白上フブキ
大神ミオ
百鬼あやめ
イナに頼まれた頁探しを始めて3日目。保健室でちょこ先とるしあに説明した翌日。
俺の傍にあるという抽象的な言葉しか手掛かりが無く、そもそもどんな形なのか分からないから探しようが無いのではと思い始めた頁探しは、既に難航していた。
一先ず紙面に絞って自宅に関しては頼まれた昨日一昨日で粗方探したが見つからず、俺の所属しているクラスで使っている教室も、それは同じ。
机の中でくしゃくしゃになっているという事が無かったし、置きっぱなしの資料集が数冊程度しか入っていないロッカーの中に、それらしいものは無い。
流石に他の生徒の机の中を探るわけにはいかず口頭のみでの確認だったが、それらしい情報は無かった。
教卓、掃除用具入れ、掲示板、本棚。教室内の公共の場所を全て探しても、見つからない。
そもそも俺の傍ってどこまでの事を指すんだろう。
俺の活動圏内という意味なら、町全体なのだが。流石に町全体を指して俺の傍というのは……人間の尺度だとちょっと受け入れられない。
とりあえず俺の行動範囲内を1人で探して、それでも見つからなければ色々な人に頼み込んでの人海戦術にするつもりではいるが……。
「何を探せばいいか、分からないもんなー」
せめてどんな形になっているのかだけでも分かると助かる。
だが、唯一それを知っていそうなイナとは、どう連絡を取ればいいのかわからない。
また何かをぐるぐる巻かれて、引き込まれないとだめなのだろうか。抵抗する気は無いから、今度はもっと心に優しいやり方を取ってほしい。
そんなことを思っているうちに、俺が教室に次に良くいる場所に着いた。
いつものように、ノックを数回。
『はーい』
「おれでーす」
『どーぞー』
軽くやり取り。扉を開ける。
ミオ先輩は不在のようで、座っているのはフブキ部長だけだった。
「お疲れ様です」
「お疲れー。さあ、その顔を私に見せなさい」
開口一番に、謎の要求をされる。
一先ず中に入り、荷物を置いた。フブキ部長を見れば、爛々と目を輝かせている。何故。
「どうしたんですか? 俺の顔なんて、見慣れてるでしょうに」
「眼鏡が見たい」
「……どうぞ?」
「外さないの!」
「えぇ……」
見たいって言ったじゃん。
大人しく掛けなおすと、満足げなフブキ部長が、まじまじと俺を観察する。
「ふむふむ。成程成程」
「どうでしょうか」
「うーん……満点!」
「ありがとうございます」
後でスバルに報告しておこう。困惑するさまが目に浮かぶ。
「いやぁ、スバルちゃん、センスいいね」
「そうですね。助かりました」
「……それで、次はいつ、眼鏡買いに行くの?」
「当分行く予定はありませんが」
物持ちはいい方だし、俺の視力はこれ以上悪くならないんじゃないかという所まで悪くなってるから、乱視が悪化したとかそんな事でもない限り、当分買い替えることはない。
「いやいや。予備とか必要じゃない?」
「そもそも、今掛けているのは、魔法の練習の為ですから、もう数日したら、また眼鏡かけなくなると思いますし」
「……私も好き勝手眼鏡掛けさせて遊びたい!」
「別にいいですけど」
「よーし、言質取った! 何時にする?」
「頁探しが終わってからですかね」
「それ何時⁉」
何時だろう。
「でも、やる事がある状態で遊びに行っても、集中出来ませんし」
「……まあ、そうだね」
とはいえ、残念がっているようで、フブキ先輩は溜息を洩らすと、自分の席へと戻った。
俺も、定位置の席へ腰を下ろす。
「それで? 何か進展はあった?」
「いえ。正直何も」
「そっか。まあ、どの範囲で何を探せばいいのか。それが全く分からない状態だもんね。というか、ちゃんと聞いておきなよ。そういうのは」
「返す言葉も無いです」
完全に俺のミスだ。
