さくらみこ
さくら神社だから立派な桜があるのか、それとも立派な桜があるからさくら神社と名付けられたのか。さくら神社はそんな事が言われる程に見事な桜がある事でも有名で、俺がそれを、シオンと見に行ったのが数ヶ月前。シオンが俺の家に転がり込んだ3週間後。まだシオンが敬語だった時代と思うと、いっそ懐かしさすら覚える程だが、それはともかく。
数ヶ月ぶりに来たさくら神社は、満開の桜が葉桜に変わっているという事を除けば、特段変化は無かった。ただ、神社という神域だからなのか、幽霊の類は特に見られず、視界が広い。脳内のいざとなったら逃げ込めそうな場所リストに、さくら神社を追加しながら、俺は鳥居の前で、足を止め、一礼してから鳥居を抜けた。
参道を歩きながら、途中手水舎で手と口を洗いつつ、神社の関係者らしき人を探す。
時間帯的には何をしている時間だろう。昼休憩は終わっているとして……おやつだろうか。普通に学校で授業を受けている平日とかなら、小腹が空く時間帯ではある。
正直神事を除いて、神社の仕事に何があるのか分からない。一先ず、パッと見ただけでは掃除をしている人は居ない。可能性が高そうな所で、お守り等の販売業務だろうかと当たりを付けた所で、社務所を見つけた。
店先にお守り等も並んでいて、これ幸いと近づいてみたが、そこにも誰も居ない。お守りを眺めたり、おみくじを引いたりして待ってみたものの、5分程待っても誰も来なかったから、一時的に席を外しているという感じでは無いらしい。
呼び鈴のような物も無いから呼んだら来るシステムという訳でも無さそうで、一応声をかけてはみたが音沙汰無し。単純に不在の様だ。
これは困った。流石に社務所になら居るだろうと思ったのだが。
どうしようかと悩みながら、社務所を離れ、改めて社へと歩を進めた。
清々しい、澄んだ空気。
さくら神社の社は存外大きく、噂では名物巫女の住居も兼ねているらしい。社って神様の居る場所ではないだろうか。巫女も住んでいい物なのか。疑問は尽きない。
ただ、そういわれてもおかしくない程に社は大きく立派だ。見るのは3度目だが、今回もちゃんと拝もうと想える程にありがたみを感じる。
お賽銭を入れて、二礼二拍手一礼。昨日検索中に知ったが、参拝とはお願い事をする物ではなく、神様への感謝と決意表明をする場のようなので、頁探しの決意表明と、さくら神社の神様が縁に関わる神様かは存じないが、良縁の感謝をし。最後に一礼して、参拝を終え、俺は賽銭箱の前から離れた。
少し離れた処にあるベンチに腰を落ち着けて、これからどうしたものかと俺は腕を組む。
周囲を見るが人影は無し。もういっそ、山の上の神社にそのまま乗り込んでいくことも検討した方がいいだろうか。
この神社でやりたいことは、必ずしもやらなければならない事ではない。
第一目標は頁探しであり、そのために情報が足りていないのが現状。闇雲に足で探し回るには、当ても少ないから、その当てになるのではないかと思い、山の上の神社に目をつけた。
不思議な少女と神社のような場所で出会い、ネットで調べた限り、取り壊された等の情報が無い神社が、あったはずの場所から無くなるという不自然が重なった結果だ。
今ならもしかしたら見通せるかもしれないが、それでもいきなり本陣に乗り込むのは得策ではないから、情報を仕入れたい。その為に来た。
つまるところ、リスク覚悟なら別にここで時間を潰す必要もない。
結局虱潰しになる可能性を加味すれば、意味のない場所にはさっさと見切りをつけたい。そう考えると今日、明日中には山の上の神社について一区切りをつけたいのが本音。
「……んー」
このまま乗り込む寄りに思考が傾いていることを自覚して、俺は頭を振った。
何かあれば、また助けて貰えるという考えが、頭の片隅にある。手伝ってあげると言われたが、やると決めたのは自分だから、自力で解決したい。
