ホロ学園の「俺」君物語   作:零円

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登場ライバー
潤羽るしあ
癒月ちょこ


依頼2

 イナとの邂逅の翌日。授業を受け終えた放課後。

 SHRが終わってから暫くして、俺は保健室の扉をノックした。

『どーぞー』

 中からちょこ先の声。息も絶え絶えに、俺は挨拶とともに、扉を開ける。

「し、失礼……します……」

 開けた先に、ちょこ先とるしあの姿を確認して、中に入った。

 戸を閉め、常備されているパイプ椅子を取り出して2人の近くに座り、漸く一息ついた。

「お疲れ様なのです、先輩。逃げきれて良かったのです。はい、どうぞ」

「ああ……本当に。ありがとう、るしあ」

 タロか、他の霊か。

 兎に角誰かに聞いていたようで、るしあはスポーツドリンクを差し出してくれた。

 これも保健室に常備してあるやつだったので、遠慮なく貰い、呷る。

「──ぷは。畜生、あいつらめ」

「e-sports部と総合格闘技部?」

「はい……あれ? ちょこ先、何で知ってるんですか?」

「噂になってるからねぇ」

「噂?」

 何のことだろうか。あいつらと関わる事なんて、スバルと関わらなければ無いと思うのだが。

 良く分からず首を傾げる俺に、「先輩」とるしあ。

「その眼鏡、大空先輩に選んで貰ったって聞いたんですけど、本当ですか?」

「え? ああ。そうだけど。センスに自信無いし、選んであげるって言われたから」

「あら。本当だったの、その噂? やるじゃない」

「本当に。スバル、いいセンスしてます」

 感心した様子を見せるちょこ先の言葉に同意する。

 昨日俺の新眼鏡を見たシオンとわためも、似合ってると言ってくれたし。本当、自分で選ばなくて良かった。

 ただ、俺の言葉に、ちょこ先が不思議と苦笑する。そういう意味じゃないんだけどと、言わんばかりだ。

 と、いうか。

「昨日、スバルと眼鏡を買いに行ったことが噂になってるんですか?」

 漸く先程まで行われていたあいつらとの追いかけっこの原因に思い至り、ちょこ先に尋ねた。

 ちょこ先が、首を縦に振って答える。

 一方の俺は理由が分からず、首を傾げた。

 そもそも出かける約束は朝の通学路でしたし、帰りも一緒に学校を出ているから、目撃者は多数いるだろうし、スバル自身、陽キャ筆頭の結構な有名人であることは知っているから、まあ話題に上がるというのは分からないでもないが、それでもそんな風に大々的な噂になるとは思えない。

 噂の内容ではなく、出所の問題だろうか。悩む俺に、ちなみにとちょこ先。

「噂の発端はあやめがスバルと貴方が逢引に行ったのに、私は仕事なんてヤダって言って、昨日の放課後に天音さんと追いかけっこしてたからね」

「おい」

 何やってんだ、あの生徒会長。

「その結果、ホロ学園はあやスバ以外認めない派、三角関係の痴情の縺れ派、というかあの男誰だっけ派、その他大勢の3つに分かれ、混沌を極めていたわね」

「4つでしたが」

「割合的には10:1:0.1:88.9」

「ほとんど興味無いの草だが」

 そして思ったよりもあやスバが多い。

「まあ、冗談なんだけど」

「ですよね」

「混沌を極めてた辺りは」

「あ、追いかけっこは本当なんですね」

 天音先輩、お疲れ様でした。今度またお手伝いに行きますね。

「目立ちたくないなら、暫くは大人しくしていた方がいいわね」

「はーい」

 しかし、目立ちたいと思った事は無いから、大人しくしろと言われてもどうしたらいいのかわからない。

 そしてるしあの瞳からハイライトが消えている理由も分からない。スバルとの噂が本当だと答えた辺りから怪しくなり、スバルを名前で呼んだ所からハイライトが消えた。

「……そろそろ、昨日の話に入ってもいいですか?」

 気づかなかった事にして、話題を変える。

 元々要件はそれであった。昨日の晩、フブキ部長やミオ先輩との通話が終わった後、ちょこ先とるしあには簡単に話をして、詳しい説明と話を聞く為に放課後、時間を取ってもらった。

