ホロ学園の「俺」君物語   作:零円

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登場ライバー
さくらみこ


*ごめんなさい、最新話、途中の奴を上げていたので、再投稿です。


由来2

 光を目指して真っ直ぐ歩けば、気付くと霧を抜けていた。

 視線の先に階段へと続く鳥居があり、その鳥居越しに、ときのそらさんと見た景色が、広がっている。

 その風景の中にさくらさんの姿は無い。

 スマホを確認すれば、経過時間は1時間弱と言った所。

 

「帰ったのか?」

 

 周囲は宵闇が包んでいる。

 この中を1人で帰らせたとすると、申し訳なさを覚える。

 イナの伝言もあるし、今度改めて謝りに行こうかと、思った矢先。

 

「おい」

 

 怒気の孕んだ声が、背中にかけられた。特徴的な声質に、誰かは直ぐに分かった。

 そろそろと、振り返る。腕を組み、仁王立ちしたさくらさんと、目が合った。

 

「お前!」

 

 躱そうかと思うも存外早く、あっという間に距離を詰められ、胸倉を掴まれる。

 

「いきなり居なくなったと思ったらいきなり出てきて! 何しているの! 何を知っているの! みこをのけ者にしない!」

「……」

 

 話せることは無いので、言い淀む。

 

「消えた先で何を見て何を聞いたか、白状するにぇ!」

「……」

「はーなーせー!」

 

 そんな俺の心の内を知ろう筈もなく、さくらさんは俺をがくがくと揺さぶる。三半規管は弱い方では無いが、こうも揺らされ続けると流石に来るものがある。何度かさくらさんの手をタップして止めるように促すが、止まる気配は無い。仕方がないので、さくらさんが諦めるまで、大人しく揺さぶられる事にする。

 時間にして、如何程か。諦めたらしく、さくらさんの手が、俺から離れる。ぜーぜーと肩で息をするさくらさん。体力は無いらしい。俺は俺で、こみ上げてきそうなものを、抑えるので必死だ。

 一頻り暴れて落ち着いたのか「で」とさくらさん。

 

「何が分かったの?」

「……」

 

 変わらず無言の俺に、さくらさんがムッっとした様子を見せる。何か言いたげに、口が開く。

 それを先んじて、言葉を吐いた。

 

「すみません。お怒りは御尤も。恨み節も、幾らでも聞きます。それでもさくらさんにも、他の誰にも言えません」

「──っ! それで納得出来ると思うの⁉」

「思いません。でも、言いません」

 

 思い出す。さっきまでいた、イナの作った空間。霧に包まれたあの狭い世界の内に、イナ以外の人の気配は無かった。イナは多分、一人であの場所を守っている。

 誰に言われたわけでもない。一族代々の責務として。

 

「頼まれたのは俺です」

 

 そんな、責任感の強いイナが、それでも尚、誰かに頼まざるを得ないと、苦肉の策として俺を頼ってきた。それなら、俺は答えたい。

 

「俺が、どうにかします」

「出来ると思っているの?」

 

 その言葉は、只の人間にと、そんなニュアンスが感じ取れた。だから、笑って返す。

 

「出来ます」

「……」

 

 ジト目。睨んでいると言ってもいい、さくらさんの目つき。

 さくらさんと一緒にいる猫のような不思議生物が、少しそわそわとしながら、成り行きを見守っている。

 

「さくらさん」

「何?」

「イナがさくらさんに、ごめんね、また一緒に遊ぼうね、って言っていました」

 

 その言葉に、さくらさんがきょとんとした顔をする。急に何をと、言いたげだ。

 

「俺が言えるのはそれだけです」

「……」

 

 イナ、という名前が引っ掛かったのか。それとも、漸く俺が否定以外の言葉を言ったからか。

 さくらさんは口を噤み、真っ直ぐ俺を見ながら、何かを考える。その内容がプラスかマイナスかは不明だが、黙って待つ。

 

「……分かったにぇ」

 