「やっぱり、情報は必要か」
多少目のいいだけの一般人が、跡形もなく神社を消せる何かに会うのであれば、知れる事は知るべきだ。しかし、ネットで調べるのは限界がある以上、やはり話は聞きたい。
手間かもしれないが、話の聞けそうな神社関係者を探し、話を聞きたい。役所という手も思いついたが、そっちは多分事前にアポイトメントを取らないといけないだろうし、都合がつくのが何時になるのか分からない。情報は欲しいが、時間が無いのは変わらない。
「うん、そうだな」
やはり神社関係者を探す事に決める。
社務所が開いていたという事は、居ないという事は無い筈だし、待っていればそのうち戻ってくるだろう。
そう考え、もう一度社務所を覗いてみようと思い立ち、立ち上がろうとして。
俺を見る何かに気が付いた。
ピンクの体毛の……猫、だろうか。浮いてるけど、見た目はそれに近い。
「……」
タロの様子を確認すれば、特に怪しんでいる様子はない。身を乗り出して、舌を出しながら息を荒げ、俺の後頭部にぶつかる程に勢いよく尻尾を振っている。
あれが良くない者なら流石にこの反応は見せない筈なので、多分大丈夫なのだろう。
謎の生物は、暫し俺を見つめてから、どこかへと移動を開始する。少し移動し、ちらりとこちらに視線を向けてきた。
まっすぐ見つめてくるその様は、まるでついて来いと言っているよう。立ち上がり近づけば、少し移動して、再びこちらを確認してくるから、多分間違いない。
タロを見れば、なんで着いていかないのかと言わんばかりの表情。そんな顔を向けられては、付いていく他無い。
「信じるからな」
『わん!』
元気に返してくるタロに笑って返して、俺は謎の生物を追い歩き出す。
謎の生物は参道へ戻る事はせず、寧ろ離れる方へと進んでいく。社の壁に沿う形で暫し行き、そのまま角を曲がり、社の陰に消えた。
向こうから俺の姿が見えなくなったという事で、逃げるなら此処だと思うのだが、タロが早く早くと表情で急かしてくる。何がそんなにこいつを駆り立てるのだろうかと思いながら、俺は謎の生物を追い、角を曲がった。
「あ」
その先に居た。
竹箒を抱え、社の縁側、日当たりのいい場所で横になり、寝息を立てている名物巫女。
ピンク髪に幼さの残る童顔。名物の一端を担う改造巫女服に身を包む彼女は、記憶に間違いが無ければ、確かさくらみこという名前だった筈である。
……えーと、どうしたらいいだろう。起こしてしまっていい物だろうか。起こさないと話が出来ないから、起こすしかないのだが。もしかしたら午後休の時間で、今は寝ていても問題無い時間だとすると、それも憚られる。
ちらりと、傍にいた謎の生物に視線をやる。俺の視線を受け、謎の生物は首を傾げた。俺の戸惑いの理由が分からないらしい。用があるのではないかと、言わんばかり。
「……んー」
知らない相手が起きている時に話しかけるのと、寝ている知らない相手を起こすのでは、流石に心理的な抵抗が段違いだ。
起こさなきゃ話が進まない事実と、知らない相手を起こす抵抗感を天秤にかけ、悩み──俺は上着を脱ぎ、巫女さんにかける。
「掃除でもして待ってるか」
調べて貰う上での、対価の先払いだ。
***
「……」
掃除中、ぽかぽかと心地の良い日和についうとうとして、縁側で寝てしまったのだという事は、さくらみこも直ぐに気づいた。
なにせ、掃除の際に使っていた竹箒は持っているし、縁側に腰掛け眠っていたせいで、腰が曲がっている。伸ばすと、肩から何かが滑り落ちた。確認すると、それはホロ学園の校章の着いたジャケット。制服らしい。
視線を動かせば、自分の召喚した狛猫の式神、金時が子犬の幽霊と遊んでいる。更に離れた場所ではワイシャツにスラックス姿の少年が、何故か草むしりをしている。多分、このジャケットは彼の物だろうと、みこは当たりをつけた。
……どーいうことにぇ?