 本当は授業終わってすぐのつもりが、想わぬ邪魔が入ったからすでに遅くなっていて、完全下校時刻がもう間近。終わるだろうか。

「私は構わないけど」

 そう言いながら、ちょこ先の視線はるしあへ向く。

 俺もるしあへ視線を向けた。ハイライトは戻っていない。

 何か言わなければならないのかもしれないが、内容が思いつかない。

「……るしあも、いいかな?」

 結局、無難な声かけをすると、るしあは溜息を漏らした。

「……私も大丈夫なのです」

「ありがとう、るしあ」

 聞く姿勢を取ってくれたるしあに礼を言う。

「ちょこ先も、ありがとうございます。時間を取ってくれて」

「魔界出身として、魔導書って言うのも気になってるから、気にしないで」

「あ、それはるしあもなのです。しかも、調べたらネクロノミコンって死霊秘法って言うじゃないですか。もう、るしあの為の本と言っても過言ではないのでは?」

 言われてみると、死霊術士にネクロノミコンの組み合わせって凄く似合う気はする。

 実際は死霊術について書かれているというわけでは無かった筈だから、完全に字面だけなのだけど。

「私が見つけたら貰えないですか?」

「それはイナと相談してくれ」

 あくまで探し物を頼まれただけの俺に、見つけたそれをどうするか決める権利はない。

「それで、昨日の件なんですけど」

 思いだしながら、1つずつ。

 引き込まれた時の状況、引き込まれた先の景色。

 イナの外見、様子、話した内容。

 主観は可能な限り交えず、見て、聞いて、触れた物を可能な限り詳しく語る。

 時間にして20分程度。完全下校時間間際。

 話を終えると、腕を組んだちょこ先が唸る。

「聞く限り、人間では無さそうだけど……」

「実際にそうなんじゃないのです? この世界の神社の様な光景だったなら、魔界には無い景色ですから、魔界に連れ込まれたとは考えづらいのです。幽世か、この世界の一部を切り取って作った異世界か。まあ、不知火さんとか白銀さんの出身世界って可能性もありますけど。このどれだったとしても、ただの人間には出来そうにはないのです」

「そうね。でも、それとその子の正体については、繋げづらいわ。その子は人間で、偶然その本を手に入れて、超常の力を手に入れたって可能性もあるわけだし」

「……確かにそうですね」

 2人の視線が俺に注がれる。

 そんな立派な力を手に入れたつもりは無いのだが、言わんとせんことは分かるので、そうですねと同意した。

「でも、仮にその子がただの人間で、何の力も持っていないとした場合、その本の力はちょっと想像がつかないのです」

「ええ。人を異世界に転送させるのなんて単独ではそうそう出来ないだろうし」

 シオンはぴょんぴょん飛んでませんかと言いそうになったが、前にも聞いたので辞める。本当に優秀らしい。

「それだけの事を出来る本の頁1枚だけでもどれだけの事が出来るか」

「……それって、頁が人間の体を持って生きてるって事もあり得ます?」

 俺の問いに、逸れていた2人の視線が再び俺に向けられた。

 驚きからか、目が見開かれる。

「……何か心当たりでもあるの?」

「いえ、それは無いんですけど。ただ、俺の近くにあるって言われて、昨日の晩に家探ししたんですけど、見つからなくて」

 勿論、他の形を取っている可能性があるとも言われたから、パッっと見ただけでは分からない可能性はあるが。少なくとも、俺の近くにあると言われた時に、その可能性を思いついていた事。

 昨日の晩の時点では引っかかる程度だったのだが、今ちょこ先とるしあの話を聞いていたら、不安が増して、つい口に出してしまった。

 俺の言葉に、ちょこ先が更に難しい顔をする。その表情から、何となく答えを察してしまう。

「無いとは言わないわ。魔法書が本の形から別の形へ姿を変えている事例は、魔界でもいくつも確認されてるし。まあ、頁1枚だけでそこまでの事が出来るって言うのは聞いたことが無いけど、魔法書の一部を切り取って使い魔のように使う魔法使いだって」

