ホロ学園の「俺」君物語   作:零円

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登場ライバー
???


見落とし

 すこん部の団結から一夜明け。

 俺は頁探しの為にイナに捕まった場所へ来ていた。

 周囲からの好奇の視線に耐えながら、ビルの隙間を確認する。

 やはり、連れ込まれたビルの隙間は何も見えず、試しに声を掛けるが反応も無い。

 

「やっぱりダメか」

 

 何となく分かっていたから、諦めも直ぐにつき、俺は移動することを選ぶ。

 引っかかるものが無いかと、周囲を見渡しながら、歩は駅の方へ向ける。駅前にある、市内地図を見て、心当たりを探る算段だった。加え、この街の駅は街の中央部にあり、俺の行動範囲だから、可能性も高い。

 裏路地を抜け、駅の方へ。

 市内地図は南口の方にあるから、歩道橋を渡る。

 

「ん?」

 

 歩道橋を渡り切り、地図の方を向いたときに、その女性を見つけた。

 ピンクのブラウスに茶のロングスカートを履いている。腰の程まで伸びた髪は、自分と違いしっかりと手入れされているようで、一糸の乱れも見せていない。

 ふと、そんな女性の手が動き、髪の毛を耳へと掛けた。顔が覗くと整った目鼻立ちが僅かに歪み、難しい顔をしていた。

 スマホと地図を、視線が行ったり来たりしている。状況は何となく把握できた。

 

「あの」

 

 近づいて声を掛けると、女性が自分の方へ振り向く。

 きちんと正面から見れば、フブキ部長やミオ先輩といった、美人の多く、美形慣れしている環境にいる俺でも素直に美人だと感心してしまう顔立ち。

 芸能人だろうかと、一瞬そんな考えが頭をよぎる。

 

「大丈夫ですか? 迷っているようでしたけど」

「あー……」

 

 尋ねると、女性は少し悩む表情を見せる。

 困らせてしまったか、ナンパと思われたか。

 どちらも本意ではないから、断られれば、直ぐに離れるつもりでいた。

 女性は暫し悩んだ後、口を開く。

 

「あの、道を聞きたいんですけど、いいですか?」

「勿論。何処に行きたいんですか?」

「神社なんですけど」

「神社?」

 

 意外な言葉に聞き返すと、はい、と女性は頷いた。

 どうやら聞き間違いではないらしい。

 しかし、態々別の街から見に来るような神社が、この街にはあっただろうか。

 名物巫女が居る神社はあるから、彼女を見に来たとかだろうか。

 熱心な信者でもなく、神社に行くことなんて初詣を除けば、散歩中に気分で程度の自分が知らないだけかもしれない。

 

「住所とか、分かります?」

「あ、はい。此処なんですけど」

 

 スマホの画面を見せられる。住所と地図が載っていた。

 自分の脳内マップと照らし合わせれば、場所の見当は直ぐにつき、同時に名物巫女のいる神社ではない事も分かった。

 

「ここなら分かります。案内しますよ」

「本当ですか? ありがとうございます」

 

 頭を下げてくる女性。

 

「じゃあ、行きましょうか」

 

 ***

 

 歩き出して、10分程。

 双方、無言。

 特に並んで歩いているわけでもないから、仕方がないかもしれない。

 時折、ついてきているか後ろを確認する。今回も、ちゃんと居た。

 

「……あの」

 

 声を掛ければ、女性からの返事が返って来た。

 

「疲れてないですか?」

「大丈夫です。私、こう見えて結構体力あるんですよ」

 

 むん、と腕を曲げるが、その細腕に変化は見られない。

 まあ、大丈夫と言うならいいかと思いながら、周囲を見て道を確認し、十字路を左折する。

 

「でも、知らなかったです」

「何がですか?」

「態々別の街から見に来るほど、立派な神社があったなんて」

 

 ふと思い至った疑問を口にする。

 

「あ、いえ。今日はオフだから、友達のおうちに遊びに来たんです。それで、折角だから神社巡りもしようかなと思って。好きなんです、神社巡り」

 

 その言葉に、成程なとは思いながらも、それでも態々見ようと思う程の場所なのか、と思ってしまう。

 

「……ちょっと疑ってます?」

「え?」

「顔に書いてありますよ」

「……」

 