ぺこりと頭を下げる俺の前で、「でも」とフブキ部長。顎に手を当て、考える仕草。
「やっぱり不思議だよね。電話でも言ったけど、君の傍に頁があるなら、ミオが気づいてそうなものだけど」
「ああ。何か匂いがあるとか?」
この前の電話口に、そんなことを言っていたことを思い出す。
「うん。この世ならざる匂いって言ってた。嗅いだことが無いとも」
「んー……でも、無くなって暫く経ってるなら、匂いが無くても不思議は無いのでは? それに、その路地裏に残っていた匂いの源と、頁の匂いが同一とも限りませんし」
「……そうだけどさ。なんか気になるんだよ。同一じゃなかったとしても、それでも長く傍にあったのなら匂いは移るよね」
「そうですね」
「最近落としたと仮定するなら、ミオが追えないくらいに消えているのは不自然。逆に、匂いが完全に消えているとしたら、それだけ時間が経ってるってこと。なら、それまで無視していたものを、何で今更探すんだろう」
「……そう言われると」
勿論、落とした場所の匂いが強烈で、別の匂いに染まってしまったとか、落としたことに今まで気が付いていなかったとか、否定意見が思いつかない訳ではないが、自分は思いつかなかった可能性だ。それだけで、吟味する価値は十二分にある。
考えを纏めるために、席を立ち、ホワイトボードの傍に移動した。
フブキ部長が視線を向ける前で、一先ずマーカーを手にホワイトボードへ書き込んでいく。
「……もし、ミオ先輩の言う匂いが頁についているのなら、気が付かないのはおかしい」
「うん。それは間違いないと思う。離れた所からでも分かるくらい、嫌な臭いだって言ってたし。頁一枚なら、そこまで際立った匂いは無いかもしれないけど、この辺にあるのなら、ミオの鼻なら見つけられると思う」
「なら、やっぱり頁自体には匂いが無く、今匂いが分からないのは完全に移り香が消えてしまったからだと仮定して。なんで匂いが完全に消えるまで探さなかったのか、ですか……正直、俺ならそのうち見つかるかなと思って探さない事もありますけど」
「だったら態々探させないでしょ」
「ですね」
じゃあ、何だろう。
2人でうーむと頭を捻る。
「……見失ったとか」
何か思いついたらしく、フブキ部長が何やら口にした。
「どういう意味ですか?」
「ほら。例えば私が君にシャーペンとか貸したとするでしょ?」
「はい」
「それを返して貰うのを忘れてて、ある日そのことに気が付いたとしても、君に貸したことを覚えてるなら、探そうとは思わないじゃない?」
「そうですね」
探す作業は、つまるところどこにあるのか分からないから行われる行為だ。
どこにあるのか分かっていれば、探そうとは思わない。
「でも、それで君にシャーペンを返して貰おうと思った時、君の手元にシャーペンが無ければ、探さなきゃと思うでしょ?」
「……成程」
あると思っていた場所に無いのなら、探さないといけないと思って当然だ。
「でも、場所が分かっていたなら、前もって回収してしまえば良かったのでは」
「うーん……イナちゃんも現世には基本的に関わらないようにしているからとか、本来だったら頁だけだと何も起きない筈だから気にしてなかったとか、理由はちょっとわからないけど。とりあえず、頁が現世の何処かにあるのかは把握していたけど、回収はしなかった。でも、急にその場所に見当たらなくなってしまって、だから慌てて探さなきゃと思って、君に頼んだ」
「……」
「君に頼った理由は、イナちゃんが言った通りじゃないかな」
「俺の傍にあるから?」
「イナちゃんしか感じられない何かを君から感じたんだと思うよ」
理屈は通る。それに。
「……昨日、ちょこ先とるしあと話してる時に聞いたんですけど」
「うん」