「で、でも、ちょこ先生! それはあくまで魔界の魔法書の話であって、そもそも今回の魔導書が魔法書だって保証は無いのです!」

「──あ。そ、そうよね。あくまで魔法書の話。魔導書の頁が同じ事出来るとは限らないし、案外貴方の机の中とかにくしゃくしゃになって入ってるんじゃない?」

「そうなのですよ、先輩。るしあも手伝いますから、もう一度しっかり家の中とか荷物とか、探してみるのです。案外ぽろっと出てくるかもしれないですよ? 善は急げなのです。早速今から──」

 キーンコーンカーンコーン。

『完全下校時刻になりました。残っている生徒は、速やかに下校してください』

「あ」

 チャイムが鳴り、完全下校を知らせる放送が続く。

 俺の様子を窺うるしあとちょこ先に、気持ちでは笑って返す。

「時間ですね。すみません、ちょこ先生。俺が聞いたのに」

「……ううん。私もちょっと無神経だったわ」

「いえ。良かったです。可能性はきちんと把握しておかないと、覚悟も出来ませんし。るしあもありがとう。帰ろうか」

「……はいなのです」

 るしあが立ち上がった。

 俺は、るしあと自分の座っていたパイプ椅子を元の位置に戻す。

 片付け終えた時には、るしあも帰る支度を終えていた。

「ちょこ先生、さようならなのです」

「さよならちょこ先。今日はありがとうございました」

「ええ。気をつけて帰ってね、2人共」

 るしあと2人、頭を下げて、保健室を後にした。

 日が沈みかけの薄暗い廊下を、昇降口まで並んで歩き、靴を履き替え、外に出た。

 正門を抜け、るしあの家の方を目指して歩く。

 いつもと違い会話なく歩きながら、ふとるしあを盗み見れば、気まずそうにしている。

 その顔に申し訳なくなって、ごめんなと口にする。

「聞いて落ち込むなら、最初から聞くなって話だよな」

「……先輩」

「ん?」

「何で、その女の子からの依頼を受けたのですか?」

 不意の問いに、言葉が詰まる。

 るしあが構わず、言葉を続けた。

「そのイナちゃんからの依頼、別に受けなくてもよかったと思うのです。受けなくても、案外許してくれたかもしれないですし、そうでなくても、待ってたらシオンさんや誰かが、助けに来たかもしれないのです」

「……まぁな」

 昨日のイナの様子を思い出すに、強制する様子は無かったと思う。頁の傍に居て、使えそうな人手。手伝ってくれたら御の字程度のニュアンスだった。

 断ったとしても、案外すんなりと返してくれたかもしれないし、直ぐにミオ先輩が動いてくれていたから、もしかしたら対して時間を置かずに誰か来てくれた可能性は否めない。

「なら、なんで受けたのです?」

「そりゃ、俺の傍にあるって言われたし。危険物の可能性も高かったから」

「でも、危うきに近寄るなって散々言われてるのです」

「……」

 それは否定できないが。

 それでも、俺の近くに危険物があると考えたら、探さないといけないと思ったのだ。

 だって。

「一緒に住んでるシオンさんとかわためちゃんとか、お友達とか、危ない目に合うかもしれないですしね」

「……結果的に巻き込んで、お願いしちゃってるけどな。見通しが甘かった」

 正直、紙切れ1枚探す程度の心づもりだった。

「見通しの甘さは今後気を付けて貰うとして。そういう優しい先輩だから、多分真っ先に誰かの可能性に気が付いて、それでショックを受けたのだと思うのです。だから、気にしなくていいんですよ。今先輩が落ち込んでいるのは、全然悪い事では無いのです」

「……そっか。悪いな、るしあ」

「何がです?」

 にやりと。少し意地の悪い笑みを浮かべるるしあにつられ、笑顔がこぼれた。

「ありがとう、るしあ。助かるよ」

「お任せなのです」

 どんと、るしあが胸を叩く。

 ……。

「ん?」

「るしあ、今日ご飯食べに来ない? 今から夕飯作るし、好きな物作るよ」

「その前に今何を考えたのか、教えて貰うのです」

「るしあは頼りになるなーって考えました。本当です。信じてください。からから辞めてください。ごめんなさい」

 




感想で聞かれましたホロ学における今後のココ会長の登場についてですが、変わらず登場いたします。ご安心下さい?

文章の構成はどちらがいいですか

  • 全部詰める(全話までのやり方)
  • 地文と会話文の間に改行を入れる(今回)
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