なんで金時は子犬の幽霊と遊んでいるのか。可愛いから後で撫でさせてもらおう。
なんであの少年は草むしりを行っているのか。面倒くさかったからラッキー。
「……」
彼が草むしりを終えるまで、もう少し寝たふりしようかなとみこが考えだした辺りで、わんと、幽霊とは思えぬ元気な鳴き声が響く。
直後少年の肩がピクリと跳ね、視線をこちらに向けた。聞こえているのかとみこは驚く。
「あ、起きました?」
みこに気が付いた彼が、そう言ってみこに近づく。
一方のみこは、汗と土で、汚れている彼を見て、もしかして結構な時間を眠っていた可能性に思い至り、あわわと焦りだした。
もしかしてこれを対価に何か要求されるのだろうか。エロゲーみたいに。
そんな考えが脳裏を過り、みこは胸元を隠す。それを見て、少年はみこから少し離れた処で足を止めた。
「すみません、怪しいものでは……」
「……どういうつもり?」
「……とりあえず警戒するの辞めて貰えません?」
苦笑いに近い笑顔を浮かべる少年を、みこは観察する。
足を止めたのは、自分の警戒を悟ったからだろうと、流石に分かった。
ついでに、もし悪人だったら、寝ている自分にジャケットをかけ、自分は草むしりなんて回りくどい事はしないとも思う。金時の様子を見ても、警戒している様子はないから、自分が寝ている間、本当に草むしりを延々と続けていた事は何となく察した。
警戒を直ぐに解くのは難しいが、悪人では無さそう、というのがみこの感想であり。
だから、一先ず話は聞いてみる事にした。
「……何で草むしりしてたの?」
「えっと……お願いしたいことがありまして。前払いのつもりで」
「……お願いしたい事って?」
「お聞きしたいことが」
「聞きたい事?」
それなら直ぐに終わりそうなものだが。態々草むしりになんて対価を払う理由は何だろう。
「聞きたい事って?」
「山の上の神社について何ですけど」
「山の上?」
聞き返したみこに、少年は詳しい住所を告げる。
そんな所に神社なんてあったかと、みこは心中で首を傾げた。
神社同士は、特別商売敵というわけでもないから、横の繋がりはある。同じ町にあるのなら、知っていてしかるべき。
にも拘らず、みこの頭にピンとくる物は無い。
「そんな場所にあったっけ?」
「……あります」
「……」
自信なさげであったが、少年は断言してみせる。
何か窺うような様はあったが、嘘をついている様子はない。
それに、自分の寝ている間に自分のするべき仕事をさせたという負い目も、みこにはあった。
「調べて頂けるなら、その間に草むしりしておくんで」
「任せなさい」
追撃の言葉に、二つ返事でみこは頷く。
金時のジト目がいつもよりも少し痛いが、エリートは肉体労働より頭脳労働の方があっている……気がするし、調べてくれと言われているのだから仕方が無い事。
立ち上がり、箒をしまう。体を軽く動かし解して、みこは少年に向き直る。
「じゃあ、調べてくるからお願いね」
「はい」
「金時。行くよー」
声を掛ければ、金時は溜息をつく様子を見せた。
その後、遊んでいた子犬の幽霊に、何かを伝えると、みこの元へ。
そのままみこは、社務所の方へと向かう事に決めた。
そこに行けば、会合の際の議事録などが仕舞ってあるから、そこから当たってみるつもりだった。
(……でも、本当に心当たりが無いにぇ)
うーむと、みこは首を傾げながら、社務所に向かって歩き出した。
お知らせ
8月の更新ですが、毎週水,日に変更になります。
次回更新は8月4日予定です。1日は見なかった事にしてください。
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