ホロ学園の「俺」君物語   作:零円

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登場ライバー
紫咲シオン
角巻わため


ex.魔法使いの日々

 紫咲シオンが人間界に来たのは、偶然の産物であった。

 魔界学園に在籍中のシオンは、ただ好きな魔法や学びたい事を遮二無二やっているうちに、ある日、進級や卒業に必要な単位を取り終えている事に気が付いた。

 それに気が付いた後も、特に理由は無いから通い続けていたのだが、ある日偶然寝坊して、学園に行くのが億劫になり、行かずに家で過ごしてみた所……快適だった。起きたい時間に起きて、好きなだけ学び、気が向いたら食事したり眠ったり。学園に行かなければ、好きなように生きられた。

 それに気が付くと、元より一人で学び続けていた為、友と呼べる関係の者はおらず。なんなら高嶺の花と持ち上げられ、常に一人であるシオンには学園自体に思い入れが無かった事もあり、シオンの足は自然と学園から遠のいていた。

 しかし、そうした所、途端に煩わしくなったのが学園である。何故シオンに学園に来ないのかという連絡が、幾つも来るようになった。シオンが専攻して学んでいた魔法学の教授等は、個人的な連絡もしてくる始末。

 自分のやりたいことに全力で取り組もうと想い、行かないことに決めたと、そう告げているのに。嫌々そんな事は無いと、アピールをしてくる学園や教授。結局、通学の往復に掛かる以上の時間を、生産性のない押し問答に取られるようになった。

 そっちがその気ならとシオンも動く。

 ある晩、シオンは収納空間として広がる帽子の中に必要そうな物をこれでもかという程に詰めると、転送魔法を起動した。行先は、人間界。魔界と違い魔法が無く、科学の発展した世界と聞く。その世界へ逃げてやろうと考えたのだ。

 人間界での暮らしがどんなものなのかはさっぱり分からないが、人間界にも魔界出身者がいるというのは、知識として知っている。いざとなれば、そこを頼ればいい。

 そんな、行き当たりばったりな計画だけを頭に、シオンは人間界へと転移し──、そうして、人間の少年と出会った。

 黒髪黒目、中肉中背。特徴らしい特徴を上げるなら、切れ長の目を持つくらいの普通の少年。

 魔法の魔の字も持たない普通の少年は、初めて会ったシオンに見惚れ、心配し、恐怖し、交渉し、受け入れるくらい普通……というには、少々メンタルが強過ぎる気もする、ただの人間。

 過剰に恐れられるよりは、これくらいの方が丁度いい。いざとなれば魔法もあるからと、シオンは少年の家に住むことに決めた。

 住み始めて間もなくは、シオンと少年の関係は、少しぎくしゃくしていた。

 当たり前だ。見知らぬ異性と一つ屋根の下で過ごすなんて、双方にとって初めての経験だ。幸か不幸か、その当時、部活の先輩の影響で美少女ラブコメを読んでいた少年が、手さぐりにシオンとの距離感を図っていた為、何とか生活は成り立っていたが、薄氷の上の、危うい関係であった。

 しかしそれも、出会って一月程経った日のとある事件を切っ掛けに、少年とシオンは完全に打ち解けた。その事件の結果、シオンは主人公への敬語を辞め、気を使わなくなり、少年はその漫画を自らの人生のバイブルとして全巻購入したのだが、それは兎も角。

 かくしてシオンは、幾ら研究しても何も言われず、お腹が空いたと言えばご飯が出てくる、理想の環境を手に入れたのである。

 平日。起きたい時間に起きれば、少年が作り置いておいた朝食が置いてある。それをもふもふと食べ、食器を洗い、身支度を整える。その後、基本的には魔法の研究を始める。

 魔法陣の構成を変えたり、魔法を使う際の魔力の性質を変えてみたりと思いつく限りの事を色々試しながら研究に明け暮れ。

 そうしている間に、気が付けば少年の帰ってくる時間で、シオンも自身の空腹を自覚する。

 お腹が空いたと少年に訴え、夕食のメニューに一喜一憂。食事が終わったら入浴して、風呂上がりにアイスを食べて。面白いのか良く分からないテレビを見たり、少年の部屋にある漫画を読んだりして、眠くなったら寝る。

 少年が休みの日は手伝わないと怒られる時があったので、そういう時は手伝っていたが、概ね自由な生活を数ヶ月。一緒に暮らしたある日、事件は起こる。

 いつも通りの悪ふざけ。今まで何も起こらなかった悪ふざけ。

 ただ、その日は、その悪ふざけで実害が発生した。目を抑え、悶える少年に、何を大げさなと高を括っていたシオンも次第に焦り、ついには普段自分の使っていた魔法薬を使ってしまう。