 やがてさくらさんは、吐き捨てるようにそう言うと、俺の脇を抜け、階段を下り始めた。

 その背を追い、俺も階段を下る。

 双方無言。空気が重い。会話無しに下る事に集中していたからか、あっという間に、階段を下りきる。

 

「じゃあ、私こっちだから」

「……送ります」

「いい」

 

 暗い時間であったし、そう声をかけたのだが、さくらさんにはにべもなく断られた。

 さっさと歩きだす彼女の向かう方向は、俺の家とは別で、断られた手前、ついていくのもあれかなと思い、一先ず、その背が見えなくなるまで見送ることにした。

 そんな中、さくらさんの少し後ろをふわふわと飛んでいた不思議生物が、こちらに視線を向けて来る。

 目が合った。手でも振ろうかと思っていると、その不思議生物は何を思ったのか、俺の方へと飛んでくる。

 

『おい、人間』

 

 声を掛けられた。さくらさんの声を、若干低くしたような声だ。

 

「何でしょう?」

『お前がさっき言っていたイナって、イナニスの事か?』

「……はい」

『そうか』

 

 疑問符を浮かべながら答えを返すと、不思議生物はやや伏し目になった。

 俺は一先ず、気になったことを聞いてみる。

 

「イナの事知っているんですか?」

『覚えているって方が正しいだろ』

「まあ、確かに」

『俺は式神だからな。お前やみこみたいな人間じゃ無かった分、忘れなかったんだろ』

 

 そういえば、人の記憶からは消えているようだったが、ネットの記事やさくら神社にあった文献や写真といったものは、そのまま残っていた。適当ではと思わないでもないが、人間、見た物しか信じない人が多いから、幾ら資料があろうとも、現地に何も無ければでっち上げと思うだろうと考えたのかもしれない。それが慌てていたから、そういう所まで手が回らなかったか。

 

『……いなにすの事、頼むな』

「え?」

『あいつ、みこの同業者で友達だからさ。力になってやれるのがお前だけなら、助けてやってくれ』

「……分かりました」

 

 頷いて返すと、不思議生物も頷いた。そのまま『じゃあな』と、その場で踵を返し、さくらさんの方へと飛んでいく。

 進行方向にいるさくらさんは、丁度角を曲がろうとして、待っているところであった。俺を見、不思議生物の方へと視線を移し、こちらに向かっている事を確認すると、そのまま歩きだし、路地へと消えた。

 

「俺達も今日は帰るか」

『わん!』

 

 タロへ声をかけ、俺は歩き出した。

 帰路のお供は、先程聞いたイナの言葉。

 言葉から考えると、恐らく俺が拾って持ち物に紛れ込ませた、という訳ではない。

 持ち去った誰かが、俺の傍にいて。その誰かと一緒にいる時にうつった気配のようなものを、イナが感じ取った、と考える方が自然か。

 そんな残り香的な物であれば、そう何日も経っていたとは考えづらい。長くても二日か三日程度。

 そしてその間ずっと学校だったから、多くの相手とすれ違ったり話したりはしているとはいえ、流石に残り香が移る位に一緒にいた相手というと、その数も限られる。

 

「思い出しながら、その人達当たってみるか」

 

 後は、見て分かる事と素直に渡してくれる事を願うしかない。

 幸い魔界関係の代物である可能性が高そうだったから、見たら分かりそうな事は救いだ。

 一方で、素直に渡してくれるかどうかは、その人達次第だから、何とも言えない。持っているだけとかならいいが、それを使って何かをしているとかだと、素直に渡して貰えない可能性がある。

 話し合いで解決出来ればいいが、血で血を洗う略奪戦等に発展したら、目も当てられない。

 またやんちゃしないといけないのかなと思うと、自然とため息が零れ、そのまま思い出したのは、出かける前のシオンとの会話だった。

 魔法擬きを行うための、魔力の使い方。

 一応練習しておこうかなと思い、左手を右肩、タロの頭へと持ってくる。

 暫しそのままわしゃわしゃと撫でてから、猫にするように首根っこを持って持ち上げ、曲げた右腕の上に置き、撫で、左手で支えながら右腕を動かし、左右の手で持ち上げて、左肩や頭の上に載せる。