「魔法書が体を持って生きている可能性とかも、あるそうです。まあ、イナの持っていた本が厳密に魔法書かは分からないので、そこまで出来るのかは分かりませんが。勝手に移動を開始したから、見失ったという可能性も、そう考えればあり得ますよね」
「……そうだね。私やミオだって、こうして化けれてる訳だし、魔法で同じ事が出来ないわけないか」
そう言って、フブキ先輩は微笑んだ。
「成程。自分の親しい人が、その頁なんじゃないかって考えたから、電話してた時、ちょっと様子おかしかったんだね」
「そうでした?」
「終わり際に少しだけど。でも思ったより平気そう」
「昨日、るしあに慰められたので、落ち込んでられません」
「そっか。まあ、君が受けたんだから、手伝ってはあげるけど、しっかりね」
「はい」
頷き返せば、「よろしい」とフブキ部長。
それから、「あ」と何か思い出したように声を上げる。
「そういえば、ミオと会わなかった?」
「ミオ先輩ですか? いえ。会ってませんけど」
「そっか。いや、用事があって少し遅れるって言ってたんだけど、遅いなって」
「そうですね」
時計を見れば、SHRが終わってから1時間半程経っている。
少しの用事だったら、もうとっくに終わっていそうなものだった。
「何かあったのかなー」
フブキ部長が自身のスマホを取り出した。暫し操作し、諦めた様子でポケットへと仕舞う。
連絡は来ていなかった事は、容易に見て取れた。
「俺、探してきましょうか?」
「んー……いや、私も行くよ。部活は終わり。ミオと合流して、そのまま帰ろ?」
「いいんですか?」
「いいよいいよ。おしゃべりしたいだけだし。そうだ。折角だから今日はうちにご飯食べにくる? シオンちゃんも誘って」
「……いいですけど、もう1人同居人居るんですけど、その子も連れてって良いですか?」
「おっと、何も聞いてないけど? 一昨日の電話の時にはいなかったよね?」
「寝てました」
旅人時代の生活のせいなのか、わための体内時計は正確だ。日の出と共に起き、日の入りと共に寝る、クマのような生活をしている。
一昨日は帰るのが酷く遅かったから、帰った時にはわためは寝てしまっていた。
「……因みにその子はどんな子?」
「獣人ですね、羊の」
フブキ部長が腕を組み、頭を捻る。
「……それは、人なの? 羊なの?」
「見た目は人ですね」
その疑問は俺も未だに良く分からないままだ。
「まあ、楽しみにしとくよ。じゃあ、早くミオの事を見つけて帰ろっか」
「はい」
自分とフブキ部長の鞄を手に取って、俺はフブキ部長と共に部室を出た。
がちゃりと、フブキ部長が部室のカギを掛けるのを確認してから、俺はフブキ部長と共にミオ先輩を探すべく歩き出そうとして。
「おーい!」
ミオ先輩の声が廊下に響き、そちらに視線をやった。
こちらに向けて歩いてくるミオ先輩。その隣に、何故か百鬼の姿がある。
「よっ、お前さん方ー」
「よーす」
「やっほー、あやめちゃん」
軽い挨拶をするフブキ部長に、はてと首を傾げる。
「フブキ部長、百鬼と知り合いなんですか?」
「そうだよ。幼馴染みたいな感じ」
その言葉に、疑問を覚える。
百鬼は俺の目の事をちょこ先に聞いていたから魔界出身だと思っていたのだが、違うのだろうか。
更に聞こうとするが、それより早くミオ先輩と百鬼が俺とフブキ先輩に合流した。
「2人とも、この後時間ある? あやめが生徒会の仕事手伝って欲しいみたいで」
「そうなんだ。私は別にいいけど」
「俺も手伝います」
頷き返せば、百鬼の表情が明るさを増す。
「3人ともありがとう! 生徒会長の名に懸けて、このお礼は必ず!」
「あー……うん」
「分かったー」
「期待しないで待ってる」
「何か反応軽くないか⁉」
いつも読んでいただきありがとうございます。
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