人前位ありそうだし。
「これでパーティー向けのパフェを一回り小さくしたって言ってたっすね」
「何人パーティーを想定してるんだろう」
10人くらい? それとも、俺が知らないだけで普通の人はもっと沢山食べるのだろうか。
「……とりあえず、食べるか」
「そうだね」
取り皿とか頼んだ方がいいだろうかと思ったが、立ち上がった大空がそのまま食べ始めたので、俺も同じように立ち上がり、食べ始める。行儀が良くないのだが、そうしないと届かない。
コーンフレークやスポンジ、果物やクリームが交互に層になっている、サイズ以外は普通のパフェ。一番上に盛られたクリームを一匙。食べれば、口当たりが柔らかく、自家製であることが分かった。
サイズがサイズだから、もっと大味なのかと思ったが、そんなこと無いらしい。クリームに刺さっている果物等と合わせながら、ちまちまと、食べ進める。時折珈琲を飲んでリセットし、更に進める。
「普通においしいね」
「ああ。食べに来た甲斐があるな」
「これなら意外と食べきれるかも」
「……それ、フラグなのでは」
状況は、クリーム層をいったん抜けて、果物の層が見えてきた辺り。
果物はしっかりと処理されている様子。多分この喫茶店は他の甘味類も美味しいんだろうなと思える味。上に残っているクリームも合わせながら、食べ進めていく。
ただ、如何せん量が多い。この果物の層を抜けても、まだスポンジとフレークとクリームの層がある。
最悪流し込めるだろうか。少し考えて否定する。クリームなら兎も角、固形物を流し込めるはずがない。
少しずつでも食べ進めながら、大空の方を見る。
「大丈夫?」
「……ダメかもしれない」
「そっか」
大空はスプーンこそ動いているが、さっきまでと比べて明らかに速度が遅い。
オレンジ一切れ、食べるのがやっとの様な動きだ。
せめて2段あるスポンジの上側半分だけでも食べてほしいのだが。とはいえ、無理をさせるのも申し訳ない。
食べ進めるうちに、スポンジゾーンに到着した俺は、一先ず少し食べて、どんなもんか共有しようと思い、スポンジをスプーンで取って。そこで気づく。
「大空」
「何?」
「このスポンジ……ケーキだ」
「……え?」
スポンジとスポンジの間にクリームと薄くスライスされたイチゴがあった。外側からだと一見して分からないようにコーティングされていたらしい。
とりあえず食べる。スポンジは上のクリームや果物に潰されることなく、ふわふわを保っていて。中に入っているクリームやイチゴに負ける事無く、しっかりとしたものだった。正直箸休めにさせてほしいから、是非スポンジだけにして貰いたかったものである。
「……はい、大空」
スポンジ……というかケーキを一掬いして、大空へと差し出す。
逡巡したものの、大空はぱくりと、それを頬張る。
「…………美味しい」
「ならよかった」
ただ、その言葉を最後に、大空はスプーンをテーブルに置いた。
「ちょっと休ませて」
「……なら大空。代わりに眼鏡取りに行ってくれないか?」
「眼鏡? ……そういえば、そうだったね。動けばまた食べられるかな」
そう言うと大空はお腹のあたりをさすり、動けるかどうかを確認する。
「……大丈夫そう。行ってくる」
「頼んだー」
引換券を渡すと、大空が席を立ち、店を出て行った。
パフェを手元に引き寄せる。
味わって食べたいのはやまやまなのだが、そんな余裕はないので、無心で食べ進める。せめて大空が戻ってくるまでに、二段目のスポンジ改めケーキゾーンまでは進めておきたい。
大空側にまだ残っていた果物類と、ケーキを絡めながら食べていく。しかし、なぜケーキにしてしまったのか。重さが増すだろうに。やっぱりチャレンジメニューなのかもしれない。
パフェを数口食べて、珈琲でリセットの流れを崩さないように食べていく。食べるのを辞めたら食べられなくなりそうだから、口は止めない。
だが、そうしていると先に珈琲が無くなった。水でもいいのだが、珈琲の苦みは惜しい。
「すみません」
「はーい」
「珈琲のお替り。アイスで」
「畏まりました。それでなんですけど」
「はい?」
「女の子はどちらに? お店、出て行ったみたいですけど」
「眼鏡を取りに行ってもらいました。動けばまた食べられるだろうし」
「あー、成程」
「てっきり喧嘩でもしちゃったのかなって。そういう事なら良かった」
良くは無いだろという言葉を辛うじて飲み込み、「珈琲お願いします」と再度言って、食事に戻る。
ケーキのゾーンは6割がた食べ進め、下のフレークのゾーン。幸いここは、がっつりとチョコレートが塗してあるような甘過ぎる場所ではなく、コーンフレークと言われてぱっと思いつきそうな、ほんのりとした甘さ。
感触もさくさくとしたそれで、ここまでの物とは違う。箸休めには丁度いい。
上に残っていたクリームやケーキを、先んじて黙々と食べ切り、漸く一息。コーンフレークをもそもそと食べる。このコーンフレークは恐らく市販の物なのだろうが、これが一番おいしいと思うあたり、大分参っている気がする。
フレークの下はクリームで、果物も入っている。そこまで食べきれれば、後のケーキとフレークは大空が多分、食べ切ってくれる。
「お待たせしましたー」
「どーも」
珈琲を一口。覚悟を決めて、クリームに取り掛かる。