 ポーカーフェイスと言える程ではなくとも、そう直ぐにばれるほど分かりやすい表情豊かな自覚は無かったのだが。

 驚きが見れたのだろう。くすくすと、女性が笑う。

 

「これでも色々な人に会ってるから、目を見れば分かりますよ」

「……すごーい」

 

 その目が養えたら、俺のトラブル体質も、もう少し改善するだろうか。

 

「それに貴方が思う程、小さな神社というわけでもないですよ」

 

 ほらと、スマホの画面を見せられる。

 見た感じは、確かに綺麗な神社だった。記事の日付を見れば、1年程前。

 ネットに上がっている写真を転用したのでなければ、神社の外観は変わりないだろう。

 ただ、やはり覚えは無い。住所的に、そう極端に生活圏から外れているというわけでもないから、引っ越し当初に色々と見て回った時に見て居そうなものだが。

 

「おっと」

 

 足を止める。横を見れば、鳥居と長い階段。

 

「ここですね」

「凄く長い階段ですね」

「……確かに」

 

 こんなに目立つのに、なんで知らなかったのだろうか。

 

「……あの、一緒に行ってもいいですか?」

「はい、大丈夫ですよ」

「ありがとうございます」

 

 同行の許可を得て、女性と一緒に階段を登りだす。

 石造りの階段は、整っている訳では無く、凸凹として登りづらい。

 大丈夫かなと確認すると、存外しっかりした足取りだった。自分のように、一歩一歩踏みしめている様子も無い。

 

「……なんか運動とかしてるんですか?」

「え?」

「いや、しっかり歩けているので」

「……」

 

 俺の言葉に、女性はすぐに答える事は無く、じっと見上げられる。一体何だろう。

 

「あの?」

「あ、いえ。ちょっと体を動かすことが多いだけですよ」

「そうですか?」

 

 ちょっとで済ませられるような気はしないのだが。

 

「私からも聞いてもいいですか?」

「何ですか?」

「君ってアイドルとか興味ない人?」

 

 随分急な質問に、面食らう。

 何を試されているのだろうかと考えたが答えは出ず、とりあえず素直に答える事にした。

 

「えっと……まあ、そんなにがっつり追いかけてる訳じゃないですけど、有名な人位は知ってるし、音源買ってるくらいです」

「ちなみに誰が好きなの?」

「えーと、すいちゃん、ときのそらさん、Azkiさんですかね。というか、この3人しか知らないし、追いかけていないですけど」

 

 そう答えると、女性は何か考える様子を見せた。

 ぶつぶつと、何か呟くのが聞こえる。

 ──知らないわけじゃないのか? 

 どういう意味だろうか。

 尋ねようとするが、それより早く、「あ」と女性。

 

「着いたみたい」

 

 そう言われ、見上げれば、階段の終わりが見えていた。

 漸くかと思う俺の脇を、女性が抜いていく。

 どこにそんな体力がと思いながら、急いで俺も加速した。

 足取り軽く、跳ねるように進む女性を追う。追いつけない。

 体力だけでなく、体幹も尋常では無かった。

 

「とうちゃー……く?」

 

 一足先に、女性が階段を昇り切った。歓声が、尻すぼみに消える。

 どうしたのか。

 追いついた俺は尋ねようとして、目の前の光景にその答えを知った。

 神社があると思われた敷地が、空だった。

 社も手水舎も社務所も狛犬も無い。砂利も敷かれていないし、参道が伸びても居ない。

 

「……は?」

 

 もぬけの殻。すっからかん。そんな言葉が頭をよぎる。

 場所を間違えたのだろうかと思い、スマホを取り出し、地図アプリを通して住所を確認するが、先程女性に言われた場所と相違ない。

 一応女性に確認し、見ていたWebサイトを呼んだが、やはり間違えてはいなかった。

 取り壊した、のだろうか。それなら、建物が無い理由については、確かに合点が行く。

 ただ、それなら鳥居も取り除かれそうだし、此処までまっさらにする工事をしていたのであれば、流石に気が付くと思うし、そもそも砂利石まで撤去するだろうか。

 何かを作る予定だったらそのための資材等が置かれているはずだし、そうでないにしても、立ち入り禁止の札の1つでもありそうだが、それも無い。

 