 その結果は、翌日、癒月ちょこによって告げられた。

 朝、眠りから覚めれば少年が既におらず、問題無かったのかと安堵していたシオンの元へ、ちょこはぐったりとした少年を抱え、現れた。

 瞬間的に臨戦態勢を整えたシオンへ、ちょこは自分の身元を明かし、少年を部屋へと運んだ。

 ちょこの言葉を半信半疑になりながらも聞き、シオン自身でも、少年の身体を調べ、ちょこの言葉が嘘ではなかった事を確認し。

 あまりの事態に、シオンは一先ず色々調べ、頭を抱えた。

 前例の無い状況。かつて、人間界にも魔女と呼ばれる者達が存在はしたが。そういった者達は、大抵立振舞いから呼ばれるものが殆どだったし、特別な力を持つ者でも、先天的な突然変異、もしくは悪魔と契約した人間が、契約をパスとして悪魔の力を使っているに過ぎない。

 少年のように、後天的に悪魔関係無く特殊な力を得るというのは、前代未聞のようだ。少なくとも、人間界から確認出来るレベルの資料では、幾ら確認しても進展がない。

 シオンはちょこに少年を頼み、自ら魔界に戻る事を決めた。

 付きまとう教授陣を押しのけ、学園の図書館に入り浸り、それで足りなければ、国立の大きな図書館で、調べる。名うての研究者の元を尋ね、学ぶ。

 一月という、自分で定めた時間をフルに使い、出来うる限りの情報を仕入れ、そして、愕然とする。

 何も無かった。書物をもってしても、専門家をもってしても、前例無し。前代未聞。専門家の中には、試しにその少年を魔界へ連れて来て貰えないかと、好奇心を抑えきれていない目で言ってくる者もいる始末。正直、他人事であったのなら、自分も同じような態度を取っていたかもしれないと思うと怒るに怒れず、シオンは無力さを噛みしめながら、自室へと戻る日々。

 自室で一人、ぼんやりと買ってきた食事をしていると、少年との日々を思い出す。

 誰に教わったのか地味な料理が多く、練習のつもりか覚えたレシピを何日か続けることもある。そのくせ料理の味は普通で、何ならたまに失敗するくらい。正直味に関しては、特別いい思い出は無いけれど。それでも、楽しい食卓ではあった。

 食事の文句を言って怒られたり、食べたくない物を脇に除けて呆れ顔されたり、何をやっていたのかを一方的に語って満足したり。色気とは無縁な、そんな食事風景ではあったけれど。間違いなく、自分が居て、少年がいた食卓は、楽しかった。

 ──不意に、口から出そうになった言葉に気が付き、シオンは口元を抑える。

 最初の一通以降、ちょこからくる近況報告の連絡を、一切読んでいない自分には、言う資格の無い言葉。最初の近況報告に書かれていた、怒っていない、心配をかけて申し訳ないという彼の言葉。それが、自分への恨み節へ変わっているかもしれないという恐怖が、近況報告を読めずにいる。

 自覚があった。自分は、逃げた。眠る少年が、起きた時に自分を責めるかもしれない。その可能性が怖くて、何も言わず、言伝すら残さず、魔界へ逃げた。

 こうして色々調べているのだって、人間界へ戻った時に、何事もなかったかのように、接する為。元に戻せる方法をきちんと見つけておけば、多分、彼も許してくれる。

 そう思って、調べて、学んで、調べて、学んで……居たはずなのだが。

 

 どうなっているんだろうと思いながら、シオンは緑茶をすする。

 場所は、シオンにとっては知らない人の家。少年曰く、部活の先輩の家らしい。

 上がって暫く、少年はお説教を延々とされていて。それを見ながら、シオンはコンビニで買ってきた自分のお弁当を食べていた。

 何も得られぬまま、一月が経ち人間界へ戻ってきた矢先。家にいない少年を探したら、どう見ても拉致されたとしか思えない場所にいるのを見つけ、保護。帰宅後、少年の言葉を聞いていると大神ミオが現れ、その際の約束を果たすべくコンビニに寄ったその足で此処に来て、この状況。

 さっき現れたミオは普通に少年を出迎え、家主である白上フブキは、少年が来るや否や、「もー!」と牛のように鳴いて、少年を正座させると、がみがみ説教を始めた。そんな人を、落ち着かせようとしているのは、不知火フレアや、白銀ノエル。リビングの奥にあるソファの上では、角巻わためが寝息を立てていた。

 民族衣装のような服や、シュールコーのような服、良く分からないもこもこした服と国際色豊かなこの状況は一体何なんだろうと思いながら、シオンは少年を見る。少年は、困ったように笑ってはいるが、助けを求める様子は無い。

 此処に来る前に聞いた、大変な事があったという、少年の言葉を思い出す。

 詳しいことは、まだ聞いていない。恐らく、ちょこの近況報告を読めば分かるが、流石にこの雰囲気では読みづらい。

 早く紹介なり帰宅なりしないかなと思いながら食事を続けるシオンの前に、みそ汁の入った椀が置かれる。視線を上げれば、微笑むミオが居た。促され、礼を言いながらシオンはみそ汁に口をつける。少年の腕とは比べ物にならない味だったが、味付けに似た要素がある。