クリームはおいしい。果物の酸味もいい感じ。ただ多い。当分甘いものはいらない。
……糖分だけに、当分いらない。
「……しまった」
絶不調になった気がする。
珈琲を啜り、気持ちを切り替える。中々飲み込みづらくなってきた果物を、強引に飲み込んだり、珈琲で流し込んだりしながら、格闘。
しかしかなりずっしり来ているし、何より眠い。もぐもぐと口を動かしながら、途切れそうな意識を繋ぐ。
この眠気は何だろうか。満腹のせいか、血糖値が上がったせいか。欠伸が漏れる。このままだと寝落ちしそうだ。
「お待たせ!」
はよ、と、思った矢先、扉を開けて、待ち人が来る。その手に、眼鏡屋の紙袋……がない。
「ごめんね。試着して貰わないと、ダメだって言われちゃった。しかも戻ってくる時に、部員に捕まっちゃって、遅くなっちゃったし。大丈夫?」
「へーき、へーき」
「それで、どうする? 取りに行く?」
「あー……後ででいいよ」
「そっか」
言いながら席へと座ると、スプーンを手に取った。
「後は任せるっすよ」
スプーンを手に取り、スバルが意気込んだ。
「ちょっと休む。すまんが頼む、スバル」
「うん! ……うん? ねえ、今」
額にテーブルの感触を味わいながら、意識を手放す。すやぁ。
「起きて。おーきーてー」
「──ん?」
揺さぶられ、意識が戻る。
体を上げると、いの一番に、大空が目に入った。
「あ、起きた」
「……おはよう」
「おはよ」
大空の声を聴きながら、目をこすりながら、状況を思い出す。
パフェを食べている最中に寝落ちしただけだが。
「どれくらい寝てた?」
「10分くらいかな」
「結構寝てたな」
ちらりと視線を落とせば、もうほとんど残っていないパフェ。二口程度で、俺と大空で一口ずつ食べれば良さそうだった。
大空が、ひょいとスプーンでパフェを掬った。はい、と、パフェを差し出され、同じく掬う。
「せーの」
大空の音頭に合わせ、同時に食べる。もぐもぐ、ごくんと飲み込んで。
「終わったー」
大空がスプーンをパフェの入っていた器へ入れた。同じくスプーンを器に入れて、すっかり冷めた珈琲を啜る。
「辛かった」
「まあ、途中運動したり寝たりしてるから、食事の仕方としてどうなのとは思うけどな」
「美味しく食べ切る為には、仕方が無いでしょ。残すよりいいと思うし」
「そうだな」
時計を見れば、普段なら帰宅して、夕飯の準備をしている時間。
今から帰ってご飯を作るのは正直億劫だ。どっかでお惣菜か何か、買っていってしまおうか。
悩みながら、カップをテーブルに戻す。
「動ける?」
「大丈夫」
「じゃ、帰るか。眼鏡も受け取りにいかないといけないし」
「うん」
立ち上がり、レジへ。会計は俺持ち。
「ありがとうございました。また来てね」
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさまでした! また来るッス!」
ウェイトレスさんに挨拶をして、大空と店を出る。
「いやぁ……美味かったな」
「美味しかったッスね。今度は普通のサイズがいいけど」
「本当に」
美味しく食べられる量が一番だ。まああの喫茶店が、俗にいうデカ盛り店っていうやつで、全メニュー量が多い可能性は否めないけど。
日も暮れかけ。薄暗くなった路地を、歩いて抜け、そのまま眼鏡屋へ向かう。
「……ところでさ」
「ん? 何、大空?」
「…………ん?」
「ん?」
こちらを向いた大空と目が合う。何か驚いた顔をしていた。どうしたのか。
「あれ? 大空って呼んだ?」
「え? 大空の事、大空以外で呼んだか?」
「呼んだ! さっき、スバルって!」
記憶に無いが。さっき寝ぼけてたから、その時だろうか。
「寝ぼけてたから、文字数で選んだのかも」
「どういう事⁉」
どうもこうも。短い方を選んだ。
「ごめん、ごめん。気に障ったなら謝る」
「……いや、別に怒ってた訳じゃないけど。今、ふつふつと怒りは沸いてる」
なんでや。
大空は、唇を尖らせ、不満そうな様子を露にする。
「……別にいいけどさ。何か、距離感じる」
「……まあ、確かに」
元々、対して接点が無いから名字で呼んでいたが、それなりに一緒に遊んだりしていることを考えると、大空呼びは、確かに距離があるように思う。それに、眼鏡を選んでくれたお礼も兼ねれば、気恥ずかしさとか抵抗も少ない。
「……分かった」
「何が?」
「呼び方。変え──」
大空を突き飛ばす。
何かが見えたわけでも、聞こえたわけでもなく。
ただ、頭の中にタロの鳴き声が響いた気がして、反射的に大空を自分の傍から離さなければと思っただけ。
だから、その後に首や体に何かが巻き付くような感覚は想定外で、踏ん張る隙も無く、体が引っ張られた。
「いったー……ちょっと、何を──あれ? どこ行ったの?」
遅刻してすみません。
その週の投稿予定などを、fanboxとかTwitterで報告しようかなと思うので、良ければ、作者マイページからどうぞ。
文章の構成はどちらがいいですか
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全部詰める(全話までのやり方)
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地文と会話文の間に改行を入れる(今回)