 毎回、タロの触れるあたりには魔力が集まり、タロの肉球や毛の感触を味わえる。

 ただ、これを意識的にやるとなると、難しい。

 タロを右肩に戻し、左手に魔力を集めようとするが、上手くいかない。

 左手を顔の前で開閉する。この感じは、るしあに魔力の操作を教わっていた時と似ている。どうしたらいいのか、分からない感じ。

 集まれー、集まれーと念じながら左手を見ていたから、タロの様子が変わった事への、反応が遅れた。

 

「タロ?」

 

 タロが俺の肩の上に立っていた。ぴくぴくと鼻を動かしたかと思えば、地面へと飛び降りた。

 四肢を踏ん張り僅かに重心を前に傾け、歯を剥き出しにし、威嚇する。

 お前、そんな顔が出来たのかとそんな事を思いながら、俺も同じく視線を前に。

 バチバチと、不規則に明滅する街灯。その下に人影がある。

 影が地面から引き剝がされ、立たされているかのよう。ともすれば、本当に影なのかもしれない。

 そう思えるほどに、その人影は不気味に立ち、微動だにしていない。

 身長は、俺より低く、150か60程度。着ている服は、レインコート……だろうか。黒色で、足先まですっぽりと隠れるロング丈。前もきっちり締めていて、両手は恐らくポケットの内。雨でもないのにフードも被っていて、フードの奥にある筈の顔は覗けない……覗けない? 

 瞬間的にタロを掴み上げ、数歩下がった。

 何でも見えるとは言わない。それでも、今の俺なら暗中だろうが夜明け直後程度の明るさで見える。それに、人影が居るのは街灯の下。明滅しているとはいえ比較的明るい場所にいるにも拘らず、フードの下が見えないのは、明らかに異常だ。フードや立てられた襟で隠されている部分は別しても、本来人体があれば人肌の覗けそうな場所すら黒い。

 

「どちら様?」

 

 ちょっと声が震えた。声量も少ない。

 聞こえなかったかなと思ったが、杞憂だったようで、人影のフードが、僅かに持ち上がるのが見えた。

 覗けるはずの、顔の範囲が増え──しかし何も見えない。

 

「これは……どこよりだろうな」

 

 一瞬透明人間かとも思ったが、よく見れば、覗けた其処には黒い靄のようなものが渦巻いている。

 善か悪かは知らないが、害か利かで言えば、俺にとっては間違いなく害よりだ。るしあの髪色を指摘して、骸骨に襲われたかつての準備室。その時の空気と似ている。

 あの時と違い、地上3階ではなく地面に足がついているから、逃げようと思えば逃げられるか。

 ……しかし、それはそうと。

 

「タロ」

 

 威嚇し続けるタロに尋ねる。

 

「アイツの匂いって、イナと同じか?」

 

 勢いよく、『わん!』と、肯定の返事。

 

「そうか。それはラッキーだな」

 

 笑いながら、タロを肩に載せる。

 前方。街灯下の影が、ふらふらと揺れだした。

 右、左、右、左──。

 やがてそれに前後運動が加わり、揺れは回転へと変わる。

 

「誰も呼ぶなよ」

 

 タロに声をかけたその直後。

 一際大きく身を逸らした人影は、音も無く地面を蹴った。

 10m程の距離が、瞬く間に縮まる。

 人影の右手が動き、突き出されるのが見えた。右足を引き、半身に体を逸らし、躱す。

 躱された人影はそのまま走り抜けていき、少しして止まった。俺へと伸ばした右手の先に、街灯を反射し鈍く光る何かが見えた。

 非現実の中から急に現実感が出てきた。今日、俺も使ったよ、それ。料理でだけど。

 オタク知識を動員して、勇気の出そうな言葉を探す。やがて、思いついたそれを、口元を引きつらせながら、口にした。

 

「……楽しくなって来た」

 

 言いながら、身構える。前に出した左手で、掛かってこいと指を動かせば。

 答えるように、人影は地面を蹴った。

 

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