 成程、料理を教えていたのはこの人だったのかと納得しながら、シオンは少年が解放されるまで、黙々と食事を続けた。

 

 あれから数日。

 わためが居候を始めたり、今すぐどうにか出来無い少年の魔力を、ある程度は使えるようになった方がいいだろうと、シオンも魔法について教え始めた矢先。

 少年が、また、何か変なことに首を突っ込んだ。

 今度は、魔導書なる物の破れた頁を探す様に頼まれたらしい。全く、何でこんな一般人にそんな事を頼んだのか、シオンは理解が出来ない。

 今のところ、危険な事は無いようだが、それもいつまでもつことか。

 出来ない事の方が多く、自分の身を守る事すら危ういのにと、シオンは少し呆れながら、出かけようとしている少年を呼ぶ。

 特に疑う様子無く近づいて来た少年を座らせて、その頭を掴み、自分の魔力を流し込む。

 少年の体内魔力を感じる能力は、シオンでも少し感心してしまう程。もしかしたら、元々は存在しなかった魔力を、体は異物と捉えていて、見張っているのかもしれない。勿論、その見張っている反応を分かりやすくしたのは、私が一度少年の魔力を空にして、監視対象を消したからねとシオンは心中で胸を張りながら、暫し自分の魔力を流し込む作業をして、手を放す。

 違和感があるのか、やや難しい顔をしている少年を追い払い、視線を逸らす。

 頭上より声がかかる。それに言葉を返すと、間もなく、扉の開閉音が聞こえてきた。

 少年の気配が消える。わためもまだ、帰ってきていない。一人になった家の中、静かに溜息を漏らしながら、三角帽を手元へと引き寄せる。

 三角帽についた目のついた星。シオンが魔法を込めたそのオブジェは、空間を超越し、遠方を見ることの出来る千里眼。拉致された少年を見つけたのもこれだ。

 これを使い少年を見守るか、シオンは少し悩み、最終的に三角帽を元のポールラックへと戻した。

 もし今回の件に魔界に関わりがあり、少年を研究対象として狙うものであれば、シオンは容赦無く関わるし、加害者と戦うつもりであるが、今回は違う。それなら、少年の意志を無視して関わるつもりは無かった。

 がちゃりと、玄関の開閉音。「ただいま~」と、少し気の抜ける、見た目相応のふわふわした声が、屋内に響く。

 ぱたぱたと足音がして、最後にガチャリと、リビングの扉の開閉音。

 

「ただいま。シオンちゃん」

「おかえり、わため」

 

 すっかり慣れた、短いやり取り。きょろきょろと、わためは部屋を見渡し、あれ、と首を傾げる。

 

「あの子は?」

「また出かけた。夕飯、作っていったけど、もう食べる? アイツ、いつ帰ってくるか分からないし」

「うん。食べる!」

 

 頷くわために、手洗いに行くよう言って、シオンは席を立った。

 キッチンに入り、料理の温もりを確認。少し冷たいかなと思い、鍋を再び火にかけ、大皿に盛られた料理は電子レンジへ。

 扉を閉める際、おかずを一つ摘み上げた。扉を閉め、温め時間を設定している間に、摘まんだそれを口に入れる。

 

「……普通」

 

 相変わらずなそれを咀嚼し、飲み込む。その間に、電子レンジは温めを終えた。

 熱いだろうから、電子レンジは手で開けるも、大皿は魔法で浮かし、そのまま食卓へ飛ばす。

 同じく魔法で、鍋や炊飯器からみそ汁や白米をそれぞれの器へ移して、箸と共に飛ばす。

 冷蔵庫を開け、盛り付けられていたサラダを見つけ、持ち上げた。

 歩いてテーブルに戻ると、既にわためが、席に座って待っていた。

 

「シオンちゃん、凄いね! 魔法みたい!」

「魔法だけどね」

 

 いつも感心して見せるわために今日もこそばゆい想いをしながら、シオンは自分の席へと着いた。

 

「食べよ」

「うん!」

 

 両手を合わせ、頂きますと。短く挨拶をし、食事を始めながら、ふと、普段少年の座る席へと視線を向け、何事もなく帰ってきて欲しいと、シオンは想う。

 ──フラグという文化は、残念ながら魔界にはなかった。

 

 

 

 それから、暫く。

 山下の階段を昇りきり、鳥居を抜けたその先。

 境内は、霧に包まれていた。

 まるで壁でもあるように、漏れ出る事無く球体のようにまとまっているそれが、自然発生した物ではないという事は、目に見えて明らかだ。

 先日、ときのそらと共に訪れた時には見えなかっただけか、それとも新たに現れたのか。

 分からぬまま、少年は重めの息を一つ吐く。

 眼前。霧の内より、触手が一本、伸びている。

 手招きするように動くそれを見て、少年は一歩踏み出した。

 




連載再開特有の前回までのあらすじ風。
本編2か月振りって本当?

文章の構成はどちらがいいですか

  • 全部詰める(全話までのやり方)
  • 地文と会話文の間に改行を入れる(今回)
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