「……」

 

 足を踏み入れ、辺りを見渡す。周囲を見て回るが、やっぱり禁止の札も工事予定の看板も無かった。

 

「ねえ、君」

「はい」

 

 敷地の中央の辺りで周りを見渡していると、声を掛けられた。

 鳥居の方へ、振り返る。女性は到着時の場所に立ったままだ。

 

「何か知ってる?」

「いいえ、何も。ごめんなさい」

「ううん。私も確認したけど、此処が来たかった場所で間違えてないから……壊されちゃったのかな?」

「そんな感じでもないですけど」

 

 何かあった痕跡は一切ない。元々何もなかった、と言われても信じられる程。

 立つ鳥跡を濁さず。そんな様相を成している。

 

「じゃあ、この写真、何処か別の神社の写真を持ってきたのかな」

「でっち上げ記事って可能性はありますけど」

「でも画像検索したけど、ここの神社を紹介した記事が幾つかあるんだよ」

「そうなんですか?」

「うん」

 

 見せて貰えば、確かに類似した記事が幾つか。コピーではないらしく、社を撮影する写真の角度にもバリエーションがあったし、公開されている写真の1枚が、階段を登り切った場所から街を見下ろす形の写真で、その写真と今見える景色は酷似している。確かにここから撮った写真で間違いなさそうだった。

 その記事を書いた人が、集団幻覚を見たのか。それとも、今見せられているのか。

 今更ながらに、見えない現状を呪う。魔法の目があれば、何か見えるかもしれないのに。

 一旦家に帰って、シオンに話すか。それとも事実確認をした方がいいか。

 とりあえず今は、どうしようもない事だけは確かだった。

 

「……とりあえず、帰りますか?」

「そうだね。ちょっと早いけど、このまま友達の家に行っちゃおうかな」

「場所は?」

「……お願いしてもいい?」

「分かりました」

 

 並んで、階段を下る。

 教えられた住所は、この場所から近い場所にあるマンションだった。歩いて5分くらいの目と鼻の先である。

 

「そのお友達、最近引っ越してきたんですか?」

「そうみたい。仕事忙しくて、漸く終わったって言ってたよ。まあ、もしかしたら片付けが済んでないから、私に手伝わせる算段かも」

「……仕事仲間なんですか?」

「え?」

「さっき、オフって言ってましたから、貴女も働いているのかなと」

 

 まただ。

 何故かじっと見つめられる。変な事を言ったつもりは無いのだけど。

 触れてほしくなかったとかだろうか。

 

「……あ、着きましたよ」

 

 僅かに居心地の悪さを感じながら建物を指さす。

 

「近かったね」

「そうですね」

 

 多分、先に知っていれば、神社跡地で、あそこですよと、指をさすだけで済んだと思う。

 

「それでは、自分はここで」

 

 頭を下げ、立ち去ろうとすれば。「ちょっと待って」と呼び止められる。

 

「何かお礼したいんだけど」

「いいですよ。別に」

 

 勝手にやったことだ。再び立ち去ろうとすれば、再度呼び止められる。

 

「本当に気が付いてないの?」

「はい? 何がですか?」

「……」

 

 財布でも落としただろうかとポケットを探るが、そんな感じは無かった。

 俺のその様に、少し複雑そうな表情を見せた女性は、俺との距離を詰めると、耳元へと顔を寄せてきた。

 

「──こんにちわ、ときのそらでーす」

「!?」

 

 聞こえてきた声に、驚き離れる。

 耳に残る感触。鈴の音のようなその声は、凡そ声真似などでは説明できぬ程に鮮やかで。

 

「……え? 嘘」

「良かった。これでも気が付いて貰えなかったら、どうしようかと思った」

 

 唖然とする俺の前で女性、ときのそらさんがほっっと胸を撫で下ろして見せる。

 言葉が出てこない。確かに瞳の色は違うが、見れば見るほど、間違いなくときのそらさんだった。

 

「どっきり?」

 

 1番に思い至った可能性を口にする。それか、反応を観察する系の番組とか。

 そう思い、辺りを見渡してみるが、それらしい姿は無い。

 俺の反応に、何を考えたのか見当がついたらしく、「違うよ」とそらさん。

 

「何かの番組とかじゃなくて、プライベート。此処は間違いなく友達の家だし、神社巡りも本当だよ」

「成程……」

 

 納得していいのかは疑問だ。

 トップアイドルに急に声をかけて、道案内とはいえ連れまわした癖に、正体に気が付いていなかったという事。

 自分の鈍さに愕然としながら、疑問を口にする。

 

「良く信じてくれましたね」

「言ったでしょ? 目を見れば、分かります」

「そ、そうですか」

 

 再三思うが、その目が養えたら、俺のトラブル体質も、もう少し改善するだろうか。

 ……無理だな。

 

「でも、こんなに気が付いて貰えないとは思わなかったよ。私ももっと頑張らないと」

 

 ぐっっと手に力を籠めるそらさんに、ただただ首を横に振る。

 

「いや……俺が鈍いだけなんで」

 

 分かりやすいもので、相手が天下のときのそらという事実に理解が追い付いてくると、緊張から言葉がたどたどしくなってきた。

 良く、普通に話せてたな俺。

 深呼吸を1つ。吸って、吐いた。

 こちらの状態に気づいているのか、そらさんは唐突な深呼吸を前にしても、特にいぶかしむ様子はない。

 

「落ち着いた?」

「……なんとか」

 

 動悸は相変わらずだが、話せない事は無い。

 

「良かった」

 

 そらさんが微笑むと、その神々しさに圧すら覚えた。生物としてのランクの違いに跪きたくなる。

 流石に困らせるだけだと分かるので、腹に力を入れて耐えていると、「それで」とそらさん。

 

「お礼なんだけど……何がいい? 何でもするよ?」

「……」

 

 何でもの一言で、脳内に駆け巡った考えを振り払う。

 

「大丈夫です。気にしないでください」

「そういう訳にはいかないよ。何か用事があったのに、私を優先してくれたみたいだし」

 

 確かに頁探し中ではあったけど。その様子を見せた記憶はない。

 

「……じゃあ、サインを貰えますか。2枚」

 

 結局、アイドルに求めるには、一番無難そうなお願いをする。

 俺の言葉に、そらさんが頷いた。

 

「うん、分かった。名前はどうする?」

「自分と、後はフブキ部長宛てにお願いします。えっと、字はですね」

 

 メモ帳を1枚破り、自分とフブキ部長の名前を書いて渡す。

 

「ちょっと待っててね。直ぐに書いてくるから」

 

 それを受け取ったそらさんが、マンションの中へと消えていった。

 エレベーターに入って姿が見えなくなると、途端に力が抜けて、植え込みへと腰が落ちる。

 

「すっごい……なんか疲れた」

 

 冷静になったら、少しずつ慣れてきた。

 本人を前にしたら、また緊張はしそうだが、さっきほどではないと思う。 

 ただ、脳みそが茹っているようで、まともに頭は回らない。

 茹った頭を冷やすため、近くの自販機で飲み物を買い、額に当てながら待つこと暫し。

 

「お待たせー」

 

 そらさんが降りてきた。

 はいこれと、2枚の色紙を渡される。凄い、本物だ。

 

「家宝にします」

 

 額縁買わなきゃ。

 

「大袈裟だよー」

 

 笑いながら言うが、それだけの代物である。細心の注意を払いながら、カバンに収める。

 はい、と、手を差し出された。恐る恐る、その手を両手で握り返す。

 

「今日は本当にありがとう。おかげですごく助かったよ」

「いえ。そらさんの力に成れたなら良かったです」

 

 本当に。ただそれだけ。

 名残惜しさを覚えながら、そらさんの手を放す。

 

「それじゃあ、自分はこれで」

「うん。じゃあ、またね」

「……はい、また」

 

 無いとは思うが、あったらいいなと思いつつ、俺はマンションを後にする。

 カバンに入れた、色紙が2枚。フブキ部長にはいつ渡そうか。

 

「まあ、今度でいいか」

 

 今日はまっすぐ帰ろうと、家に向け足を延ばそうとし、方向転換する。

 その前に額縁を、買わなければならない。




遅刻しました。すみません。
そらちゃん回でした。

文章の構成はどちらがいいですか

  • 全部詰める(全話までのやり方)
  • 地文と会話文の間に改行を入れる(今回)
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